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SGS373 幼い子供たち同伴の旅立ち

 ―――― ラウラ(前エピソードからの続き) ――――


 明智十兵衛光秀。この男であれば副官として登用して問題なさそうだ。今話をしただけでも優秀だと分かるし、カエデの話では家族や家臣を大切にする優しい心の持ち主らしい。あたしを支えてくれる心強い片腕となってくれるだろう。


「ねぇ、どうなの? 副官としてあたしに仕えてくれるの? 鉄砲だけじゃなくて、もっと色々なことをやってもらうことになるけど」


身命しんめいしてお仕え申しまする」


 光秀が平伏した。


「では、十兵衛。今からあなたはあたしの家臣であり、あたしの副官よ。これからはあなたを十兵衛と呼ぶことにするからね。それと、今日の昼には堺を出立することになったの。その訳はね……」


 鉄砲職人たちを足抜けさせることや、根来衆が堺へ通じる街道を封鎖する前に急いで旅立つこと、その根来衆が追ってくるかもしれないことなどを掻い摘んで説明した。


「そういう事情なの。だから堺で鉄砲を買い入れるのは中止して、職人たちを護衛して深志城へ向かうことになったのよ。堺に着いたばかりなのに気の毒だけど、あたしやカエデと一緒にあなたも職人たちの護衛に加わりなさい」


「はっ、承知仕りました」


 十兵衛はまた丁寧に頭を下げた。それを見ていたカエデが口を開いた。


「姫様。十兵衛様はお一人ではございませぬ。奥方様や幼いお子様たち、それに供の者も連れて堺まで参られております」


 忘れていた。あたしが十兵衛に宛てた手紙でそう伝えたのだった。越前の家を引き払って、一族郎党を引き連れて堺まで来るようにと。あたしも堺では少しゆっくりとしようと思っていた。その間に火縄銃を数百挺ほど確保して、十兵衛やその家族とも親しくなろうと考えていたのだ。ところがその目論見もくろみは完全に外れてしまった。


「そうだったわね。では十兵衛、今命じたことは撤回します。あなたは家の者たちと一緒に数日の間はこの旅籠に滞在して、体を休めなさい。奥方や子供たちにこの堺の街を見せてあげれば良いわ。それと、カエデ。あなたは十兵衛と家の者たちと行動を共にして、護衛しなさい」


「御意のままに」


 命令を受諾したのはカエデだけだ。十兵衛は少し不満げな顔で口を開いた。


「姫様、お心遣いは有難うござるが、それではそれがしの面目が立ちませぬ。家の者共は後から深志城へ向かわせますゆえ、それがしを職人共の護衛としてお連れくだされ」


「ダメ。あなたも家の者たちと一緒に堺でゆっくり休息しなさい。これは命令よ」


「致し方ござらぬ。仰せのままに……」


 十兵衛は渋々承諾した。だがその命令は、数時間後には撤回することになってしまうのだが……。


 ………………


 十兵衛の登用が決まった後、十兵衛の家族と顔合わせを行った。奥さんはヒロコという名前の綺麗な人で、30歳くらいだろうか。子供は三人いて、全員が女の子だ。上の子が6歳くらい、真ん中が4歳くらい、一番下の子が2歳か3歳くらいで、どの子も両親に似て可愛らしい。その子供たちの遊び相手をしているのは20歳過ぎくらいの若い侍だ。サマノスケと呼ばれていて、文字で書くと左馬助だと教えてくれた。十兵衛にずっと仕えてきたらしい。


 少し驚いたのは、あのカエデが十兵衛の子供たちの相手をして仲良く遊んでいることだ。聞くと、一緒に旅をしてきたことで子供たちにすっかり懐かれてしまったそうだ。カエデは左馬助とも仲良くなっていて、一緒に子供たちの相手をしながら楽しそうに話をしていた。


「いい男よね。好きになった?」


 カエデにこっそり耳打ちすると、「もう姫様ったら……」と言ってちょっとキツイ目で睨まれてしまった。からかってしまったことを少し反省したが、カエデの顔が赤くなっていたから案外当たっていたのかもしれない。


 その後は十兵衛と家の者たちを誘って一緒に昼食を食べた。昼食を食べるにはまだ時間が早かったが、昼ころには宿を出発したい。


 この時代の者たちは昼食を食べる者は少ない。でも、あたしはウィンキアで生活して習慣になっているから、昼食を食べないとお腹が空いて困る。十兵衛たちは遠慮していたが、あたしの腹心になるなら遠慮は無用だと半ば強引に誘った。


 昼食が終わりかけたころ、クルから念話が入ってきた。


『この宿は見張られているみたいだぞ』


『えっ!? ホントなの?』


 クルの存在にも慣れてきて、京に入る前から魔力〈50〉を常時与えて自由にさせていた。この堺の街に来てからもそれは変えていない。だからクルはあたしから500モラまでの範囲なら思いのままに飛び回ることができる。と言っても、クルがやることと言えば趣味の“覗き見”くらいだ。それでも必要な時にはあたしの目や耳の代わりになってくれるし、今のように変わったことや危険なことがあれば知らせてくれたりする。


『朝からずっと同じ男たちがこの宿の入り口と裏口に視線を向けているから、まず間違いないと思うぞ。入り口側の向かいの家の中に男が二人、それと裏口側の家にも男が二人だ』


『了解。見張られてると考えた方がいいわね。こっちでも確認してみる』


 すぐにあたしだけ昼食を切り上げ、自分の部屋に戻ってこの宿の主人である西倉弥兵衛にしくらやへえを呼んでもらった。クルからの情報を伝えると、直ちに手の者に確認させるとのこと。40分ほどして弥兵衛が戻ってきた。ドウゴとカエデも一緒だ。


 あたしの正面にドウゴが座り、その後ろに弥兵衛とカエデが座った。やはりドウゴは副頭領だけあって、一族の中ではこの宿の主人よりも地位が上なのだろう。


「姫様が弥兵衛に申されたとおりでござった。見張っていた者たちを皆捕らえて厳しく取り調べたところ、監物の手の者と分かり申した」


「監物の手の者が? でも、どうしてなの?」


 根来衆の親分が自分の部下にこの宿を見張らせていた理由が分からない。この宿のことは監物には知られていないはずなのだ。


「連れていく職人たちの中に監物の手の者が潜り込んでおり申した。その者は先ほど処分いたしました」


「それで、この宿が見張られていたのね?」


 あたしの言葉に宿の主人の弥兵衛が両手を突いて頭を下げた。


「申し訳ございませぬ。それに気付かなんだは、この弥兵衛の手落ちでございます。この宿は数日前から見張られておったようでございます。ここは一族の連絡場所になっており、一族の者が出入りいたします。おそらく鍛冶師に弟子入りしていた一族の誰かが後をつけられたのでございましょう」


 宿が見張られていたことは魔乱の頭領である信志郎も気付いてなかったようだ。職人たちが足抜けすることだけでなく、この宿のことも監物に知られていたということだ。


「と言うことは、この宿は安全ではないわね?」


 問い掛けるとドウゴが頷いた。


「さようでござる。この宿は一族の拠点の一つでござったが、ここは捨てて、宿の者全員が今からすぐに立ち退きまする」


「それが良いわね。信志郎さんには?」


「頭領は根来衆を足止めするために既に出立しておりますゆえ、連絡の者を向かわせました。我らもすぐに出立いたしまする。姫様もご同伴くだされ。職人たちとの待ち合わせ場所も変更して、落ち合う手筈は整えておりますゆえ」


「分かった。すぐにここを出ましょう。それと……」


 あたしは一旦言葉を切って、少し考えた。


 十兵衛と家の者たちを堺に残しておくのは危険だ。この宿に入ったところを根来衆に見られていると考えた方がいいだろう。


「カエデ、十兵衛にさっき出した休息命令は撤回するわ。十兵衛と家の者たちも今から出立させることにするから。あなたも十兵衛たちを護衛して一緒に出立しなさい」


 こうしてあたしたちは急ぎ堺の街を出て、深志城を目指して街道を歩き出した。幼い子供たち同伴の旅立ちだ。どうにかして追っ手から逃れて、全員を無事に深志城まで連れ帰らねばならない。

 

 ※ 現在のラウラの魔力〈812〉。

   (戦国時代の日本にいるため魔力は半減して〈406〉)


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