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SGS037 オレたちの売られ先は?

 オレたちの売られ先は王宮じゃないのか? 闘技場ってことなのか?


 訳が分からないが、鎖をじゃらじゃら鳴らしながら護衛官の後をついていくしかない。


 闘技場の中に入った。暗くて長い廊下を通り、幾つもの扉を開いて、闘技場の内側らしきところに出た。目的地に着いたのだろう。二人をつないでいた鎖が解かれた。


 そこは予想していたような殺戮場とはまったく違っていた。目の前には周囲を岩山と低木に囲まれた40モラ四方の草原が広がっていた。その草原の奥に岩山を背にして茅葺の小屋が10棟ほど建っていた。


 闘技場の中だが、小高い岩山と草原、そして小さな村がある。不思議な光景だ。


 小屋の近くの岩山からは水が流れ出ているところがあった。その水はせせらぎとなって村の横を流れて、低木の中に消えている。その水音が響いていて、なんとなく気持ちを落ち着かせた。


 だが、ものすごく違和感があった。それは、岩山や低木の向こうが石の壁になっていて、さらにその上、地上から10モラくらいの高さからは観客席が設けられていることだ。


 呆気に取られて周りを見渡していると、女官が口を開いた。低い声だ。


「ここは人族とゴブリンが共生する村だ。われらは王様の命により、人族とゴブリンの共生が本当にできるのかを確かめるためにこの施設を用意した。おまえたちは今日からここでゴブリン族の女として生活をするのだ。分かったか?」


「「はい……」」


 小さな声で返事をした。偶然にラウラ先輩と声が合わさった。


「よろしい。ここでおまえたちはゴブリンの子をたくさん産むのだ。この共生村には今はまだ誰も住んでいないが、数日中にゴブリンの仲間たちを連れて来てあげる。楽しみにしていなさい。ゴブリンと一緒にこの箱庭で暮らして幸せになるのだ。うふふふふ……」


 そうか……。女官の説明でこの場所が箱庭だと分かった。闘技場の中を原野のように仕立てたのだ。そこに我々を入れて、本当に人族とゴブリンの共生ができるかどうかを実験するつもりのようだ。


 闘技場の中にこの施設を作っているということは、客を入れて見物させるつもりかもしれない。ゴブリンに孕まされた女を見世物にするということだろうか。


「ゴブリンはワンピースを着たりはしない。後で着替えを持ってこさせるから、着替えなさい」


 そのとき男が現れて近寄ってきた。見た目が40歳くらいの痩せた男で、腰には棍棒を携えていた。


 女官は男と何か話をした後、自分たちの首輪に触って呪文を唱えた。奴隷の受け渡しを行ったようだ。


 その手続きが終わると、男は「待っていろ」とこちらに声を掛けて、女官と護衛たちと一緒に出ていった。


 周りにはもう誰もいないようだ。念のため探知魔法を発動して周囲に人がいないことを確かめた。


 ちなみに探知魔法というのは自分の周囲にいる動物や魔物などを探知するための魔法だ。探知した相手の種族や魔力の高さも特定できるし、ロードナイトや妖魔、魔獣も区別できる。探知魔法を使って自分自身の魔力値も正確に分かるようになった。さらに食物も探知できるから便利だ。ただし自分よりも相手の魔力が高いと探知できない。そこは注意が必要だ。


 それと探知魔法を発動するには本来は魔力〈100〉が必要だ。今の自分の魔力は〈60〉だから探知魔法を失敗する場合も多い。


「ラウラ先輩、大丈夫ですか? あの方法で周りに誰もいないことを確かめたから、話をしても聞かれることはないですよ」


「ケイ、もうその話し方はやめて。前にも言ったように、ラウラって呼び捨てでいいし、本当の家族だと思ってざっくばらんに話してよ。お願いだから……」


 ラウラ先輩の目をじっと見つめた。本心でラウラ先輩はそう言ってるようだ。


 もしこれからも下手に遠慮をしたり先輩扱いを続けたりすると、自分たちのこの関係がダメになってしまうかもしれない。少し迷ったが、言われたとおり本当の家族だと思って遠慮なく話すことにした。


「分かったよ、ラウラ。これからも、よろしく」


 ラウラを抱き寄せて、自分と一緒に清浄の魔法と保温の魔法を掛けた。これで、奴隷市場で付いたイヤな臭いが消えた。体が清潔になって温まると、気持ちにゆとりが生まれる。


 ラウラの手を引いて小屋の中に入ってみた。床は全体が土間で、ワラで作られた寝床があり、獣の皮が何枚か置いてあった。これが毛布の代りだろうか。


 腰を下ろして横になってみる。寝床は50セラくらいの厚みがあって、崩れないようにワラを縛ってあるようだ。


「意外に気持ちいいね」


 ラウラの言うとおり、寝心地は悪くない。それに、ワラの匂いも気持ちを和らげてくれる。この匂いならラウラのつわりにも影響しないだろう。


 ………………


 暫くするとさっきの男が戻ってきた。手には革の何かと袋を持っている。


「おれは飼育武官のバハルだ。今日からおれがおまえらのボスだ。おれはおまえたちの生殺与奪権を持っている。だから、おれの言うことには絶対服従しろ。さっきの女官はおまえたちに甘かったようだが、おれは容赦しない。覚悟しておけ! まず、これに着替えろ」


 渡された物は革のブラと腰巻のようだ。


 ためらっていると、バハルは腰の棍棒を手に取った。


「分かったから、乱暴はしないで」


 ラウラはあっさり衣類を脱いでブラと腰巻を身に着けた。


 自分も脱がなくちゃいけないんだろうな。バハルの視線が体に絡みついてくる。くそっ。こいつの前で脱ぐのはイヤだ。


 着ているワンピースを脱ぐのをこれ以上ためらうと、飼育武官のバハルに付け入る隙を与えてしまうことになる。一気にワンピを脱いで、短い腰巻を巻き着けた。バハルの視線が自分の胸やお尻を舐めまわしているのが分かる。鳥肌が立ちそうだ。


「そのブラも外せ! ゴブリンのメスは人族のブラなんぞ着けてないからな」


 仕方なくブラも外した。あらためて自分のオッパイのボリュームを感じてしまう。オッパイを見たバハルは飛びつきそうな感じになっていて、なんだか怖い。


 慌ててゴブリン用のブラを身に着けた。オッパイの下半分だけを隠すブラだ。無いよりはマシというやつだが、意外と乳房の揺れは防げるみたいだ。


「病気の検査をする」


 バハルはそう言いながら近づいて来て、オッパイや股間を触り始めた。昨日の婆さんとは違って、テクニックなどは皆無だ。手荒に揉んだり触ったりしているだけだ。鳥肌が立って嫌悪感だけが残った。


 ラウラに対しても同じように触ったが、自分と同じように無反応だったから、バハルは面白くなさそうに顔をしかめて手を引っ込めた。


「よし。ふたりともこの原野で生活できるだけの健康体であると認めてやろう。おまえたちは元気だ。ということは、ここで自活できるということだ」


「こんな見せかけだけの造り物の中で自活できるわけないじゃない!」


「心配するな。果物は林の中に実っているし、イモは地面の中で育っている。この原野には動物もいる。肉はおまえたちがここで実際に狩りをして、獲物を捕まえて料理するんだ。塩やそれ以外に必要なものは近所の人族と物々交換しろ」


「近所の人族って?」


「この村は、おまえたちゴブリンと人族が共生する村だ。だから、いくつかの小屋には人族が入ってくる。ただし人族が来るのはもっと後になるがな。まぁ、最初はかわいそうだから、これをやろう」


 バハルは袋を差し出した。見ると、その中には切れ味が悪そうな古い狩猟刀が2本と塩の袋やタオルなどが入っていた。


「まずは、おまえたちの実力を見てやろう」


 バハルはそう言って扉を開けて出ていった。ちなみに岩が重なったところに大きな扉がある。岩に隠れていて観客席からは見えないようだ。


 この箱庭にはそういう隠し扉がほかにもありそうだ。バハルはそういう隠し扉を使って何か仕掛けてくるつもりかもしれない。


 しばらく待っていると、低木の中からダンブゥ(暴猪)が現れた。


 ラウラは身重だからムリをさせてはいけない。


「ラウラ、心配しないで見ていて」


 そう言いながら狩猟刀を手にして、ダンブゥと向き合った。


 ダンブゥはイノシシと同じで、すごい勢いで頭から突っ込んでくる。それにぶち当たれば大けがをするに違いない。普通の狩りであれば魔法で眠らせて簡単に殺せるが、オーブを持っていないはずの自分が眠りの魔法を使ったら自殺行為だ。


 仕方がないので眠りの魔法は諦めて、自分の体にこっそり筋力強化の魔法を掛けた。この魔法が掛かっている間は自分のひ弱な体でも筋力が格段にアップするのだ。副作用もない。


 ダンブゥがこちらに突進してくる。最初はタイミングを計るためにギリギリで横に飛びのいた。ダンブゥは壁際まで突進して止まり、方向転換をした。


「ブヒッ!」と怒りの鳴き声を上げて、さらに勢いをつけて、こちらに突進してきた。今度は擦れ違いざま、ダンブゥの右目を狙って狩猟刀を突き刺した。ダンブゥは狩猟刀が突き刺さったまま突進を続け、低木を突き抜け岩にぶち当たって動かなくなった。


 バハルは観客席でその様子を見ていたのだろう。慌てて闘技場の中に入って来て、ダンブゥを調べた。


「すごいな。魔法を使わずに一突きでコイツの右目に刀を突き入れるとは、たいしたもんだ。さすがだ。サレジ隊でかなり経験を積んだようだな」


 バハルは本当に驚いていたようだ。だがすぐに鬼のような怖い顔になって言葉を続けた。 


「言っておくが、おれにその短刀を向けても無駄だから覚えておけ。おれはバリアで守られているし、おまえたちをその首輪に仕込まれた電撃魔法で直ぐに殺すこともできるからな。分かったか?」


 その言い方に腹が立ったから、バハルの念押しを無視してやった。一方、ラウラは素直に頷いている。


「おれに逆らったり、無視をしたりすると、どうなるか分かるか?」


 そう言うと、なにか呪文を唱えた。突然、雷に打たれたような衝撃が全身に走って、体が後ろに飛ばされた。そしてそのまま気を失った。


 ………………


 気が付くと、ラウラが手を握って心配そうに呼び掛けていた。


「ケイ、ケイ。大丈夫?」


「う、うっ……」


 呻きながらなんとか起き上がって、ラウラに頷いた。以前、初めてこのウィンキアの世界で目覚めた日に、ボディジャッカーと間違われて同じような電撃魔法を受けたことがあった。今回の電撃はあのとき以上に強烈だった気がする。


「分かったな!? 今のは軽い電撃罰だ。痛い思いをしたくなかったら、おれに従え!」



「でんげきばつ……」


 こっちが呆然としているのを見て、バハルは勝ち誇ったような顔をして出ていった。


 くそっ! この痛みは必ずいつか返してやる!


 ※ 現在のケイの魔力〈60〉。


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