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SGS363 頼れる相棒が欲しい

 ―――― ラウラ(前エピソードからの続き) ――――


 木曽谷の街道を歩いているが、その道は狭くてぬかるんでいるし、山あいの家々も貧相だ。こっちの世界の人族たちは貧しい者が多い。どの村でも家屋の大半は土壁と藁葺わらぶきの粗末な平屋だった。


 あたしが領主になって間もないころは、領地を回ってみて貧しい者が多いことが不思議だった。魔族も魔物もいない世界でウィンキアよりもずっと安全であるし、開拓できる土地もたくさん余っているはずなのだ。それなのに、領民たちはどうしてこんなに貧しいのだろうかと何度も首をかしげた。


 ウィンキアでは畑の広さは昔から変わらない。結界魔法で守られている王都の中と周囲にある畑だけだ。限られた畑地しかないから生む子供の数は避妊の魔法で制限している。それに、魔族や魔物に殺されたり戦争で死んだりする者も多い。人の数が圧倒的に少ないのだ。


 でもこちらの世界では人の数がウィンキアよりもずっと多い。領主になってしばらくしてから分かってきたが、人はどんな狭い場所にも住み着いていて、本能のままに子供を生み増やしていた。田畑の広さに比べて人の数が多すぎるのだ。それに領主になったあたしが言うのもちょっと変だが、領民から取り立てる税率も高い。たび重なる戦で田畑も荒れているし、働き盛りの男たちも戦で死んでいく。だから貧しい者たちが多いのだろう。


 そのしわ寄せが行くのは一番数が多い農民たちだ。飢えるかどうかギリギリのところで生きていて、子供を売ったり飢え死にしたりする者も多いと聞いている。


 あたしの領地ではそんな酷い暮らしを少しでも早く無くしたい。もっと広い田畑があって、治水が行き届いていれば農民たちの暮らしは豊かになるはずだ。そう考えて、あたしが統治している筑摩野ちくまのでは農地の開拓や治水を推し進めている。その工事をしているのは農民たちだ。働いた農民たちに対しては年貢も減らしているし賃金も支払っている。きっと農民たちは喜んでいると思う。


 街道を歩きながらそんなことを考えていると、ケイから念話が入ってきた。今考えていたことをケイに話すと、『なるほどね』と聞いてくれた後で『でもね』と言い始めた。何か言いたいことがあるらしい。


『でもね、ラウラ。飢える心配が無くなると農民たちはまた考えなしに子供を増やすかもしれないよ。それに筑摩野が暮らしやすいと聞くと他国の農民や流民たちが大勢流れ込んでくるだろうね。そうやって人の数が増え過ぎると、また農地が足りなくなって貧困で苦しむ者が増えてくるよね。

 良かれと思って国を豊かにしようとしてるのに、得られる豊かさよりも増える人の数の方が多くなってくるんだよ。そうすると国もまた荒れていく。その悪循環を起こさないようにするためには、いったいどうすれば良いんだろうね……』


 実はケイもまた同じような問題を抱えているらしい。あたしもウィンキアでの主な出来事はケイやコタローから聞いていた。ゴブリンのドンゴが殺されてソウルを熊族の体に移し替えられたことも、ドンゴがドルガ共和国という生まれたばかりの国の護民官になったことも知っていた。


 そのドンゴが半月ほど前にケイのところへ訪ねてきたとき、この問題のことが話題に上がったそうだ。ドルガ共和国が暮らしやすい国だと聞いた流民たちが押し寄せてくることをドンゴは懸念しているらしい。ケイはドンゴからこの問題の相談を持ち掛けられて頭を抱えているそうな。


『とりあえず他国から農民や流民たちが国の中に流れ込んで来ないように手を打つしかないね。その農民や流民たちには気の毒だけど……』


『そうね。あたしも深志城に戻ったらすぐに信春やマリシィと相談して、何か手を打つことにする。でもね、二人ともちょっと頭が固いのよね』


『厳つい戦国武将と生真面目な使徒だからねぇ……。やっぱりラウラのそばには頭の柔らかい助言者が必要だよ。わたしやコタローも可能な限り相談に乗るけど、こちらからの1日に1回や2回の念話だけでは適切な助言ができないかもしれないからねぇ』


『言われてみたら、そうかも……』


 時空を超えて念話を発動できるのはケイ側からだけだ。こちら側からはケイへの念話はできないから、急いで相談したいことがあっても我慢してケイからの念話を待つしかないのだ。


『理想的な助言者の条件を挙げてみようか。ええと、頭が良くて柔軟に考えることができて……。いや、それだけじゃダメだな。いつもラウラのそばにいて、一緒に現場で見たり聞いたりして相談に乗ってくれる人だよね。助言するだけじゃなくて、ラウラが困っていたら実力を行使してでも助けてくれる。そんな人だよね。誰かいないかなぁ……』


 ケイにはそういう助言者としてユウやコタローがいる。いつもケイを見守って助けてくれている。頼りになるダイルのような仲間たちもいるし、あたしは会ったことはないけれどアルロという頭の良い男も仲間に加わって、ケイの参謀のようなことをしているそうだ。


『あたしも頼れる相棒が欲しいんだけどね。ユウやコタローのような助言者は簡単には見つからないでしょうね……』


『うん。でも無理なことを言っても仕方ないからねぇ。今度の旅で助言者にできるような優秀な人材を探し出すことができれば良いんだけどね』


『ええ。何とか頑張って探してみる』


 ケイとの念話はそれで終わって、あたしは山あいの街道を歩き続けた。数時間歩いて河原で一休みしていると、ケイから驚くような連絡が来た。


『ラウラのロードオーブにはシルフロードのソウルが格納されてるよね。そのソウルは今は眠ってるはずだけど、それを起こせばラウラの守護精霊になるらしいよ。シルフは魔族の中でも特に賢いんだって。守護精霊になればラウラを守ってくれるだけじゃなくて、良い助言者にもなるだろうって』


『コタローがそう言ってるの?』


『いや……。実は今、地母神様に用があって念話で話をしてたんだけどね。その用事は終わったんだけど、その後ちょっと雑談をしてたらラウラの話になったんだ』


『ええっ! あたしのことを地母神様と話したってぇーーーっ!?』


 地母神様というのは大地の神様、つまりウィンキアソウルのことだ。魔族たちは畏敬の念を込めてウィンキアソウルのことを地母神様と呼んでいる。ケイが地母神様に捕らえられたことや、地母神様から結婚しようと言われたことも聞いていた。どうやら地母神様はケイに特別な感情を持っているようだ。


 地母神様はケイの記憶をすべて持っているそうだから、あたしのことも知ってるのは分かる。でも、あたしのことなんか地母神様から見れば小さな蟻のような存在でしかないはずだ。そのあたしのことをケイは地母神様と話したと言う。なんだか嫌な予感しかしない。


『ラウラがコタローのような頼れる相棒を欲しがってるって、そんな話を地母神様にしたんだけどね……』


『それで?』


『そうしたらね、異世界の乱世に放り込まれて苦労しているラウラにも優秀な相棒が必要だろうって、地母神様がそう言い始めてね。シルフロードのソウルを地母神様が目覚めさせてくれるって。そう言ってくれてるんだよね』


『ええーっ!!』


『守護精霊としてラウラを守ってくれるし、知能も高いからラウラの助言者にもなる。きっと良い相棒になるだろうって。地母神様はそう言ってる』


 驚きのあまり言葉を返すこともできない。


『ええと、今から地母神様がソウルを起こす波動をこの念話で送ってくれるって……』


 ケイが言い終わらないうちに念話で『ザァァァァァー』という雑音が聞こえた。数秒でそれは終わった。


『あと何時間かすればソウルが起きるだろうってさ。じゃあ頑張って……』


 ケイからの念話はそれで切れてしまった。なんだか訳が分からないうちに守護精霊を目覚めさせることになったけど、大丈夫だろうか。


 どうも今のケイの態度は怪しすぎる。ケイがあっさりと念話を終えたのは、たぶん地母神様があたしたちの会話を聞いていたからだろう。


 守護精霊についてもっと詳しいことが聞きたいけれど、こちらからケイには念話ができない。しばらくは様子を見て、自分だけで対処するしかなさそうだ。


 ………………


 日暮れが近付き、森の中の街道も薄暗くなってきた。次の村で宿を頼もうかと考えていたとき、頭の中で声がした。


『よくもボクを殺したなっ!』


 その声はロードオーブに閉じ込めてあるソウルからの念話だとすぐに分かった。


 ※ 現在のラウラの魔力〈812〉。

   (戦国時代の日本にいるため魔力は半減して〈406〉)


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