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SGS359 フィルナとハンナの補佐役

 共同体本部の各部局で働く人材はクドル3国の各政府から選り抜きの優秀な官吏たちが派遣されてくることになった。本部の建物が完成して官吏たちがそこで働き始めると、少しずつ共同体の形が整い始めた。


 しかし、フィルナの教育局とハンナの食材改革局は組織体制が一番弱い部門になってしまった。その分野に適した人材が見つからなかったからだ。考えてみたら当然のことだった。オレが意図している意識改革や食材改革を理解して、その指導者となれるような人材をクドル3国で見つけようとしたこと自体に無理があったのだ。それで結局、両部局ともヤル気のある者を何人か集めて見切り発車した。だが、部局の役割を理解していない者たちをヤル気だけで集めてみても空回りするだけだ。


 今朝、フィルナが訪ねてきたのもそのことで悩んでいるからだろう。オレもその件は前から気になっていた。それで実は一つの手を打とうとしていた。その手とはウィンキアの中で意識改革や食材改革の指導者となれるような人材を捜し出して、ダールムに招聘しょうへいして、フィルナとハンナを補佐してもらうということだ。


 この件を考え始めたときからオレの頭には一組の夫婦の顔が浮かんでいた。日本からこっちの世界に召喚されてきたマサシさんとコトミさん夫婦だ。


 マサシさんはオレが日本からウィンキアに召喚してきた人で、日本では教師をしていたと聞いている。召喚する際にマサシさんと色々な話をしたが、誠実な人柄を感じたし、この仕事を任せれば真摯しんしに取り組んでくれると思う。それに、人を教える難しさや人の意識を変える難しさは身を以て実感しているだろうし、教育に対する問題意識も高いだろう。オレがこのウィンキアでなぜ人族の意識を変えようとしているのかを説明すれば、マサシさんならその意図を分かってくれるはずだ。


 コトミさんはこのウィンキアで何年間も飲食店を営んできた。異国風の料理が美味しいと評判だったらしいからこの世界の食材についても詳しいだろうし、料理レシピも色々と工夫しているはずだ。オレは日本から食材や料理レシピをこっちの世界に持ち込むつもりだが、コトミさんならそれを役立ててこの世界に適用してくれると思う。足りない知識はオレが魔法を使って植え付けるつもりだ。


 オレがマサシさんとコトミさんのことを思い浮かべたとき、この二人ならフィルナとハンナの補佐役としてきっと大丈夫だと確信したのだった。


 マサシさんとコトミさんは今はマリエル王国のアレナ公爵のところで暮らしているが、すでに話を付けてあった。ダールムに移り住んで、それぞれが教育局と食材改革局の参与としてフィルナとハンナを補佐してくれることになっている。人族への指導も引き受けると言ってくれているから心強い。


 ただしマサシさんたちに話していないことがある。この仕事の成否で人族の存亡が決まるとか、ウィンキアソウルも注目しているとか、いきなりそういうことを言うと間違いなく引き受けてくれないだろう。だからそういう重たいことはまだ話してない。二人がこっちに移り住んでから話すつもりだ。まぁ、あれだ。話を聞いて逃げ出すようなことはないだろう……と思いたい。


 マサシさんたちがこちらへ移り住むことになったので、ダールムのこの家の庭を一部整地して、二人が暮らす家を建て始めたところだ。完成すれば、オレがマサシさんたちを迎えに行くことになるだろう。それとクドル共同体が成立したこともあって、ダールムの街やこの家の周囲は以前よりずっと安全になった。だが、万一のことを考えれば自分の身を自分で守れるようにしておいた方が良いと思う。オレはマサシさんとコトミさんをロードナイトにするつもりでいるのだ。


 フィルナとハンナにはマサシさんたちが補佐してくれることについてまだ話をしてなかった。ちょうど良い機会だから、二人には今日にでも話しておこう。フィルナの気持ちも少しは安らぐと思う。


 ドルガ共和国やクドル共同体のことを考えていたら、マリーザが入れてくれたコーヒーが冷めてしまった。


 テーブルの上にはオレ専用の大きなカップが一つ。マリーザが入れてくれるコーヒーは冷めても美味しい。飲み干してそろそろ部屋に戻ろうかな。


 そう考えているとハンナがテラスに出てきた。


「ねぇ、ケイ。ちょっと相談したいことがあるんだけど、いいかしら?」


 ハンナが相談したいと言ってるのもおそらくあの件だろう。


「いいよ。ええと、フィルナも何か話があるみたいなんだよね。昼過ぎに帰ってくるそうだけど……」


「教育局の件でしょ? 彼女も悩んでるみたいだから」


「と言うことは、ハンナが相談したいことって、食材改革局の件だよね?」


「うん。問題が山ほどあってね、思ったように進まなくって……。ケイが統治理事会の理事になってくれていたら、色々な問題をもっとビシバシと解決できてたのにね」


「ええと……。話はハンナの部屋でしようよ。先に行っててくれる? ここを片付けてから行くから」


「じゃあ、部屋で待ってるわね」


 ハンナは家の中に入っていった。オレは手に持ったコーヒーを飲み干した。


 ハンナはまだ理事の件にこだわっているようだ。共同体の立ち上げ準備を始めたころはオレに対して共同体統治理事会の理事となり、その議長に就任してほしいと何度も要請があった。要請をしてきたのはレング神やニコル神たちだ。だがその都度オレはそれを断った。仲間たちもしきりに勧めてくれた。ハンナもその一人で、オレが顧問になると決まったときはすごく残念がった。


 理事になることをオレが断ったのは面倒なことが嫌だし、誰にも束縛されずにのんびりと暮らしたいと考えているからだ。しかしクドル共同体を立ち上げた責任からは逃れられない。それは分かっていた。だから顧問というポジションを設けて今後もクドル共同体に関わっていくことにしたのだ。渋々だがレング神たちも了承してくれた。


 オレはそれで気楽に共同体の運営に関わっていけると考えていたが、蓋を開けてみると思うようにはいかなかった。統治理事会の議長は理事が毎回交代していくルールにしていたが、会議を始めてみるとオレが実質的に議長を担っていることが多かった。会議の終盤では結論をオレが取りまとめる形となり、重要な案件を決める場合はほとんどオレの考えが最終的な結論に反映されることとなった。


 考えてみればそれは自然な流れだったのかもしれない。なにしろ魔族軍が退却してから毎晩のようにほぼ同じメンバーで魔族戦の後処理会議やクドル共同体の設立準備会議、ドルガ共和国の設立準備会議などを行い、オレがその会議を引っ張ってきたからだ。


 だがこれからは会議でのオレの出番は減っていくはずだ。クドル共同体もドルガ共和国も正式に設立して、会議の開催頻度が減ってきたし、重要な決め事も少なくなってきたからだ。それにこれからは本来のあるべき姿で統治理事会が運営されるべきだと思う。オレが会議で口を出すことはもっと減っていくはずだ。そう思いたい。


 こうしてクドル共同体とドルガ共和国を立ち上げて、その舵取りをそれぞれの統治者に任せることができた。だが言ってみれば嵐の中の船出だ。バーサット帝国も魔族たちもオレたちの国を滅ぼそうと虎視眈々《こしたんたん》と機会を窺っていることだろう。クドル共同体もドルガ共和国も個人の自由や平等は保障されていないし、民主主義とは程遠い政治体制だ。しかし当面は小回りが利くこの体制で危険な嵐の中を乗り切っていくしかない。今はこの世界で人族を存続させることに注力するのだ。


 そうは言っても、クドル共同体とドルガ共和国の設立を終えたから、オレはようやく一息つける状態になった。考えてみると、この半年間は忙しすぎた。本来であればオレは魔力を高めることにもっと集中して、少しでも早く魔力を〈1500〉以上にしたかったのだ。一刻も早くラウラが待つ日本の戦国時代へ転移するために……。


 おっと、また考え事をしてしまった。急がないとハンナに怒られてしまう。


 ※ 現在のケイの魔力〈1364〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈1364〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈1364〉。


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