SGS035 奴隷市場で売られる
暫くしてラウラ先輩が部屋に戻ってきた。
「隊長が呼んでいるから行きなさい。あたしは奴隷市場で売られることが決まったから……」
黙って頷いて、サレジ隊長の部屋に向かった。部屋に入ると、隊長がベッドの上に腰掛けていた。
「おれはな、旅から戻ったらおまえを味見できると楽しみにしていたのだ。だが、なんてことだ! おれより先にゴブリンに子種を仕込まれるとはな。しかし済んでしまったことを嘆いてみてもしかたない。かなり不味くなっちまっただろうが、味見をしてやろう。こっちへ来い」
え? それって、やっぱりアレをするっていうこと? 絶対にイヤだ!!
身を竦めてじっとしていると、隊長に腕を掴まれた。
体をぐっと引っ張られて抱きしめられる。
「うん、可愛いな。どれ、服を脱がしてやろう」
着ていたワンピの腰ヒモと胸元のヒモを解かれた。隊長はワンピの裾に手を掛けて一気に引き上げた。抵抗する間もなく自分の両手が掴まれて上に持ち上げられ、着ていたワンピは手と頭から抜けて部屋の片隅に放り投げられた。
胸にブラを着けていたが、そのヒモも外されてブラは床に落ちた。下半身はいつものように下着は着けていない。あっと言う間に丸裸にされてしまった。
隊長に思い切り抱きしめられた。息が止まるくらい強く抱かれる。いつの間にか口を吸われていた。隊長の舌が入って来てかき乱した。隊長の手が自分の腰からお尻にまわって、徐々に敏感なところに近づいてくるのが分かった。
ボドルが与えてくれたような幸福感はまったく無い。嫌悪感だけが広がった。必死に隊長を撥ね退けようとすると、隊長は力を込めてもっと強く抱きしめた。
そんなところを触るなーっ!
「やめろーっ!」
思わず魔力を使って隊長を突き飛ばしてしまった。隊長は壁に突き当たって床に倒れた。驚いた顔でこちらを見ている。軽い魔力砲だったから怪我はしていないようだ。
自分がしてしまったことに一瞬呆然とした。
だけど逃げなきゃ……。
床に落ちていたブラとワンピを拾ってすぐに部屋を飛び出した。
食堂を通って奥のアンニの部屋に逃げ込んだ。食堂に居た隊員たちは目を丸くして驚いていた。
裸で飛び込んだものだから、アンニも驚いて立ち上がった。すぐに隊長も後を追って部屋に入ってきた。
隊長に腕を掴まれて思いっきり頬を平手打ちされた。よろめいて倒れそうになる。また腕を掴まれ、体を引き戻された。隊長はさらに手を上げて叩こうとした。その手をアンニが止めた。
「なにがあったか想像は付くよ。この娘をすぐに売りに出すから、あんたは手を出さないでおくれ」
「アンニ、こいつはおれを突き飛ばしたんだ。女のくせにおれに手を出すなんて、とんでもないアバズレだ。もっとぶっ叩かないと気が済まん!」
「やめなって! 叩いてしまうと商品の価値が下がっちまうよ!」
アンニは憎々し気に顔をこちらに向けると、冷たく言い放った。
「やっておくれだね。おまえを奴隷市場で売り払ってやる。服を着て部屋で待ってな!」
裸のままアンニの部屋から食堂へ追い出された。
男たちが口々に囃し立て、体に触ってこようとする。それを払いのけて自分の部屋に走り戻った。さすがに部屋の中まで追い掛けてくる男はいなかった。
ラウラ先輩にこんな裸の姿を見られるのは恥ずかしかった。先輩はビックリしていたが、にこっと微笑んだ。
「そうだよね。売られてしまう身だから、今さら隊長に媚を売ることはないよね。早く服を着なさい」
言われるまでもなく、ブラを着けてワンピを着た。そしてラウラ先輩のところへ歩み寄って抱きついた。
「せんぱい、少しだけこのままで……。隊長の感触を忘れたいから……」
先輩はやさしく抱きしめてくれた。
「落ち着いた?」
コクリと頷いて先輩のベッドに腰をおろした。まだ先輩の手を握ったままだ。なんだかこの手を離したくない。
「先輩、いつだったか、ボドルとベナドが実の兄弟だって分かったときがあったでしょう?」
先輩は頷いた。
「あのとき、ボドルがわたしたちのことを姉妹だって言ったこと、覚えてますか?」
「そんなこと、あったわね……」
「あのとき、すごく嬉しかったんです。わたしは記憶も無いし、身寄りもいません。それで、先輩と姉妹になったと言われて、ボドルたちや先輩と本当の家族になれたような気がしたんです」
「ええ。あたしも同じように思っていたのよ」
「本当に? せんぱい、先輩とほんとの姉妹だと思っていいですか?」
「もちろんよ。あたしがケイのお姉さんってことになるわね。あたしは29歳で、ケイよりもちょっとだけ年上だから」
「それじゃ、これからはラウラ姉さんって呼びますね」
「いえ。あたしはあなたの先輩で年上だけど、今度からはラウラって名前だけで呼んで。その方が嬉しいから」
ラウラ先輩はきっとお互いに思っていることを素直に話し合えるような関係を望んでいるのだと思う。その気持ちは自分も同じだ。
「それと、売られてしまったらケイとは離れ離れなってしまうかもしれないでしょ。そうなっても、あたしは奴隷から抜け出して、必ずケイを捜して助け出してあげる」
「ありがとう、せんぱぃ……」
「うふっ……ラウラよ。あたしとケイはこれからは家族。あたしはケイのお姉さんでケイは妹。一生の約束だからね」
「はい、約束します」
ラウラ先輩に抱きついて強く抱きしめた。こうやって姉妹になれたのだから、ラウラ先輩とは絶対に離れたくない。
………………
隊舎を出るとき、隊員たちの無言の見送りを受けた。サレジ隊長は毒々しい視線で睨みつけてくる。大半の隊員たちもこちらを見ていた。奴隷に堕ちていくオレたちのことを嘲っている者もいれば、新たな女を味わえなくて残念だと思っている者もいるのだろう。そのどの視線もオレたちの味方ではなかった。
しかし副長だけは「任せておけ」とでも言うように、少し頷いて温かい視線を送ってくれた。もし奴隷として売られるようなことがあったら、ラウラ先輩と自分を買い取ってくれるように頼んでおいたのだ。
気になるのはアンニにそのことを知られてしまったことだ。隊舎を出る1時間ほど前のことだが、オレが副長にその頼み事をしているとき、アンニが陰に隠れて聞いていたらしい。
その際にアンニの怒りをぶつけられたのはオレではなくイルド副長だった。
「イルド、もうすぐ独立すると思って、いい気になるんじゃないよっ! このサレジ隊から隊員を引き抜こうとしたり、ラウラやケイを買い取ろうとしたりして、あんたはサレジ親方をコケにしようとしてるんだ。親方にさんざん世話になっていながら、恩を仇で返すつもりだね!? そんなことは絶対に許さないよっ!」
あのときアンニは憎しみのこもった鬼のような形相で副長を睨み付けていた。以前からアンニと副長は犬猿の仲だったらしいが、オレが不用意にあんな頼み事をしたから余計に関係をこじらせてしまったようだ。そうは言っても、オレが頼れるのはイルド副長しかいないからな……。
………………
アンニの先導で奴隷市場へ向かって歩いた。噛み痕を人に見られるのはイヤだから、二人とも首にタオルを掛けて隠している。
不安で足取りが重くなるが、アンニはしきりに急きたてた。アンニは自分たち二人を王宮へ高く売りつける算段をしているらしく、気が急いているようだ。
20分くらい歩いたと思う。大通りから路地に入って、大きな建物の裏口に着いた。裏口と言っても大きな荷物も出し入れできるようにしているためか、扉のサイズはかなり大きい。その扉の上には小さな看板が出ていて「奴隷市場」と書かれていた。
「さぁ、入りな。奴隷はここから出入りするんだ」
アンニは情け容赦なく我々二人を追いたてた。ラウラ先輩とは15年くらい一緒に生活をしてきたはずなのに思いやりのカケラもない。
中に入ると、扉の内側に筋肉隆々の男と見た目が70歳くらいのキツイ目をした婆さんが立っていた。男は腰に鞭を携えている。
婆さんに向かって、アンニは「この二人だよ」と言う。男に腕を掴まれて、ラウラ先輩と一緒に奥の部屋に引き立てられた。この婆さんとアンニの間ではあらかじめ話ができていたようだ。
部屋の中には数台のベッドが並んでいる。何をされるのだろう……。
部屋に入ったところで立ち止っていると、婆さんから衣服を全部脱ぐように言われた。体の検査をするらしい。ためらっていると、男が鞭を床に打ちつけた。思わず「ヒィーっ」と声が出る。
「おまえら、鞭を食らいたいのか? まぁ、遠慮せずに一発食らってみろや。体に食い込んだ鞭の傷はキュアで治してやるからよぉ」
その迫力に足がすくんで体がこわばった。もう何も考えられないまま、ワンピを脱いでブラを外した。サンダルも脱いだ。ラウラ先輩も諦めたのか、少し遅れて脱ぎ終わった。
ラウラ先輩も自分も、まだ外していないものがあった。ボドルたちにもらったペンダントは首に下げたままだ。男はそれに気付いて、引きちぎろうと手を伸ばしてきた。
「やめな! それは、ゴブリンのお守りじゃ。この娘たちの売値を吊り上げるときに証拠になるからな。そのまま身に着けさせておやり」
婆さんがそう言って男を制した。そばで見ていたアンニも頷いている。
「アンニさん。あんたは、この娘たちの査定が終わるまで、さっきの部屋で待ってておくれ。査定が終わったら値段の相談をしようじゃないか」
婆さんの言葉にしたがってアンニは部屋を出ていった。
男は自分たちが脱いだ衣服とサンダルを部屋の隅に置かれた箱の中に投げ入れた。代りにタオルを投げて寄こした。
「髪と体を洗え」
男の指示にしたがって部屋の壁沿いに流れている上水と下水を使って髪や体を洗った。それが終わると体の検査が待っていた。
※ 現在のケイの魔力〈60〉。




