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SGS344 ウィンウィンの提案

 オレは今、東京の自分の家でウィンキアソウルを相手に交渉をしようとしている。リビングルームのソファーにオレは座り、正面には太久郎ことウィンキアソウル。オレの隣にはミサキ(コタロー)が座っていて、黙ってオレたちの話を聞いている。テーブルには少し温くなったコーヒーが3つ。


 ウィンキアの世界では魔族たちはウィンキアソウルのことを地母神様と呼んで神様のように崇めているが、ユウは大魔王と呼んでちょっと毛嫌いしている感じだ。でも、今のウィンキアソウルであればオレは決して嫌いではないし、恐れてもいない。むしろ自分の心のどこかが本気でウィンキアソウルのことを友だちだと感じ始めている気がする。


 一方、ウィンキアソウルの方もオレのことを大魔女とか呼んでいるし、友だちだと思ってくれているようだ。そして、オレがウィンキアソウルに対して何かを望んでいることを察しているらしい。でもその内容を早とちりしている。ウィンキアで人族の居住地を認めて、その場所を領地としてオレに与えること。それがオレの要望だとウィンキアソウルはひと合点がてんしているのだ。


 たしかにそれが実現できれば最高だが、そんな過大なことをオレは望んでいない。どうしてもオレがウィンキアソウルに叶えてほしいことは別にあるのだ。


 だが、交渉相手がオレの要望を早とちりしてくれているのはラッキーだ。目一杯の十の要望だと思っていたのが実は僅か一の要望だと分かったら、交渉相手もその要望を受け入れ易くなるだろう。


 それに交渉相手のウィンキアソウルはオレの話に興味を持っている。何を話すのかと身を乗り出しながら聞こうとしてくれているのだ。この様子なら、こちらが何を言っても嫌がらずに話を聞いてくれるに違いない。


「あなたは魔族たちに人族を排除せよという命令を出しているから、わたしに人族とその居住地を領地として与えることはできないと、そう言うのですね。なるほど……。でも、魔族の中にはあなたのその命令に反している者たちもいますよ。人族を排除するどころか、人族を助けている者たちがいるのですよ」


「えっ!? そうなのか?」


「はい。1週間ほど前のことですけど、メリセランという人族の国が魔族たちの侵攻で滅ぼされたんです。それで、そこの住民たちはその国から逃げ出して、難民となってクドル3国の方へ移動を始めました。数は七万人ほどです。今もクドル湖方面へ移動を続けています。その難民たちを助けているのがゴブリンたちなのです」


「ゴブリンたちが? だが、いったいナゼだ? その行為は僕の命令に明らかに反しているぞ」


「わたしたちも不思議に思ってその理由を考えました。どうしてゴブリンが難民たちを助けているんだろうとね。それで分かったんです。これは七万人もの難民をクドル3国に乱入させて、人族の国を疲弊させ、あわよくば滅ぼそうとする作戦だとね……」


 オレたちが推測したその作戦内容を詳しく説明し、バーサット帝国が裏で操っているらしいということも付け加えた。


「なるほど。たしかに魔族だけでは考え付かないような作戦だねぇ」


 太久郎はちょっとムッとしたような顔をしている。作戦が気に入らないのか、あるいは魔族が人族に踊らされているのが気に入らないのだろう。


「ええ、ズルくて冷酷な作戦です」


「ははは、いかにも人間が考え付きそうな作戦だな。ゴブリンたちは上から命令されて人族の難民たちを渋々助けているのだろうね?」


「上から命令されていることは確かですけど、渋々助けているのではないみたいです。わたしは実際に現地に行って、難民たちを助けているゴブリンとも話をして確認したから分かるんですけどね。救援を行っているゴブリンたちは本気で難民たちを助けているんですよ。大勢の難民たちから感謝されて、ゴブリンたちは喜んでいました。

 それに難民たちの方もゴブリンに対する今までの考えが間違っていたと気付いたようです。本当はゴブリンたちは人族と同じように優しくて親切なんだってね。これまで人族がゴブリンと戦ってきたのは間違いだったと気付いた者も多いと思いますよ。苦しい旅の中でゴブリンたちに助けられて優しくされたんですから」


「そうか……。でもケイ、君はその話を僕にして何が言いたいんだ? 一部のゴブリンたちが僕の命令に反して難民を助けていることが事実だとしても、僕はあの命令を撤回しないよ。人族を排除せよという命令を撤回するにはね、それなりの理由が必要なんだ」


「でしょうね。でも、罰は与えられますよね。ゴブリンたちはあなたの命令に背いたのですから」


「ばつ? ケイ、いったい何を考えているんだ? 僕に何をしてほしい?」


「はい。クドル湖の北東にドルガ湖という湖があって、その周辺には広大な平地が広がっています。その土地はレブルン王国が支配していてゴブリンの小さな村があるだけで、大半は未開の荒れ地のままです。その土地に新たにゴブリンと人族を入植させて開拓させたらどうかと考えています。あなたへのお願いはドルガ湖の周辺をゴブリンと人族の共同管理地にしてほしいということです」


「ゴブリンと人族を同じ土地で居住させて生活させたいと言ってるのか?」


「ええ、そうです。わたしは魔族と……、少なくともゴブリンと人族は一緒に仲良く暮らせると考えています。レブルン王国のゴブリンたちはそのつもりは無かったでしょうが、今度の難民救済の活動でゴブリンは人族と仲良くできることを身をもって示してくれました。難民たちもゴブリンは本当は優しくて親切だと今では考えています」


「なぜ君はそんなことを望んでいるんだ? 全然分からないのだけど……」


「わたしは今度の難民救済の活動でゴブリンと人族が仲良くなったことを一時的なことで終わらせたくないんです。一時的なことではなく、これからもずっとゴブリンと人族は仲良くできると思っています。それをドルガ湖の地域を使って実証したいんです」


「聞くけど、それが実証できたとして、その後はどうするんだ?」


「どうもしません。でも、ドルガ湖の周辺でゴブリンと人族が仲良く暮らしていることは、きっとほかの魔族たちにも伝わるでしょうし、遠くに住んでいる人族たちにも伝わっていきます。時間は掛かるかもしれませんが、魔族と人族の関係は少しずつ良くなると思います。お互いに憎しみ合う気持ちは薄れていき、助け合ってみようという気持ちが生まれてくるかもしれません。魔族と人族が無意味に殺し合いをすることも少なくなるかもしれません」


「だけど、それは僕が命じていることに反するよ。僕は魔族たちに人族を排除せよと命じているのだからね」


「でも、あなたはさっき仰いましたよね。人族を排除せよという命令を撤回するには、それなりの理由が必要だと。もし人族たちが魔族を襲わなくなったら、それは命令を変更する理由になりませんか?」


「そうだねぇ……。僕の命令を厳守するよう魔族たちを叱るかもしれないな。それだけのことだよ」


「本当に? 以前のあなたなら、そうするかもしれませんね。でも、今のあなたはそんなことはしないと思います」


「それは僕が人間のことを少し見直したようだと、君がそう感じたからか?」


「はい」


 太久郎はオレをまっすぐに見つめている。オレも目を背けない。


 先に微笑んだのは太久郎だ。


「でもね、まだ君の言うことが分からないな。ドルガ湖周辺をゴブリンと人族の共同管理地にする話と、君がさっき言っていた話……、ええと、僕の命令に反して難民を助けたゴブリンたちに罰を与える話とはどういう関係があるんだ?」


「関係ありますよ。あなたの命令に背いて難民たちを助けたレブルン王国とゴブリンたちに罰を与えるんです。レブルン王国にはドルガ湖周辺をレブルンの領地から取り上げて、地母神様の直轄領にするという罰です。そして難民を助けたゴブリンたちにはその直轄領で人族たちと一緒に働くという罰です。そんなに人族と仲良くしたいのなら、人族と一緒にあの地で働けとね」


「あははは。なるほどね。考えたなぁ」


「人族を排除せよという命令を撤回する必要はありません。ドルガ湖周辺の地域を罪ある者たちの流刑地として、そこに人族たちとゴブリンたちを放り込んで働かせることで罪を償わせるだけです」


「なるほど、なるほど」


 楽しそうに太久郎は笑っている。


「あなたは自分の命令に背いた者たちをきちっと罰することができますし、わたしは人族と魔族は仲良くできるという自分の考えを実証する場を持つことができます。それで本当に人族と魔族の間の争いが減って行けば、ウィンキアは人族も魔族も今よりもっと安心して暮らせる世界になりますよ」


「僕も筋を通せるし、君も信念を貫けるということか……。君の提案を受け入れたらお互いにウィンウィンだし、しかも将来はウィンキアが今よりもっと良い世界になると言うんだね。なかなか魅力的な提案だな」


 手応えありだ。これはいけるかもしれない。


 ※ 現在のケイの魔力〈1317〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈1317〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈1317〉。


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