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SGS341 思い出の星空

 翌日の昼過ぎ、オレが難民キャンプの現場で仕事をしていると、コタローから連絡が入った。


『ケイ、今すぐダールムの家に来てくれるかにゃ。ウィンキアソウルが来て、ケイと話がしたいと言ってるのだわん』


『えっ! またぁっ?』


 これまでもコタローはウィンキアソウルの様子を随時報告してくれていた。特に変わった様子はなく、大輝は家族と話をしたり、一緒に食事をしたりしていたようだ。家の中は喜びに溢れていて、大輝は満足そうにしていたとのことだ。


 だけど、突然にオレを呼び出すとは……。また何か無理難題を吹っ掛けられるのかもしれない。


 オレは難民キャンプでの仕事を中断して、仲間たちに断りを入れてからダールムの家にワープした。


 ………………


 ウィンキアソウルは大輝の姿のままだった。テラスのテーブルでお茶を飲みながら寛いでいた。テーブルの上ではコタローが寝そべっている。日陰になっていて、心地よさそうだ。コタローはネコの姿を案外気に入っているのかもしれない。


 すぐそばの庭では住み込みで家の管理をしてくれているマリーザや娘のティーナが雑草を取っていて、大輝は何やら楽し気に声を掛けている。警護をしてくれているガリード兵団の者たちも大輝のことは警戒していないようだ。


「やあ、呼び立てて悪かったね」


 オレに気付いた大輝が手を上げた。寝そべっていたコタローも手を上げている。シンクロしているところが可笑しい。大輝のペットになりきってる感じだ。


「ええと、何かご用でしょうか?」


「そんなに警戒しなくてもいいよ。お礼を言いに来ただけだからね」


「お礼……、と言うと?」


 意識して口調を柔らかくしようと思うが、自分でも嫌になるくらい固い口調になってしまう。


 テーブルの椅子に腰を掛けると、ティーナがお茶を入れてくれた。


「大輝の家族と会わせてくれて感謝しているんだ。短い間だったけど、家族でいることの喜びを味わえたよ。でもね、ちょっと後悔している……」


「えっ!? 後悔ですか?」


「うん。大輝の家族を騙してしまったことをね……。心が痛くなってね。それで、ケイ、お礼を言うついでに君と話がしたいと思ったんだ」


「心が痛くなったと言うのは……、あなたが大輝の振りをして家族と会ったから……、ですか?」


「そうだよ。家族のみんなは僕が記憶を取り戻せるように一生懸命に気を遣ってくれたんだ。特に心が痛かったのはね、妹の恵実が母親のことを……、病気で死んでしまった母親のことを思い出させようとしてね……」


 ウィンキアソウルはそのときのことを語ってくれた。オレが帰った後、恵実は大輝を連れて近くの公園に行ったそうだ。その公園は大輝と恵実にとって特別な思い出がある場所だった。10年以上も前のことになるが、母親の葬儀が終わった日の夜に大輝が幼い恵実の手を引いて行った場所がその公園らしい。


 母親が死んだときも葬儀のときも恵実は涙を流さず泣くのを我慢していたと言う。そんな妹を不憫に思って、兄は自分をその公園へ連れていったのだろうと恵実は語ったそうな。


 その場所は七夕の夜に母親と兄妹の三人で星空を眺めた公園だった。母親が亡くなる数か月前のことだ。そのとき母親は七夕の話をしてくれたと言う。織姫と彦星の話だ。そして、こんなことを言ったそうだ。


「もしもね、お母さんがいなくなっても、今夜のようにお星さまを眺めたらね、きっとお母さんが会いにくるから……。だから泣かないでね。姿が見えなくても、いつもお母さんは大輝と恵実のそばにいるよ。もし寂しくなってお母さんに会いたくなったら、お星さまを眺めてね」


 葬儀が終わった夜、兄は母親のその言葉を覚えていたから幼い自分に星空を見せるために公園へ連れてきたのだろうと……。


 恵実はその公園へウィンキアソウルを連れて行って、この場所が自分たち兄妹にとってどういう場所であるかを一生懸命に語ってくれたそうだ。でも、大輝の記憶がよみがえるはずがない。ウィンキソウルはそんな記憶を持っていないのだから。


 首を横に振る大輝を見て、恵実は笑いながらこう言ったらしい。


「あたしも馬鹿よね。こんな昼間にここへ来ても、星空なんて見えるはずがないのにね」


 それでまた晩ご飯を済ませてから、恵実と一緒にその公園へ行ったそうだ。


 でも、雲が多かったり周りのビルや照明の光が眩しくて、星はほとんど見えなかった。


 ところが奇跡が起きた。不思議なことに一斉に周りの光が消えて真っ暗になり、雲も風に流されていったのだそうな。


「あ、停電かしら……」


 恵実は呟きながら夜空を見上げた。


「わぁーっ!」


 恵実の声を聴いて大輝も見上げると、そこに広がるのは……。


 星がいくつか見えていたが、やはり東京の夜空は星が少ない。


 でも、夜空を見上げる恵実は嬉しそうだった。恵実には母親が言っていた星空が見えているようだ。


「それでね、もう一度見上げたんだ。そうしたら、僕にも見えたんだ」


 満天の星。


「亡くなった母親の顔もはっきりと見えたよ」


 そんな不思議なことがあるのだろうか……。


「そのとき気が付いたんだ。僕が見たのは夜空の星じゃなかった。恵実の心の中に広がる星空だったんだ。それで、ふと思ったんだ。もしかすると僕は間違ったことをしてるんじゃないかってね。そんなことがあって、ケイ、君に相談しようと思ったんだよ」


 そう言われたが、オレはあふれ出しそうになる涙を堪えるのに必死だった。


 妹の心の中に広がる満天の星。母親の顔。そして妹と一緒に夜空を見上げる兄。自分にもその光景が目に浮かんでくるような気がした。


「あなたは下手な人間よりもよほど人間らしいですよ」


「そんなことを言われても、嬉しくはないけどね」


 たしかにオレの目の前にいるのはウィンキアソウルだ。人間らしいと言われても嬉しくはないだろう。


「すみません。ちょっとその光景が目に浮かんで来て……、変なことを言ってしまいました。ともかく、あなたが大輝の振りをして家族に会ったことは間違ってなかったと思いますよ。結果としてですけど、あなたは望んでいた家族の温かさや優しさに触れることはできたわけですし、家族たちも大輝が元気で戻って来て安心したわけですから」


「でもね、僕は大輝の家族を騙しているんだよ。今までは上手くいったけど、これからも騙し続けるのは、はっきり言って自信がないし、僕自身が辛いんだ」


「そうですか……。それなら……」


 オレはウィンキアソウルにいくつかのことを提案してみることにした。今までは漠然と考えていたことだが、今は明確な形となってオレの頭の中に浮かんでいる。よし、このアイデアをぶつけてみよう!


「それなら良い方法がありますよ」


 このアイデアなら上手くいくかもしれない。


 ※ 現在のケイの魔力〈1317〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈1317〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈1317〉。


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