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SGS338 こっちの世界で暮らしたいなら

 ユウが言っている「夫婦の関係」というのは、ほら、あれだ。


 高速思考を解除して、大輝に顔を向けた。


「もしあなたと家族になろうとしたら、それはあなたと結婚して夫婦になるってことですよね。でも、それはさっきから言ってるようにお断りします。もっとはっきり言えば、あなたとセックスしたり、あなたの子供を産んだりするような関係にはなれません」


「つまり、夫婦になって肉体関係を持つのは嫌だけど、友だちとして親しい関係になるのは良いと?」


「そ、そうです……」


「なるほど、なるほど。君が言いたいことはよく分かったよ。僕は肉体関係などはどうでもいいんだ。ただ、家族を持ちたかっただけだからね。

 実はね、この家に来る前に自分の家に行ってみたんだ。家族を持つのなら、大輝の家族に会うのが手っ取り早いからね」


 なんと、ウィンキアソウルは大輝の家に行っていたらしい。優羽奈の記憶の中から大輝の家族がどこに住んでいるか探し出したのだろう。


「それで、大輝の家族と会ったんですか?」


「うん……。家の前で若い女性に声を掛けられたんだ。“お兄ちゃん”と呼ばれてね。困ってしまった。相手が誰だか分からないし、何と答えていいのかも分からないからね」


「それで、どうしたんですか?」


「走って逃げた。相手の女性は大輝のことを知ってるみたいだったけどね。でも、僕は相手のことを知らないからね。これでは話ができない。家族にはなれないと思った。で、考えたんだ。家族を持つなら、それは僕のことを知っている者で、僕に気を遣ってくれる者にお願いしようとね。それで、この家を訪ねてきたんだよ」


「わたしと結婚したいと言ったのは、そういう事情があったんですね?」


 大輝は頷いた。ちょっと寂しそうな表情だ。


「僕が逃げ出さなきゃ良かったのかもしれないけどね」


 高速思考でユウとコタローに確認することにした。


『大輝の家族って、たしか……』


『ええ。大輝の今のお母さんは後妻なの。本当のお母さんは大輝が中学生だったころに病気で亡くなったって聞いてる。妹と弟がいて、妹の方は血が繋がっているけど、弟は今のお母さんが連れてきた子供よ。もしかすると家の前で大輝に声を掛けたのはその妹さんかもしれないわね』


『ええとたしか……、わたしが初めて日本に帰ってきたときにミサキの姿で大輝の家を訪ねてくれたのはコタローだったよね?』


『そうだわん。あのとき大輝の母親と話をしたけどにゃ、すごく好い人だったぞう。中学生くらいの息子がいてにゃ、訪ねたときもちゃんと挨拶してくれたわん。母親も弟も大輝の帰りを心から待ってるみたいだったぞう』


 言われて、オレも思い出した。あのときコタローからその報告を聞いて、そのままダイルに伝えたのだった。


『ええと、あのときコタローは妹とは会ってなかったよね?』


『オイラが大輝の家を訪ねたときは妹はいなかったからにゃ。でも、妹もずっと兄の帰りを待ってるって母親は言ってたわん』


『だから、ケイ。大輝の家族はみんな心の底から大輝の帰りを待ってるのよ。異世界で記憶を無くしたってことにして、大輝を家に戻せばどうかしら? きっと喜んでくれるはずよ。そうしたらウィンキアソウルも家族の優しさを感じることができると思うけど。大魔王のようなやつでも少しは心優しくなるはずよ』


『でも、中身はウィンキアソウルだからねぇ……。そんなことをしたらダイルの家族を騙すことになるよね。それに、もし騙されたと家族が知ったら、どれほど悲しむことになるか……。家族の思いを踏みにじるようなことは止めようよ』


『だけどにゃ、ケイ。こっちの世界で目の届かないところにウィンキアソウルを放り出すのは危険だぞう。大輝の家にゃら、居場所がはっきりしてるからにゃ。何かあっても支援できるわん』


『そうよ。ちょっと悔しいけど、私もコタローと同じ意見よ。もし家族が大輝のことを不審に思い始めたとしても、ケイがいれば大丈夫よね。家族に悲しい思いはさせないようにできるはずよ』


『まぁ、暗示魔法があればどうにかできるからね』


『ええ。でも、ダイルに事情を話して了解を得た方が良いわね。私が念話でダイルに事情を説明して了解を得ておくから、ケイ、あなたはウィンキアソウルと話をしていて』


『分かった。じゃあ、そうする』


 高速思考を解除して、大輝に話しかけた。


「家の前であった若い女性はたぶん大輝の妹さんだと思います。妹さんはあなたのことを行方不明になっている兄だと気付いたんでしょうね。でも顔を見て突然に逃げ出したから、きっと今ごろは心配してると思いますよ」


「そうか……。どうしたらいいと思う?」


「家族にちゃんと会って、話をするべきだと思います」


「でも僕は大輝のことを何も知らないんだ。会って話をしたら、きっと僕のことを変だと思うよ」


「そうでしょうね。それならこうしませんか……」


 異世界で記憶喪失になったというきたりな作り話だが、オレが大輝と一緒に家まで行って家族に説明すると言うと、ウィンキアソウルは承諾してくれた。


「分かった。君が一緒に家まで行って家族に説明してくれるなら助かるよ」


「それは任せてください」


 ウィンキアソウルに説明を任せたら何が起こるか分からないからな。


「ただし、あなたに知っておいてほしいことがあります。あなたが日本で家族と会いたいと思うのなら、それと少しでもこっちの世界で人間の姿で暮らしたいと思うのなら、あなたが必ず知っておかなきゃいけないことです」


 オレが説明しようとしているのは、さっきコタローがウィンキアソウルに教え込めと言っていたことだ。


 ウィンキアソウルはオレのソウルや頭の中にある記憶を全部読み取って知っているみたいだから、コタローがさっき言ってたようなことをイチから教え込む必要は無いはずだ。


 人間には良いところもあるし悪いところもあるとか、法律やルールがあるとか、そんなことは言われなくてもオレは知っている。他人のちょっとした悪いところや自分とは違う考えに寛容であるべきということも言われてみたらナルホドとすぐに理解できる。オレが持っている良心というか善悪の判断基準などは自分自身のことだから当然知っている。

 

 コタローがウィンキアソウルに教え込めと言ってたのはそんなことだ。オレはそれに納得したが、コタローがそんなアドバイスをできるのも、オレが持っている記憶や知識をすべて読み取って分析しているからだろう。そうであればウィンキアソウルも同じかもしれない。ウィンキアソウルもオレの記憶や知識を全部持っている。だから教え込むのではなく、真摯しんしに向き合って話し合えば、ウィンキアソウルに分かってもらえるんじゃないだろうか。


「僕が必ず知っておかなきゃいけないこと?」


「ええ、そうです。人間の社会の中で少しの間でも暮らそうとするのなら、もっと人間のことを知らなきゃいけません。人間はあなたが映画やドラマで見てきたような優しいところや良いところをたくさん持っています。でも、そうでないところも持っているんです。それを知っておかないと、あなたも周りの人間も不幸になるかもしれません。今からそのことを話しますね」


 こうして夜は更けていった。そして次の朝……。


 ※ 現在のケイの魔力〈1317〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈1317〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈1317〉。


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