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SGS336 大魔王様との夫婦問答

 訳が分からない。大輝の唇がオレの唇に軽く触れただけだ。そんな軽いキスだけで、大輝はオレと夫婦になったと言う。おまけに子供まで生まれると言うからオレは頭が混乱した。


 ホントに妊娠してたらどうしよう……。そう思うと心臓がドキドキしてきた。


『ケイ、大丈夫?』


 念話からユウが心配している気持ちが伝わってくる。高速思考だ。


『キスされただけ……。でも、子供が生まれるって……。もしかすると、できたかも……』


『あり得ないわよっ! だけど、相手は万能のウィンキアソウルだからね。何か特殊な魔法を使ったのかも……』


『それは無いと思うぞう。子供が生まれるって聞いたからにゃ、すぐにケイの体を検診したんだわん。だけどにゃ、妊娠してないことは確かだぞう。体の異常も無かったしにゃ』


『じゃあ、どういうこと?』


『オイラにも分からないわん。ウィンキアソウルに直接尋ねるしかないにゃ』


 コタローの言うとおりだ。尋ねてみるしかない。


 高速思考を解除すると、自分の心臓がまだドキドキしているのが分かる。


「夫婦になったとか、子供が生まれるとか、意味が分からないんですけど、どういうこと?」


 問い掛けに大輝はキョトンとした顔をした。


「僕と君はキスをしただろう? それは僕たちが夫婦になったということだし、子供が生まれるってことを意味するんだ。こちらの世界ではそうなのだろう? そんなことはケイ、君も知ってるはずだよ?」


 それを聞いてオレはひっくり返りそうになった。何か大きな誤解があるようだ。


「ええと、キスしたことと夫婦になることは全然違うし、キスでは子供なんかできないですよ。思い違いをしてませんか?」


「そんなはずはないよ。君から貰った映画やドラマは全部見たけどね」


 さっそくユウが高速思考で割り込んできた。


『ケイ、分かったわよ。ほら、ウィンキアソウルに渡した映画やドラマって、なんて言うか……、エッチなシーンが無いものばかりだったからよ』


『それでキスだけで子供が生まれると思ったわけ?』


 言われてみたら、たしかにウィンキアソウルに渡した映画やドラマは健全なものばかりだ。もちろんR15やR18の指定は付いていない。


「あのね、キスは夫婦じゃなくてもするし、キスでは子供は生まれません!」


「本当かい? じゃあ、どうやったら子供ができるんだ?」


 この質問には困ってしまった。口で説明するのも嫌だし、ネットで変な動画サイトを見せて下手に刺激を与えるのもマズイ。


『ケイの記憶を持ってるはずだわん』


 コタローがタイミング良くアドバイスをくれた。うん、その手があった。


「ええと、わたしの記憶をコピーして持っているんですよね? それなら、その記憶をもっとよく分析してみたら、あなたが言ってることが間違いだって分かるはずですよ」


「君の記憶? ちょっと待って……」


 その後、少しの間、大輝は黙り込んだ。コピーしておいたオレの記憶を分析しているのだろう。


「なぁんだ、僕の世界の魔族や人族と同じなのだね。僕の早とちりだったみたいだ。キスではダメで、やっぱりセックスなのか……」


 なんか、また変なことを言い始めた。ここでちゃんと説明しておかないと、また体を重ねようとしてくるかもしれない。そうなったら大変だ。


「言っておきますけど、さっきみたいに無理やりキスしようとしたり、その……、強引にセックスしようとしたりしたら、相手の女性に絶対に嫌われますよ」


「そうなのか? 最初は嫌がっていても、最後は気持ち良くなって相手を受け入れるという知識があるが、これは間違いか?」


「うっ!?」


『ケイっ! どういうことなの?』


 ユウから高速思考での割り込みだ。念話に殺気が籠っている。


 ここは正直に白状するしかない。


『ええと、たぶん、昔見たエロ動画かエロ小説の記憶だと思うけど……』


『男ってこれだからダメなのよ!』


 とにかく急いでウィンキアソウルの誤解を解かないとマズイ。エロ動画やエロ小説と同じことをされるのは絶対に嫌だ。


「それはですね……」


 しどろもどろで何とか説明を終えた。


「ですから、夫婦になるっていうのはキスをしたとかセックスをしたとかじゃないんですよ。お互いの心が惹かれ合って……、つまりお互いの気持ちが大切なんです」


「お互いの気持ち?」


「そうです。結婚して夫婦になるにはね、お互いに相手のことを心から愛していなきゃいけないんです。家族になって支え合いながら一緒に生きていきたいって、苦しいことも楽しいことも死ぬまでずっと分かち合いたいって、そう思うのが夫婦なんですよ。お互いにそういう気持ちを持ってないとダメなんです。だから……」


「だから?」


 聞き返してくるたびに、その口調からウィンキアソウルの気持ちが沈んでいくのが分かる。だけど、ここはちゃんと言うしかない。


「だから、わたしとあなたが結婚するのはムリです。それにね……」


「それに?」


「あなたも知ってるはずですけど、わたしはこの体を優羽奈と共有していて、優羽奈はダイルと結婚してますから。ですから、わたしはあなたとは結婚できません」


 少しだけ沈黙が続いた。大輝は目を伏せて何か考え込んでいたが、また顔を上げた。


「だけどね、ケイ。ケイの気持ちは僕とこれからもっと親しくなれば変わってくるかもしれないよ。それにケイと優羽奈は別々のソウルだ。僕は優羽奈のソウルや優羽奈の体と結婚したいんじゃないよ。ケイのソウルと結婚したいんだ」


「そんなことを言われても……。仮にこの先あなたともっと親しくなったとしても、ソウルと体は一体ですから。ソウルとだけ結婚するなんて無理ですよ」


「じゃあ、その体からケイのソウルを分けて、別の体に移してしまえば問題は解決するということだね?」


 それを聞いてぞっとした。ウィンキアソウルならやりかねない。


「そんな無茶なことはわたしが拒否するって分かってますよね? 以前にわたしを捕らえたときに、わたしの記憶を全部読み取ってコピーしてるんでしょ? それならその記憶を分析したらわたしが何を望んでいるのか、何が嫌なのかも分かるはずですよね?」


「ああ、分かるよ」


「わたしが望んでるのは、これからもこの体を優羽奈と共有し続けたいってことです。わたしのソウルを無理やりこの体から切り離して別の体に移すなんて、絶対に嫌です」


「なるほど、なるほど……。君はその体を気に入っていて、これから先もずっと優羽奈と体の共有を続けたいんだね。その理由は……、ソウルゲートから得られる特別な能力を失いたくないから、それと仲間たちとの関係を壊したくないから、か……」


 ウィンキアソウルは会話をしながらオレの記憶を分析し始めたようだ。


「なになに……。もし結婚するなら相手はダイルが良いって……。ああ、それで僕と結婚するのは嫌だと言うんだね?」


 ウィンキアソウルは余計なことまでオレの記憶から読み取って分析し始めたようだ。それを聞いてオレは自分でも顔が赤くなるのが分かった。


『ケイったら。やっぱりダイルのことを慕っていたのね?』


 さっそくユウが反応してきた。もちろん高速思考だ。


『違うって。ユウが何度もそう言ってたから記憶に残っていただけだよ』


『この件はまた時間があるときにゆっくり話し合いましょ』


『いや、いいから……』


 高速思考を解除すると、大輝が言葉を続けていた。


「僕はこうして大輝の姿で君の前にいるんだ。豹族のダイルなどよりも人間の大輝の方が君に相応しいと思うよ。君は優羽奈と体を共有しているから、優羽奈に遠慮しているのかもしれないね?」


「いや、それはちが……」


 拒否しようとしたオレの言葉を遮って、大輝は話し続けた。


「優羽奈だって、こっちの大輝の方がずっと好きなはずだ。何と言っても優羽奈の初めての男はこの大輝なのだからね。君のソウルだけでなく脳にある記憶もすべて探ったけどね、大輝の体の隅々まで記憶していたよ。優羽奈はこの大輝の体をよほど気に入っていたみたいだね」


 その言葉にユウが黙っているはずがない。


『何を分かってるようなことを言ってるのよっ! 私が好きなのは大輝のソウルだからねっ! あんたみたいな大魔王じゃないのよっ!』


 言っちまった、大魔王! ユウは普通の念話で目の前の相手に感情をぶつけている。怒りのあまり相手がウィンキアソウルだということを忘れてるようだ。


『おおっ! 君が優羽奈だね? ダイルと別れて、僕と結婚しないか? ケイと体を共有したままでかまわないから、僕と結婚しよう!』


 大魔王と言われたことは気にも留めていないみたいだ。さっきまでは少し気落ちしていたような感じだったが、今はすっかり盛り返している。それに優羽奈やオレに何と思われようが、自分の主張を貫き通している。さすがウィンキアソウルだ。なんとなく感心してしまった。


『馬鹿なことを言わないでっ! 絶対に嫌よ。あんたなんかとは絶対に結婚しません!』


『そんなことを言っていいのかい? ケイは結婚はお互いの気持ちが大切だとか言ってるけど、結婚には本人たちの気持ちを無視して実利を得るために夫婦になるというのもあるそうだね。君たちの記憶を調べて分かったことだけどね』


『気持ちを無視して、実利を得るために夫婦になる? なによ、それって?』


『政略結婚と言えば分かるかな?』


『えっ、政略結婚? お市の方が浅井長政に嫁いだとか、政略結婚ってそういうやつですよね?』


『ケイ、そんな昔のことじゃなくって、政略結婚は今だってあるみたいよ。どこかの会社の部長が出世のために自分の娘を社長のボンクラ息子と無理やり結婚させるとかね。その娘には結婚を誓い合った幼馴染の恋人がいて、娘は泣きながらその恋人と引き離されて、ボンクラ息子と結婚することになるのよ』


 ユウ、それはどこの三文小説だ?


『……。とにかく、君たちは僕と政略結婚をするんだ。ケイと優羽奈が僕と結婚してくれるなら、君たちには人族たちの支配者となることを認めよう。人族たちがウィンキアで暮らすことも認めよう。人族が今住んでいる場所を正式な領地として君たちに与える。魔族たちには人族を襲うことを禁じるから人族たちも安心してウィンキアで暮らせるようになる。君たちには魅力的な話だと思うけどね。どうだ?』


 本気なのだろうか……。どう言われてもオレは受け入れる気は無いが……。


 ※ 現在のケイの魔力〈1317〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈1317〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈1317〉。


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