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SGS335 必要なのは寛容の心と良心と仲間

 オレが大輝ウィンキアソウルの孤独な境遇に同情していると、ユウが高速思考で話しかけてきた。


『ねぇ、ケイ。渡した映画やドラマが、ウィンキアソウルには刺激が強すぎたのかもしれないわね? なるべく刺激的じゃないものを選んだはずなのにね』


『渡した映画やドラマは恋愛物とかヒューマンドラマに絞ったんだけどなぁ。ウィンキアソウルが人間に対して敵意を持たないようにって考えて……』


『あっ、きっとそれよ。それが原因でウィンキアソウルは家族愛とか友情を求めるようになったのよ』


『そうかもしれないけど……。と言うことは、もしウィンキアソウルに渡した映画が戦争やホラーだったなら、とんでもないことになっていたかもしれないね』


『でも、ウィンキアソウルは意外に良識的なところがあるみたいだから、酷いことにはならないと思うわよ』


『ユウ、それは楽観的過ぎるぞう。ウィンキアソウルは想像を絶するほどの魔力や知力を持っている超越的な存在だけどにゃ、人間のことを知らなさすぎだわん。今は映画やドラマで人間の良いところだけを見てるから大人しくしているけどにゃ、人間の悪いところを知ったら何をするか想像もできないぞう』


『ええと、それは言ってみれば、小さな子供が水爆の起爆スイッチを持っているようなものってことかな? 今は好きな映画を見てご機嫌だけど、癇癪かんしゃくを起したらすぐに水爆のスイッチを押してしまうかもしれないって。そういうこと?』


『まぁにゃ。ケイの例えは良くにゃいけど、そういうことだわん。だけどにゃ、ウィンキアソウルは小さな子供ではないわん。ちゃんと教えたら理解は早いはずだぞう』


『ちゃんと教えるって!? いったい誰が教えるんだよ?』


『それはケイが教えるしかないわん』


『わたしが? イヤだっ! 絶対に嫌だ!』


『でも、ウィンキアソウルに地球の人間のことを教えられるのはケイしかいないわよ?』


『それは……、そうかもしれないけど……。もうちょっと考えさせて……』


『ケイ、そんな時間は無いぞう。何も教えないままウィンキアソウルが地球の人間に接触を始めたらにゃ、無防備に人間の悪いところや汚いところを知ることになるわん。そうしたらにゃ、人間に対して極端に憎悪したり敵意を持ったりする可能性が高いぞう。ケイが言ったように癇癪を起こして人間を滅ぼそうとするかもしれないにゃ』


『そんなぁ……。時間がないことは分かったけど……。ウィンキアソウルに人間のことを教えるって、いったい何を教えるんだよ?』


『人間には良いところもたくさんあるけどにゃ、それと同じくらい悪いところもたくさんあるってことを教えれば良いわん。人間は理性があるから自分自身の悪いところに気が付いたら直したり抑えようとしたりするにゃ。他人の悪いところや自分と違う考えに対しては寛容であろうとするけどにゃ、度を越したら罰したり排除しようとするわん。ウィンキアソウルには寛容であることを教えるべきだにゃ』


『寛容であることって? コタロー、それはどういう意味なの?』


『ユウはちょっと勉強が足りなかったみたいだにゃ。寛容というのはにゃ、他人の悪いところや自分と違う考えを厳しく責めないで許すってことだわん』


『たしかにね。ウィンキアソウルには寛容の心で人間たちと接してほしいよね。そうでないと悪いヤツをすぐに魔法で殺すとか、戦争を仕掛けそうな国を丸ごと滅ぼすとかしかねないものなぁ』


『人間には理性があるからにゃ、自分たちが悪いことをしたり他人と争そったりする存在であることを知っているわん。だからにゃ、そんな自分たちを縛るための手段を用意してるんだぞう』


『自分たちを縛る手段? 何なの?』


『法律やルールだわん。悪事を防いだり紛争を解決するためににゃ、法律やルールを人間たちは作っているのだぞう。ウィンキアソウルにはそういうことも教える必要があるにゃ』


『そうよね。この地球に来るなら、色々な法律やルールがあって、それに従うことを教えないとね』


『でも、ユウ。ウィンキアソウルはそんな法律やルールなんかには縛られない存在だよ。わたしたちだって同じだけど、日本の法律に反してることをやってるよね。こっそりと運転免許証を作ったり住民登録をしたり……』


『それは……、そうよね……』


『だけどにゃ、ケイ。ウィンキアソウルが今のような人の姿で人間たちの中に入るとしたらにゃ、色々な法律やルールがあることは知っておかないといけないぞう。その法律やルールに明らかに反する行為をしたら人間たちはウィンキアソウルを捕らえて罰しようとするからにゃ。人間たちはウィンキアソウルと戦うことになるわん。絶対にそれは避けないといけないぞう。戦ったら間違いなく人間たちが負けるからにゃ。最悪の場合は人類が滅亡するぞう』


 コタローが言ってることは理解できるけど……。


『そんなことを言ったって……。じゃあ、わたしはいったいどうしたら……』


『ケイに聞くけどにゃ。ケイはこの日本に戻ってきたときににゃ、法律をいくつか破ってるにゃ。でもケイは平然と日本で滞在しているわん。どうしてにゃんだ?』


『それが今話していることと何か関係するの?』


『関係するから尋ねてるのだわん』


『法律違反をしていても平然とわたしが日本で滞在してる理由ねぇ……。それは……、誰にも分からないように密かに……。って、運転免許証の発行や住民登録をこっそりとやったのはコタローだよねっ!』


『でもにゃ、それを許したのはケイだぞう。ケイは誰にも法律違反を知られていないから平然と日本で滞在してるってことだにゃ?』


『なんだかすごく責められてる気がしてきたけど……。わたしが日本に帰って来ても落ち着いていられるのは、わたしの存在や法律違反のことを誰にも知られていないってことが一番の理由だよね。でも、それだけじゃないよ。また思い上がっていると言われるかもしれないけど、自分を束縛するのは日本の法律ではないと考えてるし、日本だけじゃなくてどの国の法律でもわたしを束縛することはできないと思ってるからなんだ。それだけの能力を持っているからね』


『それにゃら、ケイを束縛してるのは何にゃんだ?』


『それは前から考えてたことだからはっきり言えるよ。わたしを束縛してるのは自分の良心と仲間たちの助言だけだと思ってる。自分が人間の能力を遥かに超えた力を持っていると分かってからはそう考えるようになったんだけどね』


『そうだにゃ。ケイは人間の能力を遥かに超える力を持っているにゃ。その能力を使ってケイが無茶なことをしないように束縛しているのが自分の良心と仲間たちの助言だとすればにゃ、ウィンキアソウルにも同じことが言えるわん』


『え? どういうこと?』


『ウィンキアソウルは人類を一瞬で滅ぼせるほどの能力を持っているわん。その能力を使ってウィンキアソウルが無茶なことをしないように束縛するのはにゃ、ウィンキアソウルの良心と仲間ってことだわん』


 そのとき『分かったわ!』と念話で大声を上げたのはユウだ。


『コタローはウィンキアソウルに良心を教え込めと言ってるのね? それと、ウィンキアソウルが間違いをしそうになったら、それが間違いだと助言できるような、そんな仲間を持たせるべきだって。そういうことよね?』


『そうだわん。ケイと同じような良心や仲間をウィンキアソウルが持つようになったらにゃ、ケイたちも安心できるはずだわん』


『わたしと同じような良心や仲間を持つって? 意味が分からないけど……』


『つまりにゃ、善悪の判断基準をケイと似通ったものにするってことだわん。そういう善悪の判断基準をケイがウィンキアソウルに教え込めば良いと思うぞう。そうすればウィンキアソウルがむやみに法律を破ったり人間を傷付けたりしないだろうからにゃあ』


『そうよ! 私もコタローの言うとおりだと思う。ウィンキアソウルの良心を磨いてあげて、私たちの考え方に近付けるのよ。法律や社会のルールなんかもちゃんと教えてね。それと、ケイに対して私やコタローがいつも助言しているように、ウィンキアソウルが地球にいるときはしっかりとした助言者がいつもそばに付いていた方がいいと思うの。つまりケイが……』


『ユウ、ムチャを言わないでほしいな。ウィンキアソウルの良心を磨けとか、いつもそばに付いて助言しろとか。それをわたしに期待されてもムリだから』


『オイラもユウの意見に賛成だぞう。ウィンキアソウルに必要なのは寛容の心と良心と仲間にゃのだわん。それができるのはケイしかいないわん。ウィンキアソウルに教え込む期間はそれほど長くは掛からないと思うぞう。ウィンキアソウルはケイと家族になりたがっているからにゃ。家族になってみるのも手かもしれないにゃあ』


『コタロー、それ、本気で言ってる? 家族になるってことは結婚するってことだよね?』


『コタロー、それは絶対にダメよっ! この体はケイの体でもあるけど、私の体でもあるんだからねっ! 私はダイルと結婚してるのよ。絶対にダイル以外の人にこの体を許したりしないんだからねっ! もしケイが結婚するなら、その相手はダイルだけよ。それ以外の相手は絶対にダメっ!』


『オイラは選択肢の一つを言っただけだわん。そんなに怒らなくてもいいと思うけどにゃ』


『ケイ、とにかくウィンキアソウルからの結婚の申し込みにははっきりと断るのよ。孤独だったって話に同情してウィンキアソウルに曖昧な返事をするのが一番いけないことよ。分かってるわよね?』


『うん。分かった』


『それとにゃ、ケイ。ウィンキアソウルへ教え込むのは今からすぐに始めなきゃダメだぞう。今を逃したら最悪の事態が起こるかもしれないからにゃ』


『人類が滅ぼされるって言うんだろ。それも分かったから』


 高速思考を解除してオレは大輝の目を見つめた。結婚の件をすぐに断らなきゃ。


「結婚して家族を持ちたいということは分かりました。でも、わたしはその気持ちに応えることはできま……」


 そのとき突然、ベッドに押し倒された。


「きゃっ!」


 本能的に悲鳴が漏れる。大輝が伸し掛かってきた。


 抵抗しようとしたが身動きできない。魔力を全開にしても無理だ。


 自分の両腕も押さえ込まれている。大輝の顔が近い。思わず目を閉じた。


 唇に何かが触れた。大輝の唇だと分かった。とっさに顔を横に向けた。でも、唇に軽くキスされてしまった。


 不意に体を押さえている力が解かれた。


 目を開くと大輝が体を起こしたところだった。


「ケイ、これで僕と君は夫婦になった。きっと可愛い子供が生まれるよ」


「ええぇーーーっ!!」


 なんだってぇぇぇぇーーっ!


 ※ 現在のケイの魔力〈1317〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈1317〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈1317〉。


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