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SGS331 問題の解決に四苦八苦その1

 話し合いは続き、結局、戦場地区には難民キャンプを3カ所設けることになった。一つは普通の難民キャンプ、二つ目は弱い者を収容するキャンプ、そして三つ目は怪しい者を収容して取り調べるためのキャンプだ。キャンプと言うよりも収容所と言った方が良いだろう。


 難民の中には盗賊や犯罪者が紛れ込むかもしれない。それにバーサット帝国の工作員も潜入している可能性が高い。それで収容施設を分けて、難民を扇動しそうな者や怪しい者を収監して取り調べることにしたのだ。


 難民キャンプの仮設住宅は設計を変更した。2階建てということに変わりはないが、寝室を広くして4モラ四方を5部屋とした。トイレの数も2個にして、最大三十人を入居させる。1部屋に1家族ずつ入るという想定だ。独身者には相部屋として使ってもらう。窮屈だろうが我慢してもらうしかない。


 仮説住宅の数も増やし、一般用キャンプと弱者用キャンプで合わせて3000戸を用意することとした。収容所の方は全室がトイレ付き鉄格子付きのちょっと贅沢な仮設住宅だ。


 オレは設計変更後のオリジナルの仮設住宅を作った後は、難民キャンプの建設を神族やその使徒たちに任せることにした。オレにはすぐにやらねばならないことがあったからだ。それは魔乱の村へワープして食料などの調達を頼むことだ。


 ………………


 魔乱の村にワープすると、居合わせた城多郎じょうたろうにすぐに用件を話した。だが、オレの要求に応えられるかどうかは藍花あいかに尋ねないと分からないと城多郎は言う。


 藍花は魔乱の一員であり、オレが任命して半月ほど前に副頭領になった。しかしそれは裏の顔だ。表の顔は誰もが知っている大企業のオーナーである。この企業は魔乱の資金源であり、藍花が前頭領の信志郎しんしろうから命じられて経営トップとなっているそうだ。


 城多郎が言うにはこの企業の子会社に商社があって、小麦を調達するとすればその商社を使うことになるようだ。


 あいにく藍花は外出中だったが、城多郎が藍花に電話で連絡してくれた。電話を代わってオレが藍花に事情や用件を話すと、藍花がその商社の関係者に確認してくれることになった。1時間ほど待っていると城多郎のスマホに藍花から電話が入った。


「ケイ様、小麦は生産国から調達しますが、3万トンもの現物を20日以内に用意して、しかもその取引きを公にしないとなると、相手は限られてきます」


 取引きを公にしたくないのは、こちらの身元を明かせないなど様々な理由があるからだ。藍花の話は続いている。


「取引き金額もかなりの割高になります。裏取引きになりますから商社は通せません。ですから我ら魔乱が調達を行いますが、さすがにその期間内で日本へ輸送するのは不可能です。現地の倉庫で現物を受け取ることになりますが、よろしいでしょうか?」


「かまわないよ。相手への支払は金の地金じがねで行うし、必要な経費も同じく金の地金で支払うから。見込み額を教えてくれれば事前に城多郎へ金の地金を渡しておくし、不足するなら追加で支払うけど、それでいいよね?」


 金の地金にする理由はクドル3国側で必要な金を地金に加工して用意してくれることになっているからだ。


「分かりました」


「それと現地へは城多郎に行ってもらう。わたしかミサキが城多郎のところへワープして、小麦を受け取って異空間倉庫に収納するからね」


 すでに城多郎からはその了解を得ていた。城多郎はオレの使徒になっているからいつでもどこにいても念話で連絡ができるし、城多郎のいる場所ならどこへでもワープで瞬間移動できる。


「それも承りました。それと、缶詰や乾麺、粉ミルク、毛布、衣類なども必要な量を割り出して調達しておきます。それも支払いは金の地金ですね?」


「うん。助かるよ」


 細かい段取りなどは後で城多郎から念話で連絡してもらうことにして、オレは東京の自分の家にワープした。少し休憩するつもりだ。


 ………………


 少し眠ってベッドから体を起こすと、カーテンを開いた窓越しに茜色の夕焼け雲が見えた。2時間ほど眠ったろうか。目覚めの気分もすっきりしている。


『よく眠ってたみたいね?』


 ユウが話しかけてきた。


『うん。少し気持ちが楽になったからね。差し当たって必要な食料や生活物資の目途が付いたからホッとしたよ』


『城多郎さんや藍花さんのおかげよね』


『そうだね。こっちの世界で魔乱の一族が味方になってくれたから心強いよ』


『安心するのはまだ早いわん!』


 横からコタローが割り込んできた。


『調達の目途が付いたのは来年の小麦が収穫できるまでの不足分だぞう。その先の不足分はどうするつもりにゃのだ?』


 せっかく気分良く目覚めたのに、またどよんとした気持ちになってきた。


『コタローっ! ケイの気持ちも考えなさいよっ! 少しホッとしたところなのに、また気持ちが沈んじゃうよ。その先の不足分なんて、もっと後で考えたらいいでしょ!』


『でもにゃ、今のままなら来年以降も明らかに小麦が不足するのは分かってることだからにゃ。対策を何も考えないまま問題を先送りすべきじゃないわん』


 今はまだぼーっとしていたい気分だが、コタローが言ってることが正しいのだろう。少し眠ってすっきりしたところだし、対策を考えるとしたら今だ。


『よしっ! 今から対策を考えてみよっか。ユウもいい?』


 オレはベッドから起き上がって電気ケトルに水を入れた。お湯を沸かしてコーヒーを飲むつもりだ。


『ケイがそう言うなら協力するけど……』


『問題は人口に対して主食となる小麦が不足していることだよね。肉なんかの食材や生活物資の原材料は原野で調達できるから、小麦の不足分をどうやって補うかを考えようか』


『小麦が不足するのは畑の土地が足りないのが原因よね?』


『ユウ、原因はそれだけじゃないわん。小麦の収穫量に対して人族の数が多すぎるってことも言えるぞう。今の小麦栽培の生産性が低いってことも考えられるにゃ。小麦は連作障害が起こるからその対策ができてないのかもしれないにゃ。それとにゃ、主食を小麦に限る必要はないと思うわん。主食は米やトウモロコシ、イモでも代用できるからにゃ』


 さすがはコタローだ。良いアドバイスをしてくれる。


『対策って、例えば連作障害を防ぐために輪作りんさくを導入するとか、生産性や品質の高い品種を地球から持ってきて栽培するとか、土や肥料を改良するとか、小麦栽培の機械化を進めるとか……、そんなこと?』


『色々考えられるけどにゃ。クドル湖周辺での小麦の栽培方法を分析してみないと何とも言えないわん。誰か適当な人材を選んで必要な知識を植え付けて研究させたらどうかにゃ?』


『じゃあ、そうしよう。研究を進めるために農業試験場のような組織を作れば良いよね。人材選びと組織の立ち上げはガリードに頼んでおくよ。有望な案ではあるけど、研究や試験が必要だろうから時間は掛かるだろうね』


『ケイ、時間が掛かっても、間違いなくウィンキアに必要なことよ。農業試験場の立ち上げは絶対にやるべきよ。それと、主食を米やイモで代用する件も、同じように農業試験場で研究してもらったらどうかしら。ジャガイモはウィンキアのどこの街でも主食として食べてるみたいだけど』


 たしかにユウの言うとおりだ。オレもウィンキアでは主食としてパンやジャガイモを食べている。だが美味いと思ったことはあまりない。


『そう言えば、小麦で作ったパンも茹でたジャガイモも味や食感はイマイチだったな。小麦やイモの品質改良も必要だし、調理の工夫もした方が良いよねぇ。その研究もしてもらおう』


『穀物だけじゃなくて野菜や家畜の研究もしてもらったら良いわよ。美味しい野菜サラダやお肉が食べられるようになるもの』


 ユウは野菜も肉も大好きなのだ。オレは男だったときは肉は好きだったが、野菜はちょっと苦手だった。でも、ユウの体になってからはオレも野菜を好んで食べるようになっていた。


『ケイ、農業試験場の立ち上げとそこでの研究は進めてもらうとしてだにゃ、時間が掛かるのはたしかだわん。別の対策が必要だぞう』


『さっきコタローが小麦の収穫量に対して人族の数が多すぎるって言ってたけど、そのこと? 人族の数を減らせと言ってる?』


『でも、ケイ。人族を減らすって言うのはムチャよ。難民をクドル3国以外の場所に移動させられれば数は減らせるけど、そんな場所は無いもの』


『うん。クドル3国の周辺で難民たちが入植できそうな土地は戦場地区だけなんだよね。でも、戦場地区を再開拓したとしても、それだけでは土地が足りないって聞いたけど。コタロー、そうだよね?』


『戦場地区を難民たちが再開拓して小麦を栽培したとしてもにゃ、あの場所で養える難民は三万人ほどだわん。もともとクドル3国の住人だけでも小麦が不足していたからにゃ。だからにゃ、残りの四万人をどこかへ移住させなきゃいけないわん。それか、四万人分の小麦をどこからか輸入して……』


 コタローが話してる途中だったが、ユウが苛立ったように遮った。


『輸入? そんなこと言っても、コタロー。いったいどこの国から輸入するのよ? ウィンキア中で小麦が余っている国なんて聞いたことがないわよ』


『たしかに小麦をウィンキアの人族や亜人の国から輸入するのは難しいにゃ。だから輸入するにゃら、ほかのところから輸入することになるわん』


『ほかからって言うと……、やっぱり地球から輸入するってことでしょ?』


『地球から輸入するにゃら、魔乱の藍花が言ってたみたいに裏取引きになるぞう。長くは続けられないにゃ』


『それならどうするのよ?』


『取引きできそうな相手を考えたら良いわん。ケイは何か考え付かにゃいか?』


『ええと、そうだなぁ……』


 熱いコーヒーを飲みながら考えた。いつものインスタントコーヒーだが、なんだか苦い。コーヒーの分量を間違えたのか? いや、これは問題の解決に四苦八苦しているせいで、コーヒーまでもがほろ苦く感じるのかもしれない。


 ※ 現在のケイの魔力〈1317〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈1317〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈1317〉。


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