表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
329/383

SGS329 どういう立場になるつもり?

 レング神とニコル神が慌ただしく命令を出している。その様子を眺めていると、ユウが高速思考で話しかけてきた。


『冷酷な命令よね。一万人用の難民キャンプに七万人も押し込めるなんて』


『レング神は国を統治する立場の最高責任者だし、今は国の存亡が懸かっているからね。冷酷にならないと自分の国を守れないのだと思う』


『ケイ、他人事ひとごとのように言ってるけど、クドル3国共同体が実現したら、あなたも最高責任者の立場になるのよ。分かってる?』


 ユウに言われなくても分かっていた。この数日間はそのことをずっと悩んでいたからだ。そしてオレなりの結論を出していた。


『ユウ、わたしはね、クドル3国の共同体が実現できたとしても、自分がそれを支配したり統治したりする立場にはならないよ。そんな立場になることを自分は望んでいないし、自分の性にも合わないから』


『じゃあ、どうするの?』


『クドル3国のそれぞれの国は今までどおりレング神やニコル神が支配して統治すれば良いし、クドル3国共同体はレング神やニコル神たちの合議制にすれば良いと思う。つまり、共同体のことは各国の代表者が話し合って決めれば良いと思うんだ』


『合議制にするのは良いと思うけど、ケイはそのトップにならないの?』


『うん。トップになるつもりはない』


『それなら共同体でケイ自身はどういう立場になるつもりなの?』


『わたしはその相談役か顧問みたいな感じかなぁ。クドル3国のそれぞれの国と共同体に対して必要があれば指導したり助言したりするけど、何の束縛も受けないし責任も取らない立場でいたい。面倒なことは嫌だからね』


『面倒なことは嫌だっていうケイの気持ちは分かるけど……。でも、そんな身勝手なことが許されるかしら……』


『許すも許さないも、今のわたしを束縛できるのは自分自身だけだからね。自分が望まないことはやらないし、自分がやりたいことをするだけだよ』


 言ってしまってからちょっと後悔した。自分でも傲慢ごうまんな言葉だと思ったからだ。でも実際に今のオレを束縛できるとしたらアドミンかウィンキアソウルくらいだろう。それ以外で怖いのはソウルゲートのマスターやバーサット帝国の皇帝くらいだが、行方不明だったり敵対している相手だ。今のオレを簡単には束縛できないと思う。


 これまでは神族のことを恐れていたが、今はその大半と良好な関係を作れているし、もし戦ったとしても負ける気はしない。


 だから今のオレを束縛しているのは自分自身、つまり自分の良心だけだと思っている。


『ケイ、ちょっと思い上がってるんじゃないの? それは私やコタローの言葉も聞く気は無いってことなの? ラウラやダイルたちだってケイのことをいつも心配してるのよ』


 ユウはかなり怒っている。念話からそれがビリビリと伝わってきた。


 ユウの言うとおりだった。ユウたちが自分のそばにいるのが当たり前すぎて意識してなかった。


『ごめん。言い方が悪かったけど、もちろんユウたちの言葉はちゃんと聞くし、重要なことはいつも相談してから決めるよ。ユウや仲間たちは言ってみれば自分自身と一体だと思ってるからね。でも、クドル3国の支配者になるのは絶対に嫌なんだ。それが神族のような陰の支配者であったとしてもね』


『じゃあ聞くけど、ケイがこのウィンキアでやりたいことって何なの?』


『ええと……、誰にも束縛されずに、のんびりと暮らしたい』


『のんびり暮らすって?』


『うーん……。たとえば、天気が良い日には家族や仲間たちと一緒に景色の良いところへピクニックやキャンプに行ったり、カヌーで川を下りながら釣りをしたりするのも良いよね。天気が悪かったら家の中でみんなで一緒に映画を見たり、お茶を飲みながら雑談をしたり。一人でいるときは好きな音楽を聞きながら小説を読んだり、ゲームをしたりね。自分で小説を書いたり、絵を描いたりするのも楽しいだろうね。それと、毎日温泉に浸かってゆったりしたいし、美味しいものも食べたいなぁ。だけど訓練は毎日続けるよ。心と体に程よいストレスを与えないと、自分がダメになってしまうからね』


『それがケイの望みなの? 意外と平凡なのね』


『普段が異常すぎるからね。平凡な暮らしに憧れるって言うか……』


『でも、ケイ。のんびり暮らすのも良いけど、今はそんなことを言ってられないのは分かってるよね?』


『もちろん分かってるよ。今はバーサットから難民を使った攻撃を受けようとしてる真っ最中だからね。のんびり暮らすことなんて、当分の間は無理だよね』


『ケイ、バーサットからの攻撃は今度で終わりじゃないはずだわん』


『えっ!?』


 突然コタローが割り込んできた。いつものことだが、オレたちの会話を聞いていたようだ。


『バーサット側もケイのことはイヤと言うほど認識したはずだわん。ケイは魔族の総攻撃を防いだ立役者だからにゃ。今度の難民を使った攻撃を防いだとしてもだにゃ、バーサット帝国はケイやクドル3国を狙って必ずまた次の攻撃や調略を仕掛けてくるはずだわん』


『でも、クドル3国の共同体が実現したら、軍事力も経済力もバーサットに負けないようになると思うけど……』


『ケイ、甘いにゃ。クドル3国共同体が実現したとしてもにゃ、バーサットが仕掛けてくるのは軍事力や経済力を使った攻撃だけじゃないわん。また嫌らしい攻撃を仕掛けてくるかもしれないぞう。まだまだバーサット帝国や魔族たちへの備えは必要だわん』


『つまり、のんびり暮らすのはずっと無理ってこと?』


『のんびり暮らしても良いけどにゃ、警戒を怠るのはダメだってことだわん』


 そんなぁ~。常に警戒してるような状態で「のんびり暮らしてる」って言えるのかなぁ……。


『それにケイ、のんびりした暮らしを始める前に、やらなきゃいけないことがあるけど、忘れてないよね?』


 ユウが追い討ちをかけてきた。


『忘れてなんかないよ。必ずラウラを戦国時代から連れ戻すって心に誓ってるからね。そのためには魔力を〈1500〉まで高めなきゃいけないから魔獣狩りは今までどおり続けるし、〈1500〉になった後も続けるつもりだよ。魔力やスキルをもっと高めて行きたいし……』


『あなたが代理出産で産んだセリナの捜索は?』


『もちろん続ける。それとアドミンと約束したからソウルゲートのマスターも捜し出さなきゃいけない。日本から召喚されてきた人たちもどうにかして日本に帰すようにしたいしね。あとは、ミレイ神を捜し出してわたしに掛けた暗示魔法も解かせたいし……』


『ミレイ神がケイに掛けた暗示って、あの病気のことよね? ケイが女性の裸を見たりして、スケベ心を出して興奮したときに発症するんでしょ? そうなったら自分の体を制御できなくなったり、気絶したりすると言ってたけれど、あの病気はもうずいぶん前から発症してないよね。もしかすると、あの暗示は解けたんじゃないかしら?』


『さあ、どうかな。たぶんまだ解けてないと思う。自分の魔力や暗示魔法の技能が高まってきたから、ミレイ神が掛けた暗示への抵抗力が増してきてるんだと思うけど、油断はできないよ』


『そう……。とにかく、ケイがやるべきことを忘れていないから安心したわ』


『うん。やらなきゃいけないことが多いのは分かってる。それでもね、いつかはのんびりと暮らしたいんだ。面倒なことや束縛から解放されて、自由にね』


 言いながらオレは心の中で溜め息を吐いていた。まだこの先も当分の間はのんびりと暮らせそうにない。でも、積極的に休みは取って、そのときは思いっきりのんびりするつもりだ。


『ケイがクドル3国の支配者になるのを嫌がるのは、面倒なことから逃れて自由に暮らしたいってことなのね?』


『うん、まぁそういうことだね。そう言うユウはどうなの? ユウは支配者になりたいとか思ってる? ユウがこのウィンキアでやりたいことって何なの?』


『私はダイルや仲間のみんなと一緒に安心して暮らせるなら、それで十分だけど……。でもね、周りに苦しんだり悲しんだりする人がいて、自分なら助けることができるのに、それに目を背けて自分だけがのんびり暮らすなんて、そんなことは私にはできないよ』


『それはわたしも同じだけど……』


 ホントはちょっと違うと思った。助ける相手や状況によりけりだと思うが、それを言うとユウをまた怒らせそうだ。


 ユウと話をしながらも、オレはさっきの思い上がった自分の発言を反省していた。魔力が高まって、神族とも良好な関係ができてきたからか、つい調子に乗って傲慢な気持ちを抱いてしまう。仲間たちに支えられていることを絶対に忘れてはだめだ。


『ユウとコタローにお願いがあるんだ。もしわたしがまた思い上がったことを言ったり行動したりしたら、遠慮なく叱ってほしい。自分でも気付かないことがあるから』


『ええ、任せて』


『オイラも遠慮しないわん』


 ユウやコタローがいつも見守ってくれるから有難い。他人に謙虚さを求める前に、まず自分が謙虚になることを心掛けようと心から思った。


『ねぇ、ケイ。とにかく、メリセランの難民たちは何とかして助けてあげて。特に小さな子供やお年寄り、それに病人や怪我人が心配よ。一万人用の難民キャンプに七万人も強制収容されて詰め込まれてしまったら、弱い者に皺寄しわよせが行くと思うの。きっと小さな子供のお母さんやお年寄りの家族たちも辛い思いをすることになるはずよ』


『うん。自分ができる範囲で頑張るとしか言えないけど……』


 高速思考を解除して、オレは「レング神もニコル神もその命令、ちょっと待って」と声を掛けた。


 二人は使徒たちに難民の強制収容命令と攻撃を受けた場合の反撃許可を出したところだ。今は難民キャンプの建設現場にいるから、使徒たちはその命令を王様たちに伝えに行こうとしている。


「今の命令を出す前にお願いしたいことがあるんです」


 何事かというような顔で二人はオレを見ている。


 ※ 現在のケイの魔力〈1317〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈1317〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈1317〉。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ