表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
328/384

SGS328 誰がゴブリン王へ命じた?

 ゴブリン王へ命令を出したのはウィンキアソウルではないとアルロは言う。


「わたしもアルロの意見を聞きたいんだけど、誰がゴブリン王へ命じたと考えてるの?」


 オレが問いかけると、アルロはガリードから視線を外してこちらへ顔を向けた。


「ゴブリンの王様に誰が命令したのかを話す前に、ケイ様にお聞きしたいんですけど、メリセランからの難民が七万人もいることを変だと思いませんか?」


「ん? 何か変なところがあるかな?」


「ええ、変ですよ。以前にケイ様とダイル様から伺った話では、メリセランの王都は魔族軍によって完全に占領されてしまったということでした。メリセランの王都では約二十万人が住んでいたはずです。そのうちの七万人が脱出してるんですよ。と言うことは、魔族軍はみすみす七万人もの住人が王都から逃げ出すのを見逃したということです。そんなことがありますかねぇ?」


「それは、魔族軍の手で王都が完全に封鎖されるまでの間に住人たちが逃げ出して、その数が七万人に達したってことだと思うけど、何か変かな?」


「もしそうなら、魔族軍は後を追って、逃げ出した住人たちを捕らえたり殺したりするはずですよね。でも今朝の偵察では難民たちは追われているような様子はなかったんですよね?」


「うん。たしかにそんな様子はなかったね。それどころか、ゴブリンたちが難民を助けていたくらいだからね」


「それに難民たちは着の身着のままで王都を脱出したのではなく、大きな荷物を抱えたり、中には馬や馬車を使っている者もいたってことですからねぇ。難民たちはメリセランの王都から出ていくように誰かに言われて、ちゃんと準備をしてから出てきたんだと思いますよ」


「おい、アルロ。はっきり言えっ! いったい何が言いたいんだっ?」


 ガリードがイライラした声を上げた。


「レングランへ向かってくる難民たちはバーサット帝国が仕組んだ新たな攻撃だと思うんですよ」


「なにぃぃぃっ!?」


 ガリードが大きな声を上げたが、会議の参加者たちも一様に驚いたような顔をした。


「おい、アルロ。ちゃんと説明しろ。難民がバーサット帝国の新たな攻撃って、そりゃどういうことだ?」


「ガリードさん、レングランの王都にどれくらいの人族が住んでるか知ってますか?」


「二十万人ほどだろ。それが今の話と何か関係あるのか?」


「ええ、大ありですよ。難民の大半はレングランに押し寄せてくるはずです。メリセランからの街道は原野を通ってレングランに通じてますからね。その七万の難民が二十万の王都の中になだれ込むんですよ。想像してみてください。どうなります?」


「ええと、国が混乱するってことか?」


「まぁ、そういうことです。国が混乱すると言うよりも崩壊すると言う言葉の方がふさわしいかもしれませんけどね……」


 アルロは苦い顔で言葉を続けた。


「バーサット帝国はメリセランから七万人もの難民をレングランに向けてわざと送り込んできたんですよ。難民によってレングランを混乱させたり国力を削いだりして、最後にはレングランを内側から崩壊させる作戦だと思います」


「バーサット帝国は自分たちの軍を使わずに、メリセランの難民を使ってレングランを攻略すると言うのか?」


「ええ。バーサット帝国からクドル湖方面に大軍を送り込むのは無理がありますからね。ご存じのとおりクドル3国とバーサット帝国とは広大な魔樹海で隔てられています。バーサット帝国からクドル3国へ軍を進めるには街道を通るか、レブル川を船で遡るかですが、街道もレブル川も魔樹海の中を通っていますから進軍には不向きです。魔物や魔獣がウヨウヨしていますからね。レブル川や魔樹海を何十日も進軍させれば、それだけで軍は疲弊してしまいます。魔空船を使う手もありますが、その方法では大軍は運べません」


 アルロはここで言葉を一旦切ってガリードを見つめた。


 確かにアルロの言うとおりだと思う。そう言えば、バーサット帝国は以前に地底のクドル・インフェルノにあるワープゾーンを使って軍を進めようとしていたが、それはオレたちが阻んだ。その後、ダイルがすべてのワープゾーンを潰してくれたから、そのルートでバーサット帝国が侵攻してくる恐れもなくなった。


「それで?」


 ガリードが続きを促すとアルロがまた口を開いた。


「ですから、バーサット帝国は軍を使わずに別の方法を使ってクドル3国を攻略しようとするはずです」


「その攻略方法が難民を使うことだと言うのか?」


「はい。メリセランからレングランまでの街道は平原と原野だけで、魔樹海の中を通りませんからね。難民たちは飢えさえしのげれば生きてレングランへたどり着けるんです。もし何の対策も無しに国の中へ七万人もの難民を流入させてしまったら、食料が不足したり治安が悪化したりするだけではありませんよ。物価は一気に高くなるでしょうし、衛生状態も悪くなって疫病なんかも続くでしょうねぇ。国民の不満が高まって、その不満はやがて統治者に向かって爆発することになります。暴動が繰り返し起きて、国力は拍車をかけて衰えていくはずです。放っておけばやがて国は崩壊するでしょうねぇ」


「レングランが崩壊……」


 そう呟いたのはレング神だ。


「ええ。不躾な言い方で申し訳ないですがね、何も対策を講じなければそうなる可能性が高いと思いますよ。レングランが倒れれば、難民はさらに膨らんで、次はラーフランに押し寄せるはずです。おそらくラーフランもあっという間に崩壊するでしょうねぇ」


 それを聞いたニコル神も青い顔をしている。


「それがバーサットの新たな攻撃ってことか……。じゃあ、ゴブリンの王様に命令を出したのも……」


「はい。裏でバーサットが助言してドラゴンロードかデーモンロードが命令を出したんでしょうねぇ。難民が街道で飢えて死んだのでは意味が無いですからね。バーサットは七万人全員をレングランにぶつける作戦でしょうから」


「なんと……」


 アルロの話にオレを除く会議に参加した全員が愕然とした顔をしていた。


 オレがその話に驚かなかったのは実は事前にコタローから同じような推測を聞いていたからだ。


 アルロは全員の顔を見渡しながら話を続けた。


「ええと、もうちょっとだけ付け加えますけどね。この七万人の難民たちはゴブリンたちに親切にしてもらって、魔族に対する考えを変えたと思うんですよ。魔族は実は優しくて、これまで魔族を攻撃していた人族が本当は悪かったんだと、そう考えるようになったはずですよ。苦しい旅の中でゴブリンたちに助けられていますからねぇ。ところが、クドル3国にたどり着いたら難民たちがどんな扱いを受けるかというと、王都の中に入れてもらえないとか、食料も満足に与えられないとか、病気や怪我をしていても治療してもらえないとかね。おそらくバーサットはそこまで想定して作戦を立てていると思うんです。ゴブリンたちの親切さに比べてクドル3国の人族たちの冷酷さが際立つはずですよねぇ。バーサットはそんな難民たちを扇動してくると思いますよ。扇動されればクドル3国で虐げられた難民たちは簡単に爆発するでしょうねぇ。七万人もの難民の不満が爆発するんですから、よほど難民たちを上手く扱わないと国が滅びますよ」


「うっ……」


 オレたちは声も出なかった。コタローもそこまでは言ってなかった。


 さらにアルロの話は続いた。


「このバーサットの作戦はすごいですよ。自分たちの出費はほぼゼロで難民を使ってクドル3国を痛めつけて、さらに滅ぼすこともできるかもしれないっていう作戦ですから。バーサットらしい嫌らしい作戦ですよねぇ。それと、難民の中に何人かのバーサットの工作員が潜り込んでいる可能性が高いと思いますよ。難民たちを扇動するためにね」


 今朝の緊急会議はそこで一旦中断となった。アルロの話を聞いたレング神とニコル神が緊急の命令を出したからだ。


「国境に軍を派遣して、国境の守りを急ぎ固めるのだ。難民や怪しい者をレングランの国境内には絶対に入れぬようにせよ。メリセランからの難民は全員を捕らえて難民キャンプに収容するのだ。七万人であろうが構わぬ。一人残らず全員を収容所の中に押し込めよ。軍に抵抗し攻撃してくる者があれば反撃してよい。やむを得ぬ場合は殺害も許す。怪しい者は捕らえて厳しく尋問せよ。潜り込んでおるバーサットの工作員を必ず暴き出すのだ!」


 これがレング神が出した命令であった。そばで待機していた使徒たちを通して命令は直ちに王様や官吏たちに伝えられたようだ。それを聞いたニコル神も同様の命令を出したのだった。


 ※ 現在のケイの魔力〈1317〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈1317〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈1317〉。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ