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SGS327 ゴブリンたちは親切

 まさかこんなところでラルカルと再会するとは思ってなかった。オレが奴隷だったときにレングランの闘技場で無理やりゴブリンと夫婦になるよう強制されて、その相手となったのがこのラルカルだった。夫婦と言っても本当の夫婦ではなく、うわべだけ夫婦を装っていたのだが。


 オレがテイナ姫のお供をしてベルッテ王のところへ和平交渉に出向いたとき、道案内役としてドンゴとこのラルカルが同行した。和平交渉は失敗し、ドンゴとラルカルはレブルン王国に残った。


 あのときオレはベルッテ王にドンゴとラルカルに教育を受けさせてほしいと頼んだ。そして希望する仕事に就けるよう配慮してほしいと言ったはずだが……。


「ラルカル、どうしてこんなところで白衣を着て魔医の真似をしてるの? 魔医になりたいとベルッテ王に希望したってこと?」


 オレの質問にラルカルは泣きそうな顔になった。


「オラ、美人のヨメをもらって幸せに暮らしていただよ。だけどよ、オラの幸せを壊すようなことを王様が頼んできたから、きっぱり断ったんだ。そうしたらな……」


 ラルカルはかなり不満がたまっていたのだろう。ぐちぐちと、ほかのゴブリンには聞こえないような声で事情を語ってくれた。ラルカルはベルッテ王からレングランへ使いに行くよう頼まれたが、新婚のヨメと離れたくないという理由でそれをきっぱりと断ったそうだ。だが、ゴブリンの世界もそんなに甘くはないらしい。王様の頼みを断った罰として難民救護の仕事を割り振られることになった。ラルカルは1年間ほど教育を受けていたから、共通語を使って人族とも複雑な会話ができるようになっていた。それで人族の病人や怪我人の治療をする役目を命じられたのだそうだ。


「人族を助けるなんて、初めのころはよ、どのゴブリンたちも嫌々だったんだ。いくら王様の命令でもなァ。だけどよ、今じゃどのゴブリンも喜んでやってるんだぞ。大勢の人族から感謝されるのが気持ちいいんだべなァ」


「じゃあ、さっきは愚痴っていたけど、ラルカルも本当はここで働けて良かったと思ってるんだね?」


「オラがか? オラ、今でも後悔してるだよ。王様の頼みを断るんじゃなかったってな。あのとき王様の頼みを引き受けておけばよ、今ごろオラは自分の家でヨメと楽しんでるはずだからなァ」


 その話を聞いて、オレは心の中でラルカルに感謝した。思わずユウに高速思考で語りかけていた。


『王様からの頼みをよく断ってくれたよね。ラルカルに感謝状を贈りたい気分だよ』


『ケイ、突然にどうしたの?』


『考えてみてよ。もしラルカルが王様からの依頼を断ってなかったら、ドンゴではなくてラルカルがレングランへの密使になっていたはずだよね。もしそうなったら、たぶんラルカルはテイナ姫に会いに行くのを途中で諦めたと思うんだ。このラルカルの性格から考えたらね』


『ラルカルがテイナ姫に会えなかったら……。あ、そういうことね。大変なことになったでしょうね』


『間違いなく大変なことになっていたよ。テイナ姫にベルッテ王からの伝言が伝わらなかったら、わたしたちはバーサットの陰謀を事前に察知することはできなかったはずだからね。突然に魔族の総攻撃を受けることになって、たぶん神族が支配している国々はすべて滅んだと思う』


『そういう意味では、たしかにラルカルに感謝しなきゃいけないわね』


 高速思考を解除して、オレはラルカルの手を取った。


「ラルカル、本当にありがとう」


 なぜ礼を言われているのか分からずに、ラルカルはポカンとした顔をしている。ラルカルが王様からの依頼を断ってくれたおかげで、百万人近い人族が不幸にならずに済んだのだ。だけど、そのことをラルカルに言うことはできない。


「どうしてオラに礼を言うんだ? ああ、分かった。ケイも難民みたいだから、オラに仲間たちを治療してもらって喜んでるんだべ?」


 ラルカルの問い掛けにオレは頷いた。ラルカルはオレのことを難民だと誤解しているが、その方が好都合だ。


「とにかく、ありがとう。ラルカルたちが難民に対して親切に食料を配ってくれたり、治療をしてくれたりして、ホントに助かるよ。でも、ゴブリンが人族を助けたりしたら、ベルッテ王やレブルン王国に迷惑が掛かるんじゃないかな?」


「その心配はないって、オラ聞いたぞ。うわさだけどな、王様は誰かに命じられたんだと。レブル川沿いの道を逃げていく人族たちに食料や水を与えて助けろ、けが人や病人も治療して助けろってなァ」


「えっ!? それって誰がベルッテ王に命じたの?」


「さあな。オラ、知らねぇけどな。たぶん偉い魔族様じゃねぇか」


 ベルッテ王に命令できるような偉い魔族というとドラゴンロードかデーモンロードだろう。だが、人族を憎んでるはずのドラゴンロードたちがそんな命令を出すだろうか……。


 オレが考えていると、ユウが高速思考で話しかけてきた。


『ねぇ、ケイ。もしかするとベルッテ王に命令を出したのはウィンキアソウルかもしれないわよ。ほら、ケイがウィンキアソウルの頼みを聞いてあげたから、そのお礼として人族を助けるように命令したんだと思うけど?』


『なるほど、そうかもしれないけど……』


 あり得ない話ではないが、あのウィンキアソウルがそんな心遣いをするかな。


『ユウもケイも相変わらず甘いにゃ。たしかにウィンキアソウルが命令を出した可能性も少しはあるけどにゃ。それよりも可能性が高いのは……』


 コタローが何を言ったのかはここでは省略するが、その推測を聞いて、オレは「なるほど」と思ってしまった。


『とにかくコタローの推測が当たってるかどうかは、今度、ベルッテ王に会ったときに尋ねてみれば確実になるわよね』


『うん。じゃあ、今度会ったときに聞いてみるよ』


 ラルカルは名残惜しそうにしていたが、いつまでも愚痴に付き合っていられない。ラルカルと別れた後、オレは飛行魔法でまっすぐにダールムの家へ戻った。


 ………………


 先にダイルが戻っていて、撮影した写真の分析結果が出たところだった。


 最初にオレたちが想定していた一万人という数字が間違いであることが決定的となった。なんと、七万人もの難民が街道をクドル湖方面に向かっていることが分かったのだ。


 ダイルが撮影した写真データはミサキ(コタロー)が受け取って分析してくれていた。その結果が七万人という数字だ。今の段階では一番確かな情報だろう。


 一万人の想定が七万人に一気に膨らんだ。オレはその対策を協議するために、仲間たちやレング神、ニコル神と緊急会議を開くことにした。場所はみんなが集まっている難民キャンプの建設現場だ。土の上にテーブルと椅子を置いて、みんなが腰かけた。時刻は朝の10時で、難民キャンプの工事をしている最中だったが、その作業は一時中断してもらった。


 七万人という数字をオレが報告すると、真っ先に口を開いたのはガリードだ。


「だがな、七万人全員がレングランやラーフランの国境に到達することはないと思うぞ。途中で死んだり、魔族に捕まったりする者も多いだろうからな。それでも半分くらいは国境までたどり着くかもしれないな」


 普通はそう考えるだろうが、今回の場合は違うと言っておかねばならない。


「でもね、ガリードさん。わたしも驚いたんですけど、ゴブリンたちが難民に食料や水を与えているんですよ。それにゴブリンが怪我人や病人の治療まで行ってましたから、たぶん難民の大半は国境までたどり着くと思います。わたしが飛行魔法で現地へ行って見てきたことですから間違いありません」


「そりゃおかしいな。どうしてゴブリンが人族を助けるんだ? おれには訳が分からんぞ」


「あの地域を支配しているのはレブルン王国というゴブリンの国ですけどね、そこの王様が難民を助けるよう命令したそうです。難民たちを助けていたゴブリンから聞いた話なので確かですよ。実はその王様も誰かに命令されたみたいです。その命令を出したのが誰なのかは分かりませんけど」


 オレの言葉にガリードは首を傾げながらちょっと考えるように腕を組んだ。


「誰かがゴブリンの王様に難民たちを助けるように命令を出したってことか……。ケイさん、もしかするとその命令を出したのはウィンキアソウルじゃねぇかな? 1週間ほど前にあんたがウィンキアソウルの願い事を叶えてやったから、そのお礼に人族を助けるよう命令したのかもしれないぞ」


 ガリードが言ってることはユウの推測と同じだ。それを聞いていたアルロが手を上げた。


「ケイ様、ちょっといいですか?」


 アルロも今朝の緊急会議に参加していた。オレが頷くと、アルロが話し始めた。


「ゴブリンの王様に命令したのはウィンキアソウルではないと思いますよ」


「おい、アルロ。おまえ、いつもおれの考えを否定してくるが、何か恨みでもあるのかっ! 違うって言うのなら、命令したのはいったい誰なんだ? 理由もはっきり言えるんだろうなっ!」


 ガリードは喧嘩腰だ。


「ガリードさんに恨みなんか無いですよ。違うと思ったから僕はそう言っただけです」


 アルロは平然としている。オレもアルロの考えを聞いてみたい。アルロの知恵は群を抜いていると思っているからだ。


 ※ 現在のケイの魔力〈1317〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈1317〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈1317〉。


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