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SGS322 魔族総攻撃の後処理その2

 魔族の総攻撃で被害を受けたのは住民や兵士たちだけではない。ラーフランでは神殿や王城が破壊されただけでなく、街壁が崩れたり、道に瓦礫が散乱したりしている。その復旧にも着手した。


 物価高騰への対応も後処理の一つだった。物価が急激に上がったのはラーフランだけではなかった。レングランやダールムの物価も上がり、どこの店でも店内の商品棚からは食料品や生活物資が消えていた。


 だが、そのことをオレたちは魔族の総攻撃がある前から予想していた。総攻撃の前に行った会議でアルロが助言してくれていたからだ。


 オレたちはその助言に従って総攻撃が始まる前日にクドル3国の食料品や生活物資を一気に買い占めていた。ガリード兵団を総動員して各国の商店を回ってもらった。店内だけでなく倉庫に貯えてあった物まですべてを買い漁ったのだ。


 買占めを行ったのは戦いが終わった後の値上がりを期待してではない。むしろその逆だ。オレたちが買い漁った食料品や生活物資は、各国の不足量をコタローに推測してもらって再配分した。売り渡し先はレングランとラーフランの政府、それとダールム共和国は事情があってガリード兵団がそのまま物資を保持した。もちろん売り渡しの価格は適正であり、こちらの利益は無しだ。


 被害が大きかったラーフランが食料品も生活物資も一番不足していた。結果的にはその不足分をオレたちがレングランとダールムで買い集めた物資で補う形になった。そのことを知ったレング神やジルダ神たちは初めは眉をひそめていたが、クドル3国共同体の設立趣旨にうことなのだときちっと説明したら理解してくれた。


 各国の政府は買占めなどが起こらないように注意しながら、オレが売り渡した食料品や生活物資を住民たちへ今までと同じような価格で販売を始めた。この措置で売り惜しみは少なくなり、一時は大幅に上がった物価も下がり始めた。物価が元に戻るにはもう少し時間が掛かるだろうが、じきに安定してくるだろう。


 後処理の一つとして住民たちの不安を取り除くことにも留意した。魔族軍が退却した後も住民たちは不安な思いを抱いたままだ。また魔族軍が攻め寄せてくるのではないか、被害を受けて住む場所もなく生活もできずにどうすればいいのか、食料品や生活物資が無くなって飢え死にするしかないのではないか。誰もがそんな不安を抱えているのだ。


 そういう不安を取り除き住民たちを安心させることも大事な施策だとアルロから助言を受けて、掲示板を街のあちこちに設けることにした。掲示板では国の復旧施策を住民に向けて開示しているのだ。


 クドル3国以外の人族の国々についても状況を把握しておくべきだ。そのためにはオレかミサキ(コタロー)がワープで現地へ行って、各国の神族か統治者から状況を聞き取るのが一番手っ取り早い。だが、メリセラン王国だけは別だ。魔族に占領されてしまったと考えられるからだ。ワープで現地へ行ってもその場のことしか分からない。それでガリードにお願いして、兵団から偵察隊をいくつか出してもらうことにした。ガリードとガリード兵団はダールム共和国の後処理で忙しいが、オレの頼みを渋々引き受けてくれた。


 それとこれは後処理とは言えないかもしれないが、魔族の総攻撃を跳ね返したことを契機にオレが是非やっておきたいと思っていたことがある。それはクドル3国共同体の構想を実現に向けて前進させることだ。今度のことは神族だけでなく各国の統治者たちに対してクドル3国共同体の必要性をアピールする絶好の機会だったのだ。


 今回のような魔族軍による大規模な侵攻は初めてらしいが、一度起こったことは今後も繰り返されるだろう。すぐにでも魔族軍が引き返して攻め込んでくる可能性もあるのだ。人族の国同士で争っている場合ではない。今は国同士で手を取り合って少しでも早く魔族軍の侵攻に対処できる協力体制を整えるべきなのだ。


 レングラン王国とラーフラン王国の王様や主だった官僚たちに対してクドル3国共同体を立ち上げようとしていることを支配者の神族側から知らせてもらった。魔族軍が退却した日の夜のことだ。レング神とニコル神がそれぞれの国の王様たちに申し聞かせるという形で説明したようだ。


 王様たちに共同体のことを説明してその反応がどうだったのかレング神とニコル神に聞いたところ、どちらの国でも反対する者はおらず神族の考えをに従うということだった。神族には逆らえないということもあるが、今回の魔族の総攻撃を受けて、クドル3国がお互いに協力し合わないと生き残っていけないことを王様たちも身に染みて感じたのだろう。今度のことでクドル3国共同体の話がいよいよ前に進み始めたのはオレたちにとって最大の成果だと言っていいだろう。


 魔族の総攻撃が終わってからの後処理についてを思い起こしていくと、すべてのことがスンナリと進み始めたように見えるが、実は色々あったのだ。


 後処理会議では思いどおりに運ばなくてイライラした場面もあったし、歴史的瞬間と言えるような場面もあった。それは魔族軍が退却した日の夜にダールムのオレの家で開催した初回の後処理会議での場面だ。会議では総攻撃の被害状況を確認し、その後処理について話し合った。


 オレはベッドに寝転んで眠れないまま、その会議のことを思い出していた。


 会議にはオレの仲間たちのほかにレングランからレング神の一族、ラーフランからはジョエリ神とニコル神が参加していた。その半日前までは敵対関係にあった者たちだ。当然、会議のムードは空気が凍り付いたように固くなっていた。


 しかも食料品や生活物資の再配分の話し合いではレングランでオレたちが買占めていた多くの物資がラーフランへ流れると分かって、レング神たちが最初は好い顔をしなかった。その雰囲気を感じ取ったジョエリ神とニコル神は悔しそうに唇を噛んで俯いていた。


 でもオレが説得を続けるとレング神たちは分かってくれた。


「ケイさん、あなたの言うとおりだ。この状況でレングランだのラーフランだのと言って意地を張り合うのは愚か者がすることだ。我はあなたの考えに従おう。あなたから愚か者と呼ばれたくはないからな」


 レング神は苦笑の表情を浮かべていたが、真剣な表情になってジョエリ神とニコル神の方を向いた。


「ジョエリ神殿、ニコル神殿、レングランとラーフランは不幸な歴史を繰り返してきたが、今までのことはお互いに水に流そうではないか」


 レング神はジョエリ神の目を見つめながら言葉を続けた。


「レングランとラーフランは長きにわたって憎しみ合い戦い合ってきた。だが我はその憎悪ぞうおの心を捨て去り、ラーフランとは二度と戦わぬつもりだ。この場にいる第一夫人と第二夫人も我に同意してくれよう。レングランの王や民にもそのように言い聞かせたいと思う」


 その言葉に第一夫人のジルダ神と第二夫人のナナニ神も真剣な顔で頷いていた。


「ジョエリ神殿、ニコル神殿、これからはレングランとラーフランがお互いに力を合わせてクドル3国の共同体を立ち上げ、盛り立てて行こうではないか。我はすぐにでもレングラー王や官僚たちにこの話を申し聞かせて、共同体の立ち上げに向けて心積もりをするよう話すつもりだ。それと……」


 レング神はここでいったん言葉を切って少し考えるようにちょっと俯き、また顔を上げた。


「それと喫緊の問題となっておる食料や生活物資の不足についてだが、その再配分はケイさんの考えにお任せしたい。ケイさんならば我が国の物資が欠乏しないよう配慮してくれよう。ジョエリ神殿、ニコル神殿、レングランの物資が役立つのであれば、どうかラーフランのために使っていただきたい」


 さすがはレング神だ。オレの思いをちゃんと理解してくれて、レング神一族の方から歩み寄ってくれた。


 だけど食料や生活物資についてはレングランの物資が欠乏しないようにオレが配慮するという条件付きだ。国に責任ある立場としては当然の発言かもしれないが、その条件を満たすことがオレにできるだろうか……。


 不安とプレッシャーで圧し潰されそうだが、ここは頷いて前に進めるしかない。


 もう一方のジョエリ神とニコル神は呆然とした顔をしていた。レング神の申し出が意外過ぎて言葉が出ないのかもしれない。


 オレが「ジョエリ神?」と発言を促すと、慌ててジョエリ神は座席から立ち上がった。


「レング神様、それとジルダ神様、ナナニ神様、ありがとうございます。本来であれば主神のラーフ神がご挨拶するべきですが、あいにく今は多忙で……」


 オレはそこで「ちょっと待って」とジョエリ神の発言を遮った。


「ジョエリ神、わたしが仲間たちと開いてる会議ではね、上っ面を繕うための発言は要りません。ここに集まっている者たちは誰もがバーサット帝国の陰謀や侵略に打ち勝って、自分たちがこのクドル3国で安心して暮らしていけるようにしたいと思ってるはずです。そのためにこの会議では今直面している問題にどうやって取り組むのかをみんなで真剣に考えて意見を出し合ってるんです。だからここでは本当のことだけに基づいて意見を言ってほしいのです。体裁を繕うためのウソや交渉を優位にするための駆け引きは必要ありません。それにね、ラーフ神とアデーラ神が行方不明になってることはみんな知ってますから。分かってくれました?」


「ごめんなさい……」


 ジョエリ神は恥ずかしそうに俯いた。


「レング神様が仰ってくださったことは本当に有難いと思っております。ただ、主神のラーフ神も第一夫人のアデーラ神も行方不明になってしまって、この先どうしたら良いのか分からなくて……」


「ジョエリ神が困惑してるのは分かります。でも今は決めなきゃいけないときですよ。決めるべきときにきちっと決める。それが責任ある者の役目です。決めないまま先送りしたら、苦しむのは住民たちですから」


 こういう会議の場面では昔の会社員生活で経験していたことが少しは役に立つ。ヘボな上司の下でオレはいつも苦労してきたからな。


 その上司は大事なことを決めることができない人だった。曖昧にしたまま時間が経ってチャンスを逃したり、事態が悪化するまで放置して取り返しがつかなくなったり。おまけに「今のままではヤバイですよ」と助言をしたりすると「おれに文句があるのか!」と怒鳴られるし、案の定失敗したらその責任をこっちに押し付けてくるし……。今思い出しても腹が立つ。


 おっと、昔の余計なことを思い出して脇道に迷い込んでしまうところだった。今振り返っているのはあの魔族の総攻撃が終わった夜の会議のことだ。


「今は決めなきゃいけないときです」という話を分かってくれたのか、ジョエリ神とニコル神は頷いた。その様子を見ながらオレは言葉を続けた。


「まず決めなきゃいけないのは、レング神が申し出てくれたことをラーフラン側が受け入れるかどうかってことですよね。ええと、さっきレング神が話してくれたことは……」


 レング神が何を言ってたのかちゃんと覚えてないから高速思考でコタローに確認して、それから話を続けた。


「まず初めに、レング神は憎悪の気持ちを捨てて、ラーフランとは二度と戦わないと言ってくれました。それで、ラーフラン側はどうしますか? レング神の申し出を受け入れて、ラーフラン側もレングランとは二度と戦わないってことでいいですか?」


 オレが問いかけると、ジョエリ神は少し焦ったような顔をした。


「レング神様が仰ってくださったことは有難いですし、受け入れるべきだと思うのですが、このような重要なことを私の一存では……。こういうことは主神のラーフ神が決めることですから……」


 まだそんなことを言ってる!


 思い起こせば、あの会議でオレが一番イライラしたのはこの場面だった。


「はっきり言いますけど、行方不明になってから半日経っても念話の呼びかけに応答しないってことは、ラーフ神とアデーラ神は死んでる可能性が高いですよ。それなのにあなたはラーフ神たちに遠慮して何も決めようとしない。一国を支配している神族として決めるべきときに何も決めないまま放置するのは許されないことです。さっきも言いましたけど、それで苦しむのは住民たちなんですから」


 イラついたからオレの言葉は強すぎたかもしれない。


 ジョエリ神は顔を伏せたまま何も言おうとしなかった。オレの言ってることが理解できないのだろうか……。


 ※ 現在のケイの魔力〈1317〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈1317〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈1317〉。


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