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SGS321 魔族総攻撃の後処理その1

 今日は魔族軍が退却して4日目、レブルン王国の城の中にウィンキアソウルのためにテレビを設置してから3日目になる。クドル3国では西の空が茜色に染まる夕方の時刻だが、オレが今いるのは別の場所だ。日本の自分の家にワープして来て、休憩するためにさっきからベッドに寝転がっていた。1階に住んでるお袋にも挨拶をしていない。ここで横になっていられるのも後2時間ほどだ。休憩が終わったらダールムに戻って、また今夜の会議に出なきゃいけない。


 この2週間くらいは立て続けに色々な出来事が起きて、その対応に追われて気が休まることが無かった。魔族軍の攻撃を防いだ後も、その後処理に目が回りそうな忙しさだった。


 ついさっきもダイルから緊急の呼び出しを受けて、ダールムの街中で一仕事を終えてきたところだ。この忙しさはこれからも続きそうだ。


 だから今は少しの間だけでも心身を休めたい。ただ、ぼーっとしているだけでもいいが、できれば眠りたい。


 でも、ベッドに寝転がっても眠くならない。まだ自分の頭が休みたくないと言っているようだ。頭の中に浮かんでくるのは魔族軍の総攻撃を防いでからのことだ。あの戦いが終わってからの後処理が大変だったが、それもこの3日間で軌道に乗りつつある。だけど、まだやり残してることが何かありそうな気がして不安になる。やはり疲れているのかもしれない。


 オレは眠れないままこの3日間に行った後処理のことを思い返してみた。


 まずオレがやったのは魔族軍が退却した日の夜、仲間たちやレング神、ニコル神などの神族たちを集めて会議を開いたことだ。魔族戦の後処理を円滑に進めるための会議だ。オレたちはこれを後処理会議と呼んだ。その日の夜から毎晩開催して、相談し協力しながら後処理を進めていくことになった。


 会議の中で最初に決めたことは魔族軍の監視についてだ。魔族軍はクドル湖周辺から完全に撤退していた。またすぐに引き返して攻め込んでくることは無いと思うが、それでも油断はできない。神族たちと話し合った結果、レングラン王国もラーフラン王国も魔族軍に対する警戒を強化することになった。レング神とニコル神は会議後直ちにそれぞれの国軍から多方面に偵察隊を出動させて、魔族軍の監視を始めた。今のところ魔族軍が引き返してくる兆候は無い。


 クドル3国の被害状況の確認も進んでいる。実は今回の魔族の総攻撃でレングラン王国とダールム共和国でも被害が出ていた。その最大の被害はドラゴンロードの緑玉龍が放った誘導爆弾が街の中に何発か着弾して数十人の死者や怪我人が出たことと、数十棟の住宅や店舗が破壊されたことだ。


 だがそれもラーフラン王国の被害に比べたら「小さな被害」と言えるだろう。クドル3国の中で一番被害を受けたのはラーフランだった。


 ラーフランの王都に魔獣の群れが暴れ込んだことに加え、緑玉龍が放った誘導爆弾が10発以上着弾したことで数多くの住民や兵士たちが犠牲となった。街壁の外側やナビム要塞では魔族軍との間で攻防戦が行われて、大勢の兵士たちが死傷した。その結果、数千人の死者や怪我人が出ていた。数えきれないほどの住宅や店舗が壊されたし、王城や神殿も破壊されてしまった。


 被害はそれだけではなかった。主神のラーフ神と第一夫人のアデーラ神が未だに行方不明のままなのだ。おそらくラーフ神たちはナビム要塞でオーガロードと戦って殺されたのだと思われる。死体が見つからないが、オーガロードが放った誘導爆弾の爆発で髪の毛1本残さずに燃え尽きてしまったのかもしれない。


 ラーフ神たちが行方不明になっていることは極秘にされているが、数日後には公表されるはずだ。今は息子のニコル神が主神の役割を代行している。


 問題はラーフ神の一族がニコル神と実母のジョエリ神の二人だけになってしまったことだ。神族二人だけでは国を今までのように維持することが難しくなる。


 神族の役割は自分の国を支配し外敵から守ることだ。そうは言っても実務は文官や軍人が行っている。だから神族は普段は何もしていないように思われがちだが、実は神族も実務を日々こなしている。具体的には王都とその周囲に結界を張り巡らせること、神殿の魔力貯蔵所に魔力を補充して魔力の不足を補うこと、それと神殿に納められるソウルオーブ素材(オーブ玉)に対して神族だけが使えるソウルオーブ作成魔法を使ってソウルオーブに仕上げることだ。


 どこの王都でも神殿の魔力貯蔵所は魔力泉の上に建てられていて、王都全体に魔力を供給している。そこから供給される魔力は王都の結界魔法に使われるだけでなく、上水や下水の処理、農地用の水の供給などの動力源となっているし、住民や兵士たちが持っているオーブへの魔力補充などにも使われている。魔力を石油に例えるとすれば、神殿内の魔力貯蔵所は油井ゆせいと石油備蓄用のタンク群を合わせたような施設だ。王都の中で最重要の施設と言っていいだろう。


 この魔力泉というのは、地中深くから魔力が地表に漏れ出している場所のことで、その大半は魔樹海や原野の中に点在しているらしい。しかし数は僅かだが平野にも小さな魔力泉があって、その場所に街や村が作られてきた。


 どこの王都でも魔力泉の出力は小さく、その魔力を数十個の魔力タンクに貯えて使っている。だが、魔力泉だけでは王都の需要を賄うことができない。それで、不足する魔力を補っているのが神族たちだ。毎日交代で魔力貯蔵所の魔力タンクに魔力を注ぎ込んで補充しているのだ。


 ラーフランやレングラン、フォレスランなど神族が支配している国の王都にはそれぞれ凡そ二十万人くらいが住んでいるが、その人口を維持するためには最低三人の神族が必要と言われている。だがラーフランでは今回の魔族の総攻撃で、神族はニコル神とジョエリ神だけになってしまった。神族二人だけでは無理を続けることになり、いつかは破綻してしまうことが予想されるのだ。


 ラーフランの神族不足の問題だけは簡単には解決できない。何か対策が見つかるまではオレたちが支援するしかないだろう。面倒だが仕方ない。


 それにこの数日間のラーフランはオレが貸し出した結界魔法の魔具を使って王都の中だけを守っているような状態だった。しかしそれでは王都の周囲にある広大な畑を守ることができない。魔族軍の侵攻で畑は荒らされてしまっているが、人々はその復旧もできないでいた。畑仕事をしている最中に魔物や魔族に襲われる危険があって、安心して畑で作業ができないからだ。


 さらに魔力貯蔵所の一部が破壊されたままになっているために上水や下水の処理も停止していたし、オーブへの魔力補充などもできないままだった。麦や野菜が不足することは間違いないし、総攻撃が終わった直後は物価も大幅に上がって売り惜しみをする店も多かった。


 だから、壊されている結界魔法の魔具と数個の魔力タンクを作り直すことが急務だった。それらを作り直すのも神族の役目だが、ニコル神やジョエリ神では経験が無くて作り直しに何年掛かるか分からない状況だ。


 もちろんオレも経験が無いからそんな魔具を作ることはできない。だがコタローに相談すると、『オイラなら数日で作ることができるわん』と言うのだ。ただし魔力タンクを作り直したとしても、その中に格納する数万個の大魔石かソウルオーブが必要だった。


 オレとしてはアロイスの遺産を使ってもかまわないと思ったが、ジョエリ神に尋ねると何とか用意できると言う。数日で魔具と魔力タンクを作成できるなら是非お願いしたいとジョエリ神に泣きつかれてしまって、直ちにコタローに着手してもらった。それが3日前のことで、コタローは言ったとおり完成させた。今朝のことだ。すぐにジョエリ神に引き渡して、修繕中の神殿で運用を始めた。


 とりあえずこの処置さえしておけば、ラーフランの住民たちが畑仕事の最中に魔物や魔族に襲われたり、魔力不足で困窮したりすることは避けられるはずだ。


 国が直ちに行うべき後処理がある。それは救護所を設けることだ。怪我をしている者が大勢いるし、住む家を失った者も多い。オレは後処理会議で神族たちと話し合って、レングランでは1か所、ラーフランでは街の各所に救護所を設けてもらった。そこでは怪我をした者たちの治療が行われたし、家を失った者たちが一時的に休息したり宿泊したりする場所にもなった。


 忘れてはならない重要な後処理がある。今度の魔族軍の総攻撃で被害にあった住民や兵士たちの救済と支援だ。怪我をして働けなくなった者や、一家の大黒柱を殺されて収入源が無くなった者が大勢いる。住む家や店舗を失った住民たちも多い。レングランとラーフランでは同じルールを用いて住民や兵士たちへの救済と支援を行うこととした。その被害の大きさや元の生活を取り戻すのに必要な金額などから国が援助する救済額を算出するのだ。


 もちろん国が出す救済額は必要な金額の一部だが、それでも被害を受けた住民たちにとっては立ち直るための励みになるはずだ。その費用はそれぞれの国と神族たちの貯えから捻出することになっている。住む家を失ってしまった者たちへは国が空き家を一括で借りて期間限定で無償提供する。昨日あたりからその入居も始まっているようだ。


 なお、被害者たちへの救済や支援のルール、段取り、救済額の算出式などはアルロとミサキ(コタロー)が事前に話し合いながら用意しておいたものだ。それを神族が王様や官僚たちに開示して、ルールと段取りに沿って直ちに取り掛かるよう指示したから、レングランでもラーフランでも被害者たちへの救済と支援は迅速に進み始めた。


 ※ 現在のケイの魔力〈1317〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈1317〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈1317〉。


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