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SGS320 地母神様と好みが合う?

 夜になり、オレが招集した対策会議が始まった。ダールムの家に集まったのは仲間たちのほかにレングランからはレング神、ジルダ神、ナナニ神の三人、ラーフランからはニコル神とジョエリ神の二人だ。


 ニコル神とジョエリ神は疲れ切った顔をしていた。今回の攻撃でラーフランの被害が大きかったことと、ナビム要塞で行方不明になっているラーフ神とアデーラ神を夕方まで捜して見つからなかったせいだ。


 会議は3時間近く続いたが、その内容はまた後で語ることにして、ここではウィンキアソウルへの対応の件に話を戻そう。


 会議が終わった後、オレは日本の家にワープした。パソコンでネット検索しながら何時間も掛かってユウと一緒にウィンキアソウルに提供する映画を選び出す作業を続けたのだった。


 ………………


 翌日の朝、オレはレブルン王国へワープした。


 ワープ先はレブルン王のお城の中だ。昨日のあの場所のはずだが、なんだか全然違う部屋に作り変えられていた。昨日は体育館のような広くて薄暗い部屋だったが、今はどこかの高級ホテルの一室のような感じだ。部屋の広さは縦横10モラほどだろうか。キングサイズのベッドや座り心地が良さそうなソファーが置かれていて、部屋の色調もリラックスできるようなベージュに統一されている。


 オレが感心しながら部屋の中を見回していると、ドアが開いて女性が二人現れた。どちらも人族で20歳くらいの美人だ。


 つつっとオレの前に歩いて来てひれ伏した。なぜだか少し震えている。


「ケイ様、お待ちしておりました。わたくしたちはダイキ様とケイ様へ命を懸けておもてなしをするよう命じられております。何なりとお命じくださいませ」


 えっ? 命を懸けてってどういうこと?


 オレが戸惑っていると、ドタドタという足音がして誰かが走り込んできた。


「ケイ様、遅くなって申し訳ございません」


 ベルッテ王だ。オレの前で跪いてそう謝ってから、女性たちに声を掛けた。


「おまえたちは一旦下がっておれ」


 ベルッテ王は女性たちが下がっていくのを見届けると、今度はオレに向かってひれ伏した。


「ケイ様。どうかこれまでの我らの無礼をお許しください。あなた様が地母神様と近しい間柄で、しかも神族であることなど全く知らなかったのです」


 オレが地母神様と近しい間柄だって? 何か誤解してるようだ。


「いや、別に地母神様と近しい間柄ってことじゃないけど……。そんなことより……」


 オレはベルッテ王に対して眠りの魔法を放った。


 周りには誰もいない。ちょうど良い機会だ。ベルッテ王に暗示を掛け直さなきゃいけないと思っていたのだ。


 ベルッテ王が今回の一斉攻撃のことを知らせてくれたのは、オレがそのように暗示を掛けていたからだ。ベルッテ王はドンゴを使者として送り出してくれた。そしてその知らせが届いたから、人族の大半の国が滅ぼされずに済んだのだった。


 だが、その方法が次も上手くいくとは限らない。使者が無事にレングランに辿り着くとは限らないし、何日も原野を旅をするのでは時間が掛かり過ぎる。緊急時の連絡方法をもっと安全で迅速なものに切り替えるべきなのだ。


 それでオレはコタローに依頼して緊急連絡用の魔具を作ってもらった。今回のように魔族が人族の国を総攻撃するようなことになったら、逸早く知らせるための魔具だ。


 オレは暗示魔法を使ってこの魔具の用途と使い方をベルッテ王に教えた。人族を総攻撃するような事態になったら暗示が働いて、ベルッテ王はこの魔具の穴に自分の血を落とし込むはずだ。魔具がベルッテ王の血を認識すると信号を発する仕組みになっている。その信号を受け取るのはコタローだ。そして信号が送られてきたら、オレがベルッテ王に会いに来て詳しい情報を聞き取れば良いのだ。


 そのときベルッテ王と会う場所も決めていた。今いる高級ホテルの一室のような部屋のすぐ近くの部屋だ。この体育館のような広い場所は今回の改造でいくつかの部屋に仕切られていたから、オレはその一室を自分専用の休憩室としてベルッテ王から借り受けることにした。その部屋をベルッテ王との密会場所にするためだ。ワープポイントをその部屋に切り替えて、ベルッテ王から緊急信号が送られてきたら、その部屋で待ち合わせるのだ。


 ちなみにベルッテ王はオレに魔具を使って緊急信号を送ったことも、オレと密会して情報を提供したことも、そのすべてを忘れるようになっている。そういう暗示をオレが掛けたからだ。もちろん今回の魔族の総攻撃を事前に知らせてくれたことも忘れてもらった。これで少しは安心できる。


 ベルッテ王への暗示を掛け直した後、オレはテレビやブルーレイレコーダー、スピーカーなどをセットアップした。電源も大魔石と魔力変換器を使って確保済みだ。テレビは85インチの大型だから、この部屋の広さにもマッチしている。


 これらの家電や映画のブルーレイディスクは昨夜のうちに日本で買い揃えてきた物だ。後はウィンキアソウルがやってくるのを待つだけだ。


 ………………


『ほう。心や記憶を覗かれないように対策を施してきたようだな』


 ウィンキアソウルが現れたときの第一声がそれだった。相変わらず大輝の姿だ。


『覗かれるのは好きじゃないので』


『まぁ、良いだろう』


 ウィンキアソウルは部屋の中を見回しながらソファーに腰を下ろした。


『なかなか居心地が良い。気に入ったぞ。ベルッテ王、よくやってくれた』


「ははっ。有難きお言葉、恐縮でございます」


 ウィンキアソウルは足元で跪いているベルッテ王からテレビの方に視線を移した。


『これがテレビだな。どうやって使うのだ?』


『テレビの使い方は簡単に説明できますが、映画を楽しむには地球の言葉や常識を覚えなくてはなりません。知育魔法を使いますが、よろしいでしょうか?』


『知育魔法だと? それは何だ?』


 そうか……。今まではウィンキアソウルは勝手にオレの頭の中を読み取って色々理解していたが、今度からは一々説明しなきゃいけない。面倒だが仕方ない。


 知育魔法は神族の固有魔法であり、この魔法を使えば瞬時に相手のソウルと脳に対して必要な知識を植え付けることができることを説明した。


『そう言えば、あの者から……、そなたがソウルゲート・マスターと呼んでいる者からそのような魔法があると聞いたことがあったな。では、その知育魔法とやらをやってもらおうか』


 正直に言えばオレは心配していた。ウィンキアソウルに対して知育魔法が上手く働くかどうか分からないからだ。なにしろ相手はウィンキアソウルだし、今の体は大輝にそっくりだが頭の中は脳などは入ってなくて空っぽかもしれない。


 だがその心配は無用だった。上手くいったからだ。少なくとも大輝の脳には必要な言葉や知識を植え付けることができた。知育魔法を発動する前に大輝の体を検診魔法で調べてみたが、完全な健康体だった。脳や体は別の人族のもので、顔や体の特徴だけを魔法で大輝そっくりに作り変えたのかもしれない。


 しかしその体にはソウルは入ってなかった。単にウィンキアソウルによって操られているだけのようだ。コタローがミサキの体を操っているようなものだろうか……。


 知育魔法で言葉や知識の植え付けが終わると、1分間ほどウィンキアソウルは目を閉じていた。


「便利な魔法だな。テレビの使い方だけでなく地球や人間のこともよく分かった。まずは映画を見てみよう」


 ウィンキアソウルが初めて声を出した。しかも日本語だ。その声はユウの記憶にある大輝の声とよく似ているように思う。


 ウィンキアソウルはテーブルの上からリモコンを手に取って、テレビとブルーレイレコーダーの電源を入れた。ソファーから立ち上がって書棚の前に立った。


 あの書棚はオレが用意したもので、どの棚にも映画のブルーレイディスクがみっしりと並んでいる。書棚もブルーレイもオレが日本の店で買ってきたものだ。


「これが良いな」


 映画のタイトルを見ながらそう呟くと、ウィンキアソウルはケースからブルーレイを取り出してドライブの中に挿入した。


 意外にもテレビで流れ始めたのは映画ではなかった。北海道を舞台としたドラマで、大自然の中で暮らす親子の物語りだ。半世紀くらい前に作られた古いドラマだったが、偶然に見た動画でオレはその虜になってしまった。そのシリーズの動画配信サービスを契約して、一気に見てしまったほどだ。それはオレが結婚する前のことで、一度だけでなく何度も何度も見返した。


 ウィンキアソウルがこのドラマを選んだのは偶然ではないと思う。おそらくオレの記憶を探ったときにオレの心の中に深く刻み込まれたこのドラマのことをキャッチして、それを覚えていたのだろう。


 第1話が終わるまでウィンキアソウルはソファーに腰を下ろしてドラマを見続けた。オレもその近くの椅子に座ってドラマを見ていたが、ベルッテ王はずっと顔を伏せたまま跪いていたからちょっと気の毒だった。


「これだ、これ。こういう映画をワタシは見たかったのだ」


「地母神様が今見ているのは映画ではなくて、テレビドラマですけどね」


 ウィンキアソウルからの要望は映画だったが、オレが好きだったテレビドラマのブルーレイもいくつか買って来ていた。まさかウィンキアソウルがこのドラマをわざわざ選んで、しかもその内容を気に入るとは思ってもみなかったが、このドラマを持って来て正解だったようだ。


 実はユウと一緒に映画を選定していてオレがこのドラマを選んだときに、ユウから反対されたのだ。ユウが反対したのはこれが古いドラマだったし、ユウはそのドラマのタイトルさえ知らなかったからだ。


『ケイ、意外だけど、地母神様の好みはあなたと合ってるみたい。この先もお付き合いを続ければ仲良くなれるかもね』


 高速思考でユウが語り掛けてきた。地母神様と好みが合う? 地母神様とお付き合いを続ける? 冗談じゃない。用は済んだから早くここから立ち去ろう。


「では、地母神様。わたしはこれで失礼します」


「おお、そうか。またいつでもここへ遊びに来い。また会おう」


 その言葉を聞いたからか、ベルッテ王が跪いたままチラッとオレを見た。眉をクイッと動かして帰らないでほしいと言ってるようだ。一人でウィンキアソウルの相手をするのが心細いのだろうが、知ったことではない。後のことはベルッテ王に任せてオレはとっとと立ち去るのみだ。


「では、また……」


 オレは微笑みながらワープした。きっとぎこちない笑顔だったと思うが。


 アーロ村の家に帰って来てソファーに寝転んだ。少し眠ろうと思う。なんだか疲れが抜けてない気がするからだ。きっとこの疲れは精神的なものだろう。


 考えてみたら、この10日間は色々な出来事が立て続けに起こって、オレはその対応に追われ続けていた。その極め付けがウィンキアソウルと出会ったことだ。


 まさかオレがウィンキアソウルと会って話をして、殺されることなく無事に解放されるなんて思いもしなかった。ましてや「また遊びに来い」とか「また会おう」とか言われるなんて……。


 でももう二度と会うことは無いだろう。レブルン王国にも近寄らないようにしよう……。でも、あれ? これはフラグか?


 そんなことを思いながらオレは眠りに落ちていった。


 ※ 現在のケイの魔力〈1317〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈1317〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈1317〉。


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