SGS319 映画の相談をしてる場合じゃないけど
オレがダールムの家にワープすると、直後にミサキ(コタロー)もワープしてきた。
『ケイ、今すぐこの魔具を装着して』
ミサキから手渡されたのは一見すると普通のソウルオーブだ。言われたとおり装着の呪文を唱えると、その魔具と繋がったことが感じられた。だが魔具と繋がっただけで、それ以外には特に何も変わったことは起きていない。
『それで、どうやってワープポイントを外すの?』
『もう外れてるわよ。その魔具はソウルゲートと関係しない非正規なソウルリンクを見つけて、強制的に切断する魔具よ』
『えっ? どういう意味?』
『ケイが私の言ってることが分からないのは、ワープポイントのことをちゃんと理解してないからよ』
ミサキがワープとワープポイントの関係を説明してくれた。
ワープポイントを設定すると、術者とワープポイントの間がリンクされる。ここまではオレも知っていた。リンクのことをイメージ的に描くとすれば、亜空間の中を蜘蛛の糸のような細いラインで結ばれるようなものらしい。ワープポイントが固定された場所であっても、動き回る人間であっても、その蜘蛛の糸、つまりリンクが自然に切れてしまうことはないそうだ。
もう一つ重要なことは、オレや神族がワープポイントを設定すると、そのリンクは必ずソウルゲートを経由するということだ。それは神族のワープ魔法は、魔力の補充や制御をソウルゲートが行っているからだ。細かい説明は省くが、とにかく神族のワープとはそういうものなのだ。そしてそれが神族の正規なリンクだ。言い換えれば、ソウルゲートがちゃんと正しく制御しているリンクということだ。
ところがウィンキアソウルのワープはそうではない。リンクはソウルゲートを経由しないからだ。言わば非正規なリンクだ。
だから非正規なリンクを識別するのは難しいことではないらしい。
この非正規リンクを強制的に切断する魔具を用意してくれたのはアドミンだった。オレのために急いで作ってくれたのだそうだ。
『ありがとう、アドミン』
『どういたしまして。ケイ様を支援することはソウルゲートを守ることに繋がりますから』
その後、ミサキがこの魔具をオレの体の中に埋め込んでくれた。この魔具はオレの魔力で半永久的に働き続けるそうだ。これでオレが気付かないうちに自分の体に非正規なワープポイントを設定されたとしても、そのリンクはすぐにこの魔具が切断してくれるから安心だ。
と言っても、まだ不安なことが残っていた。ウィンキアソウルに強制的に呼び寄せられたとき、オレの魔力がほぼゼロになっていたことと、心の中で考えていることや記憶をウィンキアソウルに読み取られてしまったことだ。
明日またウィンキアソウルと会う約束をしたが、今のままでは不安で堪らない。
オレはそれをアドミンに相談した。
『魔力がほぼゼロになったのは、ウィンキアソウルに呼び寄せられた場所に原因があると思われます』
『場所に原因があるって、どういうこと?』
『はい。その場所はセルシア大陸の西の端にある半島とのことですが、以前からそこはウィンキアソウルの拠点の一つだということが分かっていました。これは推測ですが、その場所では魔力が常に約1/2000に制限されるようです』
『魔力が1/2000になるって……。ウィンキアソウルはあの場所でわざと魔力を制限してるのかな?』
『はい。おそらく自分の拠点を守るための防衛手段の一つなのでしょう』
『でも、あの場所でウィンキアソウルはわたしの魔力を少しだけ回復させたけど? 念話を使えるようにね。そんなこともできるってこと?』
『おそらく。その場所では普段は1/2000に魔力は制限されますが、ウィンキアソウルは自在にその魔力制限を操れるのだと考えられます』
『そんなことが……。ウィンキアソウルはあの場所以外でも同じように魔力を制限したり操ったりできるのかな? そうだとすれば凄い脅威だよね』
『いいえ、さすがにウィンキアソウルでもそれは無理だと思われます。魔力制限や魔力操作ができるのは予めそのように作り込まれた場所だけでしょう』
そうだとすれば、レブルン王国の城の中に呼び寄せられた時点でオレの魔力は元に戻っていたってことだ。なぁんだ……。
『じゃあ、ウィンキアソウルの拠点に行かない限り魔力制限や魔力操作を心配することはないってことだね?』
『おそらく』
『じゃあ、もう一つの件は? わたしの心の中や記憶をウィンキアソウルに勝手に読みとられてしまったことも心配なんだけど……。何か対策を考えておかないと、ウィンキアソウルはわたしの記憶の中からソウルゲートの機密を抜き出すかもしれないよね』
『その心配は要らないと思われます。ケイ様の記憶をウィンキアソウルに探られたとしても、ソウルゲートの機密が漏れることはありません。そのような機密と言えるようなことをケイ様はご存じありませんから』
『まぁ、そうだけどね。でも、自分が考えてることをウィンキアソウルに読み取られてしまうのは困るよ。交渉しようとしても上手くいかなくなるからね。自分の考えを読み取られないようにしたいんだけど、何か良い方法は無いかな?』
『あります。ウィンキアソウルは念波を使ってケイ様の心や記憶を探っていると考えられます。それを妨害する念波を出せば良いのです』
『ねんぱ?』
『はい。念波は魔力波の一種でして……』
アドミンはその対策を詳しく説明してくれた。要はジャミングだ。例えて言えば、敵がレーダー波を出してきたら、それを妨害する電波を出すようなものだ。
1時間ほどあればジャミング用の魔具を作ることができるとアドミンが言うので、それを待つことにした。
………………
そして1時間後。ミサキ(コタロー)がオレの体にソウルオーブ型の魔具をもう1個埋め込んでくれた。これで半永久的に心の中や記憶を読まれることはなくなった。
ミサキはオレの体に魔具を埋め込んだ後、その場所をスリスリして確かめている。なんだかくすぐったい。
『こうやって体を直接触っても、魔具が埋め込まれてるのは全然分からないわね。これで大丈夫よ』
『ありがとう。で、話の続きだけど……』
アドミンが魔具を用意してそれをミサキがオレの体に埋め込んでくれている間に、オレは念話で仲間たちと情報交換をし合った。ウィンキアソウルと話し合ったことや頼まれたことをユウとミサキに説明したり、昨晩からの魔族の大規模な侵攻で各国がどうなったのか被害状況を聞き取ったりしたのだ。
どれほどの被害があったのかなどの詳しいことはまだ分かっていないそうだ。今の時点で分かっているのは、ナビム要塞を奪還できたことくらいだ。ダイルが頑張ってくれたおかげだ。ダイルと連絡を取り合ってその状況を確認できた。
そのダイルはナビム要塞にもう少し留まってジョエリ神たちと一緒に後処理をしてくれると言ってるし、フィルナとハンナもカイエン共和国とベルドラン王国で警戒を続けている。各国へ侵攻しようとして結界に阻まれていた魔族たちは撤退を始めているが、完全に撤退したことを確認できるまでは仲間たちには警戒を続けてもらうことになる。
ラーフ神と第一夫人のアデーラ神の行方はまだ分かっていないらしい。それと神族が支配している国々についてはメリセラン王国以外とはすべて連絡が取れる状態だ。どの国も程度の差はあるが被害があったようだ。
一番気掛かりなのはメリセラン王国のことだ。状況は全く掴めていない。ウィンキアソウルの話から推測すると、メリセラン王国は滅ぼされてしまった可能性が高い。
メリセラン王国のことも含めて各国の被害状況の調査と取りまとめは念話でガリードに依頼済みだ。
まずは少しでも早く被害状況を踏まえて今後の対策を相談しなければならない。それで今夜、仲間たちとレング神一族、それとジョエリ神とニコル神にオレのダールムの家に集まってもらって、その相談をすることにした。
だけど、ユウやミサキと今話し合っているのはその件ではない。ウィンキアソウルから頼まれてしまった件についてだ。
『テレビやブルーレイレコーダーなんかを用意するのは任せて。アーロ村の家に置いてあるのと同じセットで良いんでしょ? すぐに用意できるから』
やっぱりミサキ(コタロー)は頼りになる。
『でも、ケイ。注意しなきゃいけないのは、ウィンキアソウルにどんな映画を渡すかってことだわね。地球の人類に対してウィンキアソウルが敵意を抱くような映画は絶対に渡しちゃダメよ』
なるほど。言われてオレもハッとした。ユウの言うとおりだ。
『殺し合いがある映画はダメだね』
『ええ。戦争映画とかアクション映画はダメよね。それとファンタジーやSF映画なんかも絶対にダメよ。相手は言ってみれば大魔王のような存在なのよ。大魔王を怒らせたら地球の人類を滅ぼそうって考えるかもしれないでしょ。だから人類が怪物や宇宙人と戦う映画なんかは絶対にダメだからねっ』
『ホラーもダメだろうね。歴史物も避けた方が良さそうだな』
『ウィンキアソウルがどんな映画が見たいのか、その好みとかが分かれば良いんだけど……』
『そう言えば、ウィンキアソウルは心を揺さぶられるような映画を見たいって言ってた気がするけど……』
『じゃあ、恋愛物とかヒューマンドラマとか……。ミュージカルなんかも良いかもしれないわよ』
今は呑気に映画の相談をしてる場合じゃないんだけど……。でも、相手が相手だけにいい加減な対応をしたら地球を滅ぼされかねないからな……。
※ 現在のケイの魔力〈1317〉。
※ 現在のユウの魔力〈1317〉。
※ 現在のコタローの魔力〈1317〉。




