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SGS318 地母神様は退屈している

 さっきまでは念話をするために魔力が少しだけ回復した状態だったが、今はまたほぼゼロになっていた。魔法も使えなくなっている。ユウたちとの念話もできない状態だ。


 この場所から人族の街まで歩いたら何年掛かるか分からない。と言うより、途中の雪山で凍え死ぬか、魔樹海で魔獣に食い殺されてしまうか……。歩いて帰ろうとしたら確実に死んでしまうだろう。


 お願いだから魔力を元に戻してほしい。


 あ、言い方を間違えました。お願いですから魔力を戻してください。


 オレはそう念じながら深く頭を下げた。


『ワタシを信じぬ者のために、そこまで親切にするつもりはない』


 言い切られてしまった。もうダメだ。ここで野たれ死ぬしかないのか……。


 こんな形で自分が死ぬことになるなんて……。


 この世界で何とか生き残ろうとして今まで必死に頑張ってきたのに……。


 仲間たちの笑顔が頭の中に浮かんで来ては消えていった。


 体から力が抜けて、オレは草の上に座り込んでしまった。ぽたぽたと自分の膝の上に零れ落ちてくる物がある。涙だ。仲間たちと二度と会えないと思うと涙が止まらなくなった。


『弱き者よ、仲間と会えなくなることがそれほどに悲しいのか。ならばもう一度機会を与えてやる。ワタシの願いを叶えるならば、そなたの魔力を戻して、元のように魔法を使えるようにしてやろう。これが最後の機会だ』


 もう一度機会を与える……?


 こんな場所で死にたくない。自分にできることがあれば何でもするけど……。


 でも、ウィンキアソウルの願いって? また地球に行きたいってことを蒸し返すつもりだろうか。


『そうではない。そなたの記憶を探って分かったことだが、地球にはワタシが今までに出会ったことがない楽しみがあるようだ。それは映画と呼ばれているものだ。それがそなたの記憶にあるような味わい深いものであれば、ワタシもそれを楽しんでみたい。心を揺さぶられるような映画を見てみたいのだ』


 映画を見たいだって? ウィンキアソウルはこの世界を支配していて、魔族たちからは地母神様と呼ばれて崇められている存在だ。この世界では何でもできるはずなのに、実は退屈してるのか?


 だけど、映画を楽しみたいと言われても困ってしまう。こっちの世界で映画館を作っただけではダメだ。映画を上映するためには、その準備がたいへんそうだ。


『何か誤解をしているようだが、ワタシの願いはそうではない。そなたの記憶を覗いて知ったのだが、地球には家に居ながらにして映画を楽しむための道具があるそうだな。テレビと呼ばれている道具だ。ワタシに映画とテレビを提供してほしい。テレビで映画を楽しめるようにすることがワタシの願いだ』


 テレビで映画を見たいってことか? それで良ければこっちの世界でもウィンキアソウルの願いは実現可能だ。オレたちもアーロ村の家にテレビやブルーレイレコーダーなどをセットして楽しんでるからな。


『では願いを叶えてくれるのだな』


 叶えるけど、今すぐはムリだ。テレビなどを用意しなきゃいけないから。それにテレビを設置する場所も決めてないし。設置場所は家の中が良いんだけど、ウィンキアソウルは家とか持っているのかな?


『心配いらぬ。家は用意しよう。ワタシはこの体が気に入ったから、当分はこの体で過ごすつもりだ。家はこの体に合った物が良いな……。うーむ。ちょっと待て……』


 大輝の表情が虚ろになったからウィンキアソウルはどこかへ行ったようだ。


 とにかくオレはこの場所で死ななくて済んだらしい。ホッとしたら何だか力が抜けた。涙を手で拭って立ち上がった。清浄の魔法を掛けたいが、まだ魔法は使えない。早く魔力を戻してくれないかな。


 そんなことを考えていると突然、周りの様子が変わった。


 家の中だ。どうやらまた強制的にワープで呼び寄せられたようだ。


 家の中と言っても、ここは普通の家ではなさそうだ。とにかく部屋が広いし天井も高い。体育館くらいの広さがあるだろう。部屋の中は薄暗いが、壁の一面には大きな祭壇のような物が置かれているのが見える。ほかの壁には何かの絵が描かれているようだ。目を凝らすと、その絵には豊かに実った麦畑と遠くに雪を被った山並みが描かれていることが分かった。


 部屋の真ん中に大輝が立っていた。もちろん本物の大輝ではなく、それがウィンキアソウルであることは分かっている。


 ここに呼び寄せられたのはオレだけらしい。緑玉龍の姿は見えない。その代わり別の者がいた。大輝のすぐそばで跪いて顔を伏せている。ゴブリンのようだ。


『とりあえずこの場所にテレビという道具を置くことにする。だが映画を楽しむにはこの部屋は広すぎるゆえ、もっと居心地の良い部屋に作り変えようと思う。今それをこの者に命じたところだ』


 テレビを置く場所も部屋を作り変えるのもウィンキアソウルの好きなようにすれば良いと思うけど……。


 それより、ここはいったいどこだろう?


『そなたも知っておる場所だ。レブルン王国の城の中だ。この部屋はワタシを祭っておる神殿だそうだ』


 ここがレブルン王国の城の中だとすると、ウィンキアソウルの足元で跪いているのは……。


『そなたも知っておる者だ。この国の王で、名前は……』


 えっ? ベルッテ王か?


『いつまで跪いているのだ。おもてを上げよ』


 ゴブリンがゆっくりと顔を上げた。たしかにベルッテ王のようだ。顔色が少し蒼ざめて見えるのは部屋が薄暗いせいだけではないだろう。


『この者には異世界の道具をこの部屋に設置することと、ワタシとそなたがここに自由に出入りすることを伝えてある。ベルッテ王よ。分かっておろうな』


「ははっ。地母神様に我が国でお寛ぎいただけるとは、これほどの栄誉はございませぬ。最高のもてなしをさせていただく所存にございます」


 久々にベルッテ王の声を聞いた。かなり緊張しているようだ。相手がウィンキアソウルともなると、さすがのベルッテ王も普通ではいられないのだろう。


『いや、過度な饗応きょうおうは要らぬ。ワタシは当分の間はこの人族の姿で過ごすつもりだ。居心地が良ければそれで良い。それと部屋の作り変えは迅速に済ませてもらいたい』


「畏まりました。明日の朝までには完了させておきます」


『ケイ、そなたはこの場所にワープポイントを設定するのだ。明日の昼までにテレビを設置しておいてもらいたい。そなたの魔力は復活しているはずだ』


 おおっ、いつの間にか魔力が元に戻っている。


 すぐにバリアを張って、この部屋にワープポイントを設定した。これでいつでもこの場所に戻って来れる。


 ふと視線を感じた。ベルッテ王がまじまじとオレの顔を見つめている。オレがテイナ姫と一緒に和平交渉に来た女だと気付いたようだ。だが今はベルッテ王と話をしたくない。ウィンキアソウルがすぐそばにいるからだ。


 オレはベルッテ王の視線を無視して、高速思考でユウとコタローに話しかけた。


『コタロー、今からワープで戻るけど、まだわたしの体にはワープポイントが設定されたままだと思うんだ。それでどこに戻ったらいいかな?』


『ダールム共和国の家へワープすればいいぞう。オイラもミサキに入ってすぐにダールムへ行くからにゃ。ワープポイントを外すのは簡単だから心配いらにゃいわん』


『分かった』


 高速思考を解除してウィンキアソウルに念話で話しかけた。


『ええと、明日の昼までにテレビは設置しておきます。でも、あなたと……、地母神様ともう一度お会いしてテレビの使い方とかの説明が必要になるのですが、どうしたらよろしいですか?』


 相手がこの世界の支配者だと考えてしまうと、なんとなく話し方がぎこちなくなってしまう。


『では明日の昼にここで会うとしよう。太陽が真上に来るときだ』


『分かりました。では、失礼します』


 オレは急いでワープした。ウィンキアソウルは簡単にオレの心の中を読み取ってしまうから、とにかく早くウィンキアソウルから離れたかったのだ。


 実はベルッテ王のことを考えないようにしようとオレは必死だった。オレに今回の魔族の大規模侵攻のことを知らせてくれたのはベルッテ王だ。ベルッテ王にオレが掛けた暗示魔法が効いているからだが、そんな事情をウィンキアソウルには知られたくない。知られたらベルッテ王が罰せられるかもしれないからな。


 ※ 現在のケイの魔力〈1317〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈1317〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈1317〉。


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