SGS317 呑めそうにない要求その2
いつの間にか話が逸れて、バーサット帝国の話になっていた。このままウィンキアソウルが地球に行きたいと言ってた話が有耶無耶になってくれたら……。
『そうはいかぬ。ワタシを地球に案内することを承知せよ』
しまった。ウィンキアソウルはオレが心の中で考えていることを勝手に読み取ってしまうのだった。相手にこちらの考えていることが筒抜けになるなら、どうしようもない。下手な手を考えずに、こちらからは頭を下げてお願いするしかないってことだ。
ええと、せめて地球の人族とは敵対しないことを誓ってくれませんか?
オレは心の中でウォンキアソウルへ語り掛けながら頭を下げた。
『さきほどから申しておるではないか。ワタシが排除しようとしているのはこのウィンキアを侵略してきた神族とその配下の人族だけだ。異世界の人族を滅ぼすことなどはしないし、敵対もしない。それは約束するぞ。おまえはワタシを信じて、地球へ案内すればよいのだ』
口約束だけど、今は信じるしかなさそうだ。
でも、案内しろと言われても、いったいどうやってウィンキアソウルを地球へ連れて行けばいいんだろ?
『その心配は不要だ。そなたが地球へワープすれば、ワタシもそなたの後を追ってワープするからな』
ウィンキアソウルはそれだけの能力を持っているってことか。すごいな。
だけど、やっぱりオレだけでは決められない。せめてユウやコタローと相談したい。念話が使えればな……。
『仲間と相談せねば決められぬのか。仕方ない。では念話を使えるようにしてやろう。早く相談せよ』
魔力が少しだけ回復して念話が使えるようになった。
『ユウ、コタロー、聞こえてる?』
高速思考で呼び掛けた。高速思考ならウィンキアソウルに盗聴されないだろう。
『ケイ、どこにいるの? 心配してたのよ』
すぐにユウが返答してきた。オレは今の自分の状況とウィンキアソウルから要求されている内容を説明した。
『許せないわね、大輝の姿で現れるなんてっ!』
えっ、そこ? ウィンキアソウルの容貌が大輝にそっくりだったとオレが説明したから、ユウが怒るのも当然だけど……。
『問題はそこじゃなくて、ウィンキアソウルが地球を見物したいって言ってることなんだけど』
『でも本気かしら? 地球を見物したいだなんて……。ウィンキアソウルはそれがマスターに連絡を取る条件だと言ってるの?』
『うん、そうなんだ』
『そんなことなら、悩むことなんてないわよ。ウィンキアソウルを地球へ案内してあげましょうよ。楽しいところへ連れていったり、美味しいものを食べさせてあげるのよ。それでウィンキアソウルと仲良くなれるのなら、私はそれが良いと思うけど……』
『ユウ、ウィンキアソウルを地球で接待しろって言うの?』
『そうよ。“おもてなし作戦”で徹底的に接待するのよ。それで仲良くなれれば、敵対関係も解消できるでしょ。ウィンキアの神族や人族を滅ぼそうなんていうこともウィンキアソウルは考えなくなるかもしれないわよ』
『ユウさん、それは止めるべきですよ』
割り込んできたのはアドミンだ。
『アドミン……。止めるべきって、どうして? 理由を言いなさいよ』
『地球の人類が滅ぼされてしまう危険性が高まるからです。ウィンキアソウルはケイさんの後を追ってワープで地球へ行こうとしているようですが、ウィンキアソウルが一旦地球へ行くと、何を仕出かすか分かりません。最悪の場合、人類を滅ぼそうとするかもしれません。ウィンキアソウルにはその力がありますから。ですから、ウィンキアソウルを地球へ案内するのは止めるべきです』
アドミンの考えはオレと同じだ。と言うか、ユウが能天気すぎると思う。
『でも、ウィンキアソウルは本当にわたしを追ってワープで異世界の地球へ行ったりできるのかな?』
『おそらくウィンキアソウルはケイさんの体にワープポイントを設定しているのだと思われます』
『えっ? わたしの体にワープポイントを設定しているって? あ、そうか。それでわたしを追ってワープができるんだね?』
『はい。それは神族と使徒の関係と同じです。神族は自分の使徒がいる場所へ自由にワープすることができますが、ウィンキアソウルもケイさんのいる場所へどこからでも好きなときにワープできるということです。ケイさんが地球にいれば地球へ、ソウルゲートにいればソウルゲートへウィンキアソウルはワープしようとするでしょう』
『ええっ!?』
驚きの念話を発したのはユウだ。
『ホントなの? ソウルゲートに入り込まれたら大変よ! ウィンキアソウルは神族を滅ぼそうとしてるのだから、きっとソウルゲートも破壊しようとするはずよ。何と言っても、ソウルゲートがすべての神族の基盤なのだから』
ユウが不安と恐怖の入り混じった念話を投げかけてきた。
『ユウ様、その心配は要りません。ソウルゲート側で十分な対策は取っていますから。ソウルゲートに入れるのは許された者だけです』
『それならソウルゲートがウィンキアソウルに破壊されるおそれは無いわね』
『ウィンキアソウルはソウルゲートの中には入れませんし、ウィンキアソウルがどのような攻撃をして来てもソウルゲートの防御は万全です。しかし地球は違います。地球の人類のためには無用の危険は避けるべきです』
『じゃあ、やっぱり地球の安全を考えたら断るしかないね』
『はい。ソウルゲート・マスターの手掛かりが得られないのは残念ですが、仕方ありません』
『だけど、断ったとしても、わたしの体にはワープポイントが設定されたままだよ。どうしたらいい?』
『それは大丈夫です。そのワープポイントを外す方法がありますから』
『外せるんだね? よかったーっ』
正直、ホッとした。もしオレの体に設定されたワープポイントを外せなければ、地球だけでなくアーロ村などの重要拠点にも戻れないと考えていたからだ。
高速思考を解除して、オレはウィンキアソウルに話しかけた。
「わるいけど、地球へ案内することはできない」
『断る理由は……。なるほど、なるほど。ワタシがそなたの体にワープポイントを設定したからだな。地球の人類が危険になるとソウルゲートの管理者が申しておったのか。ソウルゲートというのは前に聞いたことがあるな……。あぁ、思い出した、思い出した。あの者から聞いておった。そなたがソウルゲート・マスターと呼んでおる者だ。だが心配は要らぬぞ。地球を攻撃したりせぬし、そこに住む人類を滅ぼしたりもせぬ。それとそのソウルゲートというのも攻撃せぬ。あの者とも約束したからな』
ウィンキアソウルがソウルゲートのことを知っていたのは驚きだった。地球やソウルゲートを攻撃しないことをマスターと約束したと言ってるが本当だろうか。
『また疑うのか。もうよい。そなたはワタシのことをずっと疑い続けておる。これ以上何を話しても無駄であろう。地球への案内を依頼した件は撤回する。同時にソウルゲート・マスターへワタシが連絡する件も取り止めだ』
大輝の顔をしたウィンキアソウルは見るからに怒っていた。眉を吊り上げてオレを睨みつけている。ヤバイ雰囲気だ。やっぱり殺されるかも……。
『約束したから殺しはせぬ。そなたをこの場所で放逐するだけだ』
えっ? ここで放逐? もちろん魔力は元に戻してくれるよね?
『そこまでは約束しておらぬ。魔力は戻さぬ。ここから歩いて帰るがよい』
そんなことを言われたって、この場所がどこなのかさっぱり分からないし、武器も食料も無い。
『ここはそなたが住んでいた大陸の西の端にある半島だ。一番近い人族の街までは……、この星が太陽の周りを何度か回る間ずっと歩き続ければ辿り着くことができるかもしれぬ。万年雪を被った山々を越えて、延々と続く魔樹の大森林を通り抜けることができればの話であるがな』
魔樹の大森林というのは魔樹海のことだろうか。魔法を使えないまま何年も雪山や魔樹海を歩き続けるなんて絶対にムリだ。
※ 現在のケイの魔力〈1317〉。
※ 現在のユウの魔力〈1317〉。
※ 現在のコタローの魔力〈1317〉。




