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SGS316 呑めそうにない要求その1

 もしウィンキアソウルを地球に連れていったとして、地球が気に入ったからウィンキアから引っ越してくるとか言われたら困ってしまう。嫌な予感しかしない。いや、それよりも地球は気に入らないから滅ぼしてしまおうとか言い出しかねない。そうなったら人類は滅亡だ。オレは人類を滅亡させた人間にはなりたくない。これは呑めそうにない要求だ。


『何をウジウジと心配しておるのだ。ワタシはそなたの世界にちょっとの間だけ滞在して見物する。それだけだ。引っ越すとか滅ぼすとか、そういう余計なことはせぬ』


 ちょっとの間だけって……。まさか1万年とかじゃないだろうな。


『そなたの生まれた星に何度か太陽が昇る間だけだ』


 数日ってことか。それなら、まぁ良いかな……。


 いやいや、ダメだ。安心できない。ウィンキアソウルが地球に一度行ってしまえば、ワープポイントを設定するだろうから、いつでも好きなときに行けるようになってしまう。そうなれば地球に対してどんな悪さをするか分からない。きっと色々と干渉しようとするだろう。


『そなたも心配性だな。そなたの生まれたその地球という世界にワタシは悪さも干渉もしない。約束する』


 約束すると言われてもな……。口約束だし……。もしかしたらウィンキアソウル自身は悪さも干渉もしないけど、魔族を地球に送り込んでくるかもしれない。そうなったら地球で人類の存亡を賭けて魔族との戦争が始まってしまう。


『どこまでも疑り深いやつ。地球に魔族を送り込んだりせぬ。ついでに言えば、魔物も魔獣も送り込まぬ。ワタシの言葉を信じられぬのであれば、マスターとやらへ連絡すると言ったワタシの言葉も信じぬと言うことであるな。そういうことであれば、ソウルゲート・マスターへの連絡も取り止めるぞ』


 それは困る。これがマスターの行方を知る最高の機会だと思う。今を逃すとこんな機会は二度と巡って来ないかもしれない。ウィンキアソウルへ否定的な返事をして、この機会を失いたくはない。


 だけど、ウィンキアソウルを地球へ案内する件はオレが勝手に決めて良いことではないだろう。本来であれば国連とかで偉い人たちに検討してもらって決めることなのかもしれないが、そんな面倒くさいことに巻き込まれるのは嫌だ。


 せめてユウやコタローと相談したいし、アドミンからもアドバイスをもらって、どうするかを決めるべきだ。でも今は仲間たちへの念話はできない。つまり自分で決めるしかないってことだ。


 どうしよう。困った……。


 いや、待てよ……。そもそもオレがこれほど心配してるのは、ウィンキアソウルが人族をこの世界から排除しようとしている張本人で、地球の人類を滅ぼしてしまうほどの力を持っているからだ。


 逆に考えれば、これは最大のチャンスかもしれない。人族との敵対関係を止めるようウィンキアソウルを説得する絶好の機会ってことだ。


 ウィンキアソウルを地球に案内するのであれば、この世界の人族や地球の人類と敵対しないことを誓ってもらえば良いのだ。敵対しないことが確実になれば、友人として地球に招いても大丈夫かもしれない……。


『それはできぬな。人族どもが異世界からこの世界へ渡ってきたときに、おとなしくしておったのは初めのうちだけだ。魔族たちが手出しをしないと分かると、人族どもは傍若無人の振る舞いを始めた。我先に魔族の土地を侵略し、魔族たちを攻撃して殺し始めたのだ。魔族たちも反撃を始めたが、先に手を出したのは人族だ。ワタシはこの世界の安寧を乱す者は許さぬ。この世界を侵略したり、自分勝手に世界の秩序を乱したりする者は許さぬのだ。そのような者共は排除せよと魔族たちに命じた。その命令を撤回する気は無い』


 なるほど。言われてみたら、ウィンキアソウルが異世界から侵略してきた人族を排除しようと考えるのはもっとものように思える。オレが魔族側の立場であれば同じように考えるだろうな。


 だけど「はい、そうですか」と引き下がるわけにはいかない。ここでオレが引き下がったら、ウィンキアの人族はいつか魔族に滅ぼされてしまうだろう。


 それがこの世界の人族の運命なのだろうか。考えてみたら、ウィンキアの人族は気の毒な立場なのだ。1万年ほど前に祖先たちがソウルゲート・マスターに導かれてこの世界にやってきた。その子孫が今の人族だ。元の世界へ帰ることはできない。この世界で生きていくしかないのに、今のままだと滅ぼされてしまう。


『気の毒だから人族を受け入れろと申すのか。ワタシはそれほど甘くはない。元の世界へ帰ることができずにこの世界で生きていくしかないのであれば、もっと人族は謙虚であるべきなのだ。もっと慎ましく生きるべきなのだ。だが、人族は今も魔族の土地を侵略し、魔族を殺し続けている』


 ううっ。言い負かされそうだ……。


 たしかにウィンキアソウルの言うとおりなのだろう。


 いや……。今まではそうだったかもしれないが、これからも同じだとは限らない。なぜならオレがクドル3国の共同体を作り上げようとしているからだ。それ以外の人族や亜人の国々との同盟関係も構築するつもりだ。共同体や同盟を実現できれば、オレや仲間たちが指導して、人族はもっと謙虚に生きることができるようになるかもしれない。


『共同体や同盟とは何なのだ……。なるほど、なるほど。そういうことか。そなたが仲間たちとともに人族を一致団結させて、人族同士の戦争を無くそうとしておるのだな。だがそれは、団結して魔族と戦うということであろう』


 ええと、ちょっと違うな。オレたちは魔族と戦うのではなく、バーサット帝国と戦おうとしているのだ。バーサット帝国は魔族と手を組んで、神族を滅ぼし、人族の国々を侵略して支配しようとしている。バーサット帝国に侵略されて滅んだ国々ではその住民たちは奴隷のような酷い扱いを受けて苦しんでいる。だから、バーサット帝国の侵略は絶対に防がなきゃいけない。


『バーサットというのは人族の国であるか……。その国が魔族と手を組んでいるだと……。なるほど、なるほど。ちょっと待て……』


 また一瞬虚ろな表情になったが、次の瞬間には元の表情に戻った。


『ミドラレグルが申すには、キールヘイドが得体のしれぬ一部の人族どもと結託しておるそうだ』


 ミドラ……と、キール……って誰?


『ミドラレグルは緑玉龍、キールヘイドは黄玉龍だ。両者はワタシの忠実なシモベであり、ワタシは両者に魔族どもの統率を任せている。最近はミドラレグルは手を抜いているようであるが……』


『地母神様、そのおっしゃようは心外じゃ』


 念話で割り込んできたのは緑玉龍のようだ。少し離れたところで頭を地面に着けて巨大な体をすくめているが、大きな目玉は地母神様を見つめている。


『我は手を抜いておるのではございませぬぞ。魔族の統率をすべてキールヘイドに任せておりますが、それはちゃんと地母神様のお許しを得ております』


『おお、そうだったな』


『はい。理由も申し上げたはずじゃが、お忘れか』


『おまえがキールヘイドに魔族どもの統率を任せた理由はたしか……』


『やはりお忘れでございますな。赤玉龍を殺した神族どもやその配下の人族どもを憎んで我も報復を続けてきたのじゃが、最近の神族は余りにも弱くなっておりましてな。強き者が弱き者どもを殺し続けるのはバカバカしいことで、我の好むところではございませぬ。ゆえに神族を憎む心が強い黄玉龍のキールヘイドに魔族どもの統率を任せることにして、それを地母神様に願い出たのですぞ』


『忘れておったが、おまえらしい理由だ。ミドラレグルは心優しいからな』


『畏れ入りまする。それと、そのバーサットという国はキールヘイドが手を組んでおる人族の国でございますな。以前はキールヘイドは配下の魔族たちに命じて神族どもが支配する国々を滅ぼそうと躍起になっておりましたが、最近は戦い方を変えたようですな。そのバーサットという国を上手く利用して人族同士を戦わせることで神族を滅ぼそうとしておるようでございます』


『人族同士を戦わせる戦法か……。なるほど、なるほど。その方が魔族の犠牲が少なくなるということだな』


 そうだろうか。オレには逆のように見える。つまりバーサット帝国が魔族を上手く利用して人族の国々を侵略して支配しようとしているように思えるのだ。現に今回の大規模な侵攻も、戦いに直接参加したのは地球から拉致されてきた者たちと魔族軍だけだ。バーサット帝国の連中は裏で動いていたのだろうが、戦いで血を流した者はいないだろう。


『まことかっ……。むむむむっ……。それが本当であれば、そのバーサットとやらいう国を許しておくことはできぬぞ』


『地母神様、お待ちください。その小娘の考えを信じるのは早計だと思いまする。まずはキールヘイドにお尋ねになるべきかと……』


『そうだな。ちょっと待っておれ』


 また虚ろな表情になったが、しばらくすると元の表情に戻った。


『キールヘイドに聞いたが、利用し利用される関係だと申しておる。肝心なことはバーサットという人族の国と手を組んだことで戦法の幅が広がり、神族どもを滅ぼすまでの時間が早まることだそうだ。現に今度の侵攻作戦でも神族が支配する国を滅ぼすことができたと言っておる。滅ぼせたのはキールヘイドが直接指揮をしておった1国だけで、ほかの国は予想外の邪魔が入って失敗したらしいが』


 そう言いながらウィンキアソウルはオレを睨んだ。たしかにオレたちが侵攻作戦の邪魔をしなければ、今回の侵攻で神族が支配している国はすべて滅ぼされたかもしれない。


 1国だけが滅んだと言っていたが、それはおそらくメリセラン王国のことだろう。オレたちが手助けできなかったからな。


『じゃが、地母神様。神族どもの国をすべて滅ぼした後はどうなさるのじゃ。今のままでは生き残った人族どもをすべてそのバーサットという国が支配することになりますぞ』


『心配は要らぬ。バーサットの支配者も国民どももワタシに膝を屈することになるであろうからな。キールヘイドはそれも見越しておる。バーサットの者どもが逆らうようであれば、そのときはミドラレグル、おまえにも手伝ってもらうと申しておったぞ。ワタシもおまえの働きに期待しておる。この世界を支配するのはワタシだ』


『御意』


 でも、本当にあのバーサット帝国が素直にウィンキアソウルに服従し、支配される立場になるだろうか。まぁ、それをこの場で考えても答えは出ないな……。


 ※ 現在のケイの魔力〈1317〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈1317〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈1317〉。


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