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SGS312 五月蠅いハエを食い殺してやる!

 ――― ミドラレグル(緑玉龍りょくぎょくりゅうと呼ばれているドラゴンロード)―――


 ちょっと遊んでやっておるだけなのに、相手は必死なようじゃ。空中でくるくると進路を変えて逃げ回っておる。忙しないことよな。


 相手は飛行魔法を使っておるから人族の最上位種なのじゃろう。神族と呼ばれておるらしい。生意気な呼称じゃが、まぁそれはどうでもよい。所詮は人族。下等な種族にすぎぬ。神族であろうが何であろうが、我の周りを小煩く飛び回るハエのようなものじゃ。


 地表を見下ろすと、少し離れたところに大きな湖があって、湖の周囲には壁に囲まれた人族どものがごちゃごちゃと続いておる。あれが人族の都のようじゃな。生意気なことに人族は都の周りに結界を張って、魔族を寄せ付けぬようにしておるようじゃ。


 それにしても遅いのぉ。結界が消えるはずの時はとうに過ぎておる。人族の都は今もまだ結界に守られたままじゃ。


 眼下には大きな要塞が見えておる。あれは人族どもが作った要塞らしいが、今は魔族の気配が満ちておるのぉ。要塞は既に魔族の手に落ちておるようじゃ。


 こうしてハエを相手に空を舞いながら都の結界が消えるのを待っておるが、いつまで経っても結界は消えそうにないのぉ。我がここに来たときは夜が明ける前であったが、今は地平線よりもずいぶん高い位置に太陽が上がってしまった。


 黄玉龍おうぎょくりゅうのキールヘイドは夜のうちにすべて決着すると申しておったが、何か手違いが起こったのじゃろう。


 我がキールヘイドから聞いておったのは、満月が天に昇ったときに神族の支配する国々に対して都の内部から攻撃を仕掛けて結界を消してしまうということであった。そのときに魔族が一斉に人族どもの都に攻め入るという話じゃったが、企てどおりに進んでおらぬようじゃ。


 この機に神族とそれを信奉する人族どもをことごとく退治するから見物に行って来いとキールヘイドは自慢げに申しておったのじゃが、それがこのザマじゃ。人族どもの都は結界に守られたままで、地上ではオークやゴブリンの軍勢が攻め入ることができずに右往左往しておる。我も結界の内側に入ることができずにハエを遊び相手に無様に飛び回っておるだけじゃ。


 あやつがこの地での見物を強く勧めるからわざわざここまで飛んで来てやったのに、全くの無駄足だったようじゃ。キールヘイドの目論見は失敗したということじゃろうのぉ。


 見物と称しながら何かあったときの備えとしてキールヘイドは我をこの地に寄越したのじゃろうが、結界が張られたままでは我も何もできぬ。


 考えてみれば、黄玉龍のキールヘイドが魔族どもを統率するようになってから久しい。我は魔族どもに一々命じるのが面倒じゃからすべてをキールヘイドに任せたのじゃが、それが間違いじゃったかもしれぬ。


 遥か昔のことじゃが、地母神様はドラゴン族の中からキールヘイドと今は亡きアーカマグル、それと我の三体をお選びになった。地母神様はそれぞれの額に黄玉、赤玉、緑玉を埋め込んで、最高の魔力と不老不死の体を与えてくださった。そしてその力を以てこの世界に安寧をもたらすよう我らに命じられた。魔族どもの統率を我らに任せてくださったのじゃ。


 黄玉龍おうぎょくりゅうのキールヘイド、赤玉龍せきぎょくりゅうのアーカマグル、それに緑玉龍りょくぎょくりゅうたる我との三体はそれ以来この世界に君臨してきた。じゃが異世界から渡ってきた神族どもが赤玉龍のアーカマグルを捕らえ、拷問し、殺した。不老不死の赤玉龍を殺したのじゃから、よほどの拷問を加えたのじゃろう。


 そのことがあって、黄玉龍のキールヘイドは心の底から神族とそれを信奉する人族どもを憎むようになった。我も初めの頃はキールヘイドと同じように神族どもを憎み報復を続けておったのじゃが、しだいにバカバカしくなってきた。時とともに神族どもがあまりにも弱くなってきたからじゃ。人族などは我が息を吹き掛けただけで死んでしまう儚い存在じゃ。弱い者を殺し続けても何も面白くない。


 じゃがキールヘイドは違った。神族と人族に報復を続けたのじゃ。神族が支配していた都をいくつか滅ぼし、その神族も皆殺しにした。我はそれに嫌気がさしておったからすべてをキールヘイドに任せた。魔族どもの統率もすべてキールヘイドに譲ったのじゃ。


 その頃から黄玉龍のキールヘイドは配下の魔族どもから龍王様などと呼ばれて慢心するようになった。しかも近頃は得体のしれぬ一部の人族どもと結託して、我の忠告にも耳を貸さなくなってしまった。そのようなことをするから今度のような失態をさらすことになるのじゃ。


 おっと、つい愚痴ってしまったわい。キールヘイドへの憤懣ふんまんが溜まっておったせいじゃろうのぉ。


 さて、こうして空でハエ一匹を追い回して遊ぶのにも飽きてきた。そろそろ我が棲み処へ戻ることにしようかのぉ。


 いや、待てよ……。我の後を追ってくる者がおるようじゃ。


 飛行魔法を使っておるな。どうやら我が遊んでおったハエの仲間のようじゃ。


 ほぉ……。恐れ気もなく我に向けて風刃魔法を撃ってきたな。何発かが翼に当たったようじゃが、我の鱗を貫くことはできぬぞ。我の全身を覆う鱗はどのような武器による攻撃も魔法による攻撃も跳ね返して通さぬからな。


 先ほどまで遊んでおったハエよりも後から来たハエの方が強そうじゃ。棲み処に戻る前にハエを退治してから帰ることにするかの。せっかくここまで来たのじゃからな。


 どれ、本気を出して追うとするかの……。


 くっ! 小賢しいマネじゃな。後から現れたハエはオトリだったようじゃ。こやつを追い掛けておるうちに最初のハエは逃げていったわい。


 こやつは本物のハエのようにちょこまかと逃げ回るし、突然に姿を消して別の場所に現れたりする。明らかに最初の神族より能力が上のようじゃ。


 じゃが我を侮るなよ。逃げたり姿を隠したりするならば我が誘き出してやる。


 なぁに、誘き出すのは簡単なことじゃ。人族どもが棲んでおる都に向かって誘導爆弾を放てば良いのじゃ。我は結界の内側に入って飛ぶことはできぬが、爆弾は結界を越えて飛んでいく。人族の都は遠く離れていて爆弾の誘導はできぬが、都のどこかに着弾するであろう。爆弾を放ち続ければ、あのハエは我を止めようとして姿を現わすはずじゃ。


 ほれ、どうじゃ。ハエが姿を現すまでこうして誘導爆弾を撃ち続けるぞ。


 おお、案の定、現れたわい。じゃが近過ぎるぞ。このように我のすぐそばでは誘導爆弾は使えぬな。


 ここはもっと離れねばならぬ。このハエを引き離すことなど難しいことではない。我の飛行魔法とこの翼で加速すれば良いだけじゃ。


 よし、これくらいで良かろう。誘導爆弾を使える距離まで離れたはずじゃ。振り返って確かめてみるかの……。


 なんと! ハエも我を追って来ておる。いまいましい。なぜハエごときから我が逃げねばならぬのだ。くそっ! 振り切ってやる。


 じゃが……、どれほど飛んでも振り切れぬ……。相手が近すぎて誘導爆弾も使えぬ。こうなっては仕方ない。別の魔法じゃ。


 振り向いて額の緑玉から熱線魔法を放つのじゃ。当たらぬが、それでかまわぬ。我の狙いは相手の回避行動じゃ。目論見どおりじゃ。ハエが我から離れていく。


 今じゃ! 誘導爆弾を立て続けに連射してやったぞ。


 我の緑玉から放った誘導爆弾が相手に吸い込まれるように迫っておる。これであのハエも木っ端微塵じゃ。


 と思うたが何たることじゃ。相手の姿が消えたぞ。ハエはまた我の近くに現れおった。ハエのくせに小癪なヤツ。危なくなったら瞬間移動を使って逃げくさる。


 ぬぬっ! 許せぬ! 熱線魔法でその体を貫いてやるぞっ。


 当たったが、ハエのやつ、まだ生きておるわい。しぶといハエめっ!


 じゃが、我の熱線の威力に驚いたようじゃな。慌てて逃げていく。


 こうなったら、どこまでも追い掛けて、熱線で焼き殺してやる。


 むむぅっ……。すばしっこいハエめ! もうちょっと近付けば熱線が当たるのじゃが、ギリギリのところで瞬間移動で逃れていく。これでは当たらぬわい。


 くぅぅ、ダメじゃ。こんなことを繰り返しておっても切りが無い。どうしてくれよう……。


 なんとっ! 突然、目の前の空中に何か黒っぽいモヤモヤが現れおった。網のようじゃ。網はどんどん広がっていく。近過ぎて避けることはできぬ。こうなったら突き破ってやるぞ。


 ――無理じゃった。網は破れぬ。それどころか我の翼や脚に絡まってくる。


 こんな網は引き千切ってやる! じゃが、なんたることじゃっ。もがけばもがくほど我の体に絡み付いてくるぞ。ええいっ! うっとうしい!


 気が付けばいつの間にやら地面が近付いてきておる。下は原野のようじゃ。ハエと戦っておるうちに随分と遠くに来てしまったわい。


 空中では網は破れそうにない。じゃが、地面の上なら引き千切れるじゃろ。こうなったら地面に下りて網を破ってやろう。


 五月蠅うるさいハエを食い殺してやるのじゃ!


 ※ 現在のケイの魔力〈1317〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈1317〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈1317〉。


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