SGS311 魔族のボスに勝てる気がしない
ユウたちとの会話がヤバイ方向へ流れている。ナビム要塞の上空を旋回しているドラゴンロードを相手にオレが戦うという話になっているのだが、それはどう考えてもムリだろう。
『ねぇ、コタロー。わたしにドラゴンロードと戦えと言ってる? どう考えても、わたしが魔族のボスに勝てるとは思えないんだけど……』
『ドラゴンロードを相手に戦うにはにゃ……』
『突然の割り込み、失礼いたします』
『えっ!? アドミン?』
コタローの話を遮ってオレに語り掛けてきたのはアドミンだ。ソウルゲートの管理者が何の用だろうか?
『ケイ様がドラゴンロードを相手に戦うと知りまして。実はこのときを待っておりました』
『どういうこと?』
『聞けば相手は全身が緑色に輝く巨大なドラゴンとのこと。その個体は緑玉龍と呼ばれているドラゴンロードです。緑玉龍を捕らえれば、ソウルゲート・マスターの行方を掴めるかるかもしれないのです』
『えっ、ホントなの!? でも、どうして? その緑玉龍を捕らえれば、どうしてマスターの行方を掴めるのか、その関連性が分からないんだけど?』
ユウがオレより先に問い掛けた。
『ユウ様が疑問に思われるのも尤もです。これまで話しておりませんでしたが、マスターが行方不明になったのはウィンキアソウルに会いに出掛けた直後なのです。そのとき、マスターは緑玉龍と呼ばれているドラゴンロードに案内させて、ウィンキアソウルに会いに行ったと聞いております』
『じゃあ、マスターはウィンキアソウルに会いに行って、そこで殺されてしまったということ?』
『いえいえ、そうではありません。マスターは平和裏にウィンキアソウルと話し合いを行って、帰っていったそうですから。その話し合いには緑玉龍も立ち会っていたようです』
『だけど、マスターが行方不明になったのは1万年も前のことだよね。その行方を今の緑玉龍が知ってるかなぁ?』
『ドラゴンロードは不老不死であることは分かっておりますから、その緑玉龍は1万年前にマスターを案内したのと同じ個体だと考えられます。捕らえて尋問すればマスターの行方が分かる可能性があるのです』
『なるほど……。でも、1万年も前のことだよね。覚えてないかもしれないよ?』
『それは捕らえてみなければ分かりません。覚えていなくても記憶を探る方法はあります。緑玉龍を捕えれば、マスターの行方について何か手掛かりを掴めるかもしれません。今回はその絶好の機会なのです』
『アドミンがその緑玉龍を捕らえたいっていう理由は分かったけど、相手はドラゴンロードだよ。勝てる気がしないんだけど……』
『ええ、いくらケイ様でもドラゴンロードとまともに戦っては勝てないでしょう。ドラゴンロードはウィンキアソウルの“使い”と言えるような存在です。不死身の体をウィンキアソウルから与えられていることも分かっています。全身を覆う鱗はどんな武器による攻撃も魔法による攻撃も跳ね返して通さないのです。おそらくケイ様が得意とする暗示魔法も効かないと思われます』
『ウィンキアソウルの“使い”で、しかも不死身……。そんなに凄い存在なら、絶対に勝てないじゃない……』
『まともに戦うと勝てません。ですが、捕らえる方法はあります。初代の神族たちがドラゴンロードとの戦いで苦労して編み出した秘策でして……』
アドミンから話を聞いて、オレはその緑玉龍を捕らえようと思い始めた。その秘策を与えられたが、自信は全然無いし、怖いことに変わりはないのだが。
高速思考を解除して、ダイルに念話で連絡を入れた。
『ええと、ダイル、今はどんな状況? ミサキからそっちは一段落したって聞いたけど』
『ああ、こっちはフォレスランの王都に入り込んだ魔獣や魔族は全部排除した。ミサキを寄越してくれたのは本当に助かった。それとフォレス神の一族でサーラ神という神族に出会えたから、結界魔法の魔具と魔力タンクを渡した。サーラ神はそれを使って王都の結界を復旧させたから、フォレスランの王都はもう大丈夫だと思うぞ』
オレの知識情報によると、サーラ神というのはフォレス神の跡継ぎ息子のヨメさんらしい。ちなみに跡継ぎ息子の名前はラモル神だ。
ダイルには事前に結界魔法の魔具や魔力タンクを渡していた。オレとダイルで手分けしてフォレスランとメリセランを助けることになると予想していたからだ。
『フォレス神の一族に出会えたのはラッキーだったね』
『ああ。サーラ神にはケイや俺たちのことを説明して、しっかりと売り込んでおいたぞ』
軽い感じで言われて、ちょっと心配になってきた。
『大丈夫なの?』
『心配するな。ちゃんと説明したから。それとな、バーサット帝国の悪行についても話しておいた。やつらが裏で動いて、神族とその支配国を滅ぼそうとしていることや、今回の魔族たちの総攻撃もバーサット帝国が企んだことなどだ。その陰謀や侵攻を阻むために俺たちがクドル3国共同体や同盟を立ち上げようとしていることも説明済みだ』
『それで、サーラ神の反応は?』
『フォレスランが同盟に加わるかどうかは主神のフォレス神の判断になるので少し時間がほしいと言われたが、サーラ神には俺たちへ好意を持ってもらえたことは間違いない。フォレスランとの同盟に向けて一歩前進したってところだな』
『やったね。一歩どころじゃなくて大きな前進だよ』
『そうか?』
『ところで、ダイルにまたお願いがあるんだ。ラーフラン王国のナビム要塞がオーガロードたちに奪われてしまったらしい。それをダイルに奪還してもらいたいんだけど』
『フォレスランの状況と似てるな。さっきサーラ神から聞いた話では、フォレスランでもダードラ要塞の状況が掴めなくなってるそうだ。今から飛行魔法でダードラ要塞まで飛んで偵察しようと思っていたところだ』
ダードラ要塞はフォレスラン王国とメリセラン王国の国境に位置していて、フォレスラン防衛の要となる城塞だ。以前にフィルナが新婚旅行の途中でこの要塞を訪れたときに、戦争に巻き込まれて危うく死に掛けたことがあった。オレやダイルたちが助けに行ったが、それは苦い思い出だ。
そのダードラ要塞を魔族に奪われるのも問題だが、ラーフランのナビム要塞を魔族に奪われてしまう方がオレたちにとってはもっとダメージが大きい。クドル3国が魔族にいつ滅ぼされるか分からないような危険な状態になってしまうからだ。そんな状態ではクドル3国共同体の構想も吹っ飛んでしまうだろう。
さらにナビム要塞の上空ではドラゴンロードが我が物顔で旋回を続けている。ナビム要塞を魔族たちが占拠したことを誇示するかのようだ。あのドラゴンロードを排除しないと、クドル3国の住民たちは安心できないだろう。
それにはコタローが言うように、ダイルとオレで手分けしてナビム要塞の奪還とドラゴンロードの排除を行うしかないのだ。
それを説明すると、ダイルはナビム要塞の奪還を快く引き受けてくれた。
『分かった。迎えに来てくれたら俺はすぐにナビム要塞に向かうよ。俺は今、サーラ神や使徒たちの近くにいるんだが……』
今はまだオレはフォレス神の一族と顔を合わせたくない。顔を合わせたら挨拶だけでは済まなくなるだろう。その時間が無いのだ。オレはその理由をダイルに説明して、フォレスランの拠点で落ち合うことにした。
分隊長に治療が終わったことを告げて、ダイルのいるフォレスランに移動しようとすると、分隊長から呼び止められた。
「闇国の魔女様、お願いがございます。自分たちは今からこの兵士たちと一緒に王城へ行って状況を報告しようと思っております。できれば魔女様も同行していただけませんか? あなた様は魔獣どもを退治して、大勢の怪我人を治してくださったのです。あなた様はこのラーフランの恩人なのですから、きっと王様からご褒美を頂けると思います」
今はそんなことをしている時間は無いし、これ以上面倒なことを抱え込みたくない。
『いや、それは遠慮するよ。わたしは今からナビム要塞へ行って、ドラゴンロードやオーガロードと戦わなきゃいけないから』
言わなくてもいいのに、うっかりホントのことを言ってしまった。
「ええっ! ドラゴンロードやオーガロードを退治に行くですとぉっ?」
分隊長が叫ぶように言うと、周りにいた兵士たちから「おおっ!」と驚くような声が上がった。ドラゴンロードは退治するんじゃなくて捕らえるんだけど、それをいちいち説明してられない。
『じゃあ、行くね』
手を振りながら飛行魔法で上空に舞い上がった。兵士たちが一斉にこちらを見上げているのがちょっと気持ち良かったが、すぐに後悔した。
つい調子に乗って恰好を付け過ぎてしまった。でも今はそんなことを反省しているよりも、ナビム要塞の奪還に集中しなけりゃいけない。
ワープするところを人に見られたくないから王都の上空1ギモラくらいまで上がった。
上空から見渡すと、眼下にはクドル湖が広がっていた。朝日に照らされて湖面がキラキラと輝いている。そのクドル湖に沿って街壁に囲まれたラーフランの街並みが三日月の形に伸びている。
そしてクドル湖からラーフランの街並みを挟んで、その反対側。街壁の外側で黒々と蠢く無数の影は魔族軍だ。その遥か遠くにナビム要塞が見えるが、魔族軍の陣形はその要塞の先まで続いている。その数は数万どころではないだろう。
この魔族軍が王都の中になだれ込んでいたら、どうなっていたことか……。
おっと。今はそんなことを考えている場合ではない。
フォレスランの拠点にワープして、少し待っているとダイルが現れた。すぐにダイルの手を取ってラーフランの自分の拠点にワープで戻ってきた。
拠点の裏庭に出て、二人で飛行魔法を発動した。ダイルはナビム要塞へ向かい、オレはその上空へ向かうのだ。
上昇を続けていると今度はニコル神から念話が飛び込んできた。
『ケイさん、助けてくれ。母上がドラゴンロードに追われているらしい。母上の使徒が知らせに来たんだ。ドラゴンロードを相手に母上が飛行魔法で逃げ切れるかどうか……。ケイさん、お願いだ。母を助けに行ってほしい。場所はナビム要塞の上空だ。頼む……。頼みます』
必死の思いが念話から伝わってきた。ニコル神は母親のことを死ぬほど心配しているようだ。
『分かった。今から助けに行くよ。ニコル神、あなたは今のまま結界の維持を続けて。何かあれば連絡するから』
最高速度でナビム要塞の上空へ向かった。
助けに行くと言ったけど、正直言って全然自信がない。
ドラゴンロードにオレは勝てるだろうか……。
※ 現在のケイの魔力〈1317〉。
※ 現在のユウの魔力〈1317〉。
※ 現在のコタローの魔力〈1317〉。




