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SGS310 魔族のボスが現れた

 オレはジョエリ神の使徒たち三人を連れて魔獣たちが暴れた大通りに向かった。外は既に陽が出て明るくなっていた。大通りに出ると、兵士たちや住民たちが協力しながら崩れた建物の中から怪我人を運び出していた。


 住民たちの話では、ナリム王子とその配下のロードナイトたちが怪我人の治療を始めているとのことだ。オレの伝言がちゃんと伝わったようだ。


 これならジョエリ神の使徒たちに手伝ってもらわなくても大丈夫だ。それで使徒たちには王城へ行ってもらうことにした。城内にも大勢の怪我人がいるし、官吏たちも混乱しているだろう。そっちの救護と事態の収拾を頼んだ。


 オレは大通りや広場を広域キュアを発動しながら何度も往復した。ヒール魔法なら即時に完治できるのだが、1日の発動回数が十数回に限定されているから安易に使うべきではないし、一度に複数人を治療することもできない。それに比べて広域キュア魔法は一度に大勢を治療できる。ヒール魔法のようにすぐには完治できないが、切り傷や骨折くらいなら1日もあれば治るだろう。


 命に関わるような大怪我をしている者や手足を失っている者に対してはキュア魔法で直接治療した。広域キュアでは完治できないからだ。


 怪我人やその家族たちは何度もオレに礼を言ってくれた。中には手を合わせてオレを拝む者やお金を差し出す者もいたが丁重にお断りした。


 大通りや広場での治療がほぼ終わった頃に大通りを歩いてくるナリム王子たちに出会った。王子を護るようにその左右を歩いているのはクラードとアーラだ。アルロのパーティー仲間で、最近はずっとアルロ王子の護衛をしているようだ。


 念話で声を掛けると、ナリム王子たちもオレに気付いて顔をこちらに向けた。


『ケイ様! 仮面を被っておられたので誰だか分かりませんでした。伝言、聞きましたよ。おかげさまで怪我人たちを救出することができました。それにしても、どうして王都の中に魔獣が現れたんでしょうね。何かご存じですか?』


『うん。実はね……』


 簡単に事情を説明した。


『そんなことが……。王都に現れた魔獣の群れがバーサット帝国の侵攻作戦だったとは驚きです。でも、ケイ様のおかげでこの国が滅びずに済みました。ありがとうございます』


『いや、礼を言われるのはまだ早いよ。王都の中の安全はほぼ確保できたと思うけど、王都の外はまだ危険だからね。それにお城の中だってまだ混乱してると思うし……。それでさっきジョエリ神の使徒たちにお願いして城へ行ってもらったんだ。事態の収拾に当たってもらうためにね』


『そうでしたか……。では私もクラードやアーラと一緒に城へ向かいます。王様たちの安否や城の被害が気になりますから。自分にできることがあれば一緒に協力するつもりです。ケイ様はどうされますか?』


『わたしはニコル神の拠点に行こうと思う。ジョエリ神がナビム要塞へ偵察に行ってるんだけど、偵察から戻ってくるかもしれないから』


 ナリム王子たちと別れてニコル神の拠点に向かっていると、当の本人から念話が入ってきた。神族封じの首輪による念話だが、普通の念話と遜色なくクリアに会話ができる。


『ケイさん、たいへんだ! ドラゴンロードが現れた。場所はナビム要塞の上空だ。ドラゴンロードは悠々と旋回を続けてるそうだ』


 ナビム要塞の上空と言えば、ジョエリ神も同じところで偵察をしているはずだ。


『ジョエリ神は偵察から戻ってきた? 無事なの?』


『いや、まだ戻ってない。無事かどうかも分からない。要塞の上空にドラゴンロードがいるから無理はしないと思うが……』


『分かった。何かあったらまた連絡して』


 ニコル神との念話を終えて、これからどうするべきかをユウとコタローに相談することにした。もちろん高速思考での念話だ。


『わたしもナビム要塞へ偵察に行った方が良いのかな? どう思う? ドラゴンロードってどれくらい強いんだろ?』


『ドラゴンロードは魔族の最上位種だわん。不老不死で世界に数頭しかいないらしいぞう。ウィンキアソウルから全魔族の支配を任されていることは分かっているわん。最強の魔族ってことだにゃ』


『全魔族を支配している最強の魔族ねぇ……』


 これは魔族のボスが現れたってことか? 戦う気力が一気に失せた。


『ええと、一応聞いとくけど、具体的な魔力とか分かってる?』


『魔力は〈1400〉だにゃ。それと飛行魔法の専用魔石と誘導爆弾の専用魔石を体内に持っていることは分かってるわん。誘導爆弾の魔力は〈800〉らしいにゃ。誘導爆弾を撃ってくるにゃら、最大出力〈2200〉で撃ってくる可能性があるわん。直撃を受けたらケイでも一発で死ぬぞう』


『それは怖すぎるな……』


『もっと言えばだにゃ、ナビム要塞には複数のオーガロードが現れていることを忘れたらダメだぞう』


『でも、そのオーガロードたちはラーフ神の一族が退治していたはずよ?』


 ユウがオレの代わりにコタローへ反論してくれた。


『だけどにゃ、退治しきれないで生き残っている可能性があるわん。もしオーガロードが生き残っていたにゃら、ナビム要塞に近付いたときに地上と空から挟み撃ちになるかもしれにゃいぞう』


『以前にクドル・パラダイスのバーサット砦で戦ったときと同じだね。あのときもバーサット砦にいたオーガロードに危うく殺されそうになったから』


『あのときよりもずっと危険だわん。ドラゴンロードがいるからにゃ』


 たしかに……。ドラゴンロードもオーガロードも誘導爆弾で攻撃してくるから要注意だ。


『ケイ、危険すぎるわ。ナビム要塞へ偵察に行くのは止めた方がいいわよ』


『いや、ユウ。それは違うにゃ。ケイは偵察に行った方がいいぞう。危険はあるけどにゃ』


『どうしてよ? わけを言いなさいよ!』


『ナビム要塞を魔族に奪われたらにゃ、クドル3国は喉元にやいばを突きつけられたような状態になるぞう。それを防ぐためにはにゃ、偵察に行って状況に応じた対策をちゃんと立てるべきだわん』


『それもそうだね……』


 気は進まないがコタローの言うことも尤もだ。偵察に行くしかないな……。ドラゴンロードとは戦わずに逃げに徹すれば何とかなるだろう。


 高速思考を解除して飛行魔法を発動しようとしたとき、数十人の兵士たちがこちらへ歩いてくるのが見えた。王城へ向かっているらしい。大半の兵士たちはドロドロに汚れていて、怪我人も多いようだ。数人の兵士が負傷者を担架で運んだり肩で支えながら歩いていて、その中に見知った顔がいた。オレがロードナイトにした分隊長だ。


『何があった? この兵士たちは?』


「あっ! 闇国の魔女様……。お会いできて良かった。どうかこの兵士たちを治してやってください。ナビム要塞から撤退してきた者たちです。要塞はオーガロードなどの魔族たちに占拠されてしまって、魔族軍に追われながら命からがら逃げてきたようです。自分たちの分隊はそれを知って、こうして手を貸しておりました」


 オレは頷いて広域キュアの魔法を発動した。ナビム要塞から撤退してきた兵士たちの数は三十人くらいだ。その中の半数近くが重傷者だったからキュアで直接に治療した。


 治療をしながら兵士たちに尋ねると、もう少し詳しい状況が分かった。夜中に魔族軍が放ってきた爆弾の魔法で要塞の城壁が一部崩れてしまい、あっという間に要塞は魔族軍に占拠されたそうだ。おそらくその爆弾魔法はオーガロードが放ったものだろう。ナビム要塞が魔族の手に渡ってしまったことは確かなようだ。


 兵士たちに要塞からの撤退命令が出たとき、城壁の外に逃げ出ることができたラーフラン兵は千人以上いたらしい。だが要塞は数千の魔族軍に囲まれていた。兵士たちは夜の闇に紛れて散り散りに逃げるしかなかった。どうにか王都の近くまで逃げてくると、ラーフランの街はさらに数万の魔族軍に囲まれていた。運が良い者だけが味方に出会えて、街壁の中に戻ることができたようだ。おそらく要塞から脱出した兵士の大半が討ち取られてしまったのだろう。


 それとドラゴンロードの話も聞くことができた。要塞の上空にはいつの間にかドラゴンが現れていて、今も旋回を続けているとのことだ。兵士たちは逃げながら上空を見上げて腰を抜かすほど驚いたらしい。夜明けの要塞の上空を旋回しているのは全身が緑色に輝く巨大なドラゴンで、それがドラゴンロードであることは一目瞭然だった。その姿を見て、逃げのびることを諦めた兵士たちが多かったと言う。


 ラーフ神たちのことも尋ねてみたが、神族がどうなったか知っている者はいなかった。


 兵士たちの治療が終わった後、ユウが高速思考で話しかけてきた。


『戦争って残酷よね……』


『うん……』


 言葉が出て来なかった。ドロドロでボロボロの兵士たちの姿を見て、残酷という言葉だけではとてもじゃないがその悲惨さは言い表せない。そう思った。


 兵士たちの顔にこびり付いた泥。頭や顔にへばり付いた髪の毛。頭や目尻から何かが流れ出た跡があるのは汗か涙か、それとも血の跡なのか。泥と汗と血とアンモニアの入り混じったような臭い。苦痛のあまり漏れ出るうめき声。


 でも、この兵士たちは生き残っている。この兵士たちが逃げてきた畑や森の中には累々と屍が横たわっているはずなのだ。もっと生きたかっただろう人たちの思いを考えると居たたまれない気持ちになる。


『でもね、ケイ。戦争の被害は少しでも抑えることがきるかもしれないわよ。あなたが頑張れば、だけど……』


 ユウはオレの気持ちが落ち込んだのを感じ取ったみたいだ。でもその言葉は励ましにはなっていない。プレッシャーにしかならない。


『ユウ、それはわたしに期待しすぎだよ。わたしがいくら頑張っても、どれほどのこともできないから……』


『それは、やってみないと分からないわよ』


『とにかく今はナビム要塞へ偵察に行って、何ができるか考えようか』


『要塞の偵察はもう必要ないと思うわよ。兵士たちから聞いた話で要塞の状況は分かったから。要塞が魔族たちに乗っ取られたことは確かよ』


『ユウ、それは違うわん』


 コタローがオレたちの会話に割り込んできた。


『乗っ取られたと言ってもにゃ、今はまだ魔族たちも完全に守りを固めてはいないはずだわん。ケイ、要塞を取り戻すにゃら、今動くべきだぞう』


『コタロー、無茶を言わないで! 私もケイに頑張るように言ったけど、いくらなんでもケイが一人で要塞を取り戻すなんて危険すぎるわよ。地上と空から挟み撃ちになると言ってたのはコタロー、あんたなのよ!』


『オイラはケイが一人で要塞を取り戻せとは言ってにゃいぞう。ナビム要塞を占拠しているオーガロードたちの排除はダイルに頼んだらどうかにゃ。そうすればにゃ、ケイはドラゴンロードとの戦いに集中できるわん』


『そうね……。ダイルに危険なことはさせたくないけれど、こうなったら仕方ないわね。ダイルならオーガロードを退治してくれると思うけど……』


 ユウはダイルのことを心配しているようだが、オレのことは? オレがドラゴンロードと戦うとすれば、オレの方が危険だと思うんだけど?


 それはともかく、たしかにオーガロードの相手はダイルに任せれば大丈夫だと思う。クドル・パラダイスのバーサット砦で戦ったときも何頭もいたオーガロードをすべて倒したのはダイルだったから。


『でも、ダイルはフォレスランの救援をしている最中だから、今は手が離せないんじゃないかな?』


『ケイ、その心配はないぞう。ダイルはフォレスランでの救援を一段落させたところだわん。さっきまでオイラが手伝っていたからにゃ』


 コタローが自慢げに言うのは、コタローがダイルを支援していたからだ。オレが住民たちの治療を続けている間にもダイルとは念話でお互いの状況を連絡し合っていて、治療で手が離せないオレの代わりに少しだけミサキ(コタロー)がダイルを手伝っていたのだ。


 ナビム要塞のことはダイルにお願いするとしても、問題はドラゴンロードだ。コタローはオレがドラゴンロードと戦うことを前提に話をしているけど……。


 ※ 現在のケイの魔力〈1317〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈1317〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈1317〉。


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