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SGS302 魔族総攻撃の緒戦その2

 ベルドランとカイエンでの結果を先に言っておこう。ベルドランもカイエンもそれほど手間取らずに敵を捕らえることができた。神殿も無事だった。神殿に侵入してきた敵はそれぞれ一人ずつで、捕らえるのが容易だったからだ。


 ダイルがベルドランの神殿で捕らえた侵入者は女性で、オレがカイエンの神殿で捕らえたのも女性だった。


 二人とも35歳くらいで、オレはすぐに捕らえた女性たちを尋問した。


 カイエンで捕らえた女性を目覚めさせて念話のリンクを開いたときに、その女性の念話からは悲しみの感情が流れ込んできた。女性は魔法で全身がマヒしていて、目だけを動かせる状態だったが、見開いた目から大粒の涙が溢れ出ていた。


『どうか私を殺してください……』


 オレはそう言われて戸惑った。オレが自分も同じように召喚されてきた日本人だと話してからこの女性に名前と事情を尋ねると、女性は泣いていた理由を素直に話してくれた。


 その女性はケイコだと名乗った。日本では夫婦共働きで子育てをしていたらしい。日本に残してきたのは女の子で、ケイコが召喚されてきたときにその子はまだ2歳だったそうだ。あれから6年が過ぎているから今は8歳になってるはずだ。


 ノブが言っていたことと違うのは、神殿の破壊を成功させたらケイコを日本に帰すと組織から約束を取り付けていたことだ。ケイコはそれで頑張った。自分の子供にもう一度会いたい。女性はその一心で、たった一人で神殿を攻撃して破壊するという難題に果敢に立ち向かったのだ。


 だが、それに失敗して捕らえられてしまった。もう二度と子供に会えないと思って泣いていたらしい。


 オレはその話を聞いて心から同情してしまった。そして、どうにかしてこの女性を日本に帰してあげたいと思った。


 それはベルドランの神殿で捕らえた女性を尋問したときも同じだった。


 ダイルが捕らえた女性の名前はサクラ。ケイコよりも少し年上のように見えた。


 オレが尋問すると、サクラも日本に二人の子供を残していることが分かった。召喚されてきたとき、サクラはその1年前に仕事を辞めて専業主婦になり、子育てに専念している最中だったらしい。残してきた子供たちは3歳の男の子と生後8か月の女の子だったそうだ。


 サクラもケイコと同じように神殿の破壊を成功させたら日本に帰すという約束を得ていたらしい。


 それ以外のことはケイコもサクラもノブと同じように何も知らなかった。


 ケイコとサクラも石化して、それぞれカイエンとベルドランの神殿に預けた。


 これでレングラン王国、ベルドラン王国、カイエン共和国の3国は神殿を守ることができた。首都の周囲に結界魔法が張り巡らされている限り、その中に魔族が攻め込んでくることは無いだろう。


 一方、ラーフラン王国は神殿を破壊されてしまったが、予備の結界に切り替えている。結界魔法が消えていたのは15分間ほどだったから、それほど心配は要らないだろう。オレはラーフランの状況をそう考えていたが、実はその甘い考えを後悔することになった。その話はもう少し後ですることにして……。


 ベルドランでサクラの尋問を終えた後、オレが心配していたのはラーフランのことではなくメリセラン王国とフォレスラン王国のことだった。オレたちでは守り切れないために両国を支配する神族へ警告の手紙を出しただけだったからだ。


 両国では満月が1時間以上前に中天を過ぎっているはずだ。神殿は無事だろうか……。オレはその状況が気になった。それでダイルを伴って、まずメリセランへワープした。


 ………………


 ワープ先はメリセランで拠点にしている家の中だ。ワープしてきた途端に外の喧騒が聞こえてきた。


 女性たちの悲鳴や子供たちが泣き叫ぶ声、それに混じって男たちの喚き声や明らかに人族のものではない怒鳴っているような声も聞こえる。


 急いで外に出てみると、異様な光景が目に飛び込んできた。家の前の通りを住民たちが群れになって逃げていく。群れの外側には何頭ものオークたちがいて、住民たちをどこかへ追い立てているのだ。


 よく見ると、逃げている住民の大半は女性や子供だった。赤ん坊を抱っこしたり、子供の手を引いたりしている女性も多い。


 時々オークたちは群れの中から人族を引っ張り出していた。群れから引き出されているのは男性や年寄りだ。抵抗したり泣き喚いたりしているが、近くの家の庭に連れ出されて、棍棒などで殴り殺されていく。


 どうやらオークたちは女性や子供だけを生かして、男性や年寄りは殺しているようだ。その目的は明らかだ。種付けの対象にするか奴隷にするためだろう。


「これは……、最悪な状況だな……」


 ダイルの呟きが聞こえた。オレはそれにただ頷くだけで、声も出せずに玄関先から通りの様子を眺めていた。そのときオークたちがこちらを指さしているのが見えた。オレとダイルに気付いたようだ。


「おんなっ! こっちへ来い!」


 家の庭に入ってきたオークは二頭だ。同じような革の服を着ているから兵士なのだろう。それぞれ棍棒を手に持ったままで構えもせずに近寄ってくる。オレたちを舐めていることは確かだ。


 オレが魔力剣を発動しようとすると先にダイルが動いた。


『ちょっとだけ行ってくる』


 念話と同時に目の前のオークたちが倒れた。ダイルはその勢いのまま通りに走り出て、魔力剣でオークたちを手当たり次第に斬り倒していく。


 オレはその間、探知魔法を最大限に広げて状況を探った。


 拠点として使っているこの家は王都の南側にあって、街壁も近い。この辺り一帯には数えきれないほどのオークが入り込んでいた。探知範囲の中だけで五千頭から一万頭くらいのオークがいるようだ。


 街壁の外にもオークたちがひしめき合っていた。数万頭はいるだろう。オークたちは街壁の南門から続々と王都の中に入って来ている。


 オレの探知魔法は半径1300モラほどの範囲しか探れないから、王都全体がどうなっているのかは分からない。それでダイルに念話で断りを入れて、飛行魔法で王都の上空を飛んで探知魔法で探ってみた。


 王都の東側にはオークの気配はないが、なぜか複数の魔獣が王都の中に入り込んでいることが分かった。探知に反応があった魔獣は二十頭ほどだ。王都の東側は街壁を隔てて魔樹海と隣接しているから、そこから入ってきたのかもしれない。


 王都の北側や西側はまだ無事なようだが、オーク兵たちは1時間も掛からずに押し寄せるだろう。


 その状況をダイルに念話で伝えて、オレは拠点の玄関先に降り立った。


 5分ほどでダイルも戻ってきた。


『これはダメだな。オーク兵たちを数十頭は倒したが、いくら倒してもキリがない。メリセ神へ送った警告の手紙はムダだったみたいだな』


 ダイルは疲れたような顔をしている。


 こんな状態になってしまって、オレたちに何ができるだろうか……。


『自分たちにできるのは、あの中の何人かの母子を助け出すことくらいかな……』


『ああ、そうだな』


 ダイルは唇を噛んでいる。その気持ちはよく分かった。


『フォレスランも同じかな? メリセランがこの様子なら、フォレスランも似たような状況かもしれないけど』


『ああ、確かめなきゃいけないな。メリセランはとりあえず置いておいて、フォレスランへ行こう』


 ダイルが手を伸ばしてきた。オレはその手を握って一緒にワープした。


 ※ 現在のケイの魔力〈1306〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈1306〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈1306〉。


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