SGS300 最大の危機を乗り越えるには?その4
オレは偵察結果を直ちに会議の参加者たちに知らせ、配置に就かせた。ダイルはレングラン王国、フィルナはカイエン共和国、ハンナはベルドラン王国、そしてオレはラーフラン王国の神殿を守るという手筈だ。
神殿の神官や警護の魔闘士たちへは事前にそれぞれの神族から連絡済みだ。だからダイルたちが神殿で潜んでいることには何の問題もない。ダイル、フィルナ、ハンナからは受け持ちの神殿で配置に就いたとの連絡があった。
ところが、オレだけがラーフランの神殿の守りに就くことはできなかった。それはナゼかと言うと、ニコル神が神殿の者たちに信用されていないからだ。もしニコル神が神殿の者たちへ事情を説明したりすれば、すぐに父親のラーフ神の知るところとなって、ニコル神が何か企んでいると父親から疑われてしまうそうだ。
事前の連絡ができていないから、もしオレが無理に神殿に潜んでいて見つかったときに、神殿の者たちに不審者と思われて却って混乱を招くだろう。
仕方がないからオレはダールムの家で待機して、ニコル神からの連絡を待っていた。オレの代わりに神殿で警戒しているのはニコル神だ。敵が神殿に侵入してきたらニコル神が念話でオレに連絡してくることになっている。オレはすぐにワープを使ってニコル神のところへ瞬間移動するから問題は無いはずだ。
だが、ただ待っているだけでは時間の進みが遅い。手持ち無沙汰だ。オレは昨日の会議のことを思い出していた。
会議でオレの配置案に反対したのはザイダル神だ。満月が中天に懸かる時刻に1時間の時差があることは理解してくれたが、それでも心配なようだ。万一各国の神殿が同時に襲われた場合は、すぐに予備に切り替えて結界魔法を直ちに発動し直せば王都に魔族が侵入することはないと説得し、どうにか了解してくれた。
ちなみに結界魔法が予備の魔具に切り替わって、敵がそれに気付いて探し回ったとしても、その予備の魔具が王都のどこにあるのかは分からないはずだ。簡単に見つけることはできないだろう。
会議の中ではオレたちが守ることができない国々をどうするのかも協議した。特に問題なのがフォレスラン王国とメリセラン王国だ。この2国は神族たちに支配されているから今回の攻撃対象になっていることは間違いない。神殿が破壊され結界が消えて、王都の中に魔族軍がなだれ込んでくるはずだ。
オレはそれを両国に知らせるべきだと主張した。だが、知らせても信じてもらえないだろうというのが大方の意見だった。それでもオレは強引に進めた。レング神にお願いして、今回の危機についての手紙をメリセ神宛てに書いてもらった。
それをオレがメリセランの神殿に届けに行き、そこの神官に「これはレング神様からの危急の知らせだから、すぐにメリセ神様に渡してほしい」と頼んできた。レング神とメリセ神は親交があるとのことだから、手紙さえ届けば信じてもらえるかもしれないと考えたのだ。
フォレス神宛ての手紙はアイラ神に書いてもらった。オレの味方の中でフォレス神と親しい神族はアイラ神だけだったからだ。偵察が終わった後、オレはカイエン共和国へワープしてアイラ神に会ってきた。今回の危機について説明し、手紙も書いてもらった。その手紙をフォレスランの神殿に届けた。
マリエル王国とブライデン王国へも今回の危機のことを知らせて、万一に備えて警戒するように伝えておいた。新婚旅行のときに両国の首脳とは仲良くなっていたから、オレの言葉は素直に信じてくれた。
ダールム共和国とアーロ村はそれぞれガリード兵団とナムード村長たちが守っているから大丈夫だろう。
神族が支配する国々に対して魔族が一斉に総攻撃を仕掛けてくるのは初めてのことだそうだ。人族にとって最大級の危機と言っていいだろう。しかもそれを裏で操っているのはバーサット帝国らしい。そのことを踏まえて昨夜の会議を締めくくるときにオレは仲間たちにこう告げた。
『この仲間たちで連携し合って力を合わせれば、今回の最大級の危機はきっと乗り越えることができると思う。この危機を跳ね返して、魔族たちにもバーサット帝国にもあっと言わせてやろうよ!』
『ああ、頑張ろう!』
『ええ、バーサットのヤツらにあっと言わせてやりましょう!』
オレの言葉に仲間たちからは賛同の声が返ってきた。ただアルロだけは違った。新たな意見を付け加えてきたのだ。
『ケイ様。たしかに今回は最大級の危機ですが、見方を変えれば絶好の機会とも言えますよ』
『絶好の機会? アルロ、それはどういうこと?』
『この危機を上手く跳ね返すことができればクドル3国共同体や同盟の構想を一気に進めることができるかもしれません。総攻撃を受けた神族たちや各国の首脳たちに真の敵がバーサット帝国だと気付かせるんですよ。そうすればその脅威を思い知って、お互いに協力し合おうとするはずですからねぇ』
アルロの意見にすぐに賛意を示したのはダイルだ。
『たしかにな……。今回の魔族たちの総攻撃がバーサット帝国の企みだと分かれば、3国共同体や同盟の必要性も分かってもらえるだろうな。それに俺たちの支援のおかげで各国がこの危機を乗り切れることができれば、ケイや俺たちの実力を神族や各国の首脳たちにアピールできるはずだぞ』
『ダイル様、そのとおりですよ。この絶好の機会を上手く活かすべきです』
さすがはアルロだ。ピンチの裏にチャンスあり。それを活かすも殺すも自分次第ってことだ。
『それと、ケイ様。今回の魔族の総攻撃に対して守りを固めて跳ね返すだけではダメだと思います。備えるべきことがまだあるんですよ……』
ここでは省略するが、アルロはさらにオレたちが気付いていない知恵も出してくれた。
『じゃあ、みんな。この危機を乗り越えて、自分たちが目指しているクドル3国共同体や同盟の設立に繋がるように頑張ろう!』
それが昨夜の会議でオレが締めくくった言葉だ。何となく上っ面な言葉で終わったのはオレの気持ちに余裕が無かったからだ。
アルロが言ってることは分かるし、オレもこのピンチをチャンスに変えたいとは思う。でも、心の中は不安でいっぱいだった。魔族たちの総攻撃を本当に自分たちが跳ね返すことができるのだろうか。しかもバーサット帝国が裏で操っているらしいから、予想もしない手を使ってくるかもしれない。
会議が終わった後、帰ろうとするアルロをオレは呼び止めた。アルロに自分の使徒になってほしいと頼むためだ。アルロの知恵と助言は欠かせない。バーサット帝国の謀略を跳ね返すためにも、クドル3国共同体を立ち上げて発展させるためにもアルロが必要なのだ。
アルロは「僕のような取り柄のない弱い男がケイ様の使徒になって大丈夫ですか?」と自信なさそうに言ってたが、何とか口説き落とすことができたのだった。
………………
昨日の会議のことを思い起こしていたが、今はこれからの戦いに意識を集中するべきだ。
ニコル神からはまだ連絡が無い。満月が中天に懸かるまではもう少し時間がある。だが、こうしてそのときを待っている間もじりじりとその不安は増していく。
ともかく自分たちができる対策はすべて講じた。後は敵が動きだすのを待つだけだが……。
………………
ダイルから念話が入ってきた。満月が中天に懸かるまでまだ30分ほどある。
『連中が神殿に侵入してきたぞ。二人だ。予想よりも人数が少ないな。じゃあ、始めるぞ』
『了解。気を付けて』
レングランの神殿で攻防戦が始まった。後のことはダイルに任せるしかない。
ラーフランの神殿でもすぐに動きがあるだろう。ニコル神からの連絡を待つだけだ。
………………
5分ほど経って、ダイルから再び連絡が入った。
『相手の二人を捕らえた。マヒを掛けて眠らせている。こっちは被害なしだ。で、どうする?』
『そのまま、その場で待機していて。こっちはまだニコル神から連絡が来てないから』
『了解』
さすがはダイル。余裕で敵を捕らえたようだ。
………………
ダイルが敵を捕らえたと連絡して来てから10分以上が経ったが、まだニコル神からは連絡が来ない。ラーフランでは敵の動きが遅れているようだ。
………………
さらに5分が経ったが、まだ連絡が無い。
『ニコル神、まだ敵は動いてないの?』
こちらから念話で呼び掛けてみたが返事が無い。おかしい。何か異常な事態が発生しているのか……。嫌な予感がしてゾワッと鳥肌が立ってきた。
※ 現在のケイの魔力〈1306〉。
※ 現在のユウの魔力〈1306〉。
※ 現在のコタローの魔力〈1306〉。




