SGS298 最大の危機を乗り越えるには?その2
この会議に参加している神族たちは、オレやダイルが天の神様と同じ異世界から召喚されてきたことや、オレが初代の神族と同じ能力を持っていることは知っている。こちらの味方になったときにオレが説明したからだ。
だが、オレと一緒に召喚されてきた人たちがバーサット帝国によって連れ去られたことはまだ説明してなかった。今この場で説明しておく必要があるだろう。
『説明が遅れてすみません。実は数日前に分かったことなんですけど……』
バーサット帝国がその人たちを連れ去って、魔闘士として訓練している可能性が高いことや、その人たちは6年ほど前にミレイ神によって召喚されてきたことなどを説明すると、レング神は怒りの感情が交じった念話を投げかけてきた。
『ミレイめ! 三十人を越えるほどの異世界人を召喚しておきながら、それを無責任にも放置するとは……。しかも、その者たちをバーサット帝国にむざむざ連れ去られるとは何たることだっ!』
『しかし、レング神殿。そのミレイ神はあなたの夫人だったはず。あなたの責任はどうなのですか?』
ニコル神からの念話だ。
『むむむっ……。すべてはミレイが我に隠れて行ったことだ。我の責任を問われても答えようがない』
話が逸れている。本題に戻さないとマズイな。
『ちょっと待って。今はそんなことを言い合ってる場合じゃないですよ。それよりもアルロの話がまだ途中だったから、話の続きを聞きましょう。バーサットに連れ去られた異世界人たちが魔闘士としての訓練を受けて、各国の神殿を破壊するために潜入してくる。その可能性が高いってことだよね。そこまでは分かったから、アルロ、話を続けてよ』
『はい。バーサットが連れ去った異世界人の数を二十五人くらいだと想定して話を続けますね。神族が支配している国はレングラン、ラーフラン、フォレスラン、メリセラン、ベルドラン、カイエンの6カ国です。と言うことは、各国の神殿に潜入してくる異世界人は四人ほどでしょうねぇ』
『異世界人が四人ほどか……。それくらいの人数であれば、それが高位の魔闘士であっても打ち勝つことはできそうだな』
『レング神様、それほど簡単ではないと思いますよ。その人たちはダイル様と同じように自分の魔力を隠すことができるはずです。だから普通の人族と見分けがつきません。ダイル様、そうですよね?』
『えっ? 魔力を隠すって言うと……。あぁ、探知偽装のことか。いや、異世界人だったら誰でも探知偽装の能力を使えるってことじゃないぞ。探知偽装はソウルオーブの隠し機能なんだが、この隠し機能を使うためには天の神様と同じ異世界で生まれたソウルを持っていて、しかも神族の加護を得なきゃいけないんだ』
突然にアルロから呼び掛けられて、ダイルは慌てている感じだ。
『神族様のご加護? それはいったい何ですか?』
『簡単に言えば、神族の許可だ。神族と手を握り合って、その神族に心の中で許可するって念じてもらうだけなんだが……。その許可を受けていないと、ソウルオーブの隠し機能は使えないんだ』
『なるほど、それが神族様のご加護ですか。でも、バーサット側も異世界人たちに神族様のご加護を与えることはできますよ。ミレイ神様がバーサット側に寝返りましたからね』
『そうだった。ミレイ神が加護を与えたとすれば、アルロが言うとおり魔力を隠して神殿に潜入してくるだろうな。しかも、バーサット帝国はそいつらを高位の魔闘士に育て上げるために3年間みっちり訓練してるはずだ。魔力はかなり高まっていると思うぞ』
ダイルの念話にはちょっと不安気な感情が混じっている。ダイルに続いて発言したのはガリードだ。
『ダイルさん、アルロの推測が当たっているとすれば、問題となるのはその戦力だ。神殿の破壊工作に備えるとしても、相手の戦力を予測しておかないとちゃんとした対策が取れないからな。それで、その異世界人たちだが、この3年間でどれくらい魔力が高まっているだろうか? あんたの推測でいいから教えてくれないか』
今回の危機に対してはガリードの私掠兵団も大きく関わってくることになるから、他人ごとではないのだろう。
『俺の経験から言えば、おそらく魔力は〈500〉は越えているだろうな。魔力の高い者は〈800〉くらいになっているかもしれない。
自分で言うのもなんだが、魔力の上がる速度は俺よりは遅いと思うぞ。ダンジョンの最下層でみっちり訓練したとしても、人数が二十五人くらいいるからラストアタックの機会はなかなか回って来ないはずだ。それに、ソウルオーブの隠し機能を使えるようになったのもミレイ神がバーサット側に寝返った後だと考えると、まだこの半年ほどだからな』
『その隠し機能というのは?』
『色々あるんだが、大きな利点を言えば、相反する属性の魔法を使えるようになるってことと、スキルの登録が簡単になるってことだろうな』
『ダイルさんと同じように〈火〉の魔法でも〈水〉の魔法でも属性に関係なく魔法を使えて、しかも魔力も戦闘のスキルも高いとなると、これは普通の魔闘士では敵いませんよ』
『そうだな。明日の夜、敵の攻撃から神殿を守るためには、神族かその使徒を配置しないとダメだろう。神族や使徒であれば、潜入してくる敵と同じような能力を持っているからな。
いや……、今の言葉は撤回する。神族や使徒でも敵わないだろうな。相手は俺やケイと同じように無詠唱で魔法を使えるはずだ。敵は俺やケイと同じ世界で生まれてるからな。無詠唱で魔法を使うことができるから、神族や使徒の十倍かそれ以上速く、立て続けに魔法を発動できるってことだ』
『と言うことは、ダイルさん。レングランの神殿を守るためには、敵一人に対してこちらは十人くらいの神族や使徒を神殿に配置しないと守り切れないということになる。敵が三人か四人なら、こちらは三十人か四十人の神族や使徒が必要だ。それをするためには、すべての使徒をかき集めれば可能であろうが、守らねばならぬのは神殿だけではない。半数は我らの館に配置して守りを固めておかねばならぬからな。これは困ったことになった……』
レング神からは困惑の感情が伝わってくる。
『ケイさん、ダイルさん、ラーフランはもっと困った状態なんだ』
発言してきたのはニコル神だ。言いたいことの予想はつくが、話を聞くしかないな。
『ラーフランの神殿を守るために配置できるのはおれの使徒五人とおれ自身だけだ。おれが親父や母親たちを説得しても話を信じてくれないだろうし、その使徒たちを神殿に配置するのも無理だ。知っていると思うが、両親はおれが親父の暗殺を企んでいると疑っているからな。使徒たちを神殿に集めるよう進言などしたら、間違いなくおれが何かを企んでいると警戒するだろう。それで、ケイさんとダイルさんにお願いしたいことがあるんだ』
これも想像がつくが、とりあえずは話を聞くしかない。
『言ってみて。その願いを叶えることができるかどうかは分からないけどね』
『お二人にラーフランの神殿を守ってもらいたい。ケイさんとダイルさんに協力してもらえれば異世界人の攻撃を防ぐことができるだろうからね』
『おい、ニコル神。勝手なことを申すな。ケイさんとダイルさんに一番近しい神族は我らレング一族だ。二人に守ってもらうのはレングランの神殿だ』
『待て待て。ニコル神もレング神も現実をわきまえて発言してくれ』
割り込んできたのはザイダル神だ。
『ザイダル神、どういうことだ?』
『ダイルさんは今、おれと一緒にベルドランの王宮にいる。その理由はな、おれの一族とベルドラン王国をぜひ自分たちの味方に加えたいと言って、ダイルさんはおれの一族を説得するためにベルドランに来ているからだ。ダイルさんにその気持ちがあるのなら、ここはベルドランの神殿の守りに就いて、味方をする意志と実力を示すべきだろう。ダイルさん、どうなのだ?』
『えっ!? たしかに俺がベルドランへ来てるのはベルド一族とベルドラン王国を味方に加えるためだが……。俺の配置を決めるのはケイだからな』
ダイルはオレに振ってきた。これは困った。
※ 現在のケイの魔力〈1306〉。
※ 現在のユウの魔力〈1306〉。
※ 現在のコタローの魔力〈1306〉。




