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SGS288 召喚魔法は面倒くさい

 召還する前にマサシさんにはウィンキアのことを色々と教え込んでおくべきだろう。ちょうど好い機会だ。知育魔法を使って、マサシさんにウィンキアの言葉や知識を植え付けておこう。


「ちょっと眠っておいてください」


「えっ?」


 有無を言わせずにマサシさんを床の上で眠らせて、知育魔法を発動した。必要な言語や知識の植え付けはすぐに終わって、マサシさんを起こした。


「どうです? わたしの言ってることが理解できますか?」


 オレが話しかけている言葉はウィンキアの共通語だ。話しかけられたマサシさんは目を白黒させている。


「すごい。全然知らないはずの言葉が分かるし、こうやって喋ることもできる。ケイさん、魔法ってすごいんだねぇ」


「そのソウルオーブの価値も分かったと思いますけど?」


「ええと……。これがあれば魔法を使えるんだね? ちょっと装着して魔法を使ってみよう」


「いや、ここでは試さない方がいいですよ。部屋の中で初めて魔法を使って、何かあったら困りますから。あっちの世界へ行ってから試してください」


「ちょっとだけでもダメかい?」


 マサシさんは諦め切れないような顔をしている。


「それよりもマサシさんにお願いしたいことがあるんですけど……」


 オレはマサシさんの動画を撮ろうと思っていた。コトミさんがダイルと一緒にマリエル王国へ戻ることを拒んでいるそうなので、マサシさんにお願いしてコトミさんを説得してもらおうと考えたからだ。その動画を見ればコトミさんの気持ちも変わるだろう。


 マサシさんは快く引き受けてくれた。オレがスマホを構えると、マサシさんは少し恥ずかしそうにしながら語り始めた。


「古都美、僕はもうすぐそっちの世界へ行くよ。ケイさんの魔法で連れて行ってもらって、しばらくの間はマリエル王国というところで生活することになっているからね。マルも一緒に連れて行ってくれるそうだ。またおまえと一緒に暮らせるようになるなんて夢のようだよ。それと……」


 ちょっと言葉を切って、今度は覚えたばかりのウィンキアの共通語を使って話し出した。


「こうしてそちらの世界の言葉も話せるようになったんだ。ケイさんが魔法を使ってウィンキアの言葉や知識を教えてくれたおかげだ。本当に夢のようだよ。なぁ、マル……」


 最後はマルを抱えながら涙声になってしまって、言葉が続かなくなったようだ。


 撮影を終わったときはオレも貰い泣きしそうになっていた。だがそのときダイルから念話が入ってきて、その感傷的な気分を吹き飛ばしてしまった。


 なんとダイルはザイダル神という神族と戦って捕らえたと言うのだ。


 その話を聞いたときに不思議に思った。ダイルは今、海賊ドルドガンの本拠地にいるはずなのに、どうして神族と戦うことになったのだろうか?


 ダイルに尋ねると、驚いたことに海賊ドルドガンを支配しているボスがザイダル神だったそうだ。ザイダル神は本来はベルドラン王国を支配している神族なのだが、ベルドラン周辺に跋扈ばっこしている海賊たちを統合してその戦力を吸収し、より強大な国を作ろうとしていたようだ。


 実はザイダル神という男はダイルの仇だ。これはダイルと初めて会った頃に本人から聞いた話だが、まだダイルが夏川大輝という名前の人間の体だったときに、その大輝を殺したのがザイダル神だったそうだ。殺された直後にアイラ神によって死体から大輝のソウルが取り出されて、今の豹族の体に移植されたのだ。その詳しい経緯を語ると長くなってしまうのでここでは省くが、ともかく大輝の体を殺したのがザイダル神だったということだ。


 もしオレがダイルの立場だったら、憎しみのあまりザイダル神を殺してしまったかもしれない。それを殺さずに捕らえたのだから本当によく我慢したと思う。


 それと重要なことは、ザイダル神を生きたまま捕えたことで、ザイダル神に暗示魔法を掛けることができるということだ。これはザイダル神が支配しているベルドラン王国と良好な関係を築くことができる見通しが立ったということを意味するのだ。


『ダイル、すごいお手柄だよ。ダイルがザイダル神を捕らえてくれたおかげで、ベルド神一族をこちらの味方にできる目処が付いたからね。きっと同盟も結べるだろうね。ベルドラン王国との同盟なんてずっと先のことだと思ってたけど、その時期がぐんと早まりそうだ』


『まぁな……』


 オレがダイルの健闘を称えると、ダイルからはちょっと戸惑っているような感情が交じった念話が返ってきた。


 その後、マサシさんに断りを入れてからダイルのところへワープした。眠っているザイダル神に対して我々に逆らうことができないように暗示魔法を掛けた。ザイダル神が神族封じの首輪を2個持っていたので、1個は没収し、もう1個をザイダル神の首につけた。これでダイルもオレもいつでもザイダル神と念話ができるし、必要があればザイダル神のところへワープで瞬間移動できるようになる。


 そういった処置を終えて、後はダイルに任せてオレはマサシさんの部屋に戻った。ダイルに任せておけば、ザイダル神をオレたちの味方に引き入れてくれるはずだ。


 ワープで戻ると、マサシさんがマルを抱えながら部屋の中で待っていた。なんだか不安そうな顔をしている。


「よかった……。夢じゃなかったんだねぇ」


「どうしたんですか?」


「いや……。もし夢だったらって考えると、急に不安になってねぇ」


 その気持ちは分かるような気がする。


「心配ないですよ。夢じゃないですから。ええと、準備は全部終わったみたいですね?」


「ああ、終わったよ。いつでも向こうの世界へ行けるから」


「分かりました。それなら今から召喚魔法の準備に掛かりましょう」


「準備って?」


「実はね、召喚魔法はけっこう厄介なんですよ。ええと……」


 オレもコタローに教えてもらったのだが、召喚魔法というのは制約が色々とあって手間が掛かるのだ。


 制約その1。召喚魔法は神族だけが使える魔法だが、神族一人だけでは発動できない。誰か別の神族に協力してもらって、二人で一緒に呪文を唱えないと召喚魔法が発動しないのだ。


 ちなみにコタローに教えてもらうまでオレはもっと安易に考えていた。ユウやコタローと協力し合えば召喚魔法を発動できると考えていたのだ。だが、それではダメらしい。コタローの話では、ユウもコタローもオレと同じ異空間ソウルを共有しているから、異空間ソウルが1個だけでは召喚魔法は発動できないそうだ。


 制約その2。召喚魔法を発動してから実際に召喚が行われるまでに10時間ほどの時間が掛かるのだ。その間はずっと神族は協力し合って呪文を唱え続けなければならない。けっこうハードだ。ただし、初めから召喚する相手が特定できている場合はもっと時間を短縮できるらしい。やってみないと分からないが。


 制約その3。召喚する対象者の近くに他の人がいると召喚魔法に巻き込まれる可能性が高くなってしまうということだ。だからその対象者の周囲に誰もいないときを狙わなければならない。さらに実際に召喚が行われるまでは10時間ほども時間が掛かるから、その間は対象者の周囲に第三者を寄せ付けないことが求められる。一層厄介だ。


 ミレイ神がユウを召喚したときにバスの中に乗っていたオレや乗客たちが巻き込まれたのはこの制約に引っ掛かったせいだ。おそらくミレイ神は召喚魔法にこんな制約があることを知らなかったのだろう。


 制約その4。召喚魔法を使ってから次に召喚を発動できるまでに1年以上の期間が必要となることだ。召喚魔法が使えない期間は召喚してくる個体数が増えるほど長くなるらしい。


 召喚魔法は嫌になるくらい制約が多くて面倒くさい。


 オレがコタローから召喚魔法のことを詳しく教えてもらったときに、真っ先に反応したのはユウだった。


『それならコタロー、6年以上前のことだけど、ミレイ神が私を召喚したときに大勢の人たちを巻き込んだでしょ。もしそうだとすれば、ミレイ神は何十年かは次の召喚ができないことになるわよ?』


『そういうことだにゃ。あのバスには三十人以上の人たちが乗っていたからにゃ。ミレイ神はこの先も数十年は召喚魔法を使えないはずだぞう』


 その話を聞いてオレは不安になった。6年前にミレイ神が召喚魔法を使ったとき、妹のアイラ神も協力していたからだ。マサシさんを召喚するときにアイラ神に協力してもらおうと考えていたが、それは無理かもしれない。


『コタロー、アイラ神もその制約を受けるのかな? ミレイ神の召喚魔法に協力してたから……』


『いや、協力者はその制約は受けないはずだわん』


『それなら、今度もアイラ神に協力をお願いしよう』


 コタローたちとそんな会話があって、オレはフィルナ経由でアイラ神に事情を説明して協力をお願いした。アイラ神は快く召喚に協力すると言ってくれた。こちらからアイラ神へ連絡をすれば、アイラ神がマリエル王国のアレナ公爵邸まで来てくれる手筈になっている。召喚魔法の発動は明朝に行う予定だ。


 マサシさんに召喚魔法の制約を詳しく説明する必要はないが、関係することは説明しておかねばならない。


「ええと、わたしが召喚魔法を発動してから実際に召喚が行われるまでに10時間くらい掛かるかもしれません。その間はほかの人が近付かない場所で、マサシさんとマルだけで過ごしてもらいます。第三者を召喚魔法に巻き込まないようにするためです」


「じゃあ、この部屋で10時間くらい待っていればいいのかな?」


「いいえ、この部屋ではダメです。上の階や下の階の住人を巻き込んでしまうかもしれませんからね。誰も近付かない半径20メートルくらいの空間が必要ですね」


「でも、そんな場所は無いよ。どこか遠くの山の中くらいに行かないと……」


「ええ、そのとおりです。今からその場所へ行きましょう。もう手配はしてますから」


 オレはレンタカーを借りるために先に部屋を出た。マサシさんとは初めて出会った神社で待ち合わせて、そこからはレンタカーで目的地まで移動する予定だ。


 ※ 現在のケイの魔力〈1306〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈1306〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈1306〉。


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