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SGS284 こっちでも目・耳・手足を得る

 翌朝。オレとミサキ(コタロー)は藍花の家に来ていた。名前を呼び捨てにしているが、それは城多郎だけでなく、仁や藍花たちがオレの配下になり忠誠を誓ったからだ。


 ちなみに、オレは仁と藍花を魔乱の副頭領に任命した。昨夜、城多郎を頭領にすると発表した後、その場にいた一族の者たちに副頭領を推薦してもらって、この二人を選んだのだ。これまでは副頭領は一人だけで、正規要員の仁がその立場であった。しかし副頭領はもう一人ほしい。支援要員の中から推薦するようオレが指示すると、満場一致で藍花に決まったという訳だ。


 昨夜はその場で「ケイ様に忠誠を誓おう」と誰かが言い出して、最初に頭領の城多郎がオレに忠誠を誓った。副頭領となった仁と藍花がそれに続き、その後、一族の者たちが次々とオレに忠誠を誓った。大半の者が体育館の中に残っていたから、結局、それが魔乱の一族がオレの配下に加わる儀式となってしまった。


 その場にいなかった者は日を改めて忠誠を誓うことに決めて、昨夜は解散した。城多郎は藍花や仁たちと一緒に家へ帰って行き、オレは夜道を運転してユウの家に戻った。


 昨夜はユウの家で泊まり、朝になってレンタカーを返してから魔乱の村にワープで戻ってきた。


 魔乱の村に戻ってきたのには理由がある。まだ城多郎との話し合いが終わってなかったからだ。話し合いには藍花と仁にも加わってもらった。


 場所は藍花の家だ。この家は元々は信志郎の家で、城多郎やほかにも数名が一緒に生活しているそうだ。


 応接セットに腰掛けて話し合いを始めた。オレの前に座った城多郎は顔も服装も見違えるようにスッキリした感じになっていて、10歳くらい若くなったように見える。でも顔色は少し悪いようだ。


「気分はどう?」


「はい、まだ体全体が痺れていると言うか……、頭が重いというか……、とにかく気分は良くないですね」


「それはソウルが新しい体にまだ馴染んでないからだよ。何日間かはそんな状態が続くらしいから、我慢するしかないね」


「そうなんですか……。それと困ったことに、魔法も使えなくなりました。頭が痛かったのでキュア魔法を自分に掛けようとしたのですが……」


「魔法が使えなくなったのは拒絶反応が起きているせいだね。代わりにわたしがヒールを掛けておくから頭痛は消えると思うよ」


 オレは城多郎にヒール魔法を掛けながらソウル移植に伴う拒絶反応のことを説明した。


 ソウル移植をして新しい体にロードオーブを移し替えた後は、魔力が極端に弱くなる現象が起きて、移植後はほとんどの魔法が使えない状態になるのだ。それがソウル移植に伴う拒絶反応の症状だ。ソウルが新しい体に順応してきたら魔力は回復するが、それには1か月から数か月掛かるらしい。


「ええと、話し合いの本題に入るね。まず、この魔乱の舵取りをどうするかだけど……」


 魔乱をオレの配下とするが、その舵取りは城多郎たち三人に任せて、オレは必要なときだけ命令したり支援したりすることを申し渡した。


「そう言うことで、今までのように魔乱の使命を果たしてほしい」


「畏まりました。この三人で協力しながら魔乱を指揮して使命を果たしていこうと思います。ただ……」


 城多郎の顔色は冴えない。


「分かってる。それには足りない物があるって言うんだよね? 城多郎、あんたが昨日の話し合いで要求していたことだけど、あの要求には全部応じることにするよ。ソウルオーブと魔石を200個ずつ用意してきたから」


 そう言いながら異空間倉庫から皮の袋を2個取り出して城多郎に渡した。ソウルオーブと魔石がそれぞれの袋にぎっしりと入っている。


 城多郎たち三人は「おおっ!」と声を上げながらそれを受け取った。


「それと、要求はもう一つあったよね。補助脳を使ったインターネット監視のことだけど、ここにいるミサキがその仕掛けを作るから。ミサキ、ちょっと説明してあげて」


 ミサキ(コタロー)が頷いて説明を始めた。最初のうちは時々、遠慮がちに城多郎が質問を挟んだりしていたが、慣れてきたのか熱気を帯びた話し合いになってきた。


 話の内容はオレでもだいたい理解できた。魔乱は各地に拠点を持っているから、そのすべてに監視用のサーバーを設置して、この魔乱の村の地下空間にはその親サーバーを設置するそうだ。各サーバーにはミサキが作った外付けの装置を付ける。その基本的な仕組みは株取引用にミサキが作った装置と同じだ。装置の中にソウルオーブと大魔石を10個ずつ入れて、並列処理をさせるらしい。必要となるソウルオーブと大魔石はすべてオレが提供する。


 さらに細かい打ち合わせが続いた。各地のサーバーで監視対象を分担させるとか、インターネット上に無数の偵察プログラムと迎撃プログラムを放って各地のサーバーにそれをコントロールさせるとか、親サーバーとは重要情報だけをやり取りするから通信回線に流れるデータ量は少ないとか……。


 オレはその話し合いを聞いていて、本当に実現できるのか疑問に思い始めた。声に出してミサキに尋ねるのは恥ずかしいから、高速思考で問い掛けた。


『ミサキ、ちょっと聞いていい? インターネット上のコンピュータって、セキュリティチェックがしっかりと掛かってるから、ミサキが言うほど簡単じゃないと思うけど?』


『インターネット上には無数のパソコンやネットワーク機器が繋がってるでしょ。その中にはセキュリティが甘い機器が数えきれないほどあるのよ。それに、セキュリティがしっかり掛かっているように見えるコンピュータでも、実は穴がたくさん開いてるの。それを探し出すのも偵察プログラムや補助脳の役割よ。もしセキュリティプログラムに見つかりそうになったら偵察プログラムや迎撃プログラムは偽装したり迎撃したりするし、最悪の場合でも自分で消滅する仕組みがあるから発見されないわ。心配ないわよ』


『ふーん……。でも通信は? 偵察プログラムと監視サーバの間で通信をするよね。その通信が見つかってしまうんじゃないの?』


『通信も見つからないように隠れ蓑を作ってるから大丈夫。人間が作る物は完璧に見えても、実際は小さな隙間が無数に残っているのよ。そこに入り込んで偵察や迎撃、通信を行うし、仕事が終われば消滅する仕組みよ。安心して任せて』


 なるほど。ミサキ(コタロー)に任せておけば大丈夫なようだ。


 しかし城多郎はまだ何か不安そうな顔をしている。


「補助脳がインターネット上で監視するのはサイバーテロのようなものだけでしょうか?」


 サイバーテロというのは国や社会とって重要なネットワークやそれに繋がっているコンピュータを電子的に攻撃して、ネットワークをマヒさせたりデータを破壊したりすることだ。重要なデータを改竄したり盗み出したりして悪用することもある。その攻撃が成功すれば国や社会が混乱して、国の経済や防衛に大きな打撃を受けることになるのだ。


「もちろんサイバーテロも監視の対象だけど、それだけじゃないわよ。インターネット上でやり取りされる通信も傍受して解析するから、実世界で発生しそうなテロや国への攻撃も監視することになるわね」


「でも、インターネットでは電子メールや色々な通信が飛び交っていて、その情報量もとんでもなく多いし、暗号化されてますよ。大丈夫なのですか?」


「大丈夫よ。実はね、インターネットを監視する仕組みは既に作っていて、補助脳に並列処理させてるから問題なく情報量に対応できるのよ。それに、数か月前から補助脳にずっと学習させてるから、どんな暗号でも瞬時に解けるわよ」


「それを聞いて安心しました」


 城多郎たちはミサキの説明に納得したらしく満足そうな顔をしている。


「それで、ミサキ様。その仕組みはどれくらいで完成するのでしょうか?」


「監視用の装置とプログラムは明日までに作れるわよ。魔乱の各拠点には既にサーバーは設置されてると言ってたわね。それなら後は、私が現地へ行って装置をセットアップするだけよ。この作業に集中できるのなら、3日あれば完成させて運用を始められるわよ」


「そんなに早く……。すごいですね」


 城多郎たちは目を丸くしている。


「インターネット上で脅威を見つけたら当面は勝手に処理せずに報告させるようセットしておくわね。何が脅威なのかとか、脅威に対する迎撃や対処をどうするかとかは事前に私が知育魔法を使って補助脳に教え込んでおくから、教える手間は要らないわよ。

 それと、運用が始まったら補助脳は自分でどんどん学習するから、どこかの時点で補助脳にある程度任せてしまったらどうかしら? 重大な脅威だけ人間が介在して、残りは事後報告に切り替えても大丈夫なはずよ」


「分かりました。そうします」


 城多郎たちはミサキの説明に感心していたが、城多郎が何かに気付いたような顔をして口を開いた。


「今まで魔乱の正規要員の数が足りないと考えていて、どうにかして外部から人員を補って要員の数を増やそうと思っていたんです。でも、この仕組みが働き始めれば、増員は必要なさそうですね。要員の数が足りなかった最大の理由がインターネットの監視でしたから」


 城多郎の意見を聞いて、ミサキがオレの方に顔を向けた。


「ケイ、私も城多郎の考えに賛成よ。外部から人員を補うのは危険だと思うの。魔乱の秘密が外部に漏れるおそれが高まるから」


「うん。それに要員の数を増やすよりも、まずは質を高めた方が良いよね。補助脳からの報告に適切に対処するためには、人間の方も十分な知識や判断力が必要になるものね」


「ええ。私が知育魔法で魔乱の人たちに必要な知識を植え付けておくわね」


 ミサキに負担を掛けることになるが、当面は仕方ないだろう。オレはミサキに頷いた後、城多郎に顔を向けた。


「それと、城多郎。あんたをわたしの使徒にする件だけど……」


 そう聞いて、城多郎は緊張したような顔になった。


「今からあんたをわたしの使徒にするけど、まだお互いに完全に知り合ってるわけじゃないよね。だから、使徒にした後でもあんたが自分の使徒に相応しくないと思ったら使徒をくびにする。それは承知しておいてほしい。分かった?」


 これはユウやミサキだけでなく、ラウラやダイルたちと念話で相談して決めたことだ。


「分かりました。私は使徒であるかどうかにかかわらず、魔乱の使命を全うするつもりですから」


「うん。それで良いよ」


 城多郎と使徒の契約を交わした後も話し合いは続いた。話し合ったことはユウの家の警備のことや、オレが石化した人たちの体を使いたいことなどだ。


「例の暴力団がまた妹さんを襲ってくるかもしれません。我々がケイ様の家を密かに警備し、ご家族を護衛します。襲われる前にあの暴力団を潰すこともできますが、どうしますか?」


 心配した城多郎から申し出があったがオレは断った。ユウの家と家族はエドラルたちが守ってくれるからだ。


 石化した人たちの体をオレが使うことに関しては城多郎たちから特に異議は出なかった。実は昨夜、ユウの家に戻ったときにエドラルたちに生身の体に戻ることを希望しているか確認したのだが、それを希望したのはナデアだけだった。


『ケイ様も幽霊なってみれば分かるでしょうが、この稼業も慣れれば呑気で楽しいのです。せっかくのご配慮ですが、もう生身の体に戻る気はありません』


 エドラルの意見にミツとヒコも賛同した。ナデアも『いつでも生身の体に戻れるのであれば焦ることはない』とエドラルたちから言われて、当分の間は浮遊ソウルでいることにしたようだ。今はまだエドラルたちと過ごしているのが楽しいらしい。


 城多郎たちにコタローのことも紹介しておくことにした。何か緊急事態が発生したときに、コタローがミサキの姿で来れない場合には犬の姿で来ることになるからだ。


「今日は都合があって来てないけど、コタローはダックスフンドだということを予め知っておいて。犬だから喋れないけど念話を使って会話できるから」


 オレがそう言うと、藍花が驚いたように口に両手を当てた。


「まぁ、すごい! ケイ様は犬まで使徒にしておられるのですね」


「もしかしてサルやキジも使徒にしてたりして……」


 仁は冗談のつもりでそんなことを言ったのだろうが、「ケイ様に向かって馬鹿なことを言わないの!」と年下の藍花から怒られていた。


 同じく緊急時の連絡役としてエドラルたちのことも紹介しようと思っていたが、今の会話の流れでは「実は幽霊の部下がいて……」と切り出すのはちょっときまりが悪い。別の機会にしよう。


 ともかくこれで一件落着だ。色々あったが、こっちの世界でも目と耳、手足を得ることができた。これは有難い。


 ………………


 魔乱の騒動が終わり、後のことはミサキ(コタロー)に任せてオレはアーロ村の家に帰ってきた。テラスの椅子に座ってお茶を飲みながらユウと話を始めた。


『日本にいたのは二晩だけだったけど、目が回りそうになるくらい忙しかったよね』


『ホントね。菜月が誘拐されそうになったり、幽霊のエドラルたちを仲間に加えたり、魔乱の頭領と対決して一族を支配下に置いたりしたものね。私はケイにすごく感謝してるのよ。私の家族のために一生懸命に頑張ってくれたから』


『ユウの家族は自分の家族同然だからね。わたしが頑張るのは当たり前だって。それより、この騒動が早めに終わって良かったよ。ラーフ神一族の調略に影響は無さそうだから』


 ユウと話をしながら一息ついていると、ダイルから連絡が入ってきた。


『ケイ、急いで頼みたいことがある。おまえにしかできないことなんだ』


 また何か起きたみたいだ。


 ダイルにはシゲルさんのお姉さんの救出を依頼していた。2日前にガリードから連絡があり、シゲルさんのお姉さんがドルドゴ群島の海賊に捕らわれているらしいと言ってきた。


 オレはすぐにでも救出に行きたかったが、菜月の誘拐事件と重なってしまった。それで、ダイルにその女性を捜して救い出してほしいと頼んでいたのだ。


『いったい何が起きたの?』


 不安な気持ちを抱きながらダイルに尋ねた。


 ※ 現在のケイの魔力〈1306〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈1306〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈1306〉。


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