表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
283/386

SGS283 罪を償わせる

 オレは地下空間の体育館に魔乱一族の者たち全員を集めて説明を行い、混乱もなく1時間ほど前に終えることができた。その後、一族の者たちへは家に戻るように言ったのだが、大半の者がまだ体育館に残っていた。一族の者たちは城多郎が眠っているベッドを体育館の真ん中に運び込んで来て、心配そうな顔をしながら城多郎を見守っていた。ベッドの周りで城多郎が目覚めるのを待っているのだ。


 先ほどの説明の中では、オレが神族であり、前の頭領である信志郎の意志に沿って魔乱を自分の配下に加えることを一族の者へ宣言した。一族の大半はオレと藍花さんの会話だけでなく、隠しマイクを通して城多郎との会話も聞いていたらしい。それで理解が早かったのだろうが、魔乱がオレの配下に加わることに異論を唱える者はいなかった。


 一族の者に対してオレ自身のことも説明しておいた。体にケイとユウの二つの人格があることも打ち明け、オレの隣で立っているミサキのことも自分の使徒だと紹介した。そして、オレやミサキのことは秘密にするよう全員に申し渡した。


 エドラルやナデアのことはまだ伏せておいた。二人はオレが体育館で説明している間、石像がある部屋で城多郎が目覚めるのを待っていてくれた。


 オレの宣言が終わり、続いて城多郎のことを説明しようとしたときに、手を挙げる者がいた。一族の者と一緒にオレの説明を聞いていた藍花さんだ。


「ケイ様、兄はなぜあのような死に方をしたのでしょう?」


 宣言だけでオレの説明が終わったと思ったようだ。藍花さんの目は悲しそうで、死んだ兄を思う気持ちで溢れていた。


「それはね……、わたしが説明するよりもこの手紙を読んでもらったほうが良いと思う。城多郎がわたしに宛てた手紙なんだけど、魔乱の全員に城多郎の本当の気持ちを知ってほしいんだ。藍花さん、これを声を出して読んでみて」


 演壇に上がってもらって、藍花さんに手紙を渡した。藍花さんは淡々と読み進んでいったが、手紙の最後が近付くに連れて涙声になっていった。


「私は極悪人のまま……、死んでいくつもりです……」


 そう読み上げたとき、そこから先は声が詰まって読めなくなってしまった。


 聞いていた一族の者たちも皆泣いていた。

 

 手紙の最後の数行はオレが代わりに読み上げた。


 読み終わっても嗚咽の声が聞こえるくらいで、しばらくの間は誰も何も言わなかった。だが、一人が口を開くと、次々と声を上げ始めた。


「ケイ様、この地下の施設は……、全部、城多郎さんがおれたちのために作ったのですか?」


「この体育館も、プールも、教室も、奥にあるホテルのような部屋も……。全部、あいつが一人で?」


「どうして城多郎さんはおれたちに相談してくれなかったんだ?」


「わしも城多郎と一緒にここを作りたかったぞ」


「あたしゃね、城多郎を自分の子供のように思ってたのよ」


「なにも死ななくていいのに……」


「どうして死んじゃったの……?」


 体育館の中がざわついた感じになってきたので、オレは静まるように壇上から声を掛けた。


「城多郎の体は死んでしまったけど、実はね、ソウルは生きているんだ」


「ケイ様、それはどういう意味でしょうか?」


 藍花さんがオレに尋ねてきた。さっきまで泣いていたから目が少し腫れている。


「藍花さんは見たと思うけど、この地下施設の奥に石化された人たちがいる。その中の一人の石化を解いて、城多郎のソウルをその体に移植したんだ」


 体が死んでもソウルは1時間ほど体に留まっていて、その間に神族の魔法でソウルを移植すれば生き返ることを説明した。


「ソウルの移植は上手くいった。城多郎は今、奥の部屋で眠っている。待っていれば、もうすぐ目覚めると思うよ」


 そこまでオレが説明すると、一斉に一族の者たちから歓声が上がった。女性の中には泣いている者も何人かいた。嬉しい気持ちが溢れてきたのだろう。


 喜びの声が静まるのを待ってオレは話を続けた。


「顔や体は変わってしまったけど、新しい体には城多郎のソウルが宿っている。心も記憶も城多郎のままなんだ。わたしは城多郎をまた魔乱の一員にしたいと思う。あなたたちは生まれ変わった城多郎を受け入れてくれるだろうか?」


 問い掛けると、体育館に集まっていた一族の者たちはお互いに顔を見合わせた。


「ケイ様、それはもちろんです。城多郎をおれたちに戻してもらえるなら、こんなに嬉しいことはありません」


 一族を代表して声を上げたのは、城多郎から手紙を預かっていた男だ。どうやらこの男が一族の副頭領のような立場らしい。


「仁さん、ありがとう……」


 藍花さんがハンカチで涙を拭いながら礼を言った。副頭領はジンという名前らしい。


「ケイ様、城多郎が眠っているベッドをここに運び入れてもいいですか? おれたち、城多郎が目を覚ますのをここで見守りたいんで……」


 ジンの申し入れにオレが頷くと、男たちが一斉に体育館を飛び出していった。それが1時間ほど前のことだった。


 ………………


 そして、今。城多郎が眠っているベッドを一族の者たちが取り囲んでいる。目覚めるのを待っているところだ。体調の悪い者や小さい子供たちは家族と一緒に帰ってもらったが、大半の者が残っていた。


 しばらくするとベッドの上で城多郎が動き始めた。目を覚ましたようだ。


「兄さん、分かる? 藍花です」


 枕元にいた藍花さんが城多郎の手を取ってぎゅっと握った。オレは藍花さんとは反対側に立っていて、その様子を見ている。


「あいか……。藍花なのか? それに、仁? おまえたちも……」


 城多郎は藍花さんをじっと見つめて、それから視線を隣にいたジンや正規要員たちに移した。


「おれは……、死んだはずだが……。死ねなかったのか……?」


 ベッドで上半身を起こしながら城多郎は藍花さんに問い掛けた。


「いや、違う」


 オレの声に城多郎は初めてこちらを向いた。


「わたしがあんたを生き返らせた」


「神族様……。あなたが私を……?」


 城多郎は驚いたような目でオレを見ている。


「うん。あんたの体は爆発でバラバラになってしまった。だから、石化されていた男の一人にあんたのソウルを移植したんだ」


「そうよ、兄さん。ケイ様が助けてくださったの……」


 藍花さんがオレの代わりに説明した。ソウルを移植したことだけでなく、一族の者を集めてオレが魔乱を配下に加えると宣言したことや、城多郎の手紙を一族の皆の前で読んだことも語った。


「じゃあ、みんなは何もかも知ってしまったということですか……?」


 オレが頷くと、城多郎は頭を抱えた。


「私が脅したのはあなただけではなかった……。ここにいる一族の者たちも脅していたんです……。爆弾は全部偽物ですが、脅した罪は消えません。私は死んでその罪を償おうと思っていたのに……」


 城多郎は生き返りたくはなかったのだろう。


「そんなに簡単には死なせはしないよ。もっと重い罰を与えるつもりだから」


 オレがそう言うと、城太郎は覚悟したように頷いて顔を伏せた。


 逆に、周りで聞いていた一族の者たちが騒ぎ始めた。


「「「ええーっ!」」」


「「可哀想……」」


「「許してやって……」」


「わしが代わりに罰を受けますんで……」


 ほかにも色々と聞こえてきたが、オレが黙っていると静かになってきた。


「ケイ様……、兄に、どのような罰を……?」


 静まるのを待って、震える声で藍花さんが尋ねてきた。


「魔乱の頭領を続けさせる。それも、これから五百年の間だ。その期間をしっかりと務めてほしい」


「えっ!? 五百年って……?」


 藍花さんが驚きの声を上げた。城多郎や周りの者も唖然としている。


「魔乱の頭領に任命するだけじゃないよ。城多郎、あんたをわたしの使徒にしようと思ってる。五百年というのは前の頭領の信志郎さんと同じくらいの間、魔乱の頭領を務めてもらうってことだ。その期間、あんたが誠実に魔乱の頭領とわたしの使徒を務めることで、あんたが犯した罪を償ってほしい」


 オレの言葉が理解できないのか、城多郎は呆然としている。だが、周りにいた一族の者たちは一斉に喜びの声を上げた。


「「やったぁーーーっ!!」」


「「やったねーっ!!」」


「これでまた城多郎さんは我らの頭領だ!」


「城多郎さん、いや、頭領、これからもよろしく頼みます!」


「城多郎、わしはこんなに嬉しいことはないぞぉ……」


 城多郎はまだ呆然とした顔をしている。周りから喜びの声を掛けられて、眩しそうに瞬きをしながら頷いていた。


「ケイ様、ありがとうございます。なんと言ってお礼を申し上げていいのか……」


 半分泣きながら藍花さんが頭を下げた。


 それを見ていたジンが厳しい顔をして城多郎に向かって口を開いた。


「城多郎、いや、頭領。今回はケイ様のお慈悲で助けていただいたが、おまえは何が間違っていたか分かっているか? それはな、なんでも自分一人で抱えようとしたことだ。それがおまえの悪いところだぞ。これからはもっとおれたちに相談してくれ。困ったことや辛いことがあったら、その重荷はおれたちにも一緒に担がせてくれ」


「仁……。すまん……」


 城多郎は泣きそうな顔をしながら頭を下げた。


「そうだぞ! 頭領。仁さんの言うとおりだ。もっと、おれたち魔乱の仲間を信用してくれ」


「城多郎、わしらにも手伝わせてくれんか? 引退した身では現場の仕事はできんだろうが、一緒にこの地下の施設を完成させることくらいはできるぞ」


「そうよ。あたしたちも手伝えるわよ。ねぇ、みんな?」


 女性の声に一族の皆が声を上げ始めて、また体育館の中はざわざわと声が広がった。声の一つひとつに夢や希望が溢れている感じだ。


「ありがとう……、みんな……」


 そばにいたオレには城多郎が呟く声が聞こえた。俯きながら泣いているようだ。大粒の涙がぽたぽたと古びた着物を濡らしている。


「城多郎、わしはおまえの泣き顔を初めて見たぞ」


 近くにいたお爺さんが声を掛けると、周りの者も城多郎をからかい始めた。


「体が変わったから、きっと涙脆くなったのよ」


「それにしても汚い着物だなぁ。顔も無精髭も涙と鼻水で、ぐしょぐしょだ」


「とてもじゃないが見れた顔じゃないぞ。あはははは」


 城多郎のベッドを中心に泣き笑いの光景が広がった。


 ※ 現在のケイの魔力〈1306〉。

   (日本では〈653〉。日本でソウル交換しミサキに入ると〈131〉)

 ※ 現在のユウの魔力〈1306〉。

   (日本でソウル交換してケイの体に入ると〈131〉)

 ※ 現在のコタローの魔力〈1306〉。

   (日本でミサキの体を制御しているときは〈653〉)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ