表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
282/385

SGS282 死んで詫びるなんて許せない

 オレは城多郎の手紙を一度読み、最初からもう一度読み直した。


『このままで良いはずがないよね? 城多郎は極悪人の汚名を被ったまま死んでいったのよ。こんなの……、可哀想過ぎる……』


『うん……。でも、死んで詫びるなんて……。そんなの許せないよ……』


 ユウに返事をしながら城多郎の遺体を調べた。胸から上は残っている。脳も痛んでいないし、肩に埋め込まれていたロードオーブも無事だ。


 それを確認すると、オレは浮上走行の魔法を発動して空中に浮かんだ。


「わたしは先に村へ戻る。村の地下空間に入っているから、あんたたちもすぐに来てほしい。それと、城多郎の遺体とこの木箱は預かっていくからね……」


 藍花さんと男たちにそう言いながら木箱を異空間倉庫に収納した。念力で城多郎の上半身を持ち上げて空中を走り始めた。


「ええっ!? ちょっと、ちょっと待って……」


 後ろの方で藍花さんが叫ぶ声が聞こえたが、それを無視して村へ駆け下りていった。


 途中でミサキに念話で連絡を取って、地下空間の入口をすべて開けてもらった。


 ここから一番近いのは広場に面した村の集会場だ。平屋の細長い建物で、その中に地下空間に繋がる階段があるらしい。


 10分ほどでその集会場の建物に着いた。相変わらず村には人影が無い。


 集会場の入口にはミサキが待っていてくれた。目には見えないがエドラルとナデアも一緒だ。


『こっちよ』


 ミサキの案内で、戸棚の奥に作られていた地下への階段を下った。階段は何度も折り返していて、かなり深い。突き当たりには分厚い金属の扉があったが、今はそれは開いていた。


 地下空間の中に入ると、そこは駐車場だった。大型の車が10台くらい駐車できるスペースがあり、今はトラックが1台だけ停まっていた。アルミの箱型4トントラックだ。駐車場に入ってくるためのトンネルも見える。


『そのトンネルが地上まで続いてるわ。出口は民家の車庫と繋がってるのよ。おそらく、この駐車場はここの地下施設の工事や備品の搬入用に作られているのでしょうね。こっちには教育区画があるわよ』


 ミサキの後に付いていくと、扉の先にあったのは体育館だった。どこの学校にもあるような体育館で天井も高い。その隣には25メートルのプールや室内射撃場、教室、会議室などが続いていた。


『この教育区画の隣は居住区画になってるのよ』


 ミサキの案内で居住区画に入った。そこにはホテルのように部屋が並んでいて、広い食堂や風呂場まであった。これなら百人くらいは十分に生活ができそうだ。


 教育区画にも居住区画にも設備や家具は何も入って無かったが、電気や上下水道は整備されているようだ。どの部屋もLED照明で明るく照らされていたし、水道からは蛇口を開けると水が勢いよく流れ出てきた。


 おそらくこの地下の施設は城多郎が土の魔法を使って毎日こつこつと作り続けて、電気系統や上下水道は自分で工事をしたのだろう。


『すごいわね……。城多郎はこの地下空間の施設を自分ひとりで作ったのかしら?』


 ユウが感動していることが分かったが、それはオレも同じだった。


『もしかしたら、この空間は城多郎の夢だったのかもしれないね。ここで魔乱の人たちが一緒に体を鍛えたり、学んだり、食事をしたり、城多郎はそんな夢を抱いていたんじゃないかな』


『ケイ、それを夢で終わらせないようにしなくちゃね』


『うん。分かってる』


 居住区画を通り過ぎると、また金属製の分厚い扉があった。


『あれがあるのはこの扉の奥にある部屋よ』


 その扉も開いていて、ミサキは先に立ってどんどん歩いていく。扉の奥も通路が真っすぐに伸びていた。サーバー室と書かれた部屋の前を通り過ぎて、ミサキは奥から2番目の部屋の前で立ち止まった。


『爆発物が仕掛けられていたのは一番奥の部屋だけど、用があるのはこっちの部屋よ』


 そう言いながらミサキが扉を開けた。15メートル四方くらいはある広い部屋で、真ん中辺りに石像が床に寝かされて並んでいた。石化された人たちだ。二十体くらいある。


 その近くにベッドが一つ置かれていて、その上で誰かが眠っていた。


『健康で、年齢と容姿が城多郎に一番近い男性を選んでおいたの。石化を解いて、眠らせてるわ』


 身長は同じくらいだが、城多郎よりもがっしりした体格で顔の彫りも深い。城多郎はやり手の青年実業家のような印象だったが、この男は経験豊かなハンターのようなワイルドさが感じられる。


『ねぇ、ケイ。この人って、ほら、サレジ隊の副長に似てるわよね?』


 ユウも同じように感じていたようだ。ベッドで眠っている男はどことなくイルドさんに似ていた。オレがハンターのサレジ隊に売られて右も左も分からずに困っていたとき、いつも優しく親切にしてくれたのがイルドさんだった。


 容姿は城多郎というよりはイルドさんに似ているが、別人であることは間違いない。それに戦国時代に転移して生活していたせいだろうが、ボロボロの着物を着ていた。無精髭を生やしていて、栗毛色の髪の毛を後ろで括っている。はっきり言って汚い身なりだが、今はそんなことを言ってられない。


 オレは念力で運んできた城多郎の遺体をベッドの近くに下ろした。遺体と言っても上半身だけだ。


『じゃあ、ソウル移植を始めるね。失敗の危険性があるからちょっと怖いけど……』


『ケイ、躊躇ってる時間は無いわよ。もう20分くらいしか残ってないから』


 そうなのだ。オレは城多郎のソウルをこのイルドさんに似た男に移植しようとしている。死んだ後、ソウルが体から離れて浮遊ソウルになるまでには1時間くらいの余裕がある。その間にソウルを移植すれば、生きていたときの意識や記憶を失うことがない。


 言ってみれば、これは死んだ人間を別の体で生き返らせることに等しい魔法だ。その分、危険性が伴う。失敗したら城多郎は浮遊ソウルになってしまうのだ。


 ソウル移植の魔法は今までにも使ったことがあった。ナデアのソウルをネズミに移植したからだ。あのときは移植先がソウルゲートの人工生命体だったから失敗の危険性は無かったし、拒絶反応も出なかった。人工生命体がそのように作られているためだ。


 でも今度は普通の体にソウルを移植することになる。正直言って不安だ。


 オレは思い切って魔法を発動した。


 よし! OKだ。


 手応えのようなものがあって、魔法が上手くいったと分かった。


 ロードオーブに格納されているソウルもまだ解放されずにオーブ内に留まっていた。新たな体へロードオーブを移し替える作業も終わった。


 一連の移植作業を無事に終えたが、城多郎は眠ったままだ。


『眠りから覚めるのに何時間か掛かるけど、ソウル移植の後は無理に起こしてはダメよ。ソウルが新しい体に定着するまではね』


 ミサキ(コタロー)はいつも適切なアドバイスをしてくれるから、その言葉には従った方が良い。ネズミ(人工生命体)へナデアのソウルを移植したときはすぐに話ができたが、普通の体へソウル移植をするときは違うらしい。


『分かった。ちょうど藍花さんたちが来たみたいだから、彼女たちに事情を説明するよ』


 探知魔法で三十人ほどの人間が近付いていることが分かっていた。藍花さんたちだけでなく、村にいた一族の者も加わっているようだ。


『ケイ、念のために聞いておくけど、魔乱をどうするつもり?』


 ユウが尋ねてきた。


『もちろん魔乱の一族はわたしの配下に加えるよ。信志郎の思いを引き継いでね。でも……』


 そのとき藍花さんたちが部屋に入ってきた。その半数近くが女性だ。


 床で血まみれになっている城多郎の上半身や石像を見て、悲鳴や驚きの声が上がった。


「神族様。ご説明ください」


 藍花さんが怖い目でオレを睨んでいる。


「うん。説明するから一族の全員を体育館に集めてくれる?」


 ………………


 3時間後、魔乱一族の全員が地下の体育館に集合していた。東京でオレの家を監視していたメンバーも村に戻って来ていて、体育館の中は七十人近い人間が集まっているようだ。その中に子供も十人くらいいたが、老人の姿はそれ以上に多かった。


 誰一人欠けていないことを藍花さんに確認して、オレは体育館の演壇に駆け上がった。


 ※ 現在のケイの魔力〈1306〉。

   (日本では〈653〉。日本でソウル交換しミサキに入ると〈131〉)

 ※ 現在のユウの魔力〈1306〉。

   (日本でソウル交換してケイの体に入ると〈131〉)

 ※ 現在のコタローの魔力〈1306〉。

   (日本でミサキの体を制御しているときは〈653〉)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ