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SGS281 自爆と真相

 オレはとっさに高速思考を発動した。爆発でバラバラになって飛び散っていく体の断片が空中で止まったように見えた。


『驚いたわ……』


 驚いていたのはユウだけじゃない。


『まさか自爆するなんて……』


 一瞬、何かのトリックかと思ったくらいだ。


『でも、どうして自殺なんかしたのかしら?』


『さあ……』


 正直、オレはビックリしてしまって言葉も出て来ない。


『城多郎が何を考えていたのか最後まで分からなかったわね。まだ何か裏の事情があったのでしょうけど……』


 ユウの方がオレよりずっと冷静みたいだ。


『本人に聞ければいいけど、あの状態ではヒール魔法も効かないわね……。でも、方法はあるわよ。記憶解読の魔法で調べてみたらどうかしら?』


 脳が痛んでなければ死んだ後でも記憶を読み取ることができる。


『そうだね……』


 気が進まないけど、やってみようか……。


 高速思考を解除して柵の内側に入ろうとしたとき、母屋から誰かが飛び出てきた。藍花さんだ。オレの方に走り寄ってきた。


「どうして……、こんなことに?」


 オレのそばまで来て、藍花さんは責めるような目をして問い掛けてきた。母屋の中から窓越しに様子を見ていたのだろう。


 藍花さんの後から男たちも走り出て来て、オレを取り囲んだ。この牧場の住人か使用人たちだ。


「見せたいものがあると言われて、ここまで来たんだけどね……」


 オレは事情を説明した。


「どうして頭領は自爆なんか……」


 男の一人がそう呟いて、柵の扉を開けた。爆発があった場所に向かって走り始めると、藍花さんやほかの男たちもそれに続いた。


「酷い……」


 藍花さんが思わず出した声が聞こえた。近寄ると、城多郎の胸から上は残っていたが、腹はズタズタで脚は千切れて遠くに飛んでいた。


 死体の近くには古そうな木箱が何個か現れていた。城多郎が死んだから亜空間バッグに入っていた木箱が出てきたのだ。おそらく木箱やその中身も信志郎から受け継いだ物だろう。


 男たちは言葉もなく立ち尽くしていたが、その中の一人がオレを威嚇するような感じで近付いてきた。目の前で立ち止まって悔しそうに唇を噛んでいる。25歳くらいで、男たちの中では一番若いように見えた。


「頭領は一人で罪を被って死んでしまったんだ。あの殺人は全部嘘っぱちだったのに……」


「えっ?」


 オレは男の言葉に驚いた。どういうことだろ?


「おまえは黙ってろ!」


 別の男が若い男を制して、オレに顔を向けた。精悍な顔付きの男だ。年も城多郎と同じくらいだろう。


「おれが説明します。実は……、あの殺人のニュースは我々がすべて作ったものです。あなたを脅すために城多郎の……、頭領の命令でやりました。本当は殺人などは無かったのです」


「殺人のニュースって? 車の中で四人が殺されてたニュースのこと?」


「はい。四人の男たちが車の中で射殺されていたというニュースも、暴力団の事務所で爆発が起きたというニュースも……」


「全部ウソなの!? どうして、そんなことを?」


「神族様をここに呼び寄せるためです。それと、その神族様が前の頭領が言われていたような立派な方なのかを試すためだと、城多郎はそう言ってました。それから……」


 男はポケットから何かを取り出した。


「もし自分に何かあったら、これを神族様に渡すよう城多郎に言われていて、おれが預かっていました」


 男が差し出してきたのは蝋で封印された手紙だ。宛名は「ウィンキアの神族様へ」となっていた。オレはその場で封を開いた。これを読めば真相が分かるかもしれない。


 ……手紙の内容……


 これをあなたがお読みになっているとき、私は既に死んでいると思います。あなたの目の前で自決したはずです。あなたは訳が分からずに理不尽だと感じておられるでしょう。しかも自決する前に私はあなたを騙し、脅していました。さぞかしご不快に思われたことでしょう。


 なぜ私がこのようなことをしたのか、その理由をご説明します。


 その前にまず、あなたに対して犯した罪と不敬を深くお詫びいたします。あなたを騙したこと、脅したこと、そしてこれからお願いすることになりますが、あなたに魔乱の一族を背負っていただくこと、それらのすべては私が一人で判断し、私が仕組んだことです。本当に申し訳ありませんでした。


 魔乱一族の大半の者たちは何も知りません。今回の件に携わった正規の要員たちも私に命じられて動いただけです。その罪はすべて私にあります。私のことは許さないでいいですが、ほかの一族の者のことはどうかお許しください。


 私がこのような罪を犯したのには理由があります。不敬なことではありますが、私は神族様を……、あなたを試していたのです。


 前の頭領の信志郎様(シンシル・マラント様)は神族様のことを心から信頼していましたが、私は疑っていました。異世界から来た見ず知らずの神族様に魔乱の一族を任せてしまって良いのか不安だったのです。私の不安な気持ちを知った信志郎様はこう仰いました。


「おまえが納得できるまで神族様を試せばよい。だが、不敬を働いた罪はおまえがすべて自分で償うのだ」と。こう仰ったのは信志郎様が亡くなる一か月ほど前のことです。


 そのときは既に信志郎様は大半は眠っておられる状態でした。少しだけ意識が戻ったときに、介護をしていた私に向かって突然こんなことを仰ったのです。


「おまえはおれの跡を継いで魔乱の次の頭領となるのだ。そして、神族様が牧場に現れたらすべてをお話しして魔乱を配下に加えていただくのだ」と。


 私はその場で断りました。その理由は私が神族様を信じられず不安に感じていたからですが、信志郎様は私の気持ちを知ると、先に述べたように神族様を試すように仰った訳です。


 そのとき信志郎様はご自分の命が長くないことを悟られていました。


「自分はもうすぐ死ぬ。重荷を背負わせてすまないと思うが、魔乱のため、この地の平和と繁栄を守るために、おまえに背負ってもらわねばならぬ」


 信志郎様からこう言われては、私は頭領を引き受けざるを得ませんでした。


 信志郎様が亡くなった後、ある日の真夜中にマラント牧場を訪ねてきた女性がいました。我々はその女性の家を突き止め、家を監視して、その女性が神族様であると確信したのです。


 そのときは既に私は魔乱の頭領として一族を背負っていました。しかし、私はその責務の重さと一族の能力のギャップに喘いでいました。信志郎様が定めた魔乱の使命はあまりに重過ぎるものでした。この国の平和と繁栄を乱そうとする敵対勢力たちと陰で戦い、この国を守り続けるという使命のことです。


 今も私はその重みに耐えかねています。その使命を果たして行かねばならないのですが、正規要員の数は足りず、ソウルオーブも魔石も尽きようとしています。海外やインターネットなど目に見えないところから迫っている脅威に対して、魔乱はそれに打ち勝つ手段をほとんど何も持っていません。完全に能力不足の状態に陥っているのです。


 正直なことを言えば、頭領になることを固辞していればと、私はこれまでに何度も後悔しました。神族様が現れたと分かったときは、すぐにでも神族様に魔乱一族を委ねようかとも思いました。


 でも、やはり不安でした。魔乱の一族は皆、私の愛する家族も同然です。失礼な言い方になりますが、その家族を異世界から来た見ず知らずの者に委ねてしまうことはできなかったのです。


 結局、私は信志郎様が仰ったように神族様を試してみることにしました。


 もし神族様が人の命を軽視するような冷酷な心の持ち主であれば、魔乱の者たちは使い捨てにされるかもしれません。そのときは一族を任せずに神族様とは縁を切るつもりでした。魔乱の能力は衰えていく一方となるでしょうし、もはや信志郎様が抱いておられた崇高な使命は果たせなくなります。でも、それは仕方ありません。一族の者にはそれを告げて、私は魔乱を解散するつもりでした。


 逆に、神族様が人の命を大切にする方で、信志郎様が仰っていたような立派な方であれば、その方に一族を任せようと考えました。そして、この手紙をあなたがお読みになっているということは、私があなたのことを立派な神族様だと確信したということです。


 ただし、私はあなたを試すために罪を犯しているはずです。尊いお心を持った神族様を騙し、脅したという罪です。その罪は私が償わねばなりません。


 でも、その罪を償う前にもう一つ、私には重大な責務が残っています。それは、私に代わってあなたに魔乱の一族を背負っていただくことです。それをあなたに承知していただきたいのです。


 しかし、あなたに対して不敬を働いた私が直談判でそれをお願いしても、あなたはご不快に思われるだけでしょう。


 私に残された術は一つしかありません。それは自分の死を以てあなたにそれをお願いし、合わせて自分が犯した罪を償うことです。


 たいへん厚かましいお願いであることは分かっていますが、どうかこの魔乱をあなたの配下に加えてください。そして、信志郎様がこの五百年の間に進めてきた崇高な使命を引き続き魔乱の使命とし、あなたのお導きの下で魔乱の一族を働かせてください。


 私の死が魔乱とこの地の平和と繁栄に役立つことを願ってやみません。


(追伸)


 自分が死ぬことを考えるにあたって、信志郎様から引き継いだ魔力を魔乱一族の誰かに引き渡そうかと迷いました。でも、それは止めることにします。なぜなら、私が背負ったような重荷を再び一族の者に背負わせたくないからです。


 私は望んでいませんでしたが、信志郎様から自分を殺して頭領の地位だけでなく魔力も引き継ぐよう命じられました。そのとき信志郎様は死の間際でした。字も書けず、口も動かせず、念話でそう命じられたのです。


 私は信志郎様から命じられて頭領の地位と魔力を引き継いだのですが、そのことを証明する術はありません。一族の者から見れば、私は頭領を殺してその魔力を奪った冷酷な殺人者なのです。私が信志郎様に命じられて頭領になったと言っても、一族の者が私の言葉を信じて従うはずがありません。それで村の地下に仕掛けた爆弾で一族の皆を脅し、頭領として強引に魔乱を率いてきたのです。


 一族の皆には本当に申し訳ないことをしました。私の口から皆に詫びたいと思いますが、それも叶わないでしょう。


 私は極悪人のまま死んでいくつもりです。一族の者には私が神族様に敗れ、神族様から下される罰を恐れて自殺してしまったと、どうかそのように伝えてください。


 それと話は変わりますが、村の地下に教育施設と万一に備えての居住施設を作っておきました。設備の整備や非常食の備蓄などは間に合いませんでしたが、これらの施設が一族の役に立てれば嬉しい限りです。


 ……


 手紙の内容は以上だった。


 ※ 現在のケイの魔力〈1306〉。

   (日本では〈653〉。日本でソウル交換しミサキに入ると〈131〉)

 ※ 現在のユウの魔力〈1306〉。

   (日本でソウル交換してケイの体に入ると〈131〉)

 ※ 現在のコタローの魔力〈1306〉。

   (日本でミサキの体を制御しているときは〈653〉)


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