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SGS280 不可解な取引その4

 城多郎は「ちょっと失礼」と言って、スマホを手にとって相手と話を始めた。


「ああ、分かってる。爆弾は相手側が見つけて処置したらしい。その場所の監視は終わりだ。おまえたちはこっちへ戻れ。Bチームにも……」


 城多郎が話している間に、オレは高速思考でミサキ(コタロー)を呼び出した。


『ミサキ、そっちの状況は? 村の地下に仕掛けられた爆発物は除去できそう?』


『さっき、やっと村の地下に作られた空間に入ったところよ』


『時間が掛かったね?』


『ええ。地下への入口は村の中に何カ所か見つけたんだけど……』


 エドラルとナデアが調べてくれて、地下への入口や地下空間の構造はすべて分かったらしい。だが、入口の扉はどれも分厚い鋼鉄で作られていたし、厳重なロックが掛かっていて、ミサキは中へ入れなかったそうだ。それだけでなく、地下空間の壁や床、天井などもすべてが分厚い金属でできていることが判明した。


 ミサキは外から地面を掘って地下空間の内部に侵入しようと考えていたが、地下の空間が分厚い金属で覆われていると知って、その方法では時間が掛かり過ぎると判断した。それでどうしたかと言うと、ミサキは人工生命体のネズミを使って換気口から侵入したのだ。


 だが、換気口からの侵入も容易ではなかった。換気ダクトは直径10センチほどのパイプだったが、何カ所にもファンが設置されていたり防護ネットが張られていたりしていて、その都度、魔法で穴を開けながら進んだらしい。ネズミはようやく地下空間に侵入できて、ワープポイントを設けることができたそうだ。


 ミサキは今、地下空間のその地点にワープで入ったところだと言った。


『エドラルたちが案内してくれるから、爆発物が設置されている場所はすぐに分かるはずよ。ちょっとだけ時間を稼いでいて』


『了解』


 高速思考を解除して、オレは落ち着いた声で城多郎に話しかけた。


「それで? その爆弾が爆発するのは何分後なのかな? どうせ、そのスマホで爆破の指示は済ませてるんでしょ?」


「いや、違いますよ。たしかに、村に仕掛けた爆弾はこのスマホから指示して爆発させることはできます。でもそんなことをしなくても、毎日決まった時刻になったら爆発するようにセットされているんですよ。その時刻までにこのスマホからリセット信号を送らなければ爆発します」


「その時刻は何時?」


「16時ですから、まだ30分以上ありますね」


 それを聞いてほっとした。ミサキが爆発物を処置するには十分な時間だ。


「それだけ時間があれば、わたしが爆発を阻止すると考えないの?」


「ふふふ。アパートと違って、村の地下は簡単には侵入できませんよ。核爆発にも耐えられるように頑丈な作りになっていますからねぇ」


「そうなの……?」


 そう言いながらコーヒーカップを手に取った。時間を稼ぐのは意外に難しい。冷めてしまったコーヒーを口に含みながら高速思考を発動して、ミサキに状況を尋ねた。


『驚いたわ。ここは地下とは思えないくらい広いし、体育館やプールまであるのよ。それと石化の魔法が掛けられてる人体が二十体くらいあったの。ちゃんと調べてないけど、石化されてからかなりの年数が経ってるみたいよ』


『石化された人体? それよりも爆発物は?』


『今……、処置するところ……。高速思考を解除するわね』


 10秒くらい経ってから『終わったわよ』と連絡があった。


 手に持ったコーヒーカップをテーブルに置いて城多郎に話しかけた。


「聞いていい?」


「何でしょう?」


「地下には石化された人体が二十体くらいあるけど、あれはどうしたの?」


 それを聞いた城多郎は顔を一瞬強張らせた。


「どうしてそれを? いや……」


 そこで一旦言葉を飲み込んで、城多郎は元の表情に戻って言葉を続けた。


「さすがは神族様だ。この短い時間であなたの部下か誰かが村の地下に侵入したということですよね? それで……、爆弾は処置済みですか?」


「うん、処置は終わったよ」


「そうですか……」


 城多郎は気が抜けたように呟いた。オレを脅すネタが無くなって呆然としているのかもしれない。


 何かに気付いたように、城多郎はオレに視線を戻した。


「尋ねておられたのは、石化している人たちのことですよね? あれは信志郎様がこの世界に転移して来られた頃に、同じようにウィンキアから送り込まれてきた人たちらしいですよ。ウィンキアへ戻りたいと強く希望する人たちから頼まれて、信志郎様が石化したそうです。いつかウィンキアへ戻れる手段ができたら連れ戻して、石化を解除するつもりだったと信志郎様が仰っていました。でも、失敗したそうです」


「失敗?」


「ええ。信志郎様は魔物たちも捕らえて石化しておられました。石化したまま2年以上経ってしまうと、ソウルが体から抜けてしまうことは分かっていたから、魔物も人間も定期的に生身の体に戻しては石化を繰り返していたそうです。魔物たちはその処置で生き延びたらしいのですが、人間の方はダメだったと言われてました。江戸時代の終わり頃に、人間は全員が死んでしまったそうです。原因は分からなかったようですが、ソウルが抜け出てしまったと聞いてます」


 城多郎は淡々と説明した。


『彼の顔色が悪いような気がしない? きっと脅しが全部失敗したせいね』


 ユウが高速思考で話しかけてきた。


『うん。それで、城多郎はわたしとの取引きができなくなったと思っているんだろうね』


『でも、ケイ。別の取引きを持ち掛けたらどうかしら?』


『えっ? 別の取引きって?』


『石化した人たちの体を譲ってもらうのよ。ソウルが抜けてしまった体があるのなら、その体を使わせてほしいもの。ほら、ナデアとの約束を覚えてるでしょ? いつかチャンスがあったらナデアを人の体に戻してあげるって約束したじゃない。それに、エドラルたちだって生身の体に戻りたいって言うかもしれないわよ』


 ユウに言われて思い出した。菜月を守るためにナデアのソウルを人工生命体のネズミに移植していたが、ソウルを移植するときにオレはナデアとそういう約束をしていたのだった。


『そうだね。じゃあ、城多郎にこちらからその取引きを持ち掛けてみよう。石化した体を譲ってもらえるなら、ソウルオーブや魔石を支払ってもいいよね?』


『でも、ケイ。ソウルオーブを渡したりしたら城多郎は悪用するかもしれないわよ。危険な男だし、信用できないもの』


『うん……。城多郎が取引に応じるなら、暗示魔法を掛けてソウルオーブを悪用できないようにしよう。とにかく、まずは交渉してみるよ』


 高速思考を解除してオレがその件を話そうとしたとき、先に口を開いたのは城多郎だった。


「完全に私の負けです。私は余計な心配をしてしまったようだ……」


「余計な心配?」


「すみません……、独り言です。気になさらないでください。ともかく、私の脅しがあなたに通用しなかったことはよく分かりました。あなたは人の命を大切にされるし、敵の家族であっても助けるような寛大な心をお持ちだ。信志郎様が仰っていたように、あなたは立派な神族様だと分りました。完全に私の負けですねぇ……」


 そう言いながら城多郎は立ち上がった。やり手の青年実業家のような印象は変わらないが、事業に失敗して意気消沈してしまった感じになっている。


「あなたにお見せしたいものがあるのです。お手数ですが、牧場の方に来ていただけませんか」


 そう言って歩き出した。玄関の扉を開けて、城多郎は振り返った。オレが付いてくるのを待っているのだ。


『ケイ、気を付けて! 何を企んでいるか分からないわよ』


 ユウに言われるまでもなく油断できないことは百も承知だ。城多郎はまだ何か切り札を隠しているのだろうか……。手の内が読めない。


 城多郎は母屋から出て、牧場の柵の方へ歩いていった。柵と同じような形をした扉を開いて、柵の内側に入った。


「あなたは柵の外側で待っていてください」


「見せたいものって、何なの?」


「まぁ、見れば分かるので……。ちょっとお待ちを……」


 城多郎はニヤリと笑って、牧場の中を歩いていった。何となく足取りが重そうだ。


 広い牧草地は山に向かって緩やかな斜面になっている。緑色の牧草地が遠くまで広がっていて、牛たちがのんびりと草を食んでいるのが見える。


『この牧場で魔物を飼っていたと藍花さんが言ってたでしょ。もしかしたら城多郎は魔物をけしかけてくる気かも……』


 ユウの話を聞きながらも、オレは目で注意深く城多郎の姿を追っていた。不意に城多郎が立ち止って振り向いた。オレから80メートルほど離れた場所で、周りには何も無い。


 こちらに向かって城多郎が手を振ったように見えたその瞬間、爆発音が響いた。


 城多郎の体が四散した。


 ※ 現在のケイの魔力〈1306〉。

   (日本では〈653〉。日本でソウル交換しミサキに入ると〈131〉)

 ※ 現在のユウの魔力〈1306〉。

   (日本でソウル交換してケイの体に入ると〈131〉)

 ※ 現在のコタローの魔力〈1306〉。

   (日本でミサキの体を制御しているときは〈653〉)


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