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SGS028 ゴブリンとの遭遇戦、再び

 いつの間にか雨は止んでいた。昼近くになっていたので、この場所で昼食を取ることになった。でもまだ休んではいられない。倒したばかりの魔物を急いで解体しなくてはならないからだ。


 いつもであればラウラ先輩とオレで獲物の解体をするのだが、この大きな熊は別格だった。毛皮、爪、牙、肉、内臓など、色々な部位が売り物になるらしい。全員で解体作業を行った。


 レンニが内臓の中から黒っぽい石を取り出した。サイズは少し大きめのビー玉くらいだ。


「ほぉ! 意外に大きいな。これならかなりの魔力が溜まるから、1万ダールくらいで売れるかもしれないぞ」


「これは何ですか?」


「魔石さ。魔力を溜めておく器官で、魔物の腹の中にあるんだ。これがあればおれたちでも魔力をこの中に溜めておけるから便利なのさ。だけど魔力の変換器ではないからソウルオーブやダークオーブのような使い方はできないけどな」


 レンニが内臓をさばきながら教えてくれた。


「この魔物から取れる部材の中じゃ、この魔石が一番価値があるんだが……。あれだけ必死に戦って痛い思いをした割には成果が小さいよなぁ」


「レンニ、おまえの気持ちも分からないではないが、まぁ、そうぼやくな。この前のように、ゴブリン三頭と戦ってソウルオーブが1個とダークオーブが30個も得られることの方が異常なんだからな」


 副長のことばにレンニや他のメンバーも頷いて、黙って作業を続けた。


 ………………


 熊の解体と昼食を終えて、ここから引き返すことになった。熊から取れた部材が多くて荷物がほぼいっぱいになったからだ。


 来た道とは別のルートを通って東へ2時間ほど歩いた。そしてまた休憩。荷物を下ろす。今はスルホが偵察を行っている。休憩中でも200モラくらい先で見張っているはずだ。


 出発しようとしたときにスルホが駆け戻ってきた。


「ゴブリン三頭、距離250モラ。偵察か単独か不明」


「じゃ、前と同じ作戦でいく。ラウラとケイは荷物をこっちへ渡して、前に進め。逃げ戻るのは今のこの地点だ。今度は早めに悲鳴を上げろよ」


「「了解です」」


「よし! 行け」


 ラウラ先輩とオレは進み始めた。


 すぐにゴブリンたちが見えた。悲鳴を上げてオレたちは逃げ始める。ゴブリンたちは追ってくる。副長たちが潜む場所で立ち止って、ラウラ先輩が魔法攻撃で敵を足止めする。ここまでは前と同じ展開だ。


 しかし今度の敵は一頭が後方へ走り始めた。


「やばい! 本隊が後ろにいるわよ。ケイ、逃げるのよ!」


 先輩は言うが早いか逃げ始めた。オレも後を追う。先輩の逃げ足が速い。


 細い山道が曲がって後ろの敵からは見えないところで、先輩は低木の中に飛び込んだ。


 えっ!? どうしよう?


 でも二人とも低木に飛び込んで姿を消したら、隠れたことがばれてしまう。


 うーっ、……しかたない。このまま逃げよう。


 振り返ると、オレを追っているゴブリンは一頭になっている。もう一頭は先輩を追いかけているんだろう。ゴブリンを騙せなかったみたいだ。


 さっきより距離が詰まって来ている。今のままでは追いつかれる。運を天に任せるしかない。


 さっきと同じように道が曲がっているところで、思い切ってオレも低木に飛び込む。そのまま身を潜めると捕まってしまうから、低木の中を強引に進む。小枝がポンチョを叩いてガサガサと音を立てる。立ち止って身を伏せた。


 どうだろう? まだ追って来てるのか? 10秒、20秒、30秒……。


 突然、すぐ近くで、バキバキという音がして、ゴブリンの姿が見えた。10モラくらいのところだ。


 やばい! 見つかってしまった。逃げるしかない!


 また低木を掻き分けながら走る。


「待て! 女! 逃げること、ムダ!」


 後で考えたら、バカなことをしたと思う。走って逃げてもゴブリンに勝てるわけがないのだ。たぶん、半分パニックになっていたのだろう。逃げることしか頭になかった。


 で、結局、捕まった。


 後ろから腕を掴まれて抱き抱えられた。


「女、やっと、捕まえた。おまえ、オラの、ヨメだ」


 ゴブリンはそう言いながら草むらの中にオレを押し倒した。雨上がりで草が濡れていて冷たい。


「このやろー! はなせーっ!!」


 罵声を浴びせながら抵抗したが、抑え込まれて身動きができない。


 ゴブリンは口を大きく開けて、オレの首筋に噛みつこうとしている。やばい! やばい! 必死に押しのけようとするが、ぜんぜん動かない。手がしびれてきた。それでも抵抗を続けていると、意識が遠くなってきた。


『ケイ……、ケイ……、魔法を使って。魔法をイメージするのよ……』


 誰かの声? 意識が少しはっきりする。


 諦めたらダメだ! このゴブリンを撥ね退けるんだ! 全身の力をもう一度自分の腕に集中する。思いっきりゴブリンを睨みつけて、強く念じた。


 このやろう!! おまえなんか、ぶっ飛ばしてやる!!


 そのとき、自分の心が何かと繋がって、強い流れが体に流れ込んできた。そのままオレの体から飛び出した。


 その流れはゴブリンに当たって、ゴブリンの体を5モラくらい跳ね飛ばした。


 ふいに自分の体が軽くなった。上に乗っていたゴブリンから解放されたからだ。


 見ると、ゴブリンは尻もちをついて目を丸くしている。


 オレは急いで立ち上がって逃げ始めた。ゴブリンも怪我が無かったのか、また、オレを追いかけてくるようだ。藪を掻き分けながらオレは逃げる。後から追いかけてくるゴブリンのほうが有利だ。


 またすぐに追いつかれて、今度も腕を掴まれた。そのままの勢いで、ゴブリンと一緒に前方の藪に倒れ込んだ。ふいに目の前からすべての藪が消えた。地面も消えて、広大な空間に放り出された。


 崖の上から飛び出たのかーっ!?


 オレはゴブリンと一緒に崖を転がり落ちていく。足に何かが刺さったのが分かった。どれだけ転がったのか分からないくらい、とにかく転がって、あちこちを打った。オレは転がりながら意識を手放した。


 ………………


 気が付いて、まず目に飛び込んできたのは崖の高さだった。50モラくらいあるだろう。崖は垂直に近いきつい傾斜で、ここを転がり落ちて助かったのは奇跡に近い。


 意識がはっきりして来て、オレはゴブリンを自分の下敷きにしていることに気付いた。ゴブリンのお腹の上にオレが仰向きで乗っかっているかっこうだ。偶然なのだろうが、ゴブリンをクッションにしたから50モラを転がり落ちて助かったのだろう。


 ゴブリンは死んではいないようだ。手や足が変な方向に向いていて、オレよりも重症のように見える。苦しそうに息をして呻き声を上げている。


 急いでゴブリンから離れようとして、体中に痛みが走った。自分の右足、ふくらはぎが大きく裂けて、血が流れている。胸も痛い。たぶん肋骨が何本か折れているのだろう。オレはまた気を失った。


 ………………


 体を揺すられてオレは気が付いた。


「心配、イラナイ。おまえの足、キュアした。血、止めた」


 意識がしだいにはっきりしてきた。そうか、このゴブリンはオレを助けてくれたのだ。どうしてだろ?


 オレはまだゴブリンのお腹の上に乗ったままだ。なんとか起き上がって、周りを見回した。


 崖から転がり落ちてきた場所はうっそうとした雑木林で下草が生えている。オレとゴブリンが倒れているのは、その草むらの中だ。


 オレは立ち上がろうとしたが、左足の足首を捻挫しているのか痛くて力が入らない。よろけて、草の上に座り込んだ。右足の出血はたしかに止まっている。ゴブリンが本当にキュア魔法を掛けてくれたのだろう。


 ゴブリンを見ると、まだ手足は変な形に曲がったままだ。内臓も痛めているのかもしれない。すごく苦しそうだ。


「あんたのほうが重症みたいだ。どうして自分自身にキュア魔法で治療しないんだ?」


「このオーブ、魔力、もう、からっぽ」


「それなら、魔力をこっちに使わないで、あんた自身に使ったら良かったのに……」


「もうじき、オラ、死ぬだよ。オラにキュアすること、ムダ」


「もしかすると、わたしが崖から落ちたとき、わざと下敷きになってくれたの? そうなの?」


「オラの女、たすける、あたりまえ」


 このゴブリンが助けてくれなかったら、オレは死んでいたかもしれない。命を掛けてオレを助けてくれたのだ。


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