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SGS279 不可解な取引その3

 城多郎が補助脳のことをどこまで知っているのか、ちょっとカマをかけてみよう。高速思考を解除して城多郎に尋ねてみた。


「ソウルオーブの補助脳なんて、あまり役に立たないよ。スマホを使った方が便利だと思うけど?」


「そんなはずはありませんよ。以前に信志郎様から聞いたことがあるんですが、信志郎様のご先祖は初代の神族様に仕えていた使徒だったそうです。何千年も前の話だそうですが、その頃はソウルリンク網というのがあって、世界中に散らばっているロードナイト同士が情報を共有し合ったり、相互に連絡し合ったりできたそうです。中には不正を働く者もいて、それを自動的に監視する仕組みもあったとか……。どうです。ソウルリンク網は今のインターネットと似ていると思いませんか?」


「たしかに……、似てるね……」


 オレはすぐに高速思考でミサキ(コタロー)に城多郎の話が本当かどうか尋ねてみた。


『ごめんなさい。ソウルリンク網の情報は失われてしまって、実在したかどうかも分からないのよ。でも、初代の神族の時代であれば、今のように神族同士の仲は悪くなかったはずだから、ソウルリンク網のようなネットワークが存在した可能性は高いわね。その仕組みを作るのは難しくないから……』


 高速思考を解除して、城多郎の話に耳を傾けた。


「そのソウルリンク網の監視に使われていたのがソウルオーブの補助脳という機能だそうですよ。信志郎様が仕えていた神族様がお作りになったそうです。この世界に神族様が来られたら、インターネットの脅威に対しては同じような仕組みを作っていただこうと、信志郎様はそう仰っていましたね」


『ミサキ、城多郎が言ってるようなことはできるの?』


 高速思考で尋ねると『できるわよ』と即座に答えが返ってきた。


 なんだか城多郎からは押されっぱなしだ。


「ここまで話せばお分かりでしょう。あなたにお願いがあるのですが、インターネットの脅威を監視して、脅威があればそれを取り除くような仕組みをソウルオーブの補助脳を使って作っていただけませんか?」


「あんたが取引きで要求してきたのは、そのことだったの? ソウルオーブと魔石を200個ずつだけじゃなくて、ソウルオーブのことで何か手伝ってほしいと言ってたけど……」


「ええ、そうです。どうでしょうか? 補助脳を使えばその仕組みを作ることはできますか?」


「できるよ……」


「おおっ」


 オレの言葉を聞いて、城多郎は嬉しそうに声を上げた。


「でもね……、許せないな……」


「えっ!?」


 城多郎はちょっと驚いた顔をした。


「あんたは人を脅して、自分の思いどおりにしようとしてるだろ。そのやり方が許せないと言ってるんだ。もし取引きを断ったら、どうする? 本当にわたしの家を爆破するの?」


 オレの言葉に城多郎の表情が明らかに曇ったように見えた。


「私は……、本気ですよ」


「それなら、爆破してみる?」


 それを聞いた城多郎は手元に何かを取り出した。亜空間バッグから取り出したのはスマホのようだ。


「あなたの家を部下に監視させています。部下に避難するよう指示を出したいので、電話を掛ける間、少し待ってもらえますか?」


 本気らしい。オレが頷くと、城多郎は硬い表情でスマホを操作した。


「そこから避難しろ。ああ、そうだ。5分後に爆破する。Bチームにも伝えてくれ」


 城多郎はそう言って電話を切った。


「爆破の指示もそのスマホで?」


「そうです。便利ですよねぇ」


 城多郎は笑みを浮かべようとしているが、表情は強張っている感じだ。


「じゃあ、わたしがスマホの操作を邪魔すれば、あんたは爆破の指示ができないってことだよね? 爆破すると言うのなら、あんたを魔法で攻撃するよ。あんたはバリアを張ってるから、わたしの攻撃を少しは防げるかもしれない。でも、攻撃を受けている間はスマホの操作なんてできないからね。あんたは目的を達成できないまま、バリアが破れて死ぬことになるよ。それでもいいの?」


「私がそんな馬鹿だと思いますか? さっきスマホを操作したときに爆破の指示は出し終わってますよ。後3分と少しで爆発します。ただし、あなたが取引きをすると言うのなら、爆破を30分延伸しますよ」


「30分延伸?」


「ええ。取引きが実際に終わるまで私はこのスマホを使って爆破の延伸操作を繰り返します。取引きがすべて終わったら爆破指示は解除しますよ。どうですか?」


 城多郎は勝ち誇ったような顔をした。


「あんたは自分が勝ったと思ってるようだけど、そう上手くは行かないよ。アパートに仕掛けられていた爆発物はこっちで処置したからね」


 オレの言葉に城多郎は少し驚いたような顔をした。だが、すぐにまたニヤリと笑みを浮かべた。


 この男はまだ何か別の切り札を持っているのだろうか……。


「さすがは神族様ですね。あのアパートに仕掛けた爆弾を処置してしまうとはねぇ……。優秀な部下をお持ちのようだ。でもこれであなたが人の命を大事にすることが分りました。人質を取るという作戦はあなたに対しては有効なようですねぇ。正直言うと心配していたのですよ。神族様は立派な方々ばかりだと信志郎様は信じておられたが、私はそんなはずはないと思ってました。人間の命なんか虫けらのように考える神族様もいるかもしれないですからねぇ」


 たしかに城多郎の懸念は当たっているとオレも思う。神族の中には人間の命のことなど気にしない者もいるだろう。


「でも、あなたは信志郎様が信じておられたような立派な神族様なのかもしれませんね。少なくとも家族や近所の人たちの命を大切に思っていることは分りましたから」


「また人質を取って、わたしを脅すつもり?」


「ええ。爆弾は別の場所にも仕掛けていますからね。さっき藍花が話していましたが」


「魔乱の村に仕掛けた爆発物のことを言ってるの? 魔乱の人たちはあんたの仲間……と言うか家族同然の人たちでしょ? そんな大切な人たちを人質にして、わたしを脅すつもり?」


「いけませんか?」


「あんたは自分が何をしようとしてるのか分かってる? あんたの家族を人質に取って、わたしを脅そうとしてるけど、人質の価値があると思ってるの?」


「思ってますよ。あなたが誰であれ人の命を大事だと考えているのなら、魔乱一族の者でも十分に人質としての価値はあるはずですよねぇ」


「くっ……」


 どうしようかと迷って、思わず呻き声が出てしまった。


 そのとき高速思考でユウが話しかけてきた。


『ケイ、魔乱の人たちを見捨てないで!』


『うん……。正直言うとね、魔乱一族の命なんて自分には関係ないって一瞬考えたけど、でもここで見捨てたりしたら、わたしは一生後悔すると思うんだ。自分が動けば助けられるのに、何もしないで見捨てるなんてできないよ』


『ケイ、私はそんなあなたが好きよ』


 ユウに好きと言われて少し嬉しくなったが、今はそれどころじゃない。


 高速思考を解除してオレが睨みつけると、城多郎は自信に溢れた顔で語り始めた。


「私はねぇ、この取引きが成立しなければ、魔乱が存在している意味は無くなると思っています。じわじわと魔乱が力を無くして滅びていくくらいなら、いっそ爆弾で一気に壊滅させてしまった方がすっきりすると思いませんか?」


「思わないね! あんたは気が狂ってるとしか思えないよ」


 そのとき城多郎のスマホから着信音が響いた。


 ※ 現在のケイの魔力〈1306〉。

   (日本では〈653〉。日本でソウル交換しミサキに入ると〈131〉)

 ※ 現在のユウの魔力〈1306〉。

   (日本でソウル交換してケイの体に入ると〈131〉)

 ※ 現在のコタローの魔力〈1306〉。

   (日本でミサキの体を制御しているときは〈653〉)


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