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SGS277 不可解な取引その1

 城多郎は藍花さんにコーヒーの用意を命じた後、オレに顔を向けて軽く頭を下げた。


「まずはお詫びします。あなたを脅すような真似をしましたからね」


「お詫び? そんなもの要らないよ! わたしはあんたの敵なんだから」


「いや、誤解しないでほしいのですが、私はあなたの敵ではないですよ。むしろ、あなたとは仲良くしたいと思っているのですから」


「敵じゃなくて仲良くしたいって!? あんたはわたしを脅迫するために、あんたの手下を四人殺したし、わたしの家の周囲100mを爆破するって脅してるんだよ!」


「あの四人は私の手下ではありません。魔乱の者があなたの家を監視していて、あなたの妹さんがチンピラたちに狙われていることに気が付いたのです。そのチンピラたちは昨夜、妹さんを拉致しようとして失敗した。放っておけば同じことを繰り返すのは明らかです。それで、我らの手で処置したのです。あなたとあなたが大切にしている妹さんのためにね」


「処置したって言うけど、それは殺したってことでしょ?」


「まぁ、そういうことですね。でも心配は要りませんよ。何の証拠も残していませんし、あのチンピラたちとあなたの妹さんを関係付ける物は全部処分しましたから。むしろ、あいつらが死んで喜んでいる者は大勢いるでしょう」


「魔乱一族が得意とする仕事をしたっていうこと?」


「いえいえ、殺しのような手荒な仕事は普段は避けているのですよ。今回は優羽奈さんのために特別サービスをしただけです。なにしろ、あなたは大切な取引き相手ですからねぇ」


「取引き相手? 何を取引きするつもりか知らないけど、脅しを掛けてくるような相手と取引きをするつもりはないよっ!」


 感情に任せて強く言ってしまったが、城多郎はそれを聞いてもニヤリとしただけだ。


「言っておきますが、あなたは私との取引きを拒否することはできませんよ。拒否すれば、あなたの家とその周辺を爆破します。私は本気ですよ。でも……」


 そこへ隣の部屋から藍花さんが現れた。テーブルにコーヒーを置きながら心配そうな顔でオレをちらっと見た。藍花さんも城多郎が何か悪いことをするのではないかと心配なのだろう。


 淹れたてのコーヒーの香りが広がった。


 城多郎は藍花さんの姿を目で追っていたが、彼女が部屋から出ていくと視線をオレに戻して言葉を続けた。


「でも、いきなり優羽奈さんの家を爆破したんじゃ交渉にならないですよね。それで部下に命じて、あのチンピラたちが所属していた組の事務所を爆破しておきました。私の本気度をお見せするためにねぇ」


 そう言いながら、城多郎はテーブルに置いてあったリモコンを操作した。部屋には85インチくらいの大きなテレビが設置されていて、ニュースが流れ始めた。


「さっきそのニュースを録画しておいたんですよ。あなたが村に着いた後に、すぐに爆破を指示したんでね。ちょっとボリュームが小さいかな……」


 城多郎がリモコンを操作すると、アナウンサーの声が聞こえ始めた。


「――この爆発で事務所の中にいた三人が死亡し、四人が重傷を負いました。昨夜は車の中でこの組の暴力団員四人が射殺体で発見されて……」


 そこで城多郎はテレビの電源を切った。


「暴力団同士の抗争に見せ掛けるために、対立している組の事務所にも銃弾を撃ち込ませておきました。そっちの方は死傷者は出てないようですねぇ」


 城多郎はコーヒーを飲みながら平然としている。


「わたしを脅すために無関係の人を殺して平気なの?」


「無関係? いや、あなたに関係してますよ。あなたの妹を拉致しようとした暴力団員の事務所ですからね。それとも、もっと無関係な住民を殺した方が良かったですか?」


 その言葉に、オレは腹が立って城多郎を睨みつけた。


「まぁ、そんなことに目くじらを立てないで……。ほら、コーヒーが冷めてしまいますよ」


 城多郎はコーヒーを美味しそうに飲みながら言葉を続けた。


「あの暴力団の事務所には手榴弾を投げ込ませただけですが、あなたの家を爆破するときはもっと威力のある爆薬を使います。それこそ無関係な住民を大勢巻き込んで殺してしまうことになりますね。さっきも藍花が話していましたが、魔乱の村に仕掛けたのと同じ爆薬をあなたの家の近くに仕掛けてますからねぇ」


「その爆薬は村全体を破壊するような威力があるっていうこと?」


「そうです。少なくとも周囲100mの範囲は木っ端微塵になるでしょうねぇ」


 城多郎が本気で言ってることは確かなようだ。


「そこまでして取引きをしたいって……、いったい何を取引きするつもり?」


「ようやく本題に入れますねぇ。私があなたに売りたいのは魔乱一族に仕事を依頼する権利です。その権利をソウルオーブ200個と魔石200個で買っていただきます。それに加えて、ソウルオーブのことであなたに少々手伝っていただきたいこともありますが。あなたに支払っていただきたいのはそれだけです」


「それを支払えば魔乱一族はわたしが頼んだ仕事を何でもやると言ってる?」


「いえいえ。その支払いは魔乱に仕事を依頼する権利をあなたが得るだけです。魔乱への依頼の都度、それに見合った代金を別にいただきます。それと、依頼の内容によっては私の判断で仕事をお断りしたり、仕事内容の変更をお願いすることもあります」


 ここまで聞いたとき、ユウが高速思考で話しかけてきた。


『ケイ、まさか取引きをするつもりじゃないでしょうね?』


『まさか。こんな不可解な取引きをするつもりはないよ。この取引きには何か裏がありそうだし、相手がこの男では信用できないしね。でも、正直を言えば、こっちの世界でも護衛や諜報活動をしてもらえるような人材は欲しいよね』


『それって、ウィンキアのガリード兵団のような存在よね?』


『うん。こっちでもエドラルたちが仲間に加わってくれたけど、浮遊ソウルだから諜報活動には限界があるからね』


『でも、この城多郎はダメよ! 絶対に信用できないもの』


『うん、分かってる』


 高速思考を解除して、オレはコーヒーを手に取った。口元に近付けると何とも言えないような香ばしいコーヒーの香りがしてくる。


「一つ聞いていい?」


「何ですか?」


「さっき、藍花さんが言ってたけど、この五百年の間にソウルオーブや魔石が無くなってしまったというのは本当なの? それで、あんたはソウルオーブや魔石が欲しいと言ってる?」


「ええ、そのとおりです。残りが僅かになってましてね。ソウルオーブが無くなってしまえば魔乱が立ち行かなくなるのですよ。私はね、優羽奈さん。藍花が話していたとおり、魔乱の一族を力ずくで押さえ込んで頭領の地位に就きました。今回もはっきり言えば、あなたから力ずくでソウルオーブや魔石を分けてもらおうとしています。それはね、この魔乱を立て直すためなのですよ。自分のためと言うより魔乱一族のために、もっと言えば魔乱が陰で支えているこの国のためにやっているのです」


「でも、今さら魔乱を立て直してどうするつもり? もう日本は平和な国になって十分に繁栄してるよ。信志郎さんや魔乱一族は信念を持って陰でこの国を支えてきたのかもしれないけど、もう必要ないでしょ?」


 オレの言葉を聞いて、城多郎は声を出して笑った。


「いや、失礼。嬉しくなって、つい笑ってしまいました。自分の考えが間違ってなかったと分かったのでね」


「どういうこと?」


「魔乱一族のことは神族様にお任せすれば正しく導いてくださると信志郎様は言っておられたのですが、あなたの言葉で信志郎様が間違っていたと分かったのですよ」


 そう言われても、何のことかオレには分からなかった。


 ※ 現在のケイの魔力〈1306〉。

   (日本では〈653〉。日本でソウル交換しミサキに入ると〈131〉)

 ※ 現在のユウの魔力〈1306〉。

   (日本でソウル交換してケイの体に入ると〈131〉)

 ※ 現在のコタローの魔力〈1306〉。

   (日本でミサキの体を制御しているときは〈653〉)


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