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SGS275 新たな頭領その1

 信志郎が殺されただなんて、予想もしてなかった話だ。オレが強く問い掛けたせいか、藍花さんは辛そうに顔を伏せていたが、また訥々と話し始めた。


「一族の恥になることで申し上げにくいのですが……、何もかもお話しいたします。信志郎様を殺したのは魔乱一族の一人で、城多郎じょうたろうという者です。一族の今の頭領でございます……」


「ジョウタロウ……。そいつがマラン一族の今の頭領って、ホントなの? その男が信志郎さんを殺した犯人だとすれば、頭領になれるわけがないよね?」


「力ずくで一族の新たな頭領になったのです。どうやって信志郎様の魔力を奪うことができたのか、その方法は分りませんが、城多郎兄さんは信志郎様を殺して、そのときに魔力を奪ったのです。介護をする振りをして信志郎様の胸に短剣を突き立てて殺害し、信志郎様と同じ魔力を持ったロードナイトになりました」


「ロードナイトを継承したってことだね?」


「えっ? ロードナイトを継承? そのようなことができるのですか?」


「できるけど……。知らなかったの?」


「知りませんでした。あのバスの事件の後は、信志郎様はウィンキアのことは何でも話してくださいましたが……」


 おそらく信志郎はロードナイトが継承できることは一族の者にも話さなかったのだろう。一族の中によこしまな考えを抱く者が現れることを警戒したのかもしれない。


「そのロードナイトの継承とは、どういうことなのでしょう?」


 藍花さんに聞かれて、オレはそれを説明した。


 ロードナイトの魔力は継承することができる。そのロードナイトを殺せばよい。殺した直後にソウル格納の魔法を使えば、ロードオーブに格納されていたソウルが殺人を行った者のソウルオーブに格納される。そうすれば魔力をそのまま引き継ぐことができるのだ。


 しかし、魔力を継承するためにロードナイトを殺したりすれば、それはウィンキアのどの国でも完全な犯罪になる。捕まれば死罪は免れないだろう。


 だが、例外的なケースもある。それが愛する子供や弟子に魔力を引き継ぐ場合だ。ロードナイト継承の契約というのを事前に結んでおくのだ。ロードナイトが不治の病や瀕死の重傷を負ったときにそのまま死ぬのではなく、愛する子供や弟子に自分を殺させる。そうすれば自分の魔力を子供や弟子に引き継ぐことができる。この殺人行為を合法的に行うために事前に結んでおくのがロードナイト継承の契約だ。


 継承の契約が無くても、一族が集まって見守る中でロードナイトの継承を行う場合もある。それを継承の儀式と呼んでいる。


 継承の契約も継承の儀式もロードナイト本人が愛する自分の子供や弟子に自分の魔力やスキルを継承させたいという意志があって行われるものだ。


「ロードナイトの継承は信志郎さんの意志を無視して行われたってこと? つまり、完全な殺人なんだね?」


 オレの問い掛けに、藍花さんは辛そうな顔をした。


「分りません……。今までは一族の者は皆、城多郎兄さんが頭領になりたいために信志郎様を殺したと考えていました。でも……、今のお話を伺ったら、分からなくなりました。もしかすると、信志郎様は覚悟の上で自分を殺させて、城多郎兄さんにロードナイトを継承させたのかもしれません……」


「えっ? どうしてそう思うの?」


「信志郎様が一番可愛がっていたのが城多郎兄さんだったからです。信志郎様だけでなく、城多郎兄さんは一族の皆から可愛がられていましたし、慕われていました。文武両道に秀でているだけでなく統率力もあって、とても優しい人だったのです。自分の欲望を満たすために殺人を犯すような人ではありませんでしたから……」


「でも、そうだとしたら、信志郎さんはそれを一族の人たちに告げてから死ぬはずだよね?」


「おそらく一族の者に告げることができなかったのだと思います。亡くなる数ヶ月前にお年のせいか急に寝込まれるようになって、信志郎様はほとんど眠っておられましたから……。その間は城多郎兄さんがいつも付き添って信志郎様を介護していました。もしかすると信志郎様が目を覚ましたときに城多郎兄さんへ頭領を引き継ぐよう仰ったのかもしれませんが、今となっては本当のところがどうだったのかは分りません……」


「頭領を城多郎へ引き継ぐ気があったのなら、年のせいで寝込んでしまう前に信志郎さんは一族の者にそれを告げるべきだったよね」


「でも、それまではお元気で、信志郎様はこの村に神族様が現れるのをずっと待っておられたのです。一族の誰かに頭領を引き継がせるのではなくて、この村に神族様が現れたら一族を委ねようと信志郎様は考えておられたと思います。神族様に魔乱一族を委ねれば、きっと正しく導いてくださるだろうし、神族様のご加護で我らも優れた能力を発揮できるようになると常々仰っておりましたから。まさかご自分が急に寝込んでしまうとは思っておられなかったのでしょう」


「自分が育ててきた一族の者よりも見ず知らずの神族を信じたってことかな? でも、どうして信志郎さんはそこまで神族を信じていたんだろう?」


「信志郎様はご自身のことを我ら一族の者に話されるようになってからは、ウィンキアの世界のことも色々と教えてくださいました。魔族や魔物が跋扈ばっこする過酷な世界であることや、その中で人族が生き延びて来られたのは神族様が陰で守ってくださっているおかげであることなどです。信志郎様はいつも神族様の偉大さを口にされておりました」


「たしかにそうかもしれないけど……」


 信志郎が言ってるのは、神族が国守りの結界魔法で王都を守っていることや神殿内にある魔力貯蔵所に定期的に魔力を補充していることだろう。たしかに神族がいなければ人族はあっという間に魔族や魔物によって滅ぼされてしまうかもしれない。だが、それは神族が偉大だと言うよりも、ソウルゲート・マスターから与えられた使命を神族が代々に渡って連綿と続けてきただけのように思う。


 オレはまだ納得できなかった。その様子が分かったのか、藍花さんは説明を加えてきた。


「それに、信志郎様のご先祖は神族様の使徒だったとのことです。それを常に誇りにして、強い信念を持って生きて来られたそうです」


「強い信念? それが信志郎さんが神族を信じることと何か関係するの?」


「はい。信志郎様がこちらの世界に来られたときは戦国の乱世で、人々が殺し合う悲惨な時代だったそうです。信志郎様はその様子をご覧になってお心を痛めておられたそうですが、自分のような異世界の亜人が表に出るべきではないとお考えになりました。この乱れた世を統一しようとする者が幾人も現れるとすれば、自分はその中の心正しき者に力を貸して、世の中が平和になって繁栄するように陰で支えて行こう。ウィンキアの過酷な世界で神族様が表に出ずに陰で支えてくださっていたように……。信志郎様はそうお考えになったそうです。それが、信志郎様の信念でございます。そして、それが我が魔乱一族の使命であると信志郎様は仰っておりました」


「信志郎さんはその信念を持ってマラン一族を立ち上げたってことだね? 一族の名前にも自身のマラント家の名前を付けて……」


「はい。信志郎様は一族を立ち上げたときに、一族の名前に誇りあるマラント家の家名を入れることにしたそうです。それで、魔法を使って乱破らっぱとして裏の仕事をする一族なので魔乱という名前を付けたと仰っていました」


 乱破とは忍びの者のことだ。話を聞く限り、信志郎は本当に立派な男だったようだ。


『神族のことをかなり偶像化してる感じよね? なんだか信志郎は妄信的に神族を崇拝してる気がしない?』


 ユウが高速思考で言ってきた。


『信志郎の先祖は初代の神族の使徒だったらしいから、そのときの神族のイメージが代々伝えられてきたのかもしれないわね』


『ミサキ、初代の神族はそんなに偉大だったの?』


『私の記憶はオーナーが変わる度にリセットされるから、初代の神族に関しては何も記憶は無いのよ。推測として言えることは、ソウルゲート・マスターは心身ともにずば抜けて優れた人たちを選んで初代の神族にしたはず、ということよ。初代の神族は立派な人たちだったのだと思うわ』


 それを聞いていて、オレはまた疑問が湧いてきた。


『信志郎がそんなに神族を崇拝していたのなら、どうしてバーサット帝国に加わったりしたんだろうね?』


 バーサット帝国は魔族と手を組んで神族の国と敵対しているから、信志郎の思いとは相容れないはずだ。それを藍花さんに尋ねてみた。


「信志郎様がバーサット帝国に加わった理由ですか……。そう言えば、以前に信志郎様がこんなことを言われていました。自分が住んでいた土地ではバーサット帝国という新しい国が生まれて、信志郎様もその帝国の誕生に手を貸したそうです。でも、しばらくすると、その国の皇帝が神族様を蔑ろにし、魔族どもと手を結ぼうとしていることが分かったそうです。その国の貴族となっておられた信志郎様は何度も皇帝を諌めたと言っておられました。でも、聞き入れてもらえず、それどころか、皇帝は信志郎様のことを反逆者だと罵り暗殺しようとしたと仰ってました。それも、信志郎様がご先祖から受け継いできた家宝を使って暗殺しようとしたそうです」


「家宝を使って暗殺? その家宝って、異空間転移装置じゃないの?」


「ええ。ご存知でしたか。遥か昔にご先祖様が神族様にお仕えしていたときに異空間転移装置という宝物をお預かりしたそうです。それをマラント家では家宝として代々受け継いできたと仰っていました。でも、それをバーサット帝国の皇帝が知って、家宝の一つを取り上げてしまったそうです」


「皇帝は没収したその家宝を使って信志郎さんを暗殺しようとしたってこと?」


「はい。信志郎様は不意打ちを食らってこの世界に転移させられてしまったと仰ってました」


「さっき、家宝の一つと言ったけど、ほかにも家宝があったということ?」


「ええ。家宝の異空間転移装置は二つあったそうです。一つは没収される前に、信志郎様はウィンキアのどこかへ隠されたとか……」


『それが本当なら凄いわ! 異空間転移装置がもう一つあるとすれば、是非それを手に入れたいよね』


 ユウが高速思考で語り掛けてきた。


 ※ 現在のケイの魔力〈1306〉。

   (日本では〈653〉。日本でソウル交換しミサキに入ると〈131〉)

 ※ 現在のユウの魔力〈1306〉。

   (日本でソウル交換してケイの体に入ると〈131〉)

 ※ 現在のコタローの魔力〈1306〉。

   (日本でミサキの体を制御しているときは〈653〉)


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