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SGS273 謎の一族その1

 オレに声を掛けてきた女性はジーンズにモスグリーンのジャケットを羽織っていた。髪はポニーテールで小顔の美人だ。


 山奥の村にこんな綺麗な人が住んでることにちょっと驚いたが、そんなことを考えてる場合じゃない。ウィンキアのことを知っているということは、この女性はオレに脅しを掛けてきた敵の一味ということだ。


「わたしに脅迫状を出してきたのは、あんたなのか?」


 オレは意識して語調を荒らげた。


「えっ!? 脅迫状?」


「そうだけど……」


 なんだか様子がおかしいと思いながらオレは言葉を続けた。


「家の郵便受けに脅迫状が入っていて、この先にあるマラント牧場まで来いと書いてあった。来なければ家と周囲100mを爆破するってね」


 オレの言葉に女性は顔面蒼白になった。


「なんて馬鹿なことを……」


 そう呟く声が聞こえた。どうやらこの女性は脅迫状のことを知らないらしい。


「脅迫状はあんたが出したんじゃないみたいだね」


「申し訳ございません。私の兄がとんでもないことを仕出かしたみたいで……。私はあなた様が今日のお昼頃にこの村へ来られると聞いていただけでした……」


 女性がウソを吐いているようには見えない。


「あんたの兄さんが? どういうことか事情を説明してくれる?」


「はい……。ここでは話をしにくいので、私の家の方へお越しください。牧場へは後で車でお送りしますので」


 敵から指定された時刻は14時だ。まだ3時間ほどあるから時間はある。何かの罠かもしれないから周囲を念入りに探ったが、特に変わった様子も無い。


 女性の案内で細い道を辿たどっていくと、突き当たりに一軒の家があった。茅葺かやぶきに赤いトタンを被せた家だ。中には誰もいないことは探知魔法で分かっている。


 家の中に入ると、玄関を上がったところに古い応接セットが置いてあった。勧められてその椅子に腰かけると、女性は前に座ってオレをじっと見つめた。


「単刀直入にお伺いします。あなた様はウィンキアの神族様か使徒様でしょうか?」


 女性の眼差しは真剣だ。質問の意図が分からないからオレはどう答えていいのか迷った。


 女性はオレのそんな様子に気付いたようで、軽く頭を下げてから言葉を続けた。


「すみません。初めてお会いしたのに、いきなりこんなことを尋ねるのは失礼ですよね。でも、どこまでお話ししていいのか分からなくて……」


「わたしが神族か使徒だったら何もかも話してくれるってこと?」


「ええ。前の頭領は3年ほど前に亡くなってしまいましたが、亡くなるまでは神族様か使徒様がこの村に現れるのをずっと待ち望んでおりました。結局、その望みは叶いませんでしたが、亡くなる前に自分が死んだ後のことを言い残していたのです。もし神族様か使徒様が現れたら、一族のことをすべてお話しして、その配下に加えてもらうようにと……」


「一族のことをすべて話すって……、なんだか大袈裟だね」


 オレが少し茶化して言うと、女性はきつい目をした。


「すべてをお話しするというのは、一族にとってはとても重大なことなのです。これまで5百年の間、一族のことはずっと秘密にして守り通してきたのですから。実は、一族の秘密を外部の方に打ち明けることについては反対する者も多かったのです。でも、前の頭領は一族全員を集めて、神族様にはすべてをお話しせよと厳しくお命じになられました」


 なるほど。5百年もそれを秘密にしてきたということは、この女性の一族にとってはよほど重大な内容なのだろう。


 少なくとも、その亡くなってしまった前の頭領という人はウィンキアの神族や使徒のことを知っていたようだ。しかも、一族の全員に対して神族の配下に加えてもらうよう命じたということは、神族を信頼していたということだ。それは神族と敵対する考えなどは全く無かったということを意味している。


 だが、オレは現に敵対行為を受けている。これはどういうことだろうか。目の前の女性はオレの敵なのか、それとも味方なのか。


 ともかく謎の一族のことを聞き出してみないことには何も分からない。だが、何の防御策も無しに女性の話を聞いて鵜呑みにすることはできない。何かの罠かもしれないからだ。


 それならば、いつもの手を使おう。この女性がオレの味方になろうとしてるのなら申し訳ないが、仕方がない。


 魔法を発動して女性を眠らせた。この部屋は盗聴されている可能性が高いから念話を使って暗示魔法を掛けた。オレの命令に従わなかったり怠ったりしたときは耐えがたい痛みに何度も繰り返し襲われるという暗示だ。それはオレの命令に従うまで続くことになる。


 その暗示を掛けた上で、眠ったままの女性に対して暗示で命令を与えた。オレとオレの仲間に対する敵対の禁止、虚偽報告の禁止、逃亡の禁止、秘密の厳守などだ。本人は暗示を受けたことも命令を受けたことも覚えていないが、意識下では暗示が有効に働いているはずだ。


 眠りから目覚めさせたが、まだ少し虚ろな感じで目の焦点が定まっていない。


「大丈夫? なんだか疲れてるみたいだね。話を続けてほしいんだけど。あなたが知ってることをすべて説明してもらえる? わたしは神族だから」


「ごめんなさい。なんだかぼんやりしてしまって……。あなた様は神族様なのですね? その……、説明の前に大変失礼なことをお願いしたいのですが……。神族様はワープという魔法を使われるとか。できればその魔法を見せていただけませんでしょうか?」


「本当に神族かどうか確かめたいってこと?」


 オレは立ち上がって部屋の中で短距離ワープをして見せた。


 女性は驚いた顔でポカンとしていたが、慌てて床に跪いた。


「お、おゆるしください。本当に神族様はおられたのですね……。頭領が仰っていたことは全部本当のことだったのですね……」


 女性は跪いたまま顔を伏せて泣いているようだ。前の頭領の話が本当のことだと分かって、よほど嬉しかったみたいだ。


「とにかく座ってくれる? 話を聞かせてほしいんだけど」


「失礼いたしました……」


 涙を拭いながら女性はオレの前に座り直した。


「私の名前は藍花あいかと申します。孤児だった私を前の頭領である信志郎しんしろう様が引き取って育ててくださったのです」


「あなたの名前がアイカで、前の頭領の名前はシンシロウ……」


 オレがそう呟くと、アイカさんは自分と前の頭領の名前を漢字で教えてくれた。


 信志郎という名前はどこかで聞いたことがあるような……。そう考えているとミサキ(コタロー)が高速思考で語り掛けてきた。


『ケイ、これで全部繋がったわね』


『えっ? どういうこと?』


『ラウラから報告を受けていたでしょ。マラン一族の頭領がシンシロウという名前だって』


 ミサキにそう言われて、ラウラからそんな話を聞いていたことを思い出した。


 マラン一族は戦国時代の忍者の一団だ。ソウルオーブを装着して魔法を使うらしい。ラウラの配下となったカエデもその一族の者だ。


『じゃあ、この村はマラン一族の村だってこと?』


『ええ、おそらくマラン一族の拠点の村だと思うわ』


『でも、ミサキ。それは変よ』


 話を聞いていたユウが割り込んできた。


『ラウラがいるのは戦国時代で、今から450年以上昔なのよ。そのときの頭領が最近まで生きているはずがないもの』


 たしかにユウの言うとおりだ。いくら忍びの頭領でも、そんなに長生きできるはずがない。


『その頭領が人族ならあり得ない話だけど、エルフなら十分にあり得るわよ』


『エルフ?』


『ええ。その頭領はおそらくシンシル・マラントよ。バーサット帝国の皇帝に処刑されたというマラント家の最後の伯爵だと思うわ』


『そう言えば、ガリードがマラント家のことを調べて報告してくれたとき、その当主は代々エルフだったと言ってたわね。つまり、シンシル・マラントもエルフだってことよね?』


 なるほど。エルフであれば500年くらいは普通に生きると聞いている。それでもまだ納得できない。


『だけど、ユウ。そのシンシル・マラントは皇帝に処刑されたんだよ。処刑されて死んだ人が、どうしてこの日本に……。あっ! そういうことか……』


 オレはそう言い掛けて、途中で分かってしまった。


『そう。処刑は異空間転移装置を使って行われたのよ』


 おそらくミサキ(コタロー)の推測は当たっていると思う。異空間転移装置というのはジルダ神を暗殺しようとしてバーサット帝国が使ってきたあの古代のアーティファクトだ。


『それで、シンシル・マラントは日本の戦国時代へ転移させられてしまったということなのね?』


『そういうことよ、ユウ』


『とにかく、この女性から話を聞こうよ。藍花さんって言ったっけ?』


 高速思考を解除してオレは女性に語り掛けた。


「前の頭領の名前だけど、本当の名前はシンシル・マラントだと思うんだけど、合ってる?」


 藍花さんは驚いた顔をした。


 ※ 現在のケイの魔力〈1306〉。

   (日本では〈653〉。日本でソウル交換しミサキに入ると〈131〉)

 ※ 現在のユウの魔力〈1306〉。

   (日本でソウル交換してケイの体に入ると〈131〉)

 ※ 現在のコタローの魔力〈1306〉。

   (日本でミサキの体を制御しているときは〈653〉)


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