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SGS270 協力し合える関係になる

 人魂は消えてしまったが、幽霊たちはまだこの部屋の中に居て、自分のソウルにキュア魔法を掛け続けているはずだ。


 そのまましばらく放っておいた。10分くらい経っただろうか。


『ケイ、そろそろ止めてあげたら……』


『うん。そうする』


 ユウから言われるまでもなく、オレもそうしようと思っていたところだ。


『わたしの命令にあなたたちは逆らえないよ。なぜなら暗示魔法を掛けたから。わたしの命令に逆らったら、今のように自分自身にキュア魔法を掛け続けて魔力切れを起こすことになるからね。今の苦しい状態から抜け出すためには……』


 オレはもう一度さっきの命令を繰り返して、返事をするよう促した。返事をしようがしまいが、オレが命令を出した時点でその命令は有効になっている。返事をしろというのも命令の一つだから、同意の返事をしなければ暗示が働いて自身にキュア魔法を掛け続けることになるのだ。


 暗示の内容を幽霊たちが理解するまで説明して、その後で知育魔法を使って正しい日本語と社会人程度の一般知識や常識などを植え付けた。幽霊たちが使っていた日本語が大昔の言葉らしくて、オレにはあまり理解できなかったからだ。


 三人ともオレの命令に同意すると返事を寄こした。これでようやく幽霊たちと話し合いができる。オレには敵わないと悟ったらしく、三人とも教えられた日本語で丁寧に話を始めた。


『ケイ様、あなた様が神族だとナデアから聞きました。それは本当ですか?』


『うん、ホントだよ』


 オレはそう言った後、何度か部屋の中で短距離ワープをして見せた。


『たしかに……。あなた様が神族であることは分りました。疑うようなことを申し上げて失礼いたしました。それと、先ほどは仲間たちが大変な無礼を働きましたが、どうかお許しください』


 このソウルはかなり知性が高そうだ。


『神族を知ってるということは、あなたはウィンキア出身だね?』


『はい。私はエドラルと申します。カイナラン王国の貴族で、この世界には2千年以上前に来ました』


 カイナランは神族に支配されていた王国だったが、50年くらい前に滅んでしまった。その王都は今、バーサット帝国の首都になっている。


 エドラルはそのカイナラン王国で伯爵の地位にあり、名を馳せたロードナイトでもあった。エドラルが生きていたのは、その話から推測すると、ウィンキアの世界では千年くらい前のことだと思われる。エドラルが50歳になったころ、何者かの陰謀でこっちの世界へ強制的に転移させられてしまったそうだ。おそらく誰かが異空間転移装置を使ってエドラルを暗殺しようとしたのだろう。


 異空間転移装置というアーティファクトを知っているかと尋ねてみたが、エドラルは何も知らなかった。


 エドラルが転移した先は日本の弥生時代だ。千年前のウィンキアで異空間転移装置を使って2千年前の日本に流れ着いたのは、時空の転移が不安定なせいだと思われる。


 この世界に転移してきて、すぐにエドラルは殺されてしまったらしい。親切そうな女に騙されて毒を盛られたそうだ。そして気が付いたら浮遊ソウルになっていた。意識も記憶もはっきりしていて自由に移動はできたが、それ以外のことは何もできなかったと言う。


『それで、何とかして再び魔法を使えるようになろうと考えたのです』


『でも、幽霊が魔法を使うって、何のために?』


『それは……。私を騙して毒を盛った女や盗賊一味に復讐するためです……』


 幽霊になった後で分かったそうだが、エドラルを殺した女は盗賊の一味だったらしい。この世界に来た直後でエドラルは言葉も分からない状態だった。女はそんなエドラルを親切に助ける振りをして、実は彼が身に着けていた衣服や武器を奪うことが狙いだったようだ。


『お恥ずかしい話ですが、魔法を使えるようになれば幽霊でも復讐ができると考えまして……』


『でも、魔力が高くないと魔法は使えないよ。ソウルの中の魔力なんて僅かな量しかないはずだけど、いったいどうやって?』


『瞑想です』


『めいそう?』


『はい。自分のソウルの中にある魔力に意識を集中して、それを循環させるのです。私はそれを瞑想と呼んでいます。

 初めはソウルの中で魔力を循環させて、慣れてきたらそれをソウルの外側に少しずつ広げていくのです。私はその方法を編み出して魔力を高めることができました。ソウルの中の魔力量も魔力の増加とともに増えました』


『それで今のように魔力を〈125〉にまで高めることができたってこと?』


『はい。大半の時間を瞑想に費やして、ここまで高めるのに2千年の年月が掛かりましたが……』


 それを聞いてオレは目まいがしてきた。とてもオレには真似ができない努力だ。


『復讐は? あなたを殺した女や盗賊たちへ復讐はできた?』


『いえ……。私が魔法を使えるようになるまで数百年が掛かりました。女や盗賊一味はとっくの昔に死んでましたから』


『じゃあ、瞑想で魔力を高めても意味が無かったということ?』


『そんなことはありません。魔法を使えるようになったことで楽しみが増えました。悪い者を密かに懲らしめたり、自分が気に入った者がいれば密かに助けたりして、生ある者の世界にこっそりと干渉して楽しむのです。それに、彷徨さまよっている間に気が合った仲間ができて、その仲間に瞑想と魔法を教えて育てて来ましたから』


『それが、この二人ってこと?』


『はい。ここにいるミツとヒコです。それと最近、ナデアにも巡り合って、瞑想を教えました』


 ミツは平安時代に生まれた貴族の娘で光姫みつひめと呼ばれていたそうだ。ヒコは鎌倉時代生まれの武士で彦次郎ひこじろうというのが本当の名前らしい。どちらも若い頃に死んで、気が付いたら霊魂の状態で彷徨っていたと言う。


『エドラルに出会えて、あたしはどれほど嬉しかったことか……。瞑想と魔法を教えてもらっただけじゃなくて、エドラルやヒコに優しくしてもらって、あたしは救われたのよ』


『おれもミツと同じです。エドラルとミツに出会ったのは8百年ほど前ですが、それからは家族のようにずっと一緒に暮らして来ましたからね』


『あたしはヒコよりも長いのよ。エドラルに出会って千年以上一緒に過ごしてきたもの。喧嘩もするけど、エドラルもヒコも本当の家族だと思ってるわ。あたしはこの穏やかな暮らしを失いたくないの』


 なるほど。この幽霊たちがオレを脅かして立ち去るように言った理由がよく分かった。


『この二人が言うように、私たちは静かに暮らして来ました。どうかお願いですから、この暮らしを壊さないでいただきたいのです』


 エドラルが懇願するのを聞いて、ミツとヒコも『お願いします』と言って来た。


『わたしはあなたたちの暮らしを壊すつもりはないよ。わたしはあなたたちとお互いに協力し合える関係になりたいと思ってる。ここにはその話し合いに来ただけだから』


『協力し合える関係ですか……。協力というと、どのような?』


『護衛や情報入手、秘密工作なんかを頼みたいと思ってる。あなたたちは姿が見えないし魔法を使えるから、誰にも気付かれずにそういう仕事ができるよね。その代りに今よりもっと快適な暮らしができるようにするし、何か困ったときにはわたしと仲間があなたたちを守る。どうかな?』


 それから話し合いが続いた。無理強いはしたくなかったからエドラルたちの希望をできるだけ叶えようと思っていた。


 エドラルたちは相矛盾あいむじゅんするようなことを希望してきた。人が来ない静かな環境がほしいし、人々の営みにも接して時にはこっそりと干渉して楽しみたいと言うのだ。


 ユウやコタローと高速思考で相談してオレはそれを叶えることにした。人里離れた一軒家を購入してオレの拠点の一つにしようと思う。エドラルたちにはそこを別荘にしたらどうかと提案した。気が向いたときや休みたいときに別荘に来て自由に過ごせば良いのだ。


 家の中にはテレビやネット環境を用意するつもりだ。知育魔法で使い方を教えれば、エドラルたちも念力を使って操作できるようになる。人々の営みも分かるし、楽しみも増えるだろう。


 そして普段はエドラルたちにはユウの家に住んでもらう。ユウの部屋にテレビやパソコンを置いて、エドラルたちの居場所にしようと思っている。ユウの家に住めば人々の営みに直に接することができるし、菜月や両親の護衛もしてもらえる。オレとの間で連絡も取り易い。


 不安要素があるとすれば、エドラルたちの高い魔力に惹かれてユウの家に魔物が寄って来ないかということだ。エドラルに尋ねると以前は魔物が時々現れていたが、この数年は見てないそうだ。もし魔物が現れたとしても、人々に迷惑が掛からない場所へ魔物を誘導して始末するとエドラルは約束してくれた。


 エドラルたちはオレの提案を受け入れて合意はできた。ただしもう一つ、きちっと約束させておくことがある。それはエドラルたちが人々にこっそり干渉したいと言ってることに関してだ。


『困っている人を助けたり、悪いことをしているヤツを懲らしめたりするのは構わないけど、目立たない程度にしてほしい。大騒ぎになるのは避けなきゃいけないからね。それと、面白がって普通の人を怖がらせたり傷付けたりするような悪さは絶対にしないこと。いいね?』


 エドラルたちはそれも素直に受け入れた。ナデアが友だちになったのも分かる。幽霊にしておくのは惜しいような良い奴らだった。


 遅くなったがオレは自分のことを話した。体にケイとユウの二つの人格があることも打ち明けた。これから長い付き合いになるはずだから、知っておいてもらわねばならない。当然、オレのことは秘密だと釘を刺しておいた。


 その後、オレはワープでユウの家に戻った。エドラルたちもナデアの案内でユウの家に向かっている。全速力で移動すれば時速500キロくらいは出せるそうだ。しかも空中を一直線で移動できるし、人や家にぶつかっても通り抜けてしまうから事故の心配がない。


 オレが家に戻ってから10分ほどでエドラルたちも到着した。夜が明けるまでにはまだ時間があったので、エドラルたちに断ってオレは少し眠ることにした。


 エドラルたちを味方に加えたことでユウの家族を護衛してもらえるようになったが、それでもオレの不安はぬぐえなかった。暴力団がまた菜月を狙ってくるかもしれない。だがそれだけではない。オレは心の中で漠然とした不安を感じていた。


 その不安は当たっていた。翌朝から始まったのはもっと得体の知れない存在との攻防であった。


 ※ 現在のケイの魔力〈1306〉。

   (日本では〈653〉。日本でソウル交換しミサキに入ると〈131〉)

 ※ 現在のユウの魔力〈1306〉。

   (日本でソウル交換してケイの体に入ると〈131〉)

 ※ 現在のコタローの魔力〈1306〉。

   (日本でミサキの体を制御しているときは〈653〉)


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