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SGS268 ナデアは命の恩人

 ガリードと念話で話している途中だったが、後で連絡すると断って念話を切った。コタローから一刻も早く詳しいことを聞かねばならない。今は、ユウの妹の菜月が無事なのかが気掛かりだ。


 菜月はオレに似て美人で可愛い。正確に言えば姉のユウに似てるってことだが。そのせいで、あのストーカーのような奴がまた現れて襲われたのかもしれない。


 コタローから緊急連絡を受けたとき、オレの頭に浮かんだのはそんなことだった。


『それで、菜月は? 菜月は無事なの? 襲われて怪我とかしてないの?』


 ユウがオレより先にコタローへ問い掛けた。妹のことが心配なのだ。


『菜月はかすり傷一つ無かったけどにゃ』


 嫌な言い方だ。


『もしかしてナデアに何かあった?』


 心配になって、オレはナデアのことを尋ねた。


 ナデアはちょっと前まで幽霊だった。それをオレが捕らえて尋問した。その尋問で分かったのは、ナデアがウィンキアから強制的に数百年前の日本に転移させられた女性で、死んでから意思を持った浮遊ソウルとなって彷徨さまよっていたということだ。話してみると素直で優しい心の持ち主だったので、ユウの家まで連れてきた。しばらくの間、ナデアには菜月の護衛を頼んでいたのだ。


 幽霊の魔力はそれほど高くないはずだが、ナデアは〈5〉の魔力を持っていた。その魔力の源泉はナデア自身のソウルに保有している魔力だ。魔力量は僅かであるが、幽霊になった後に何らかの方法で魔力の出力を〈5〉まで高めたらしい。


 だが、その魔力だけでは菜月を守るためのバリアを張ることができない。護衛として何かあったときにバリアで菜月を守るためには魔力が〈10〉必要なのだ。


 それでナデアを説得して、ネズミ型の人工生命体の中にナデアのソウルを移した。そうすればソウルオーブを装着できる。地球ではソウルオーブの魔力出力は〈5〉しかないが、ナデア本人の魔力と合わせれば〈10〉の魔力出力を得られる。これで万一のときはバリアを張って菜月を守れるはずだ。


 だから菜月が襲われたと聞いて、菜月だけでなく護衛をしていたナデアがどうなったのか心配になったのだ。


『ナデアは菜月を守って危うく死ぬところだったわん』


 コタローが菜月から聞いた話によると、ナデアは菜月を命懸けで守ってくれたらしい。


 菜月は大学からの帰り道で襲われた。帰りが少し遅くなってしまい、日が暮れて暗くなった夜道を一人で歩いていたときだった。人通りが無い場所で無理やり車の中に連れ込まれてしまったのだ。


 突然二人の男たちに両側から腕を取られて、車の後部座席の真ん中に座らされた。どちらの男もがっしりした体格で黒っぽい服を着ていた。その男たちに挟まれて、菜月は体を押さえ込まれた。怖かったのと口も塞がれていたことで悲鳴も上げられなかったらしい。


 もがきながら助手席を見ると、二度と会いたくないと思っていた男が座っていた。菜月を付け回していたあのストーカーだ。もう自分の前には姿を現さないはずだと聞いていたのに、仲間を連れて自分を拉致しに来たのだと分かった。


 もうダメ……。自分はこの男たちの手に掛かって……。


 そう観念仕掛けたとき、突然、左側の男が呻き声を上げて菜月の腕を離した。男は座席にもたれ掛かって気を失っているように見える。続いて右側の男も気絶をしたようにぐったりとなり、運転手もハンドルに顔を伏せて動かなくなった。


 そのとき車はゆっくりと動き始めていたが、電柱に接触して止まった。


 偶然にも助手席側のドアが電柱に接触したらしく、あのストーカーがドアを開けようとしたが開かない。


『菜月さん……、早く……、逃げて……』


 ナデアからの念話で菜月は何が起こったのか理解した。自分を窮地から救うためにナデアが何かの魔法を使ってくれたのだ。


 動かない男を押し退けて車のドアを開けた。幸い人通りが無かったから、そのまま家に逃げ戻ってきた。あのストーカーも後を追ってくることはなかった。


 菜月は自分の部屋で初めてナデアの異常を知った。バッグの中のナデアが全然動かなかったからだ。


 そこへコタローが現れた。ネズミ型の人工生命体からの信号が途絶えたことを感知して、コタローはナデアに緊急事態が発生したと考えた。それで急いでワープしてきたのだった。


 コタローが調べると、ネズミの心臓は止まっていた。ナデアのソウルはネズミの体から離脱して近くを浮遊している状態になっていた。


 ナデアは以前のように意識を持った浮遊ソウルとなっていた。だが、非常に危険な状態だった。魔力切れを起こしていたからだ。ソウルの中から完全に魔力が無くなるとそのソウルは消滅してしまうが、それに近い極限状態だったらしい。


 それを知ったコタローは急いでナデアのソウルに魔力を補充した。そして、菜月から何が起こったのかを聞き取って、オレに連絡してきたのだ。ナデアはまだ浮遊ソウルのままの状態で、意識はまだ戻ってないとのことだ。


『普通の魔力切れなら、すぐに意識が戻るはずだけどにゃ。今回のナデアはホントにギリギリの危険な状態だったのだわん』


『事情は分かった……。こっちでちょっと用があるけど、それを済ませたらすぐにそっちへワープするから』


 用というのは海賊に捕らわれているというシゲルさんのお姉さんの件だ。


 オレはすぐにダイルに連絡を入れて、二つの出来事が重なってしまったことを説明した。シゲルさんの姉がドルドゴ群島の海賊に捕らわれているらしいこと、それとユウの妹が襲われたことだ。


『それで、ダイルにお願いがあるんだ。海賊に捕らわれているその女性を助け出してほしい。わたしの方はユウの妹の件に対応するから』


『分かった。シゲルさんの姉の救出は俺に任せろ』


 ダイルはこれから家を出て、クドル・インフェルノへ訓練に行こうとしていたらしい。フィルナとハンナは昨日からラーフランへ行っていて、ラーフ神一族を調略する準備に取り掛かっている。ダイルもオレも今回の調略での出番は調略を実施する当日だけだから、それまでの間は訓練をする予定だったのだ。


 ガリードとの話が途中だったので、念話を使ってダイルと一緒にガリードからドルドゴ群島の情報について話を聞いた。その後、ダイルをマリエル王国の拠点までワープで送った。ダイルはマリエル王国でシゲルさんたちから話を聞いて、それからドルドゴ群島へ飛行魔法で移動するはずだ。


 そしてオレはユウの家へワープした。


 ………………


 ドアを軽くノックして菜月の部屋に入った。菜月はベッドに腰掛けていて、その足元にはコタローが座っている。


「お姉ちゃん!」


 菜月はオレに抱き付いてきた。よほど怖かったのだろう。


 オレは菜月をギュッと抱きしめた。


「菜月、怖い思いをさせてごめんね」


 オレはユウの真似をして謝った。ユウの口調を真似ることにもだいぶ慣れてきた。本来ならユウに体を譲るべきだが、それはできなかった。数時間前にソウル一時移動から戻ったばかりだから、再びソウル一時移動を行うためには何時間も待たねばならない。


「どうしてお姉ちゃんが謝るの?」


「あのストーカーを裏で操っていた奴らがいるのよ。たぶんどこかの暴力団だと思うけど……。それは分かっていたんだけどね、私はそれを放っておいたの。そんな相手と私が戦ったら大騒ぎになるかもしれないって考えたから……。

 あのストーカーには二度と菜月に手を出さないように魔法を掛けたんだけど、私が甘かったみたい。本当にごめんね」


 謝りながらオレは菜月の手を取って二人でベッドに腰掛けた。


「お姉ちゃんが悪いんじゃないから、そんなに謝らないで。それに、お姉ちゃんが護衛に付けてくれたナデアが命懸けで守ってくれたもの。ナデアはあたしの命の恩人よ」


 菜月の言うとおりだ。


「私もナデアには心から感謝してる……」


 そう言いながら感謝の気持ち以上に自分の怒りがフツフツと煮えたぎってくるのを感じていた。


「それにしても、あのストーカーとその裏にいる暴力団は許せないよ。今度は奴ら全員を叩き潰してやる!」


 つい、いつもの口調が出てしまった。


「でも、お姉ちゃん。あたしのためなら危ないことは止めて! お姉ちゃんのことが公になったら大騒ぎになっちゃうよ」


『そうだわん。無茶は止めたほうが良いってナデアも言ってるぞう』


「えっ!? ナデアの意識が戻ったの?」


 菜月が声を上げた。コタローからの念話を聞いてパッと顔を明るくしている。


『オイラが念話を中継するわん』


『ご心配を掛けました。あたしはもう大丈夫ですから』


 ナデアの念話は安定しているから本当にもう大丈夫のようだ。ナデアが命懸けで護衛をしてくれたことに菜月とオレは心から礼を言った。


『ところで、ナデア。どうやって菜月を守ったの?』


『あのときバリアでは菜月さんを守れないと思って、男たちを魔法で撃退しようと考えました。それで電撃の魔法を使ったんです。三人目の男に電撃を撃ち込んだ後、魔力切れになってしまって……。本当に苦しくて意識が朦朧としていて、菜月さんに念話で逃げるように言ったことは覚えてるんですけど、そこから記憶がありません』


 電撃魔法を三人に撃ち込んで魔力切れを起こして苦しくなったのに、そこでさらに念話を使ったから意識を失ってしまったのだろう。下手をすると完全な魔力切れになってソウルが消滅するところだった。


『あたしが入っていたネズミの体は無事でしょうか?』


『ネズミは心肺停止の状態だったけどにゃ、粉々にならない限り人工生命体だから復活させることができるのだわん。だからネズミはいつでも使えるぞう』


 ネズミは復活したらしいが、オレはもうナデアをネズミに入れて菜月の護衛を頼むつもりはなかった。今回は運良く菜月もナデアも助かったが、次は無事で済むかどうか分からないからだ。


 今度はこちらから攻撃を仕掛けてやる。あのストーカーとその裏にいる暴力団を叩き潰せば、菜月が狙われるようなことは無くなるだろう。


 その間の菜月の護衛はミサキ(コタロー)に頼もうと思う。コタローはソウルゲート・マスターが定めた戒律に縛られていて、自己防衛以外で人族を攻撃するのを禁止されている。だから守りに徹することになるが、それでもナデアが護衛するよりもずっと安全だ。それに万一のときはオレがワープで助けに行ける。


 オレは自分の考えをみんなに語って聞かせた。


『でもにゃ、ユウが暴力団と戦うのは止めたほうが良いぞう。暴力団を壊滅させたりしたら、後で警察が調べに入るはずだわん。そうなったらユウの存在を暴かれる可能性が高くなるぞう』


『お姉ちゃん、コタローさんが言うとおりよ。無茶なことをするのは止めて』


『ケイ、コタローや菜月の言うとおりよ。別の方法を考えましょ』


 ユウまでがこっそりとオレだけに聞こえるように語り掛けてきた。今まで異空間ソウルの中で黙って聞いていたのだが心配になったようだ。


『じゃあ、どうすればいいの?』


 オレがみんなに聞き返したが誰も返事をしない。


『あたしから言ってもいいですか?』


 少し沈黙が続いた後、遠慮がちに発言を求めてきたのはナデアだ。


『あたしのお友だちに協力してもらったらどうでしょうか?』


『ナデアの友だちって?』


『幽霊さんたちです』


『『『ええーーーーっ!!』』』


 ※ 現在のケイの魔力〈1306〉。

   (日本では〈653〉。日本でソウル交換しミサキに入ると〈131〉)

 ※ 現在のユウの魔力〈1306〉。

   (日本でソウル交換してケイの体に入ると〈131〉)

 ※ 現在のコタローの魔力〈1306〉。

   (日本でミサキの体を制御しているときは〈653〉)


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