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SGS266 共同体問答

 アルロはオレが考えもしなかったことを言った。クドル3国で共同体を作り上げるということは、これまでの統治体制の上に神族を支配する統治体制を作り上げることだとアルロは語ったのだ。しかも、その頂点にオレが立つって……。


『アルロはなかなか頭の切れる青年だにゃ』


 突然、高速思考でコタローが話しかけてきた。今の会話を聞いていたらしい。


『ケイを頂点とした新たな統治体制って、すごいことを言うわね』


 ユウもこの話題には関心があるようだ。


『統治体制の頂点に立つなんて、わたしはそんなのは絶対にイヤだ。目立つことは嫌いだし、面倒なことはもっと嫌いだからね』


『でもにゃ、ケイ。アルロが言ってることは間違いではにゃいぞう。クドル3国の共同体を作ろうとしたら新たな統治体制が必要なことは当然だわん』


『そうよ。それに、それができるのはその力を持っているケイだけだわ。いざとなったら神族たちを暗示魔法で押さえ込むことができるのだから』


『それはそうかもしれないけど……。でも、嫌なものはイヤだ』


 ともかく、アルロに反論しておかないと、その考えを認めたことになってしまう。高速思考を解除して、アルロの方に顔を向けた。


「ちょっと待って、アルロ。共同体のために新たな統治体制が必要だという考えは良いと思うけど、わたしがその頂点に立つって言うのは受け入れられないよ。自分が目立つことは避けたいし、面倒なことにも巻き込まれたくないからね」


「そうでしょうね。ケイ様ならきっとそう仰るだろうと思っていました。でも、そんな心配は要らないと思いますよ」


「どういうこと?」


「ケイ様が共同体の頂点に立っても、目立たないようにできますし、面倒なことも避けることができるはずです。ケイ様は各国の神族や王様などの最高統治者を支配するだけで、ケイ様の存在は一般民衆には知られないようにすればいいのですよ。それと面倒なのは国の統治だと思いますが、そんなことは各国の最高統治者に任せればいいのです。ケイ様は神族や最高統治者たちに方針だけを示して、それに反したり勝手なことをする者がいれば正したり罰したりするだけです」


 なるほど。そういう統治体制を作り上げることができれば、オレが目立つことは無いだろうし、面倒事も避けることができそうだ。


 そんなことを考えていると、ガリードが声を上げた。


「つまり、それはケイさんが陰から共同体を支配するってことか? 今まで神族がやっていたことと同じだな」


 皮肉っぽい口調だ。ガリードはアルロの案が気に入らないのだろう。ダールム共和国の人間だから神族がやってるような陰からの支配体制を嫌っているのかもしれない。


『ねぇ、ケイ。陰から共同体を支配できるのなら、アルロの案を受け入れてもいいんじゃないの?』


『オイラもそう思うぞう。ケイが希望してることを満たしてるからにゃ』


 ユウとコタローが高速思考で話しかけてきた。


『そうかもしれないけど、ガリードが言ってることも分かるんだよ。神族がやっていることと同じだって言われるとね……。わたしは今の神族と同じにはなりたくないからね』


『ケイ、それは違うぞう。今の神族はにゃ、バーサット帝国や魔族の脅威に対して何の対策も講じてないわん。それどころか人族同士の戦争を煽ってるからにゃ。このウィンキアを平和で安住できる地にしたいというソウルゲート・マスターの思いに反してるのだぞう』


『そうよ。ケイはバーサット帝国や魔族の脅威に対抗しようとしているし、人族同士の戦争も止めさせようとしてるものね』


『ユウの言うとおりだわん。ケイは初代の神族がやろうとして成し遂げられなかったことを実現しようとしてるんだぞう。それはソウルゲート・マスターの思いに沿ってることなのだわん』


『言われてみたら、そんな気もするけど……。もうちょっと考えさせて』


 今はこの話はここまでとしておこう。まだそのときではない。


 高速思考を解除して、アルロの方に顔を向けた。


「アルロ、共同体の統治体制のことはもっと時間を掛けて考えようと思う。わたしの立ち位置についてもね……。それよりも今話し合ってるのは、クドル3国以外の神族の国々との関係についてだよね」


「そうでした……。ともかく僕が言いたかったのは、共同体を作り上げるためには今までの統治体制を押さえ込むことができる強力な支配力と統治力を持った新たな統治体制が必要だということです。ダイル様が強い関係と仰ってましたけど、そういう意味ですよねぇ?」


「うっ、まぁ、そういうことだな……」


 ダイルはアルロから急に問い掛けられて、目を白黒させている。


「それで、クドル3国以外の神族の国々との関係のことですけど、ケイ様と相手の神族様との間で約束事を決めるだけで十分だと思いますよ」


「約束事って?」


「例えば、バーサット帝国について何か情報が掴めたら直ちに知らせるとか、バーサット帝国から侵略を受けた場合は可能な範囲で援助するとか、お互いに侵略行為や略奪行為をしないとか……、そんなことですよ。それと、万一その約束に反した場合はケイ様が罰を与えることを付け加えておけば、十分に効力がある約束になりますよ。共同体と比べたらずっと緩やかな関係だと言えますよね。どうですか?」


 アルロはダイルの同意を求めるように問い掛けた。


「ああ、俺が言いたかったのもそういうことだ。もっと簡単に言えば同盟を結ぶってことだな」


 同盟を結ぶことだとダイルから言われて、オレは初めて自分が目指そうとしている形が見えてきたような気がした。


 クドル3国とは共同体を作り、それ以外の神族とは相互援助の同盟を結ぶのだ。いや、同盟は神族以外の人族の国や亜人の国に広げても良いだろう。


 でも、それを実現するには長い時間が必要だ。オレが頑張って調略を進めていったとしても、実現できるのはずっと先のことになるだろう。そのことをちゃんと話しておかなきゃいけない。


「でも、ダーリン。同盟を結ぶと言っても、ケイが神族を調略することが前提になってるでしょ? それって、ケイにだけ大きな負担が掛かるし、時間も掛かるわよ?」


 オレが言おうとしていることをハンナが代わりに言ってくれた。


「そうだな……。どうなんだ? アルロ」


 ダイルは難しいことを考えるのは得意ではないらしい。全部アルロに振ろうとしている。


「そうですねぇ。神族の主神さえ調略できれば、手っ取り早く進めることができると思いますよ。一族の残りの者は皆、主神に従うはずですからねぇ……」


「あんた、何を言ってるの! ラーフ神の一族でさえ攻略に手間取ってるのよ。主神のラーフ神への接触ができないからケイやあたしたちが苦労してることは、アルロ、あんただって分かってるでしょ?」


「そうでした。ちょっと考えが足りなかったですねぇ」


 アルロもハンナには敵わないようだ。


 結局、この話し合いで決まったのは方針だけだった。その方針とはバーサット帝国の脅威に協調して打ち勝つために、将来的にはフォレスランとメリセラン、ベルドランの神族に対しても調略を仕掛けて我々の味方に加えていく。そして同盟を結んで良好な関係を築くということだ。


 この“将来的に”というのがイヤラシイところで、言い方を変えれば、その3国の神族に対しては今の段階では何もできないということだった。まずはクドル3国の共同体を作り上げることに全力を注いで、それ以外の神族の調略や同盟の交渉はその後で進めるしかないのだ。


 今回の話し合いでもバーサットの脅威に対して有効な対策は出て来なかったが、オレはこの話し合いをして良かったと考えていた。自分自身の頭の中でクドル3国の共同体についてそのイメージがはっきりとしてきたし、それ以外の人族や亜人の国々との同盟関係についても頑張れば実現できそうな気がしてきたからだ。


 だが、それが実現するのはいったいいつのことになるのだろう。オレは自分の背中にズシリと重い荷物を背負ったような気がして、そっと溜息を吐いた。


 オレはこのとき共同体や同盟を実現できるのはずっと先のことだろうと考えていた。だが実はこの後、オレが予想もしてなかった事態が次々と起こり、その予想外の展開が共同体や同盟の実現を早めていくことになるのだ。それはもうちょっとだけ先の話になるのだが……。


 ※ 現在のケイの魔力〈1306〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈1306〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈1306〉。


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