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SGS264 作戦会議でバーサットの脅威を語る

 ラーフ神一族の攻略について相談する前に、まずはニコル神から聞いたことを皆に言っておかねばならない。


「アルロはニコル神をオトリに使うと言ったけど、その方法でラーフ神を呼び出すのは難しそうだよ。ラーフ神は暗殺を極端に警戒しているらしいから」


「えっ!? 暗殺ですか?」


「うん。ラーフ神は跡取り息子のニコル神が自分を暗殺するかもしれないと疑ってるらしいんだ。ラーフランの主神であるラーフ神が死ねば、息子のニコル神が主神になれるからね。だから、ニコル神が呼び出しても父親は暗殺を警戒して応じることはないと言ってた。ニコル神が父親のラーフ神と会えるのは、自分が父親に呼び出されたときだけだと、そう言って嘆いてたよ」


「でも、その話はニコル神様本人から聞いたことでしょう? ウソかもしれませんよ」


 アルロは疑っているが、そんなはずはない。


「いや、ニコル神には暗示を掛けているからわたしにはウソを吐けない。ニコル神をオトリに使ってラーフ神を誘い出すのは難しいと思う。だから、次に調略するのはラーフ神の第一夫人か第二夫人にしようと思ってるんだ。ニコル神の話では、そのどちらも呼び出せると言ってるからね」


「分かりました。いずれにせよ、夫人たちも攻略しなくてはならないのですから、遅いか早いかだけの違いですよ。では、どちらかの夫人に狙いを定めるとして、その作戦はどうしますかねぇ……」


 こうしてオレたちは次の作戦を練っていった。


 ………………


 1時間ほどの話し合いで作戦内容がほぼ固まった。第一夫人と第二夫人を一気に調略する作戦で、1か月後に作戦を実施する予定だ。


 作戦の相談が終わった後、みんなでお茶を飲みながら村の女性たちが焼いてくれたクッキーを食べていると、ダイルが少し悔やむような顔をしてオレに話しかけてきた。


「ラーフランの攻略は思っていたよりも簡単に進みそうだな。こんなことなら、もっと早くケイやアルロたちに相談しておけばよかったよ」


 ダイルの隣でそれを聞いていたハンナが何か言いたげにこちらを向いた。


「でも、ダーリン。こうしてラーフランの攻略が進み出したのはダーリンが最初に頑張ったからよ。クドルのダンジョンでナリム王子やアルロたちを助けたのはダーリンだもの」


「ハンナ様の仰るとおりです。あのとき……」


 声を上げたのはオレの斜め前に座っているアーラだ。女の魔闘士で、けっこう気が強い。アルロのパーティー仲間で、1か月ほど前からゲストハウスに滞在している。オレや仲間たちとも仲良くなっていた。


「あのとき……、ダンジョンの奥深くで魔獣の群れに襲われたときにダイル様が助けてくれなかったら、あたしたちは間違いなく全員死んでいたはずです。ダイル様はあたしたちの命の恩人ですし、心からダイル様に感謝しています」


 アーラの瞳は感謝の気持ちで溢れていた。その言葉にナリム王子とアルロ、クラードが一斉に頷いた。クラードもアルロのパーティー仲間だ。


「わたしからも、あらためてお礼を言わせてほしい。ありがとう、ダイル」


 オレが頭を下げると、ダイルは右手で頬を掻き始めた。


「なんだかなぁ……」

 

 顔を上げると、照れくさそうなダイルの笑顔があった。


「ちょっといいか? バーサット帝国の件だが……」


 広いテーブルの端の方から声が上がった。ガリードだ。新たにオレの使徒になって、アーロ村のナムード村長と一緒にこの会議に参加している。


「バーサットに何か動きがありましたか?」


「それがなぁ……。ケイさんに言われて警戒も強化したし、バーサットの帝都近くまで部下を偵察に行かせたのだが、何の動きも掴めなかった。ダードラ要塞の攻防戦から3か月が経つが、何の動きもない。気味が悪いほどに静かだ」


 実は半月ほど前にニコル神を調略する相談をしたときに、もう一つの議題としてバーサット帝国の脅威が迫っていることをオレは提起して、仲間たちと対策を検討していた。


 オレがその話を持ち出したのには理由がある。神族が支配している国々で立て続けに事件や戦争が発生して各国の軍事力が弱まったが、そのすべてがバーサット帝国の謀略だった。近いうちにバーサットは何かもっと大きなことを起こそうとしているのではないか。オレは不安になって、仲間たちと危機感を共有したいと思った。その対策について意見を聞きたかったのだ。


 会議の場では各国で実際に起こっているバーサット帝国の主な謀略をオレは指を折りながら挙げていった。


 レングラン王国でジルダ神の暗殺未遂事件に加担したミレイ神がバーサットへ寝返ったこと、そのミレイ神に関わっていたゴルディア兵団が国外へ退去してレングランの軍事力が低下したこと、ダードラ要塞の攻防戦でフォレスラン王国とメリセラン王国の魔闘士が多数殺されて軍事力が大きく低下したことなどだ。ダードラ要塞の攻防戦では、要塞に攻め込んできたオーク軍を裏で操っていたのもバーサット帝国だった。


 それだけではない。ラーフラン王国でもケリル王子のダンジョン探検が失敗した。ケリル王子は探検に王国軍の魔闘士を大勢同伴させていたが、大半が死んでしまった。そのせいで王国軍の魔闘士が半減したそうだ。その裏にはバーサット帝国の陰謀があったとアルロは推測している。詳しい理由はここでは省くが、ダイルもその陰謀説に納得しているようだ。


 それと、これはもう4年も前の話だそうだが、ダイルが言うにはベルド神一族が支配しているベルドラン王国に対してバーサット帝国からの無差別なテロ攻撃があり、国が滅びる寸前のところまで追い込まれたらしい。そのせいでベルドラン王国は弱体化していて、今も国力は往時の半分にも届かないそうだ。


 つまり神族が支配している国々は大半がバーサット帝国からの攻撃を受けて大きなダメージを被っていることになる。


 半月前にバーサット帝国の脅威についてその対策を相談したときは期待したほどの意見は出なかった。決まったことと言えば、警戒を強化することとバーサットの帝都まで偵察部隊を送り込むことくらいだった。


 警戒を強化する地域はアーロ村があるクドル・パラダイスとクドル・インフェルノ、クドル3国の周辺、それとアイラ神が支配しているカイエン共和国周辺だ。ナムード村長とガリードが部下に命じて警戒態勢を強化しているし、レングラン王国とカイエン共和国についてはレング神とアイラ神に連絡を取って警戒の強化を依頼していた。


「わしらの方も同じじゃゾ。バーサットの動きは皆目掴めぬゾぃ」


 声を上げたのはガリードの隣に座っているナムード村長だ。


「クドル・パラダイスでもクドル・インフェルノでも警戒を強化しておるのじゃがナ、この地はこれまでにないくらい平和じゃ。バーサットの兵士や工作員らしい者はとんと見掛けぬわい」


 オレは村長の言葉に頷きながらフィルナの方を向いて発言を促した。


「カイエンの方も同じ状況よ。アイラ神様にお願いして警戒を強化しているけど、変わったことは何も起きてないみたい。カイエン共和国は小さな国だから、いつでも滅ぼせるとバーサット側は軽く考えているのよって、アイラ神様は笑っておられたわ」


 カイエンが小さな国というのは本当のことだが、そうだからと言ってバーサットがカイエンのことを軽く考えているとは思えない。アイラ神が支配しているカイエン共和国はウィンキアに住む人族にとって間違いなく重要拠点の一つだ。


 魔空船を造船して各国へ輸出しているのがカイエン共和国だ。ウィンキアの世界で航行している魔空船の大半はカイエン製だ。もしカイエンが滅ぼされたら質の高い魔空船を造ることができなくなり、商隊や旅人たちは昔のように魔樹海の中を馬や徒歩で移動することになる。移動に要する時間は何倍にもなるし、魔樹海の中で魔物や魔獣に襲われる危険性も格段に高まってしまう。そのせいでソウルオーブの輸送も滞ってしまうかもしれない。


 そういう意味で、カイエン共和国は亜人たちの国々と同じくらい戦略的な価値が高いのだ。ドワーフが住むドワフン王国やエルフが住むエルフン王国はソウルオーブの原材料を輸出しているし、獣人が住むクメルン王国は魔空船に欠かせない魔空帆の原材料を輸出している。


 余談になるが半月前にバーサット帝国の脅威について話し合ったときに、亜人たちの国々に対してもバーサットは何か攻撃を仕掛けるのではないかと意見が出た。しかし、オレたちには亜人たちの国まで警戒する能力は無かった。亜人たちの国はどこも魔樹海や原野の奥深くにあり、魔空船で行くことはできない。そんな辺境にある国に対しては手の打ちようがないのだ。


 だがその事情はバーサット側も同じはずだ。亜人たちの国はバーサットから何千ギモラも離れた遥か彼方にある。ダイルの話ではダンジョンの最下層にあるワープゾーンからも行くことはできないらしい。どうやら亜人たちの国の地下にはダンジョンが存在しないようだ。つまり、ドワフンもエルフンも、そしてクメルンも簡単には辿りつけない国なのだ。バーサットがそんな行きにくい国へ手出しをする可能性は小さいだろう。半月前に相談したとき、亜人たちの国については何も対策を講じないという結論で終わった。


 話が少し逸れたが、問題はカイエン共和国だ。


「アイラ神はそんなことを言ってたのか……。でもね、フィルナ。カイエンはバーサットに狙われる可能性が高いとわたしは考えてるんだ。なぜなら……」


 オレはその理由をみんなに説明した。


「だからね、フィルナ。アイラ神にもう一度連絡を入れて、今説明したことを伝えてほしい。そして、十分に警戒するように言っておいて」


「ええ、任せて。今すぐに伝えるから」


 フィルナが少し緊張したような表情で頷いた。


 作戦会議に参加している誰もが真剣な眼差しで話を聞いてくれている。会議全体がほど良い緊張感に包まれている感じだ。


 バーサット帝国の動きが無いからと言って気を緩めてしまう者はいないと思うが、バーサットの脅威についてはもう一度話し合っておいた方が良いかもしれない。適度な緊張感を持って話し合いができている今がちょうど良い機会だ。


 よし。あの件をもう一度話し合おう。


 ※ 現在のケイの魔力〈1306〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈1306〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈1306〉。


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