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SGS261 ラーフ神一族の調略その1

 昼食後。今いる場所はオレの家のテラスだ。正面には広いテーブルを挟んでナリム王子とその仲間たちが座り、こちら側にはオレの仲間たちが座っている。昼食が済んだ後にナリム王子たちとオレの仲間たちに集まってもらった。ラーフ神一族の攻略について作戦を相談をするためだ。


「ラーフランの攻略は俺が自分で何とかしようと思っていたんだが、結局、ケイを頼ることになってしまった。すまん」


 隣に座っているダイルがオレに向かって頭を下げた。


 ダイルが謝ったのは、ラーフ神一族の攻略をダイルに任せ切りにせずに、これからはオレが積極的に仕掛けていくと話したからだ。


 それを話す前に「戦う前に勝つ、殺し合わずに勝つ」というオレの考えと、神族から何か仕掛けられる前に自分の方から先に神族に対して調略を仕掛けていくということを説明した。その手始めとしてラーフ神一族を味方に付けるために調略を仕掛けていくと話したのだ。


 それを聞いたダイルは少しがっかりしたような顔をした。おそらくラーフランの攻略は自分自身の手でやり遂げたいと考えていたのだろう。だが、ダイルは潔くオレを頼ると言ってくれた。


「こちらこそダイルに申し訳ないと思ってる。ダイルがラーフランを攻略しようと頑張っているのに、途中から横槍を入れるような格好になってしまって……。

 でも、今も話したように神族たちがわたしの存在に気付いたら間違いなく何か干渉をしてくると思うし、敵対する可能性も高いと思うんだよね。だから、その前にこちらから仕掛けたいと思ってる」


「たしかにそうだな。それで、どうやって調略を仕掛けるつもりだ?」


「うん。その方法の前に、ラーフ神一族の誰を狙えばいいのかを相談したいんだ。ナリム王子やアルロたちならラーフ神一族について何か知ってるんじゃないかと思ってね」


 隣のダイルに向かって話しかけていたオレはナリム王子たちの方に顔を向けた。オレの真正面にはナリム王子が座り、その右隣にアルロ、左隣りにクラードとアーラが座っている。


 アルロはナリム王子の弟だ。と言っても血は繋がっていない。ナリム王子は王様が下女に手を付けて生まれてきた子供だったため、生まれてすぐにラーフランの裕福な貴族の家に預けられた。その貴族はマインツという子爵で、子供がいなかったマインツ子爵はナリムを自分の子供として育てた。その5年後に自分の実の息子が生まれた。それがアルロだ。


 二人は兄弟として育てられたが、それぞれが成人になった15歳のときに父親のマインツ子爵からナリムの出生の秘密を教えられたそうだ。血の繋がりは無いから二人の容姿は似ていない。ナリム王子は30歳くらいでキリッとした感じなのに対して、アルロは25歳くらいでおっとりした感じに見える。


 クラードとアーラはアルロの親友だそうだ。クラードは30歳くらいのがっしりした男性で、アーラは25歳くらいのしっかりした感じの女性だ。


 ナリム王子だけは魔力が〈138〉だが、ほかの三人は魔力が〈200〉を越えるロードナイトだ。アルロたち三人はナリム王子を陰から護衛するためにダイルと一緒にクドル・ダンジョンに潜って、魔獣の群れとの戦いに遭遇した。そのときダイルの助けでラストアタックを取ることができたから、三人とも魔力が〈200〉以上に高まったとのことだ。


 ナリム王子たちの一行がオレのゲストハウスに滞在を始めてから1か月ほどが経っている。初めの頃はオレのことを「闇国の魔女様」と呼んで、神をおそれるような感じで接してきていたが、はっきり言って嫌だった。そう呼ばれると暗い森にひっそりと暮らしている年老いた魔女のイメージしかしないからだ。


 それでその呼び方は丁重にお断りをして、普通に名前で呼んでもらうようにした。そうこうしている間にオレや仲間たちともすっかり打ち解けて仲良くなり、オレ自身のことや仲間たちのことも色々と語って聞かせていた。


「ラーフ神様の一族のこと……、ですか? 前にもダイル様から似たようなことを尋ねられたのですが……」


 ナリム王子が困ったような顔をして隣に座っているアルロの方に顔を向けた。


「そう言えば、アルロ。おまえ、前にダイル様から頼まれて、ラーフ神様の攻略の件で知恵を絞ってみると言ってたな」


「えっ!? ナリムにぃ、僕に振るの? 仕方ないなぁ……。ええと、ダイル様に言われてちょっと考えたことはあるんですけどねぇ。でも、ケイ様にこんなことをお勧めしていいのかなぁ……」


「アルロ、もったいぶらないで早く言えよ」


「分かったよ、ナリム兄。前に父親から聞いた話なんですけどねぇ。ニコル神様が時々お忍びで王都の中を歩いて、悪い奴を見つけては懲らしめてるらしいんですよ」


「ニコル神?」


 オレが聞き返すと、アルロは少し困ったような顔をした。だが、どこか面白がっているようにも見える。


「ええ、ニコル神様です。ラーフ神様のたった一人の子供で、20歳過ぎくらいの若い神族だと聞いてますが……」


 その後、オレはアルロの話にどんどん引き込まれていった。



 ――――――― ニコル神 ―――――――


 おれの隣を若い女性が歩いている。街の裏通りにある貴族の別邸まで案内してくれているのだ。その貴族というのはオルドという名前の男爵で、隣を歩く女性の話によるとオルド男爵の別邸では多くの女たちが強制的に客を取らされて、男たちの相手をさせられているらしい。


 その女たちは王都の良家の子女ばかりで、巧妙な罠に掛かって捕らえられた可哀想な者たちだそうだ。一方の客の男たちは普通の女遊びには飽きてしまった貴族や大商人だという話だ。


「客たちは泣き叫ぶ女性たちを押し倒して無理やり……、あんなことやこんなことをするそうです」


 おれを案内してくれてる女性が言った言葉だ。「あんなことやこんなこと」が何かは尋ねるまでもないだろう。


 そういうヤツらをおれは許しておけない。今からその別邸に乗り込んで、悪辣あくらつな行いをするオルド男爵とその一味を成敗するつもりだ。もちろんそういうことをして遊ぶ客たちも許すわけにはいかない。


 2年前、おれが20歳になって魔力が〈1000〉を越えたとき、父上から王都で庶民の暮らしを見て勉強するようにと言われた。それを機におれは自分が神族であることを隠して王都の街中を歩き、庶民の暮らしぶりを見てまわるようになった。


 あるとき王都の裏通りを歩いていて、子供を連れた女性が男たちに囲まれて脅されているところに出くわした。おれは男たちを叩きのめし、女性と子供を助けた。庶民を助けて感謝され、悪事を働く悪人共を懲らしめて正義を守る。それがどれほど気持ちの良いことなのか、おれはそのとき初めて知った。それ以降、身分を隠して街中を歩き、ラーフランの秩序を乱す悪人を見つけて成敗することがおれの密かなたのしみになってしまった。やみつきになってしまったのだ。


 おれの隣を歩いている女性に出会ったのはついさっきのことだ。今日の昼過ぎ、ほんの1時間ほど前にいつものように使徒たちを連れて神殿までワープしてきて、ラーフランの表通りをおれは歩いていた。三人の使徒たちは付かず離れずの位置からおれを護衛していた。


 悲鳴が聞こえて振り返ると、小柄な若い女性が走ってくるのが見えた。数人の男たちに追われていて、必死の形相でこちらに逃げてくる。大勢の通行人たちが何事が起ったのかと立ち止ってその様子を眺めていた。


 助けようとしておれが走り出すと、その女性は横道に飛び込んでしまった。おれを男たちの仲間だと勘違いしたのかもしれない。男たちも喚き声を上げながら女性を追って横道に走り込んでいった。


 急いでおれも横道に入り、後を追った。人通りが少なくなったが、それでも何人かの通行人がいて、男たちに追われる女性の後姿を心配そうに見ていた。


 横道に入って30モラほど走ったところで女性は男たちに捕まってしまった。腕を乱暴に掴まれて悲鳴を上げている。


「おまえたち、その女性から手を離せ!」


 おれは追い付いて男たちに声を掛けた。捕まっているのは18歳くらいの可愛い女性で、その女性を五人の男たちが取り囲んでいる。どの男も悪党面で、ならず者たちであることは一目で分かった。


「なんだ、おめぇは? 若造、粋がるんじゃねぇぞ! 余計なことに首を突っ込むと痛い目に合うぜ」


 そう言いながら男の一人が短剣を構えて近付いてきた。おれは瞬時にその腕を取って投げ飛ばした。「ポキッ」という音がしたが、それは男の腕の骨が折れた音だ。投げ飛ばすときに腕を捻ってやったからだ。


 それを見た別の男が剣を抜いて斬り掛かってきた。左腕でその剣を弾き飛ばし、右腕で男の腕を掴んで投げた。また「ポキッ」という音がした。おれの体はバリアで覆われているし、筋力強化の魔法も掛かっているから剣などで斬りつけられても平気なのだ。


「やばい。逃げろ!」


 男たちが逃げていく。おれが投げ飛ばしたヤツらも折れた腕をもう片方の腕で抱えながら逃げていった。


 ※ 現在のケイの魔力〈1306〉。

   (クドル・インフェルノで魔獣を倒し訓練を続けたため、魔力が増加)

 ※ 現在のユウの魔力〈1306〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈1306〉。


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