SGS026 オレの病気は呪いなのか?
もし、オレが副長の専属従者となって愛弟子となれたら、妖魔か魔獣を相手に戦うときにラストアタックを取らせてもらえるかもしれない。
だけど副長はロードナイトではないし、あまり強くなさそうだ。もしオレが副長の専属従者になったとしても、妖魔や魔獣を相手に戦う機会なんてまだまだ先のことになるだろうなぁ……。
それに今回のようにオトリ作戦でオレが使われていたのでは、いつまで経ってもラストアタックなんて取れるはずがないよな……。
それと一番大きな問題がある。副長の愛人になって男に抱かれるなんて、絶対に耐えられない。男としての発想で考えるからダメなんだろうか? ムリをしてでも女としての考え方に切り替えていかなきゃいけないのかなぁ……。でも今の自分にはとてもできそうにない。
いずれにしても副長の専属従者になってしまったら、オレは狩りではオトリとして使われ、家では愛人として使われるだけかもしれない。ほかに何か方法はないのかなぁ……。
そうだ! もう一つ、この手があった。男に抱かれるのはイヤだけど、相手が女ならウェルカムだ。
「先輩、お願いがあるんですけど……」
「なに?」
「先輩がフリーになったとき、わたしをサレジ隊長から買ってくれませんか?」
「え?」
「わたし、先輩のためならなんでもやります。先輩のこと、わたし、好きなんです」
言っちまった……。本気か? 自分!
「ふーん、そうなの。それで、あなたはあたしのために何をしてくれるの?」
「えーと……、わたし、男の人に抱かれるのが怖いんです。女の人に抱かれるのなら……、たぶん、平気かも。それで、先輩なら、いいなって……」
詰まりながら言った。自分の気持ちに無理強いをして言葉を出しているせいだ。
「可愛いこと言うわね。あたしはずっとサレジ隊長だけに抱かれてきたけど、フリーになったらその関係も終わるからね。……うん、考えておいてあげる」
おぉ! これは脈があるかもしれない。ラウラ先輩は意外に親切だし、オレとの相性も悪くなさそうだから、うまくいくかもしれないな。
………………
話をしているうちに交代の時間が来た。テントに入って、副長とラウラ先輩の間に入って寝ることになった。副長から何かイタズラされないか、ちょっとドキドキしたが、いつの間にか眠ってしまって、気が付くと朝が来ていた。
………………
異世界5日目。そして女性になって5日目。
オレたちはまっすぐ王都へ帰ってきた。肉は持ち切れないほど手に入ったし、予定外のオーブもたくさんゲットできた。オレも原野がどういうところか分かったし、ゴブリンとの戦いも経験した。いや、正確に言えばオトリになって襲われて、ゴブリンと一緒に眠りの魔法に掛かってしまっただけだけど……。
隊舎に帰ってからはいつもの生活に戻った。
………………
そして、夜。
リリヤ先輩とロザリ先輩は男の部屋に行ったようだが、ラウラ先輩は疲れたからと言って早々と寝てしまった。
たしかにこの世界の夜は楽しみが少ない。オレも寝ようっと……。
半分、夢の中に入った。寝入りばな、ふいに誰かに口を塞がれた。うっ!
「声を立てないで」
耳元で誰かがささやいた。女性の声……。あ、ラウラせんぱい……だ……。
「今夜はあたしが相手をしてあげる」
先輩はそう言って、毛布の中に入ってきた。オレの枕に先輩も頭を乗せた。シルエットだけで暗くて顔は見えない。先輩の甘い息が頬をくすぐる。先輩の手が自分のお尻を触っている。思わず声が出そうになる。
これって夢じゃないよな?
先輩の足と自分の足がからみ合う。唇に感じる熱い吐息。と思ったら、先輩の唇がオレの唇に触れてくる。くすぐったい。
「ケイのお口はおいしいね。食べちゃいたいくらい」
先輩はそう呟くと、その瞬間、先輩の舌が入ってきた。とろけるような甘いキス。先輩に抱きしめられて、息ができなくなるくらいの熱いキスだ。
先輩の髪や肌の感触。女の匂い。吐息。
ああっ……そう感じたとき、またあの感覚が襲ってきた。目まいのような感覚。鼻の奥がツンとしてきて、ふわぁーっと意識が遠のく。
………………
気が付くと朝になっていた。
異世界6日目。そして女性になって6日目。
体は……? ちゃんと動く。うん、大丈夫だ。
アレは夢だったみたいだ。
………………
朝食後、ラウラ先輩と二人っきりになった。
「先輩、わたし、夜中にへんな夢を見たんです。先輩に抱かれた夢でした」
「なに言ってんの!? 夢じゃないでしょ。ケイはね、あたしとキスして気を失ったの!」
「え? あれは夢じゃなかったんですか?」
「ほんと、可愛いんだから!」
あれは夢じゃなくて、本当に気絶してしまったのだ。でも先輩はオレのことを怒っていないみたいだ。それに「ケイ」って名前で呼んでくれている。
でも、困った……。なにかの病気だろうか?
どうやら女性に対してムラムラする気持ちが起こると、体のコントロールを失ったり気絶したりするみたいだ。
先輩に相談してみよう。
「先輩、わたし、何かの病気に罹っているかもしれません。それでちょっと相談したいことがあるんですけど……」
ラウラ先輩に素直に症状を話した。
「おかしな症状ね。じゃあ今夜、もう一度確かめてみましょ」
先輩は喜んで協力してくれるようだ。
そして夜が来た。リリヤ先輩たちはいつものように男のところへ行ってしまった。ラウラ先輩は今夜も早くからベッドに入っている。
オレもベッドに入った。今夜は寝ないで先輩を待っていよう。
……オレは本当にラウラ先輩のことを好きなのだろうか? 先輩は、初めて会ったときの印象よりもずっと優しい。最初はオレに意地悪をしているのかと思っていたが、それは自分の勘違いのようだ。お風呂のことも、本当にオレに油断することの怖さを気付かせるための、言わば愛の鞭だったのだろう。
オレは女になってしまったから、なんて言うか、普段の生活の中では突き上げるようなムラムラ感は無くて、先輩とは女どうしで普通に接している。でも男の目で見れば先輩はすごく可愛いし魅力的だ。だから昨夜のように先輩に抱かれてしまうとムラムラ感が一気に噴き出して、男として感じてしまうのかもしれない。
いや……、この気持ちは男の感覚ではなくて、もしかすると女の感覚なのだろうか? 先輩のことを可愛いとか、好きだとか思い始めたのも、女の感性なのだろうか? 分からなくなってきた。
でも、昨夜の、気を失う前の感覚。あれはそう……、先輩に女の匂いを感じてムラムラっとしたあの感覚は、たしかに男のものだったと思う。
この世界に来た最初の日。王都防衛隊の脱衣所で、裸になった女性隊員たちに囲まれて感じた感覚、それも同じ感覚だった。この感覚が元凶なのだろうか……。
………………
色々考えていたときに先輩がオレの寝床に入ってきた。
「ケイ、確かめてあげるね」
先輩はそう言いながら唇を重ねてきた。長く熱いキス。体がとろけていきそうだ。オレのほうから先輩のウェーブがかかった髪に触れ、そこから背中に手を回して先輩を抱き寄せた。先輩のやわらかな耳を甘噛みする。
「ああっ」と声を漏らして先輩はオレをきつく抱きしめた。オレは自分の頬を先輩のうなじに埋めて、女の匂いに包まれた。――あ、また、あの感覚だ……。意識が消えていきそうになりながら先輩の耳元で囁いた。
「せんぱい……、せんぱいのこと、大好きですけど……、また、気絶し……」
………………
目が覚めると、また朝になっていた。
台所でラウラ先輩と二人で洗い物をしながら話をした。
「そんな病気は聞いたことないから、病気じゃないかもしれないわね。もしかすると誰かに呪いを掛けられているのかもしれないわよ。魔法の一種で、そんなのがあるって聞いたことがあるから」
「えーっ! のろいですか!?」
オレの病気は呪いなのか? いやいや、そんなはずは……。
「その可能性があるってことよ。でも呪いだとしたら、ちょっと変わった呪いね。ケイが女性とエッチなことをしようとしたら発動するってことでしょ。誰に呪いを掛けられたんだろうね?」
そんな心当たりは全然無いんだけど……。
「もしかすると死にかけたときの後遺症かもしれないわね。しばらくすれば治るかもしれないから、様子を見ましょ。それじゃ、時々調べてあげるから。治っているかどうか、ね!」
なんだか先輩は嬉しそうだ。
「せんぱい、ありがとうございます」
「うん、その病気のことはあまり気にしないほうがいいわよ。それより、また狩りに行くそうよ。副長が言ってたわ。明日、出発だって。この前の狩りで予想以上にオーブがゲットできたでしょ。奥さんが味をしめちゃって、また行って来いって言われたんだって」
奥さんというのはサレジ隊長の奥さんのことだ。たしかアンニという名前だった。
またオトリ作戦だろうか……。




