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SGS256 自分の存在を明かす

 前方にダードラ要塞が見えてきたところでオレは高度を下げた。ダイルたちと別れて飛行の魔法でここまで飛んできたのだ。足で走ったら数時間掛かる距離も、空を飛んだらほんの10分ほどだった。


 地面に下りて要塞の城門まで浮上走行の魔法を使って駆けていく。


 夕暮れが迫っていて空に広がる雲が茜色に染まっている。暗くなってきた丘の麓や爆弾の魔法で穴だらけになった丘の中腹には人族やオークの死体が散乱したままだ。


 走りながら不思議な光景が目に留った。穴だらけになった丘の芝地に白く輝く物が点在していた。白い花のお花畑だ。まるで爆弾がそこに落ちるのを避けたかのように白色の可憐な花が咲き乱れていた。


 戦場の風に揺れる白い花たちと、そのそばで置き去りにされている屍たち……。


 この場で葬ってあげたいという気持ちを無理やり押さえ込んで、オレは自分の意識を要塞の方に向けた。


 要塞はひっそりと静まり返っている。だが、その中には五十人ほどの女性兵士たちがいると分かっていた。


「そこで止まれっ! 誰だっ? ダードラ要塞に何の用だ?」


 城門の上から誰何された。女性の声だ。


「要塞からオーク軍を追い払って、あなたたちを助けた者だ」


「ええっ!? 本当かっ? ちょっと、ちょっとそこで待ってろ」


 なんだか驚いて慌てているようだ。しばらく城門の外で待っていると、要塞の中から数人の女性兵士が現れた。


「本当にあなたがオークたちを追い払ったのですか? 失礼ですが、何か証拠はありますか?」


 オレに話しかけてきたのは落ち着いた感じの女性だ。ほかの兵士たちと同じような制服を着ているが幹部なのだろう。30歳くらいに見えるが、もしかすると40歳くらいかもしれない。


「証拠と言われてもねぇ……。この要塞の近くを通り掛かったら、オーク軍が押し寄せていて要塞の中まで侵入してたところに出くわしたんだ。大勢の女性兵士たちがオークたちに捕まっていて可哀想だと思った。だからオーク軍を追い払って、あなたたちを助けた。それだけだから証拠なんて無いよ」


「数千頭もいたオークたちをどうやって追い払ったのですか?」


「丘の麓や中腹にいたオーク兵たちは爆弾の魔法で殲滅したし、要塞の中にいたオーク兵たちは威圧の魔法で要塞の外に追い払った。爆弾の魔法を使ったら建物まで破壊してしまうからね。オークたちは自分の国を目指して逃げ戻っていったようだね」


「オークたちはカイブン王国へ戻っていったと? それは確かですか?」


 カイブン王国というのはオークたちが統治している国の名前だ。この女性幹部は要塞から姿を消した千頭以上のオークたちがどこへ行ったのか気になっていたようだ。国を守る立場にあるから当然のことかもしれない。


「わたしもオーク軍がどこに行くのか気になってね。逃げていくオーク軍の後を追ったんだ。そうしたら国境の防壁越しに仮設の陸橋が架けられていて、それを通ってオーク軍は国境の外に出ていった。おそらく自分たちの国へ逃げて行ったんだと思う。国境から出たところまで見届けてから、わたしはこの要塞に引き返してきた。要塞を守るフォレスラン軍の人たちがオーク軍の行方を気にしてると思ったからね。それと、国境に架けられた陸橋は破壊しておいたからオーク軍が引き返してくることは無いよ」


「それはどうもご親切に……。話の筋は通っていますね……。ところで、あなたのお仲間たちは? 見たところお若いようですが、できればそちらの軍の指揮官の方と話がしたいのですが。どこの私掠兵団でしょうか?」


「えっ? 仲間なんていないよ。わたしが一人でやったことだから」


「ええっ!? 本当なの? 本当にあなたがたった一人で数千頭のオーク軍を追い払ったと言うの? あなたのような若い女性が一人で?」


 女性幹部の言葉が乱雑になった。オレの言葉を信じてないみたいだ。


 その問い掛けにオレは頷きながら呪文を唱える振りをした。オレ一人で何ができるのか見せてやろう。


 誘導爆弾を発動すると、オレの指先から大きな火球が飛び出した。狙ったのは1ギモラほど先にある雑木林だ。着弾すると、雑木林全体を飲み込むような巨大な炎の球体が一気に広がった。瞬時に雑木林が火を噴いて燃え上がるのが見えた。だがすぐに濛々と立ち昇る土煙がそれを覆い隠した。


「ドグォォォォーン!」


 少し遅れて地響きとともに爆風が押し寄せてきた。


 女性兵士たちは悲鳴を上げながら顔を覆い隠したり転びそうになったりしている。女性幹部も心底驚いているのか頬を引き攣らせて口をパクパクさせていた。


「それほどの……、それほどの魔力を持っているということは、あなた様は神族様か、使徒様……なのでしょうか?」


 自分の相手がとんでもない者だと気付いて、女性幹部は泣きそうな表情になっていた。


「そんな立派な者じゃないよ。わたしのずっと昔のご先祖様が神族様の使徒だったらしいけど、わたしはその魔力を継承してるだけだから」


「なるほど……。それで、それほどの魔力を有しておられるのですね。ところで、お名前を教えていただけますか? 身分証をお持ちで?」


 いよいよ自分の存在を明かすときが来た。このためにダードラ要塞まで戻ってきたのだから。


「わたしの名前はケイ。カイエン共和国の市民だよ」


 以前にアイラ神からもらった身分証を示した。もちろん本物だ。


 女性幹部は身分証を確かめると、隣にいた兵士に命じてそれをメモさせた。家はカイエンのどこにあるのかとか、何の仕事をしてるのかとか、色々と細かく尋ねてきた。


「わたしは縛られるのが嫌いでね。だからカイエンに家は持ってないし、仕事も持ってない。強いて言えばフリーのハンターだね。ウィンキアの原野や魔樹海をさすらい歩いて、ときどき魔獣を倒して街で金に変えてる。ご先祖様が残してくれた財産もあるしね」


「フリーのハンターですか……。それならこの国に滞在して……、と言うか、この国に住み着いてフォレスラン王国の国民になっていただけませんか? あなたのような魔闘士がいてくだされば……」


「ちょっと待って」


 オレは手を上げて言葉を続けようとしている女性幹部の話を遮った。


「さっきも言ったように、わたしは縛られることが嫌いなんだ。この要塞に戻ってきたのはオーク軍の行方を知らせておこうと思ったからで、この国に住み着くつもりもなければ国民になるつもりもない。用は済んだからこれで失礼するよ」


 オレは呪文を唱える振りをして飛行の魔法を発動した。要塞の真上へぐんぐん上昇していく。下を見ると、さっきの女性幹部や兵士たちがぽかんと口を開けてこっちを見上げているのが見えた。その姿もどんどん小さくなっていく。


 要塞がボールの球のように小さくなり、兵士たちも砂粒のようになって、やがて見えなくなった。ここまで上昇すればオレの姿も下から見えないだろう。オレはワープを使ってアーロ村の家へ戻った。


 ※ 現在のケイの魔力〈1201〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈1201〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈1201〉。


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