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SGS255 覚悟を決める

 アイラ神がワープしてきたのはそれから数時間後だった。


「遅くなってごめんなさい。ちょっと手が離せない用があったの」


「こっちこそ呼び立てて申し訳ない。実はね、アイラに謝らなきゃいけないことが起きたんだ……」


 ダードラ要塞での一連の攻防戦のことを説明して、アイラ神に疑いの目が向けられる可能性があることを話した。


「だからね、申し訳ないけどアイラに迷惑を掛けてしまうかもしれない」


 オレが頭を下げると、アイラ神はにっこり微笑んだ。


「ケイ、あなたが悪いんじゃないのだから謝ることなんかないわよ。ダードラ要塞で起きたことはフィルナからも聞いたわ。あなたが言うように、その戦いにあたしが介入したと疑われるかもしれないわね。でも、心配しないで。フォレス神やメリセ神が何か言って来ても、何も知らないし心当たりも無いと言って押し通すから」


「ありがとう。そう言ってくれるのは嬉しいけど、無理はしないでほしい。もしかするとフォレス神かメリセ神が神族の総括審判に訴えてくるかもしれないよね?」


 総括審判のことは以前にアイラ神から教えてもらったことがあるから知っていた。神族の代表が集まって開かれる総括的な会議で、神族の戒律を破った者を裁いたり、神族全体に共通する重大事柄を審議したりするらしい。この場で決定されたことは神族全体に通達され、それに従うことを強制される。従わなければ神族全体を敵に回すことになる。捕らえられて重い刑を科せられるそうだ。


 この総括審判に集まって審議し是非の判断を下す権利を持つ神族は、レングラン、ラーフラン、フォレスラン、メリセラン、ベルドランの代表五人だ。残念ながらアイラ神は入っていない。アイラ神が一族を持っていないからだ。


 ちなみにレングランの代表はジルダ神である。主神のレング神ではない。そのことがレングランの本当の支配者が誰なのかを如実に示している。


 ついでに言うと、ミレイ神の件は総括審判では審議されていない。ミレイ神は罪を犯したためレング一族から追放したという扱いになっているだけだ。その旨は各神族へ通達されたが、どのような罪を犯したかなどの詳しいことは省略されている。レング神は一族の恥を公にしたくはないが、ミレイ神が今後何をしようがレング一族とは一切関係ないことであると公言したいのだと思う。


 アイラ神は「総括審判ねぇ……」と呟いて、嫌そうな顔をした。


「たしかに人族の戦争に介入したと訴えられるかもしれない わね。でも、人族の戦争じゃなくて、オーク軍がダードラ要塞に侵攻してきたところに遭遇してそれを追い払っただけよね。だからもし訴えられたら、あたし、開き直ることにするわ。要塞を取り戻してあげただけじゃなくて、フォレスランやメリセランの兵士たちも救ってあげたのだから感謝しなさいよってね」


 強気の言葉だが、それを口にするアイラ神の表情は冴えなかった。おそらくアイラ神が言うような理屈は神族の総括審判では通らないのだろう。


 どこにでもあるような話だが、隙があればライバルの足を引っ張って蹴落とそうとする。神族でもそういう者がいるということだ。それが現実だとアイラ神も分かっているのだ。


 オレはそのアイラ神の顔を見て、高速思考でユウとコタローに話しかけた。


『覚悟を決めようと思うんだ。アイラ神にこれ以上迷惑を掛けたくないから』


『どうするつもりなの?』


『ダードラ要塞に出向いて、オーク軍を追い払ったのは自分だと名乗り出ようと思う。もちろん、神族と同じような能力を持ってるということは隠してね』


『でも、そんなことをしたらフォレスラン軍に拘束されるかもしれないわよ』


 ユウの念話からオレのことを心から心配してくれてることが伝わってくる。


『フォレスランにわたしを拘束できる者はいないよ』


『それもそうだけど……』


『ケイの気持ちは分かるけどにゃ、それは神族たちにケイの存在を注目させることになるぞう。ケイがとんでもない魔力を持っていると推測できるからにゃ』


『たしかに……。数千頭のオーク軍を追い払ったのだから、神族たちはケイのことを神族か使徒に匹敵するくらいの魔力を持った魔女だと考えるでしょうね。でも、コタロー。神族たちがケイのことを注目したら、どうなるの?』


『ケイを捕えて調べたり、監視したり、自分の使徒にするために勧誘しようとしたり、色々と考えられるわん』


『それは厄介だわねぇ……』


『それだけじゃにゃいぞう。そのうちににゃ、神族の誰かがケイのことを神族と同じような能力を持っている魔女だと気付くかもしれないわん。気付かれるまでには数か月くらいかもしれないにゃあ』


『一度に厄介事が増えるわねぇ。神族から干渉されたり、バーサット帝国から狙われたり……』


『だけどにゃ、それはケイと仲間たちの力が付いてきた証だわん。力が付いてきたから嫌でも目立つようになったんだにゃ。ライバルや敵から注目されたり攻撃されたりするのは当たり前のことだわん』


『うん。コタローの言うとおりだと思う。これまでは自分の力が足りなかったから目立たないように過ごしてきたけど、これからはそうもいかないだろうね。自分の存在を明かすときが来たと覚悟を決めるよ』


 高速思考を解除して、アイラ神に自分の考えを伝えた。


「あなたが覚悟を決めて名乗り出ると言うのなら、あたしは反対しないわ。それと、これだけは覚えておいて。あたしはずっとケイの味方をする。だから、何か困ったことがあったら必ず連絡してね」


 アイラ神はそう言って帰っていった。


 その後、オレはすぐにダイルたちのところにワープした。魔空船と落ち合う場所に向けてダイルたちは移動している最中で、道程の半分ほどまで進んでいた。デーリアさんたちには少し休憩していてもらって、ダイルたち夫婦にはさっきの話を念話で伝えた。


『神族が何かちょっかいを出して来ようが、バーサット帝国が命を狙って来ようが、心配するな。俺が守ってやるから』


『ケイ、私たちも何でもするから遠慮なく言ってね』


『でも、そうなるとダーリンとの新婚旅行どころじゃなくなるわねぇ。フィルナ、あたしたちもクドル・インフェルノに籠もって訓練しましょうよ』


『ホントだわ。ハンナ姉の言うとおりよね』


『ハンナとフィルナの気持ちは嬉しいけど、新婚旅行は止めないでほしい。と言うか、むしろ旅行を急いでくれると助かるんだ。旅行のもう一つの目的はワープポイントの設置だからね。バーサット帝国や神族が何を仕掛けてくるか分からないから、必要なときに各国へすぐにワープできるようにしておきたいんだ』


 オレの言葉にフィルナが何か思い付いたような顔をした。


『それなら魔空船なんか使わずに、ダンジョンの最下層にあるワープゾーンを通って行けばどうかしら? その方が近道よ。あのワープゾーンは色々な国のダンジョンと繋がってるから』


『そう言えばダーリンがバーサット帝国から奪い取ったマップを持ってるよね。ほら、ダンジョンの最下層マップよ。あのマップには色々な国へ行けるワープゾーンの場所が記されていたはずよ?』


 そのマップならオレも持っている。ダイルのマップを複写させてもらったからだ。でも、あのワープゾーンを使うのは気が進まない。


 オレが念話で断ろうとしたらダイルが先に拒絶した。


『ダメだな。余計に時間が掛かるだろうし危険も大きい』


 オレが考えていた理由と同じだ。


『あのマップを見れば、どのワープゾーンを通ればどこの国のダンジョンの最下層へワープするのかは分かる。だけど、そこから地表へ出るルートが記載されてないんだ』


『ダーリンが言ってることは分かったわ。たしかに大魔獣がウロウロしている場所を地表へのルートを探して歩くのは時間が掛かるし危険だわね』


 オレが考えていたのと同じことをダイルとハンナが言ってくれた。


『そういうことだね。それでお願いなんだけど、デーリアさんたちをダールムまで送ったら、その魔空船でそのまま旅を続けてほしいんだ』


 オレの言葉にダイルたちは頷いた。


『フォレスランでの拠点作りは終わってるから、次はブライデン王国だな。俺たちに任せてくれ』


 なんだかダイルたちは嬉しそうだ。そう言えばブライデンの王女と仲が良いとか、友だちがいるとかフィルナやハンナから以前に聞いたことがあった。


 ※ 現在のケイの魔力〈1201〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈1201〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈1201〉。


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