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SGS254 溜息ばかり吐く

 アーロ村の家に戻るとすぐにアイラ神に連絡を入れた。念話でハンナを呼び出して、フィルナにアイラ神へ伝言してくれるよう頼んだのだ。「大事な相談があるのでお手数ですがアーロ村までお越しください」という内容だ。


『どうしたの? さっきから溜息ばかり吐いてるみたいだけど。アイラ神と相談があるって言ってたことと何か関係があるの?』


 ユウが心配して話しかけてきた。


『うん。実はね……』


 ダードラ要塞の攻防戦にアイラ神が介入したのではないかと疑われるおそれがある。そのことをユウに説明した。おそらくフォレス神やメリセ神がアイラ神に問い合わせてくるはずだ。


『だからね、アイラ神に謝って、それから今後の対応を相談したいと思ってるんだ。でもねぇ、憂鬱なのはそのことだけじゃないんだよ……』


 気が滅入っている理由はほかにもあった。それはあの男を見殺しにしたことだ。デーリアさんがあの男……、レアルドを殺そうとしたときに止めなかったことが頭にずっと引っ掛かっていたからだ。


 見殺しにしたと言うよりも、オレも一緒に手を下したと言った方が正しいだろう。自分の感情に任せてレアルドのバリアを破壊してしまった。そんなことをしなければデーリアさんがレアルドを殺すことはなかったのだ。


 あのときユウに止められた。後悔するって言われたし、現に今は後悔している。


 後悔しているのは自分が人殺しの手助けをして、デーリアさんを殺人者にしてしまったこともあるが、それだけではない。あのとき、妻の美咲が死んだときの記憶と重なって、オレは感情が高ぶるままに動いてしまったことだ。それを悔やんでいた。


 自分のことを怖いと思い始めていた。自分が怒ったり憎んだりするような負の感情に押し流されて、オレは簡単に人を殺せてしまう。今の自分はそんな恐ろしい存在になってしまった。そのことに今さらながら気付いてしまったのだ。


 それを正直にユウに語った。


『平凡なことしか言えないけど、ケイがそれに気付いてくれて良かったと私は思ってるの。ケイが怒りや憎しみの気持ちだけで見境もなく人を殺すようになるとは思ってないけど……』


『でもにゃ、大きな力を持ったら人は変わってしまうこともあるからにゃあ』


 突然、コタローが会話に割り込んできた。今はミサキの体を操作して魔空船と落ち合う場所までデーリアさんの赤ちゃんを運んでいるはずだが、オレたちの話を聞いてたらしい。ミサキを操作しているときは普通の女性としての言葉遣いで話しかけてくるのだが、たまに「わんにゃん言葉」で話すときがある。今はそのモードのようだ。もしかすると説教モードのときだろうか。


『そう言えば、どこかでそんな話を聞いたことがあるよ。大きな力を持ってしまったら周りの人は何も言えなくなって、その人は独裁者になったり暴君になったりすることがあるらしいってね。でも、わたしは自分がそんなふうになるとは思わないけど……』


『心配ないわよ。ケイが独裁者や暴君になることはないから。私やコタローがいつもそばにいて支えてるし、変なことをしようとしたらはっきり言うし、暴走しようとしたらブレーキを掛けるもの』


『心強いよ。よろしく頼むね』


『ケイ、私とコタローに任せなさい。でもね、ケイ自身も自分が暴走しないように意識しなきゃダメよ。今のケイはどの神族よりも強くなってるのだから。単体で比べたらケイよりも魔力が高い神族がいるかもしれないけど、ケイはその3倍の魔力を発揮できるのよ。いつも私とコタローがいて支援してるんだからね』


『うん、分かってる』


『ところでにゃ、ケイ。今度のダードラ要塞での戦いを分析するのはフォレスラン王国とメリセラン王国だけじゃないぞう。オーク軍の背後にいるバーサット帝国も戦いを分析して不審に思うはずだわん。ケイの存在に気付く可能性が高いにゃ』


『分析して、わたしに辿り着くってこと?』


『そうだわん。バーサット側にミレイ神が味方したからにゃ、ミレイ神を通してケイの存在はバーサット側に伝わっているはずだわん。そうするとだにゃ、オーク軍を追い返したのはケイだと推測するだろうにゃあ』


『たしかに……。ケイ、コタローの言うとおりよ。あなたが神族と同じような能力を持っていることをミレイ神は知ってるみたいだから、その情報はバーサット側に伝わっていると考えた方がいいわ』


『バーサット帝国はケイが自分たちの邪魔をしてることに気付くだろうにゃ』


『そうね……。考えてみたら、バーサット帝国が密かに進めていた侵攻作戦をケイがことごとく邪魔しているものね』


 言われてみたら、たしかにそのとおりだ。クドル・パラダイスのバーサット砦を壊滅させたのもオレたちだし、ジルダ神の暗殺を防いだのもオレたちだ。それに加えて、今回のダードラ要塞の攻防戦だ。侵攻してきたオーク軍も撃退した。


 オレも仲間たちも自分たちを守るために行動しただけだ。だが、それが結果的にバーサット帝国と敵対することになってしまったということだ。


 考えてみれば、オレたちとバーサット帝国が敵対するのは必然的なことだと言えるだろう。


 バーサット帝国は人族や亜人が住む国をすべて変革しようとしている。大地の神様を敬い、人族と魔族が共生する国に作り変えてしまおうとしているのだ。その変革が平和的に行われて、人族と魔族が平等で自由に仲良く暮らせるようになるなら言うことはない。だが、現実はその理想とは程遠い。バーサット帝国は陰謀と武力で強引に変革を推し進めようとしているし、帝国内での人々の暮らしも悲惨だからだ。


 そう言えば、ガリードからバーサット帝国の調査結果について何度か報告を受けていた。今までの調査で分かったことだが、バーサット帝国の繁栄を享受しているのは貴族と都民と呼ばれているごく一部の人族たちと、人口の1割ほどを占める魔族たちだけだ。大半の人族たちはその者たちに支配され、虐げられている。奴隷というよりも家畜のような扱いを受けているのだ。


「バーサット帝国の中ではな、人の命は虫けらと同じらしい……」


 ガリードが報告書をオレに渡しながら言った言葉だ。そんなバーサット帝国の存在をオレは許すことができない。


 バーサット帝国は天の神様を否定し、神族とその神族が支配する国々をすべて滅ぼそうとしている。天の神様とはソウルゲート・マスターのことだ。大昔に行方不明になってしまったが、ソウルゲートを作り上げ、地球からウィンキアに人族を連れて来て、この世界で生きていくための基盤を築いてくれたのがソウルゲート・マスターだ。


 そして、オレや仲間たちがこの世界で希望を持って生きて行けるようになったのもソウルゲートとソウルゲート・マスターのおかげだった。そういう意味でもバーサット帝国とオレたちが敵対することになったのも必然的な結果だと思う。


 不意に自分の脳裏にご主人の遺体に縋って嗚咽するデーリアさんの姿が浮かんできた。


 今のままだとバーサット帝国からの理不尽な仕打ちを受けて、デーリアさんのように苦しんだり悲しんだりする人たちがもっと増え続けるだろう。


 どうすりゃいいんだ……?


 今朝、ご主人をオークに殺されて泣いているデーリアさんの姿を見てから何度も同じような問い掛けを自分の心の中で繰り返していた。


『ねぇ、ケイ。黙り込んでるけど、どうしたの?』


 ぼんやりと考え込んでいたみたいだ。


『ああ、ごめん。自分たちがバーサット帝国と戦うことになったのはそういう宿命なのかなぁと思って、つい考え込んでたんだ』


『えっ、どういうことなの?』


 ユウが聞いてきたから今考えていたことを話した。


『ケイが言った宿命という言葉はちょっと大袈裟かもしれないけど、たしかにバーサット帝国のやり方は酷いし許せないよね。私たちとバーサット帝国はこれから先も敵対することになりそうね』


『敵対という言葉は少し甘いかもしれにゃいわん。バーサット帝国がケイの存在に気付いたとするとにゃ、ケイたちを狙ってくる可能性が高くなるからにゃ。ケイもユウも気を付けた方がいいぞう』


『それは……、わたしを暗殺しにくるってこと?』


『暗殺だけじゃないわん。仲間を誘拐されるかもしれにゃいし、帝国軍がケイを殺すためにアーロ村やレングランへ侵攻してくるかもしれにゃいぞう。早ければ数日のうちかもにゃ。遅くても数か月のうちには狙われると思うにゃ』


『こわっ……』


『ケイ、すぐにアーロ村やレングランの防衛を強化しないと……。ダールムの家も狙われるかもしれないわねぇ……』


 ユウに促されてオレは今の話を仲間たちに念話で伝え、アーロ村のナムード村長とレング神にも直ちに対策を講じるように依頼した。ダールムのガリードのところへはオレが後で出向いて対策を話し合うつもりだ。


 ※ 現在のケイの魔力〈1201〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈1201〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈1201〉。


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