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SGS253 ダードラ要塞攻防戦の後始末

 バーサット帝国は人族の国に対して着々と攻略を進めている。それも表には現れない形でだ。気が付いたときには手遅れになっていた、というような事態は絶対に避けなければならない。


 何か有効な対策が必要だ。でも、いったいどうすれば……。


 しかし今はそれをじっくりと考えているときではない。今回のダードラ要塞攻防戦の後始末が残っているからだ。要塞の中には千頭以上のオーク兵が入り込んでいるから、まずはこれを何とかしなきゃならない。オレやダイルが魔法で威圧を掛けているのでオレたちがいる場所には近付いてこないが。


 この要塞に入り込んでいるオーク兵たちをどうすれば良いだろう。それと、オーク軍に捕らえられていたフォレスラン軍とメリセラン軍の女性兵士たちを助けて今は眠らせているが、その処遇をどうするかも問題だ。


 ダイルたちにそれを相談してみた。まっさきに考えを述べたのはフィルナだ。


『オーク軍はこのまま要塞の中に放っておきましょうよ。女性兵士たちは装備を持たせてそれぞれの王都に帰らせればどうかしら? 兵士なのだから自分たちの身は自分たちで守るわよ、きっと』


 フィルナの意見を聞いていたダイルが眉をひそめた。


『でも、フィルナ。オーク軍をこのまま放置すれば、このダードラ要塞はオーク軍に完全に占拠されてしまうぞ。この要塞はフォレスラン王国の最重要拠点だ。ここを魔族に取られたら、フォレスランは喉元に刃を突き付けられたような状態になってしまうだろうな』


『そうかもしれないけど……。だからと言って、私たちがフォレスランを助けなきゃいけない義理は何も無いわよ。むしろ私やハンナがフォレスランに来たときは敵国人のような扱いを受けたのよ。船は徴用されてしまうし、兵士たちは横暴で無礼だったし……』


 その話は以前にフィルナから聞いていた。フィルナの気持ちも分かるが、少し感情的になっているようだ。


 もしこの要塞がオーク軍に占拠されたままならどうなるだろうか……。


 フォレスラン王国はこのダードラ要塞を取り戻すために大軍を送り込むだろう。オーク軍との戦いになって、大勢の兵士たちが死んだり傷付いたりすることになる。その兵士たちも家族たちも苦しんだり悲しんだりすることになるのだ。


 オレが普通の人間であれば、自分や仲間を危険にさらしてまで見知らぬ人たちを救おうとは思わないだろう。でも、今のオレは普通の人間ではない。神族と同じような……、いや、今は神族を越えるほどの能力をオレは身に付けているのだ。


 オレはゲームの中の勇者でもなければ救世主でもないが、仲間たちと協力し合えばこの要塞からオーク軍を追い払うくらいならできるだろう。


 もし、この場で自分が何もしなかったばかりに大勢の兵士やその家族が苦しんだり、悲しんだり、不幸になったりするとしたら……。オレはそんなことには耐えられそうにない。人のためと言うより、自分があのときこうしておけばと後悔したり、それを思い出して苦しんだりしたくない。だから……。


『この要塞からオークたちを追い払おうと思う。わたしたちならそれができるし、それほど危険も無いからね』


 オレはその理由を説明した。


『そうね……。オークたちを追い出さなかったら、この要塞を取り返すために大勢の兵士たちが死んでいくことになるわね』


『ああ。それに、オーク軍はこの要塞を占拠したら、ここを拠点として次はフォレスランの王都へ攻め込むだろう。そうなったらもっと悲惨なことになる』


 ダイルは初めからオーク軍を追い払う気でいたようだ。


『ホントね。そんなことになったら大変だわ』


『よし。すぐにこの要塞からオークたちを追い出そう』


『でも、ダイル。ちょっと待って。この要塞から追い出すだけなら、オークたちはフォレスランの領内に散らばってしまうだけになるわよ』


 たしかにフィルナの言うとおりだ。


『そうだね。それならオーク軍の指揮官を捕らえて暗示を掛けるよ。来た道をオーク軍が一頭残らず整然と引き返すようにね』


 オレが言うと二人は頷いた。


 その後のことを簡潔に記しておこう。


 オーク軍の最上位の指揮官を捕らえるのは簡単だった。さっき尋問したオークロードに暗示を掛けてその指揮官を呼び出すよう罠を掛けたからだ。


 ダイルとオレで手分けして要塞の中にいたオーク兵たちに威圧を掛けて外に追い出した。それをオーク軍の指揮官が丘の中腹に集合させて整列させた。そして、オレの暗示どおりにオーク兵たちを率いて来た道を引き返していった。


 ちなみに、威圧が掛からないで敵対してきたオークロードたちに対しては容赦しなかった。生かしておいたら間違いなく人族を害するからだ。


 メリセラン軍の女性兵士たちも同様にして自国へ戻らせることにした。生き残っている女性兵士たちの中から最上位の者を見つけて、指揮官として自分の国に兵士たちを連れ戻すよう暗示を掛けた。女性兵士たちは二百人ほどいたが、陣地の中から全員分の装備を探し出させて持たせた。その装備があれば未開の原野を旅してメリセランへ戻れるはずだ。


 メリセランへ戻るためには国境の防壁を越えなければならないが、それはオーク軍が築いた陸橋を使うことにした。オークロードを尋問したときに分かったことだが、ダードラ要塞から数ギモラ離れたところに防壁を越えるための陸橋をオーク軍は築いていたのだ。メリセラン軍がダードラ要塞に攻め込んだ昨夜の間に10時間ほどでオーク軍は陸橋を築いたらしい。


 メリセランの女性兵士たちがその陸橋を渡って自国を目指して帰っていった後、ダイルがその陸橋を破壊した。


 残ったのはフォレスラン軍の女性兵士たちだ。広い部屋の中で全員が縄に縛られたまま眠っている。五十人くらいはいるだろう。


 だが、この女性兵士たちを目覚めさせるのはもっと後だ。それより先に要塞からフィルナたちを出発させた。目指すのは魔樹海だ。要塞を出て国境の防壁に沿って南に進み、魔樹海に接する辺りでオレが手配した魔空船と落ち合う手筈になっている。偶然にもメリセラン軍の魔空船が兵士たちを降ろした場所と同じだ。


 この魔空船は、本来はフィルナとハンナに少しでも早く旅を続けてもらうために手配したものだった。1か月間もフォレスランの王都にフィルナたちを釘付けにしたくなかったから、ガリードに無理を言って回してもらった船だ。フォレスランの王都に向かわせるとまた船を徴用される虞があるから国境の近くで落ち合う約束にしたのだ。


 フィルナに同行したのはマメルとエマ、デーリアさん、そしてダイルとハンナだ。ハンナだけでなくダイルにも一緒に行ってもらったのはメリセランの魔空船団と遭遇する虞があるからだ。それに夫婦一緒の方が旅が楽しくなるだろう。


 マメルとエマだけでなくデーリアさんにも知育魔法を使って魔法全般の知識を植え付けた。だから、デーリアさんも筋力強化や浮上走行の魔法を使えるようになっている。半日もあれば船と落ち合う場所に着くだろう。そこで待っていれば迎えの魔空船が来るはずだ。遅くとも数日の内には魔空船に乗れると思う。


 ダイルたち夫婦だけであればそのまま新婚旅行を続けてもらうこともできたが、予定を変更して一旦ダールム共和国へ戻ってもらうことにした。デーリアさんたちが同行しているからだ。


 デーリアさんやマメルたちをフォレスランの王都へ帰すのは危険だとオレは判断した。なぜなら生き残っている女性兵士たちにダードラ要塞の中で名前や顔を知られてしまっているからだ。今後、フォレスラン軍はこの要塞で何が起こったのかを生き残りの兵士たちを尋問して厳しく取り調べるだろう。そのとき、デーリアさんやマメルたちが王都の中にいたらどうなるかは容易く想像できる。


 だからデーリアさんたちにはフォレスランの王都には戻らないよう説得した。


 デーリアさんは赤ちゃんのことを心配していたが、それは大丈夫だ。赤ちゃんは魔空船と落ち合う場所までミサキが連れてくることになっているからだ。


「ケイさん、フォレスランの王都に戻るのが危ないことは分かった。だが、あんたが手配した魔空船に乗せてもらっても、デーリアもおれも行く当てなど無いぞ。どこへ連れていく気だ?」


「うん。実はね、デーリアさんに紹介したい人がいるんだ。ダールムにね」


 ロードナイトを継承したデーリアさんが今後どういう道に進むのかはデーリアさん本人の意志に任せようと思っている。だが、デーリアさんにぜひ紹介したい人がいた。それはダールム共和国のカーラ魔医だ。


 オレがその話をすると、デーリアさんはダールムへ行って是非カーラ魔医と会ってみたいと言い出した。デーリアさんだけでなくマメルとエマも一緒に行くと言い出した。


 だから、魔空船の行き先を変更して、フィルナたちには一旦ダールム共和国へ戻ってもらうことにしたのだ。


 ついでに少し先の話になるが、デーリアさんたちのその後のこともここに記しておこう。


 ダールム共和国でカーラ魔医に会って話を聞き、診療所の様子を見たデーリアさんは是非この診療所で働きたいと言い出した。


 カーラ魔医の診療所では貧しい人々に対しては無償で治療を行っている。診療所へはオレがガリード兵団を通して資金面で支援しているから無償の治療を続けられるのだが、魔医の数が全く足りない状態だった。診療所ではてんてこ舞いの状態がずっと続いていたから、カーラ魔医は何とかして信頼できるロードナイトを募集して魔医に育成したいと考えていた。


 その話を聞いたデーリアさんは「貧しい人たちの命を救える仕事ができるなら喜んで行きます」と言ってくれたわけだ。デーリアさんは罪を償いたいと思っていたみたいだから、その願いにピッタリの話だったのだろう。


 その話を一緒に聞いていたマメルとエマもデーリアさんと一緒に診療所で働きたいと言い出した。カーラ魔医とすれば診療所の魔医が増えることは大歓迎だから、喜んで受け入れてくれることになった。


 デーリアさんだけでなくマメルもエマもカーラ魔医の診療所で多くの患者の命を救って尊敬される魔医に育っていくのだが、それは数年後の話だ。


 ………………


 ダードラ要塞攻防戦での後始末の最後は眠っているフォレスランの女性兵士たちを起こすことだ。眠り解除の魔法を放った後、オレはすぐにアーロ村の家にワープした。


 要塞の中も外も爆弾の魔法で地面に穴が空いたり石壁が崩れたりしているし、人族やオークの死体が転がったままになっている。その後片付けや修復は大変だろうし、今回の戦いの調査や防衛態勢の立て直しなど、やるべきことは多いはずだ。だがそれはオレの知ったこっちゃない。それはフォレスラン軍の仕事だ。


 生き残ったフォレスランの女性兵士たちは厳しい取り調べを受けるだろう。メリセラン軍が侵攻してきた直後にオーク軍が攻め寄せて来て、両軍とも壊滅状態になったことは答えられるだろうが、誰がオーク軍を追い返したのかは答えられないはずだ。なぜなら女性兵士たちは魔法で威圧された状態だったし、その後はすぐに魔法で眠らされてしまったからだ。何か覚えていたとしてもオーク軍を追い返した人数が僅か数人だったことくらいだろう。


 それは自国へ戻っていったメリセランの女性兵士たちやオーク兵たちも同じだ。


 まずはこれで今回の騒動は決着したと思うが、オレの気分は晴れなかった。


 フォレスラン王国もメリセラン王国も今回のダードラ要塞の攻防戦を徹底的に調べるだろう。この戦いを分析する者たちはどのように考えるだろうか。


 ほんの数人で数千頭のオーク軍を追い返していることから神族級か使徒級の者が参戦したと考えるはずだ。しかも、フォレスランの女性兵士たちを助けてその女性たちに要塞を返しているし、メリセランの女性兵士たちも助けて親切に国へ送り返している。


 神族や使徒は他国と戦争するときに自らの手で敵を殺傷してはならないという暗黙の了解があるが、今回の対応は親切すぎる。普通なら奴隷にするか、その場で放置するだけだろう。


 フォレスラン側にもメリセラン側にも親切な対応をする神族。それは誰だ?


 その答えは容易に導き出せる。フォレスラン側にもメリセラン側にも与していないのはベルドランのベルド神一族、それとアイラ神だけだ。だが、ベルド神一族にはザイダル神という粗暴な神族がいて、配下の者に海賊行為を行わせているらしいから論外だ。


 つまり、答えは一つ。アイラ神とその使徒たち、ということになる。


 このままではアイラ神に迷惑が掛かってしまう。どうしよう……。


 ※ 現在のケイの魔力〈1201〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈1201〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈1201〉。


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