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SGS252 この侵攻には裏がある

 デーリアさんのご主人を土に戻した後、オレたちはダイルが待っている場所に戻った。フォレスランの女性兵士たちは眠ったままだ。


 オレの姿を見ると、待ちかねたようにダイルが念話で話しかけてきた。


『なぁ、ケイ。今回のオーク軍の侵攻には何か裏がありそうだぞ』


『え? どういうこと?』


『フィルナから聞いた話だが、このダードラ要塞にまず攻め込んできたのはメリセラン軍だそうだ。フォレスラン軍がそれに応戦を始めたんだが、その直後にオーク軍が攻め寄せてきたらしい。隙を突かれたフォレスラン軍とメリセラン軍は壊滅状態になったようだが、オーク軍がこの要塞に侵攻してきたタイミングがあまりに絶妙だと思わないか?』


『侵攻のタイミングが絶妙?』


『ああ。この要塞にメリセラン軍が攻め込むのを知っていて、それを待っていたような感じでオーク軍が侵攻してきたらしいんだ。オークたちはいつも力任せに攻撃を仕掛けてくるだけなんだが、今回は出来過ぎだよな?』


『言われてみれば、たしかに絶好のタイミングでオーク軍は要塞に攻め寄せて来てるね。もしオーク軍がメリセラン軍の動きを知っていたとすれば、何か裏があるのかもしれない。魔族がこんな風に絶好の機会を狙って侵攻してくるとしたら、裏でどんな動きをしてたのか、それを調べておかないと危ないよね』


『そうだろ? 俺もそれを調べておくべきだと思う。それと、メリセラン軍の動きも調べておいた方が良いと思うんだ。フィルナの話ではメリセラン軍も意表を突いたルートから侵攻してきたらしいんだ。こっちにも何か裏がありそうだからな』


『でも、どうやって調べるつもり?』


『捕虜を尋問する。メリセラン軍の幹部をフィルナにここへ連れて来てもらう。それとオーク軍の幹部は今から俺が要塞の中で捕らえてくる。ケイ、おまえは得意の暗示魔法を使ってその幹部たちを尋問してくれないか?』


『それは了解だけど……、メリセラン軍の女性兵士たちを丘の麓に残したままで大丈夫かな?』


『眠らせてハンナが護衛してるから大丈夫だ』


 ダイルは出て行き、しばらく待っているとフィルナと一緒に部屋へ戻ってきた。それぞれが空中に荷物を浮かべて運んでいる。二人の女性兵士と二頭のオークロードだ。眠らせて念力で運んできたらしい。


 ダイルたちが戻ってくる前にマメルとデーリアさんには断りを入れて魔法で眠ってもらった。尋問の様子を見せることはできないからだ。


 初めにオークロードたちに対して尋問を行った。暗示魔法で尋問すると、その裏事情がすぐに分かった。


 なんと、オーク軍の裏にはバーサット帝国から派遣されてきた軍事顧問団がいたのだ。オーク軍がダードラ要塞へ侵攻してきたのもこの顧問団の助言があったからだ。この顧問団は数頭のガルーダロードで構成されていて、数ヶ月前からオークたちの国(カイブン王国)へ来て、オーク軍の指導をしたり助言を与えたりしていたそうだ。


 メリセラン軍がこのダードラ要塞に攻め込むという作戦内容とその時期に関してもこの顧問団からオーク軍に正確な情報が提供されていた。そして、メリセラン軍が要塞に攻め込んで両軍が戦闘状態に入ったときを狙ってオーク軍がダードラ要塞に侵攻するべきだと強く進言してきたらしい。


 両軍が戦闘状態に入ったらフォレスラン軍は国境を監視をしている余裕など無くなるはずだ。だから、そのときを狙って侵攻すれば、オーク軍は容易く国境の防壁を越えることができる。それに、両軍が戦って潰し合っている隙を突けば簡単に両軍を壊滅させて、オーク軍はダードラ要塞を占拠できる。つまり、オーク軍は労せずして漁夫の利を得ることができるわけだ。


『でも、バーサットの顧問団はどうしてメリセラン軍の作戦内容を知っていたのかしら? メリセラン側から情報が漏れてるっていうことよね?』


 フィルナの疑問は尤もだ。その答えはメリセラン軍の女性幹部を尋問すると簡単に分かった。


 メリセラン軍の兵士たちは魔空船で運ばれてきたそうだ。メリセランの王都を出港した魔空船団はカイブ平野を右に見ながら魔樹海の上空を進み、国境の防壁を越えたところで着地した。メリセラン軍の兵士たちはその場所で降ろされて、そこからは国境の防壁に沿って進軍してきたそうだ。途中にフォレスラン側の小さな砦がいくつかあったが、それをすべて潰しながら進軍した。だから、ダードラ要塞の駐留軍に知られることなく要塞まで近付くことができたのだ。


 兵士たちを降ろした魔空船団はメリセランの王都へ引き返さずに、逆にフォレスランの王都を目指した。その王都を攻撃するためだ。これも尋問で分かったことだが、メリセランの魔空船団がフォレスランの王都に毎日のように攻撃を仕掛けてきたのは陽動作戦だったらしい。フォレスラン軍の上層部の目を魔空船団に引き付けてダードラ要塞の駐留軍を手薄にすることが狙いだったようだ。


 その作戦はまんまと成功して、フォレスラン軍の上層部はダードラ要塞から魔闘士の半数を王都に移してしまった。もし、オーク軍が侵攻して来なければ、メリセラン軍がダードラ要塞を奪い取っていた可能性は高いだろう。


 ところで、肝心のメリセラン軍の作戦内容が漏れていた件だが、驚いたことに情報の出所はゴルディア兵団だった。レングランでのジルダ神暗殺未遂事件に関わって兵団は処罰を逃れるために国外へ退去したが、どこに拠点を移したのかは分からなかった。だが、女性幹部への尋問でその移転先が分かった。それはメリセラン王国であり、なんと、今回の攻撃に参加したメリセラン側の魔空船団の半数がゴルディア兵団の魔空船だったのだ。


 メリセラン王国がダードラ要塞を攻略しようと動いた切っ掛けはゴルディア兵団の団長から作戦計画の売り込みがあり、格安で兵団が所有している10隻の魔空船と魔闘士を貸与すると申し出があったからだと言う。


 これまでダードラ要塞を攻略できずにフォレスランとの戦争に行き詰っていたメリセランの上層部はその申し出に飛び付いた。この作戦とゴルディア兵団の協力があればほぼ確実にダードラ要塞を攻略できるからだ。


 しかし、それは甘い罠だった。オレはそう考えている。ゴルディア兵団の団長、つまりゴルドはバーサット帝国と裏で繋がりを持っているからだ。


 オレが考え込んでいるとフィルナとダイルの念話が聞こえてきた。


『あのときメリセラン側の魔空船が20隻もいた理由がそれで分かったわ。フォレスラン側が王都防衛のために出してきたのは10隻くらいだったのに、メリセラン側の魔空船はその倍くらいいたもの』


『まさかゴルディア兵団の魔空船が加わっていたとはなぁ……』


『あの戦いではメリセラン側の魔空船団が圧倒的に優勢だったのよ。それなのに中途半端な戦果だけで引き返していったから不思議に思ってたけど、それは陽動作戦だったからなのね』


『王都に攻撃を仕掛けてきた魔空船団に注意を引き付けておいて、陰でこっそりとメリセラン軍がダードラ要塞に進軍しているなんて誰も考えないからなぁ』


『そのメリセラン軍も実は騙されていて、オーク軍に襲われてしまうんだから……。想像もできなかったでしょうね』


 フィルナとダイルの会話を聞きながらオレは空恐ろしさを感じていた。今回のダードラ要塞攻防戦の裏でバーサット帝国が暗躍していることは明らかだ。


 いや、暗躍と言うような言葉では生ぬるい。今回の攻防戦の全体像を描いたのはバーサット帝国に違いないからだ。


 メリセラン軍の作戦内容がオークたちに漏れていたと言うよりも、バーサットの軍事顧問団から聞いて初めからオークたちは知っていたのだ。おそらく作戦の全体像を顧問団から聞いてオークたちは笑っていたに違いない。馬鹿な人族同士を戦わせておいて、その隙をオーク軍が襲って人族どもを壊滅させる。そして労せずしてオーク軍が要塞を占拠するのだと。


 その作戦を描いたのはバーサット帝国の誰か知恵がある者であり、ゴルドもまたその手先にすぎないのだろう。


 やはり真の敵はバーサット帝国か……。


 ※ 現在のケイの魔力〈1201〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈1201〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈1201〉。


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