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SGS025 親方を目指すのはムリっぽい

 ちょっと頭の中を整理してみよう。


 魔族や魔物がダンジョンでウィンキアソウルからの天啓を受けてロード化したものが妖魔と魔獣。例えばゴブリンロードなどだ。その妖魔や魔獣が倒されてそのソウルがソウルオーブに封じ込まれたのがロードオーブだ。そのロードオーブのオーナーをロードナイトと呼ぶ。


 オーナーがもっと強い妖魔や魔獣を倒してそのソウルを既存のロードオーブに格納したら、それまでのソウルは解放されて意識やソウルリンクを保持したまま浮遊ソウルになる。それが人族に転生したりボディジャックをしたりすることがある。そいつが人族に味方する場合はヒューマンロードと呼ばれて人族に歓迎されるし、魔族に味方する場合は妖魔人と呼ばれて人族とは敵対関係となる。そういうことのようだ。


「頭の中で整理してみたけど、ややこしいですね。ロードナイトとか、ヒューマンロードとか、妖魔人とか……。頭の中がごちゃごちゃになりそうです」


「たしかに分かりにくいわね。でもね、それを把握しておくことは大切なのよ。それにね、誰が魔人や魔女で、魔闘士なのかを知っておくことも大切よ」


「え? 魔人? 魔女? 魔闘士? それって……?」


「ロードナイトやヒューマンロード、妖魔人のことを総称して魔人と呼ぶの。女の場合は魔女と呼ばれることもあるわね。魔闘士というのはロードナイトやヒューマンロードの中で戦いに長じた人のことで、敬意をこめてそう呼んでるのよ。数は少ないけど、ロードナイトで魔医や魔工士になっている人もいるわね」


 魔人とか魔女とかっていう言葉はオレの頭の中では悪いイメージがあるけど、こっちの世界ではちょっと違うみたいだ。


「魔人や魔女は邪悪な存在ではないんですね?」


「邪悪? そんなことを言ったら叱られるわよ。魔人や魔女は誰からも尊敬され、恐れられている存在よ」


「もし戦いに巻き込まれて、その相手が魔人や魔女だったら大変ですね」


「間違ってもうっかり魔人や魔女と戦わないことね。魔人に戦いを挑むのは、相手に勝てると分かっているときだけにするのよ。だから、誰が魔人か、魔女なのか意識しておくことが大切だってことなの」


「でも、相手が魔人か魔女かなんて分からないですよ」


「そうね。だから、知らない街へ行ったら誰が魔人や魔女なのか情報を集めておくことが大事なのよ。でも、妖魔人や流れの魔人は分からないからむやみに戦いを挑まずに相手を見極める用心さが必要ね」


 魔人に戦いを挑むなんてオレの実力からは考えられない話だ。でも、誰が魔人なのかを知っておくことは重要なようだ。


「レングランでは誰が魔人なのか、それは分かっているのですか?」


「分かってるわよ。魔人になっている人は何十人かいて名前もはっきりしてるから、後で教えてあげる」


 そう言えば、以前に副長が「魔物との戦いで豹族の魔闘士に助けられた」って言ってたことがあった。先輩に聞いておこう。


「レングランには豹族の魔闘士もいるのですか? そんな話を副長から聞いたことがあるんです。手強い魔物と戦いになって、副長とラウラ先輩が豹族の魔闘士に助けられたって」


「あぁ、あのときのことね。サソリの魔物と原野の中で戦って危うく全滅しそうになったことがあってね。五人で狩りに出掛けて、三人が殺されてしまった。そのときに突然現れた豹族の魔闘士があたしたちを助けてくれたのよ。でもね、その人はレングランではなくて別の国の魔闘士だった。今まで出会った中で一番強い魔闘士だったわ。副長とあたしの命の恩人よ」


 ラウラ先輩は何かを思い起こすように遠い目をした。


「あれっ? なんだか先輩、恋する乙女のような顔をしてますよ?」


「なにを馬鹿なこと言ってるの!? その魔闘士は美人の奥様と一緒に旅をしてたの。だから色恋の対象外よ」


 ちょっと怒らせてしまったかな?


「すみません、余計なことを言っちゃって。ええと、レングランにもヒューマンロードはいるんですか?」


「ヒューマンロード? ええ、何人かいるわよ。みんな、貴族か高官になっているわね」


 ヒューマンロードは貴族や閣僚になっているのか……。サレジ隊長はどうなんだろ? さっき先輩が言っていたが、サレジ隊長はロードナイトだそうだから。


「それならサレジ隊長も貴族や高官になるんですか?」


「いえ、サレジ隊長はロードナイトだけど貴族や高官になることは望んでいないはずよ。サレジ隊長もそうだと思うけど、あたしたちハンターが望んでいるのはね、もっと強いロードナイトになって莫大なお宝を手に入れることよ」


「強いロードナイトになって、莫大なお宝を手に入れるって……。それって、どういうことなんですか?」


「強くなればなるほどダンジョンや魔樹海の奥深くに行けるようになるのよ。そうしたらね、貴重な金属や宝石を見つけることができるかもしれないの。魔獣を倒して大きな魔石を手に入れるチャンスも増えるわ。もっと運が良ければね、天の神様が各地に残したと伝えられている伝説の武器や防具を発見できるかもしれないのよ。ね! 夢があるでしょ!」


 うん。たしかに、自分もそっちがいい! ちまちました貴族になって、ねちねちと人と絡みながら人脈づくりや政治に励むよりは、ダンジョンや魔樹海で妖魔や魔獣たちと戦い、お宝を手に入れるほうがずっと男らしい。――って、あれ? オレは女だった……。


「女の自分でもロードナイトになれるでしょうか?」


「なれる! 望み捨てずに努力を続ければ、きっとなれるよ! あたしだって女だけど、必ずロードナイトになってみせるからね!」


「でも先輩、どうやったらサレジ隊長みたいに強くなれるんでしょうか?」


「簡単じゃないわよ」


「どうすればいいんですか?」


「まずはロードナイトになることね。そのためにはさっき説明したように妖魔か魔獣と戦って倒すという方法もあるけどね。それだけじゃなくて別の方法もあるのよ」


「別の方法?」


「そう。それはね、ロードナイトと戦って相手を倒すって方法よ」


 ラウラ先輩が説明してくれたのは恐ろしい方法だった。王都の外は無法地帯だ。そこでロードナイトに戦いを挑んで相手を殺すことができれば、相手が持っているロードオーブからソウルを抜き取って自分のソウルオーブに格納できるのだ。魔力はそのままの大きさで引き継がれるらしい。


「例えばね、あなたがどこかの原野で通り掛かった魔力〈50〉のロードナイトを襲って、そいつを殺すことができたとするわね。あなたは自分が持っているソウルオーブに倒した相手のロードオーブからソウルを移し替えることができるのよ。そうすれば、あなたは魔力〈50〉のロードナイトになれるってことよ」


「それって、もしかするとロードナイトになっても狙われるから安心できないってことですね?」


「ええ。王都の外に出たら、弱いロードナイトや単独のロードナイトは襲われる虞があるわ。敵国や盗賊だけじゃなくて、味方の誰かが襲ってくるかもしれないから気を抜けないってことよ。王都にいればたぶん安全だけどね」


「その方法はわたしにはムリです。ロードナイトになるために相手の人を殺すなんて自分にはとてもできそうにないです。第一、ロードナイトに勝てるはずがないですから」


 オレの言葉を聞いて、ラウラ先輩はにっこり微笑んだ。


「そうよね。それなら、妖魔か魔獣と戦って殺すしかないわね」


「でも妖魔や魔獣って、とんでもない魔力を持ってるし、凶暴だって聞いてますけど、どうやって……?」


「例えばね、妖魔で一番弱いのがコボルドロードで、弱いと言っても魔力は〈40〉もあるのよ。そんなのを相手にして一対一では勝てっこないのよね。だから妖魔や魔獣に勝つためにはね、パーティーを組んで自分がラストアタックを取らないといけないのよ。そのためには強い親方の愛弟子になって、パーティーに加えてもらって、ラストアタックを取らせてもらうのが一番確実だと思うわ。それが難しいのなら、ハンターの親方になって、部下たちと一緒にパーティーを組むっていう方法もあるわね」


「サレジ隊長のように?」


「そうよ。サレジ隊長も15年前にサレジ隊を立ち上げて、それから部下を集めて5年後にゴブリンロードと戦って倒したの。そのソウルをオーブに封じ込めて初めてロードナイトになったのよ。それからは何度も妖魔や魔獣と戦っているらしいから、今はどれくらい強くなっているのか知らないけど……。ともかく、それくらい努力と辛抱が必要ってことよ」


「でも、どちらの方法を取るにしても、今のわたしではすごく時間が掛かってしまいます……」


「そうね。従属の契約をしていては、15年という拘束期間があるから辛いわね。あたしも同じだけど」


「でも、先輩は残り3カ月くらいですよね。その後はどうするんですか?」


「まだ決めてないわ。サレジ隊長の下でそのままフリーで働くか、別のところで働くか……」


 今の自分は23歳らしい。このまま15年、サレジ隊長の下で働くとすると、フリーになれるのは38歳だ。それから部下を持って親方になるまでは10年か20年は掛かるだろう。48歳か58歳だ! これって、時間が掛かり過ぎだ。親方を目指すのはムリっぽい。


 もっと手っ取り早い方法はないだろうか……?


 あ! あった。いっそ、副長の誘いを受けて、副長の専属従者になったらどうだろうか。それが一番の早道じゃないだろうか。でも、専属になるということは……愛人になるということだ。そんなことができるのか、オレは……?


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